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4章
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全員が魔王城の外へ出た時、確かにこの重苦しい空気には覚えがあると、魔王様は苦渋に満ちた表情を浮かべた。
前回の天雷はまだ数ヶ月前の出来事だ。
「ランシュエ、貴方が天雷に使っていた力の割合はどれぐらいでしたか?」
「そうだね、大体1割程だから、同じ様な規模の雷が落ちて来ると思って良いよ」
それでも元天帝はあっけらかんと答えた。
「天界が落ちて来るよりも被害は少なそうですね」
と、魔王様は僅かに安堵した。
だが、サイは笑ったままだった。
「天雷が天界に落ちないとは限らない」
彼は天界にも相当な憎しみを抱いているのだということを、魔王様も元天帝も忘れていた。
魔王様は僅かに目を細めてサイを見た。
「なるほど、それは早くなんとかして止めなければなりません」
魔王様の声色は落ち着いており、リタとグランの方を向いて言った。
「リタはサイをしっかりと見張っておいてください。グランは念の為に、衝撃に備えて結界をお願いします」
リタは「はい」と一言発するだけだったが、グランは少し心配そうな表情を浮かべて首肯した。
「ランシュエ、被害を出さずに止めることはできますか?」
落ちて来るのが天雷である以上、自分はさほど役に立たないということは理解していた。対処するには元天帝が適任だった。
元天帝は魔王様に優しく微笑んだ。
「可能だよ。ただ衝撃を全て相殺するには、相応のリスクは背負う必要がある。レイリンはここで待っていた方がいい」
そのようなことを言われて黙って待っている魔王様ではないが、少し不思議に思った。
「いいえ、私も行きます。出来ることが何もなくても、貴方を支えることぐらいはできますよ」
魔王様は魔族2人に「行ってきます」と笑顔で声を掛けると、ふわりとその赤い衣が浮き上がった。
その赤に、白い衣の元天帝が続いた。
「行ってらっしゃいませ」
リタは小さく呟いて見送った。
「ランシュエ、私は思うのですが」
「何?」
2人は天雷を止めるために、天界の近くで浮かんでいた。
元天帝は自分の右掌に黄金色の光を集めて眺めている。
「これまでの天雷は、ランシュエを目標にして落ちてきました。今回は天界でしょうか?」
「天界に落として地上に墜落させるのが、最も被害は出るだろうね」
「そうですね。被害を最大にするにはそれが1番効率的です。ですが、サイが最も殺したいのは私ではありませんか?」
その言葉に元天帝の虹彩が揺れ、魔王様の紅玉と見つめあった。
2人の間に沈黙が流れる。
何処に落ちるかはっきりしなければ、結界を上手く活用できない可能性も出てくる。
「レイリンは自分に落ちると思う?」
「はい。それが1番合理的ですが……」
魔王様は額に皺を寄せて考えた。
今のサイが合理的に動くという保証は何処にもなかった。
元天帝は上を仰ぎ見て、小さなため気を吐いた。
「それなら仕方がない。根本を絶ちに行こう」
「ついてきて」と魔王様に言うと、元天帝は右手を魔王様へ差し出した。
伸ばされた手を自然と握り、元天帝に引っ張られてどんどん空へと昇っていく。
「少し寒くなるかも」
元天帝は笑いながら言うと、握られた手から暖かさが伝わってきた。
数分も経てば重苦しい雲の中へ入り、少し進むと、そこには黄金色の巨大な光の球体が浮かんでいた。
その球体からは、ピリピリとした力を感じ、肌が攣るような感覚を魔王様は感じた。
「これが、天雷の正体ですか?」
「そうだね。もう少し圧縮されると、勢いよく破裂して天雷となって落ちるよ」
「後どれぐらいですか?」
「この感じだと、持ってあと5分だろう」
特に表情も変えずに元天帝は言った。相変わらず緊張感がないと魔王様は思ったが、余裕そうなのは良いことだと思うことにした。
「どう対処するのですか?」
「切るか、吸収するか、閉じ込めるか」
思った以上に選択の余地があるなと、魔王様の表情は少しだけ緩んだ。
「では、1番安全で確実な方法をお願いします」
「言ったでしょ?リスクはあるって」
元天帝は、にこりと笑うと剣を抜いて、黄金色の光を纏わせた。
「どの方法を取るつもりですか?」
「結界を張っておいて、ここでこの力を発散させる」
そう言われ、魔王様は直ぐに自分の周りに結界を張り、二重で元天帝が自分に結界を張ったのが分かった。
「その方法は安全なのでしょうか?」
自分にだけこれほど結界を張られた事に違和感を感じ、もう少し方法を考えた方が良いのではと、魔王様は言いたかった。
だが時間がない事も分かっていた。
元天帝は、魔王様の正面に回り、顔を近づける。
「愛しているよ」
そう微笑みながら呟き、魔王様の髪を耳にかけてあげる。そのまま、2人の距離が0に達すると、唇を深く重ね、魔王様は目を閉じた。
1分程の時間が経つと、ゆっくりと2つの唇が離れた。
魔王様が次に目を開けようとした時には、あまりの眩しさに目を開けられず、バチバチと響く何かの衝撃音と爆風で、その場から吹き飛ばされてしまった。
瞼を上げられたのはそれから1分経ってからで、周りは澄み渡る青い空のみだった。
辺りを見渡すが、そこには何の人影もなかった。
前回の天雷はまだ数ヶ月前の出来事だ。
「ランシュエ、貴方が天雷に使っていた力の割合はどれぐらいでしたか?」
「そうだね、大体1割程だから、同じ様な規模の雷が落ちて来ると思って良いよ」
それでも元天帝はあっけらかんと答えた。
「天界が落ちて来るよりも被害は少なそうですね」
と、魔王様は僅かに安堵した。
だが、サイは笑ったままだった。
「天雷が天界に落ちないとは限らない」
彼は天界にも相当な憎しみを抱いているのだということを、魔王様も元天帝も忘れていた。
魔王様は僅かに目を細めてサイを見た。
「なるほど、それは早くなんとかして止めなければなりません」
魔王様の声色は落ち着いており、リタとグランの方を向いて言った。
「リタはサイをしっかりと見張っておいてください。グランは念の為に、衝撃に備えて結界をお願いします」
リタは「はい」と一言発するだけだったが、グランは少し心配そうな表情を浮かべて首肯した。
「ランシュエ、被害を出さずに止めることはできますか?」
落ちて来るのが天雷である以上、自分はさほど役に立たないということは理解していた。対処するには元天帝が適任だった。
元天帝は魔王様に優しく微笑んだ。
「可能だよ。ただ衝撃を全て相殺するには、相応のリスクは背負う必要がある。レイリンはここで待っていた方がいい」
そのようなことを言われて黙って待っている魔王様ではないが、少し不思議に思った。
「いいえ、私も行きます。出来ることが何もなくても、貴方を支えることぐらいはできますよ」
魔王様は魔族2人に「行ってきます」と笑顔で声を掛けると、ふわりとその赤い衣が浮き上がった。
その赤に、白い衣の元天帝が続いた。
「行ってらっしゃいませ」
リタは小さく呟いて見送った。
「ランシュエ、私は思うのですが」
「何?」
2人は天雷を止めるために、天界の近くで浮かんでいた。
元天帝は自分の右掌に黄金色の光を集めて眺めている。
「これまでの天雷は、ランシュエを目標にして落ちてきました。今回は天界でしょうか?」
「天界に落として地上に墜落させるのが、最も被害は出るだろうね」
「そうですね。被害を最大にするにはそれが1番効率的です。ですが、サイが最も殺したいのは私ではありませんか?」
その言葉に元天帝の虹彩が揺れ、魔王様の紅玉と見つめあった。
2人の間に沈黙が流れる。
何処に落ちるかはっきりしなければ、結界を上手く活用できない可能性も出てくる。
「レイリンは自分に落ちると思う?」
「はい。それが1番合理的ですが……」
魔王様は額に皺を寄せて考えた。
今のサイが合理的に動くという保証は何処にもなかった。
元天帝は上を仰ぎ見て、小さなため気を吐いた。
「それなら仕方がない。根本を絶ちに行こう」
「ついてきて」と魔王様に言うと、元天帝は右手を魔王様へ差し出した。
伸ばされた手を自然と握り、元天帝に引っ張られてどんどん空へと昇っていく。
「少し寒くなるかも」
元天帝は笑いながら言うと、握られた手から暖かさが伝わってきた。
数分も経てば重苦しい雲の中へ入り、少し進むと、そこには黄金色の巨大な光の球体が浮かんでいた。
その球体からは、ピリピリとした力を感じ、肌が攣るような感覚を魔王様は感じた。
「これが、天雷の正体ですか?」
「そうだね。もう少し圧縮されると、勢いよく破裂して天雷となって落ちるよ」
「後どれぐらいですか?」
「この感じだと、持ってあと5分だろう」
特に表情も変えずに元天帝は言った。相変わらず緊張感がないと魔王様は思ったが、余裕そうなのは良いことだと思うことにした。
「どう対処するのですか?」
「切るか、吸収するか、閉じ込めるか」
思った以上に選択の余地があるなと、魔王様の表情は少しだけ緩んだ。
「では、1番安全で確実な方法をお願いします」
「言ったでしょ?リスクはあるって」
元天帝は、にこりと笑うと剣を抜いて、黄金色の光を纏わせた。
「どの方法を取るつもりですか?」
「結界を張っておいて、ここでこの力を発散させる」
そう言われ、魔王様は直ぐに自分の周りに結界を張り、二重で元天帝が自分に結界を張ったのが分かった。
「その方法は安全なのでしょうか?」
自分にだけこれほど結界を張られた事に違和感を感じ、もう少し方法を考えた方が良いのではと、魔王様は言いたかった。
だが時間がない事も分かっていた。
元天帝は、魔王様の正面に回り、顔を近づける。
「愛しているよ」
そう微笑みながら呟き、魔王様の髪を耳にかけてあげる。そのまま、2人の距離が0に達すると、唇を深く重ね、魔王様は目を閉じた。
1分程の時間が経つと、ゆっくりと2つの唇が離れた。
魔王様が次に目を開けようとした時には、あまりの眩しさに目を開けられず、バチバチと響く何かの衝撃音と爆風で、その場から吹き飛ばされてしまった。
瞼を上げられたのはそれから1分経ってからで、周りは澄み渡る青い空のみだった。
辺りを見渡すが、そこには何の人影もなかった。
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