【完結】兎のおんがえし‐星間旅行記‐

某棒人間

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金烏との邂逅

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 黒兎の仮面を被った御者が操り、星屑の坂道を天翔ける馬車。窓から眺める眼下の風景は、どんどんと小さくなっていく。
やがて雲を超えて薄闇の宙へと至る。輝く星々。小さく瞬く光の一粒一粒が、まるで珠玉しゅぎょくの宝石のよう。
 その星屑の輝く天の河を馬車が行く。
 カラカラ……カラカラ……。
 薄闇の宙に散りばめられた瞬く星々の中、架けられた無限に続く天の河。馬車は揺れることなく星屑で出来た軌跡を追いかけて走り続ける。

「わ、あ………………」

 馬車の窓から眺める、薄闇の瞬く星々の宙。それはまさに物語の中で語られる、銀河を旅しているかのよう。

「ふふ、どう? 星々を翔ける馬車の旅は?」

白兎が茶目っ気たっぷり、得意満面で問いかける。
 馬車の中は前と後ろの両方にクッションの効いたソファーが敷かれ、僕たちは対面する形で座っていた。その左右にはガラスの窓と扉。二人だけなので、馬車の中は十分な余裕がある。なんなら同じソファーに座っても、狭いと感じないくらいの広さがあった。
 窓からの景色に夢中だった僕は、ニッコリ笑顔の白兎の方を向いて応える。

「すごいよ! 興奮する! 流石夢の世界! 現実じゃこんな旅出来ないもん!」

 興奮して素直に頷き熱弁する僕に対し、

「……そうだね」

 何処か切なそうな表情を浮かべる白兎。

「? どうかした?」
「……なんでもない、よ」

 問いかければ、微笑を浮かべて否定される。ううん? なんだぁ?
 更に問い詰めようと口を開きかけた……が、

「ああ、蒼依は運がいいね」

 ふっと白兎は馬車の窓から外を見る。

「? 何……?」

視線の先を追う。と、

「っ⁉ な、なにあれ……」

 見れば宙の彼方から、赤い何かが此方へ近付いて来るのが見えた。

「大丈夫。襲っては来ないよ」

 驚く僕に、白兎が耳元で囁く。気付けば、頬を寄せて同じ窓から同じ景色を瞳に映していた。
 端正な顔立ちの白兎が間近にいる。白い肌に紅の瞳に黒髪が映える。その自分と違い少女と見間違えてしまいそうなほどの美しい少年の姿に、知らず心が跳ねた。
が、

「それより、見ていて」
「んん?」

 白兎は僕の心情に構わずジッと窓の景色を見続ける。つられて僕も窓の外の景色に視線を戻す。
 どんどんと近付いて来る赤い、何か。よく見ると、その何かは胎動しているかのようにゆらゆらと揺らめいている。



 違う。よく見れば、赤い何かの揺らめきは何かの生物を思わせるように、一定のリズムを保っている。これは……まるで……。

「と、り……?」
「うん、正解」

 白兎の声に再び振り返る。ニッコリと余裕のある笑顔で微笑む白兎。

「あれは太陽の化身、〝金烏きんう〟さ」
「〝金烏〟?」
「そう。見ていて」

 白兎に促されてまたもや窓ガラスの方へと向き直る。

「う、わあ……」

徐々に徐々に、大きくなる金烏。輪郭は段々と鮮明になり、その姿が露わになる。
それは一言で言うなれば、火の鳥。巨大な炎の翼を羽ばたかせ、三本の脚を持つ紅蓮の鳥。纏う赤い炎が揺らめき、その鳥の身体は名前の通り金色に輝く。
 神々しい巨鳥は翼を羽ばたかせて、僕等の頭上を通り過ぎていく。

「っ!」

反対側の窓に移動し、姿を追う。
 金烏はひゅるりと滑空し、くるりと通って来た星屑の天の河を一回転。そのまま僕等の通って来た道を逆に飛翔していく。

「わ、あ……」

 その後姿が見えなくなるまで見送る。と、
 ハラハラ……ハラハラ……。
 金烏が通った後に、その燃える身体から飛び散った火の粉が舞う。
 ゆっくりと……宙に滞空する赤い火の粉。それはまるで、先ほどの金烏の神々しさを自分達に知らしめているかのような、名残。

「蒼依は運がいいね。金烏と遭遇出来るなんて」

 白兎の声で我に返る。振り返って先の金烏について質問する。

「さっきの火の鳥が……金烏……」
「そう。太陽の化身。生誕を司る鳥。新たに産まれて来る命を運ぶ、輝ける鳥さ」

 ふと、金烏が去った方を見る。さっきまで僕等がいた方――来た方角を。

「あんなのが見えるとは……流石夢」
「……そうだね」

 ふと白兎を見れば、何処か悲しそうな表情。

「? どうかした?」
「……ううん。何でもないよ」

 笑い返して来る白兎。その儚げな微笑みに知らずドキッと心臓が跳ねた。

「蒼依」
「ん、んん?」

 名を呼ばれ、少し動揺して返事がどもる。しかし白兎は気にした様子はなく、淡く微笑む。

「一緒に、旅を続けようね」
「お? お……おう……」

 白兎の言葉に、僕は生返事を返したのだった。

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