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4章
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「いったい誰が歌っているのですか?」
魔王城に宿泊したグランが、扉を開け放ってやってきてしまった。
魔王様とリタと元天帝の眉が歪んだ。
「誰だ?」
当然、サイとグランの2人は面識がなく、お互いの顔を見合わせた。
だがグランは、リタの状況を見て、サイが少なくとも仲間ではないということに直ぐに気づき、剣を抜こうとした。
「動くな」
サイの持っている剣がリタの肌に触れ、最低限の言葉で、サイはグランの動きを止めた。
グランは剣を鞘へ戻すと、忌々しげにサイを睨んだ。
「グラン、素敵なタイミングですね。今は込み入っていますので、下がっていてください」
魔王様はグランに目線をやるが、それで下がるようなグランではなかった。
「良いタイミングでしたか?素敵な歌が聞こえてきたので、気になってしまいました。リタが人質に取られていますが、彼の要求は何ですか?」
魔王様はやっとサイの具体的な目的が聞けると思ってしまった。あのままだったら一生歌い続けるかも知れない。
元天帝を手に入れると言っていたが、具体的にどうしたいのだろうか。
3人の視線がサイに集まり、サイは薄く笑った。
「まずは、シュエイシカ様と魔王様から、お互いに関する記憶を消してください」
魔王様と元天帝はお互いを見遣った。
「それは良いですね!」
と、グランはどちらの味方か分からない発言をした。
「お前は何なんだ?」
サイも疑問に思い、ついグランに声をかけてしまった。
「いえ、お構いなく」
グランは手を上げて、首を左右に振った。
魔王様はため息を吐いた。
一度2人とも記憶を失っているのに、また記憶を失ったところで何になろうというのか?元天帝がそれでサイを好きになるとは思えない。
だが彼がそれで満足するのならば、そのように術をかけて、あしらうことも可能かもしれない。
そう思ったところでグランは余計な言葉を発した。
「でも、それでは意味がないでしょう。この2人は以前と同じように恋に落ちる。お互いの魂が消えない限り」
「グラン、黙っていてください」
そうグランに言われて、なぜか魔王様は気恥ずくなってまった。それが間違っていないからだ。
つまるところ、自分には元天帝以外の選択肢が用意されておらず、それは元天帝も同様だろう。
「レイは、私やリタ、まぁセナとユナも入れときましょう。この4人とそこの元天帝と、どちらが大切なのですか?」
僅かに湿った声で、グランが言った。
魔王様は突然グランが何を言い出したのか、理解できずにいた。
そして、その言葉にサイの表情はぱっと明るくなった。
「いいね、魔王様選んでよ。この魔族の娘か、シュエイシカ様か。魔族の娘を選ぶのならば、シュエイシカ様を殺したらいい。そしたらシュエイシカ様の転生後、私がじっくりシュエイシカ様を慰めるとしよう。もし逆なら、この魔族を私が殺そう。そしたら残念だが私はシュエイシカ様を諦める」
魔王様は顔を歪ませた。
それではサイは本来の目的が果たせていないだろうと、叫びたくなった。
元天帝を手に入れたいという気持ちと、自分を陥れたいという気持ち、彼は既に混同しているのだろう。
元天帝は隣の魔王様をじっと見つめ、魔王様はリタの、いつもの無表情を見つめた。
これには元天帝も少しだけ興味があったが、魔王様のことだからどちらも選ぶと言うだろう。
本当ならば、リタや他の魔族よりも自分を選んで欲しいが、それは魔王様には無理だと分かっていた。
だからこそ、この選択には驚きを隠せなかった。
魔王様は髪を耳にかけると、右手で拳を握り、その拳は赤い色の光を纏った。
「レイリン?」
「ランシュエ、申し訳ありません」
そう目を閉じて呟くと、ゆっくりその瞼を上げ、2人の間の距離は縮める。
魔王様の拳が元天帝の左頬を掠めた。
これには元天帝以外の3人も驚いた。
グランの表情には喜びがみられ、リタに表情はないが「なぜ?」と疑問符を浮かべているようだった。
そして、サイは元天帝に向かって声を上げた。
「シュエイシカ様!魔王様は貴方よりも魔族を選びました!私は決してそのようなことは致しません!私と共に来てはくださいませんか?」
魔王様の顔には何も浮かんでおらず、元天帝は悔しそうに顔を歪めるしかなかった。
「私よりもリタの方が大切なの?」
元天帝は気丈には振る舞うが、内心では心臓が痛くて仕方がなかった。
「リタに拳は向けられませんが、貴方には向けられます。それに、貴方は殺しても死なないでしょう?」
元天帝は「一体どう言う理屈?」と叫びながら、次の魔王様の攻撃を避けた。剣を抜いてもいいが、元天帝には大きなトラウマがあるため、それは最終手段にしたい。
元天帝は魔王様の拳を紙一重で避けるだけで、反撃はしなかった。
「舐めてるんですか?私はランシュエと一度、本気で戦いたいと思っていました。良い機会なので剣を抜いてください」
距離を取った魔王様の拳に、再度強い光が宿った。
元天帝は、これは本気だと、魔王様の紅玉からもうかがえた。
「無理だよ。私が万が一にでもレイリンを傷つけようものならば、私は自ら死を選ぶ」
その言葉に、今度は魔王様の顔が歪んだ。
それでも魔王様の拳は止まらず、床や壁にその跡を残していった。
元天帝は、魔王様が本気ならば、この魔王城は一瞬で瓦礫の山になっているはずだと思った。
即ち、何か魔王様には策があって、そのタイミングを見計らっていることになる。
それならばそのお遊びに付き合うしかない。
右から放たれる拳を左手で流すが、普段から武術を極めている魔王様の技量には勝てない。そこは元天帝たらしめる力で補った。
普段より近い位置での攻防で、自然と魔王様のふわりと優しい花の香りが漂ってくる。
元天帝は思わず笑顔になってしまった。
「貴方は……真面目にやってください」
そう言うと魔王様は少し距離をとり、勢いをつけて正面から殴って来ると見せかけて、身体を低くさせて背後に回った。
これはいなしきれないと剣を素早く抜いて対応してしまった。
「良いですね、これでやっと本気になれます」
元天帝は、早くこの茶番を終わらせてほしかった。
なるほど、こんな茶番に付き合う方はかなりの苦痛なのだと、元天帝は今までの自分の過ちを反省した。
「レイ!本気を見せてください!」
本当に空気の読めない観客がいるなと、元天帝はグランの方を睨んだ。
その一瞬すら魔王様は見逃さず、右出で腹部を狙ってきた。
剣で弾くが、次の一手には対応ができなかった。
まさか左手を使うとは思ってもみなかったからだ。
その左手は顔面を狙っており、少し掠っただけでもチリチリとした痛みが走った。そのままバランスを崩し、魔王様は元天帝の胸ぐらを掴んで押し倒した。
「私の勝ちですね」
魔王様は良い笑顔をしていた。本当に見たこともない程の笑顔だ。
「ああ、私の負けだよ。殺すの?」
元天帝は魔王様に軽く微笑みかけた。
「ほら、魔王様早く!シュエイシカ様を殺さないのか?」
もう完全に目的を見失っていそうなサイの野次の声が聞こえてくるが、そこは既に2人の世界だった。
「さぁ?どうして欲しいですか?」
魔王様は掴んでいる胸ぐらを強く引っ張った。
「そうだね、今は………」
元天帝は音には出さずに、唇だけで言葉を発した。
そして魔王様の顔が近づき、2人の唇が重なった。
魔王城に宿泊したグランが、扉を開け放ってやってきてしまった。
魔王様とリタと元天帝の眉が歪んだ。
「誰だ?」
当然、サイとグランの2人は面識がなく、お互いの顔を見合わせた。
だがグランは、リタの状況を見て、サイが少なくとも仲間ではないということに直ぐに気づき、剣を抜こうとした。
「動くな」
サイの持っている剣がリタの肌に触れ、最低限の言葉で、サイはグランの動きを止めた。
グランは剣を鞘へ戻すと、忌々しげにサイを睨んだ。
「グラン、素敵なタイミングですね。今は込み入っていますので、下がっていてください」
魔王様はグランに目線をやるが、それで下がるようなグランではなかった。
「良いタイミングでしたか?素敵な歌が聞こえてきたので、気になってしまいました。リタが人質に取られていますが、彼の要求は何ですか?」
魔王様はやっとサイの具体的な目的が聞けると思ってしまった。あのままだったら一生歌い続けるかも知れない。
元天帝を手に入れると言っていたが、具体的にどうしたいのだろうか。
3人の視線がサイに集まり、サイは薄く笑った。
「まずは、シュエイシカ様と魔王様から、お互いに関する記憶を消してください」
魔王様と元天帝はお互いを見遣った。
「それは良いですね!」
と、グランはどちらの味方か分からない発言をした。
「お前は何なんだ?」
サイも疑問に思い、ついグランに声をかけてしまった。
「いえ、お構いなく」
グランは手を上げて、首を左右に振った。
魔王様はため息を吐いた。
一度2人とも記憶を失っているのに、また記憶を失ったところで何になろうというのか?元天帝がそれでサイを好きになるとは思えない。
だが彼がそれで満足するのならば、そのように術をかけて、あしらうことも可能かもしれない。
そう思ったところでグランは余計な言葉を発した。
「でも、それでは意味がないでしょう。この2人は以前と同じように恋に落ちる。お互いの魂が消えない限り」
「グラン、黙っていてください」
そうグランに言われて、なぜか魔王様は気恥ずくなってまった。それが間違っていないからだ。
つまるところ、自分には元天帝以外の選択肢が用意されておらず、それは元天帝も同様だろう。
「レイは、私やリタ、まぁセナとユナも入れときましょう。この4人とそこの元天帝と、どちらが大切なのですか?」
僅かに湿った声で、グランが言った。
魔王様は突然グランが何を言い出したのか、理解できずにいた。
そして、その言葉にサイの表情はぱっと明るくなった。
「いいね、魔王様選んでよ。この魔族の娘か、シュエイシカ様か。魔族の娘を選ぶのならば、シュエイシカ様を殺したらいい。そしたらシュエイシカ様の転生後、私がじっくりシュエイシカ様を慰めるとしよう。もし逆なら、この魔族を私が殺そう。そしたら残念だが私はシュエイシカ様を諦める」
魔王様は顔を歪ませた。
それではサイは本来の目的が果たせていないだろうと、叫びたくなった。
元天帝を手に入れたいという気持ちと、自分を陥れたいという気持ち、彼は既に混同しているのだろう。
元天帝は隣の魔王様をじっと見つめ、魔王様はリタの、いつもの無表情を見つめた。
これには元天帝も少しだけ興味があったが、魔王様のことだからどちらも選ぶと言うだろう。
本当ならば、リタや他の魔族よりも自分を選んで欲しいが、それは魔王様には無理だと分かっていた。
だからこそ、この選択には驚きを隠せなかった。
魔王様は髪を耳にかけると、右手で拳を握り、その拳は赤い色の光を纏った。
「レイリン?」
「ランシュエ、申し訳ありません」
そう目を閉じて呟くと、ゆっくりその瞼を上げ、2人の間の距離は縮める。
魔王様の拳が元天帝の左頬を掠めた。
これには元天帝以外の3人も驚いた。
グランの表情には喜びがみられ、リタに表情はないが「なぜ?」と疑問符を浮かべているようだった。
そして、サイは元天帝に向かって声を上げた。
「シュエイシカ様!魔王様は貴方よりも魔族を選びました!私は決してそのようなことは致しません!私と共に来てはくださいませんか?」
魔王様の顔には何も浮かんでおらず、元天帝は悔しそうに顔を歪めるしかなかった。
「私よりもリタの方が大切なの?」
元天帝は気丈には振る舞うが、内心では心臓が痛くて仕方がなかった。
「リタに拳は向けられませんが、貴方には向けられます。それに、貴方は殺しても死なないでしょう?」
元天帝は「一体どう言う理屈?」と叫びながら、次の魔王様の攻撃を避けた。剣を抜いてもいいが、元天帝には大きなトラウマがあるため、それは最終手段にしたい。
元天帝は魔王様の拳を紙一重で避けるだけで、反撃はしなかった。
「舐めてるんですか?私はランシュエと一度、本気で戦いたいと思っていました。良い機会なので剣を抜いてください」
距離を取った魔王様の拳に、再度強い光が宿った。
元天帝は、これは本気だと、魔王様の紅玉からもうかがえた。
「無理だよ。私が万が一にでもレイリンを傷つけようものならば、私は自ら死を選ぶ」
その言葉に、今度は魔王様の顔が歪んだ。
それでも魔王様の拳は止まらず、床や壁にその跡を残していった。
元天帝は、魔王様が本気ならば、この魔王城は一瞬で瓦礫の山になっているはずだと思った。
即ち、何か魔王様には策があって、そのタイミングを見計らっていることになる。
それならばそのお遊びに付き合うしかない。
右から放たれる拳を左手で流すが、普段から武術を極めている魔王様の技量には勝てない。そこは元天帝たらしめる力で補った。
普段より近い位置での攻防で、自然と魔王様のふわりと優しい花の香りが漂ってくる。
元天帝は思わず笑顔になってしまった。
「貴方は……真面目にやってください」
そう言うと魔王様は少し距離をとり、勢いをつけて正面から殴って来ると見せかけて、身体を低くさせて背後に回った。
これはいなしきれないと剣を素早く抜いて対応してしまった。
「良いですね、これでやっと本気になれます」
元天帝は、早くこの茶番を終わらせてほしかった。
なるほど、こんな茶番に付き合う方はかなりの苦痛なのだと、元天帝は今までの自分の過ちを反省した。
「レイ!本気を見せてください!」
本当に空気の読めない観客がいるなと、元天帝はグランの方を睨んだ。
その一瞬すら魔王様は見逃さず、右出で腹部を狙ってきた。
剣で弾くが、次の一手には対応ができなかった。
まさか左手を使うとは思ってもみなかったからだ。
その左手は顔面を狙っており、少し掠っただけでもチリチリとした痛みが走った。そのままバランスを崩し、魔王様は元天帝の胸ぐらを掴んで押し倒した。
「私の勝ちですね」
魔王様は良い笑顔をしていた。本当に見たこともない程の笑顔だ。
「ああ、私の負けだよ。殺すの?」
元天帝は魔王様に軽く微笑みかけた。
「ほら、魔王様早く!シュエイシカ様を殺さないのか?」
もう完全に目的を見失っていそうなサイの野次の声が聞こえてくるが、そこは既に2人の世界だった。
「さぁ?どうして欲しいですか?」
魔王様は掴んでいる胸ぐらを強く引っ張った。
「そうだね、今は………」
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