4 / 8
金烏との邂逅
しおりを挟む
黒兎の仮面を被った御者が操り、星屑の坂道を天翔ける馬車。窓から眺める眼下の風景は、どんどんと小さくなっていく。
やがて雲を超えて薄闇の宙へと至る。輝く星々。小さく瞬く光の一粒一粒が、まるで珠玉の宝石のよう。
その星屑の輝く天の河を馬車が行く。
カラカラ……カラカラ……。
薄闇の宙に散りばめられた瞬く星々の中、架けられた無限に続く天の河。馬車は揺れることなく星屑で出来た軌跡を追いかけて走り続ける。
「わ、あ………………」
馬車の窓から眺める、薄闇の瞬く星々の宙。それはまさに物語の中で語られる、銀河を旅しているかのよう。
「ふふ、どう? 星々を翔ける馬車の旅は?」
白兎が茶目っ気たっぷり、得意満面で問いかける。
馬車の中は前と後ろの両方にクッションの効いたソファーが敷かれ、僕たちは対面する形で座っていた。その左右にはガラスの窓と扉。二人だけなので、馬車の中は十分な余裕がある。なんなら同じソファーに座っても、狭いと感じないくらいの広さがあった。
窓からの景色に夢中だった僕は、ニッコリ笑顔の白兎の方を向いて応える。
「すごいよ! 興奮する! 流石夢の世界! 現実じゃこんな旅出来ないもん!」
興奮して素直に頷き熱弁する僕に対し、
「……そうだね」
何処か切なそうな表情を浮かべる白兎。
「? どうかした?」
「……なんでもない、よ」
問いかければ、微笑を浮かべて否定される。ううん? なんだぁ?
更に問い詰めようと口を開きかけた……が、
「ああ、蒼依は運がいいね」
ふっと白兎は馬車の窓から外を見る。
「? 何……?」
視線の先を追う。と、
「っ⁉ な、なにあれ……」
見れば宙の彼方から、赤い何かが此方へ近付いて来るのが見えた。
「大丈夫。襲っては来ないよ」
驚く僕に、白兎が耳元で囁く。気付けば、頬を寄せて同じ窓から同じ景色を瞳に映していた。
端正な顔立ちの白兎が間近にいる。白い肌に紅の瞳に黒髪が映える。その自分と違い少女と見間違えてしまいそうなほどの美しい少年の姿に、知らず心が跳ねた。
が、
「それより、見ていて」
「んん?」
白兎は僕の心情に構わずジッと窓の景色を見続ける。つられて僕も窓の外の景色に視線を戻す。
どんどんと近付いて来る赤い、何か。よく見ると、その何かは胎動しているかのようにゆらゆらと揺らめいている。
「いや」
違う。よく見れば、赤い何かの揺らめきは何かの生物を思わせるように、一定のリズムを保っている。これは……まるで……。
「と、り……?」
「うん、正解」
白兎の声に再び振り返る。ニッコリと余裕のある笑顔で微笑む白兎。
「あれは太陽の化身、〝金烏〟さ」
「〝金烏〟?」
「そう。見ていて」
白兎に促されてまたもや窓ガラスの方へと向き直る。
「う、わあ……」
徐々に徐々に、大きくなる金烏。輪郭は段々と鮮明になり、その姿が露わになる。
それは一言で言うなれば、火の鳥。巨大な炎の翼を羽ばたかせ、三本の脚を持つ紅蓮の鳥。纏う赤い炎が揺らめき、その鳥の身体は名前の通り金色に輝く。
神々しい巨鳥は翼を羽ばたかせて、僕等の頭上を通り過ぎていく。
「っ!」
反対側の窓に移動し、姿を追う。
金烏はひゅるりと滑空し、くるりと通って来た星屑の天の河を一回転。そのまま僕等の通って来た道を逆に飛翔していく。
「わ、あ……」
その後姿が見えなくなるまで見送る。と、
ハラハラ……ハラハラ……。
金烏が通った後に、その燃える身体から飛び散った火の粉が舞う。
ゆっくりと……宙に滞空する赤い火の粉。それはまるで、先ほどの金烏の神々しさを自分達に知らしめているかのような、名残。
「蒼依は運がいいね。金烏と遭遇出来るなんて」
白兎の声で我に返る。振り返って先の金烏について質問する。
「さっきの火の鳥が……金烏……」
「そう。太陽の化身。生誕を司る鳥。新たに産まれて来る命を運ぶ、輝ける鳥さ」
ふと、金烏が去った方を見る。さっきまで僕等がいた方――来た方角を。
「あんなのが見えるとは……流石夢」
「……そうだね」
ふと白兎を見れば、何処か悲しそうな表情。
「? どうかした?」
「……ううん。何でもないよ」
笑い返して来る白兎。その儚げな微笑みに知らずドキッと心臓が跳ねた。
「蒼依」
「ん、んん?」
名を呼ばれ、少し動揺して返事がどもる。しかし白兎は気にした様子はなく、淡く微笑む。
「一緒に、旅を続けようね」
「お? お……おう……」
白兎の言葉に、僕は生返事を返したのだった。
やがて雲を超えて薄闇の宙へと至る。輝く星々。小さく瞬く光の一粒一粒が、まるで珠玉の宝石のよう。
その星屑の輝く天の河を馬車が行く。
カラカラ……カラカラ……。
薄闇の宙に散りばめられた瞬く星々の中、架けられた無限に続く天の河。馬車は揺れることなく星屑で出来た軌跡を追いかけて走り続ける。
「わ、あ………………」
馬車の窓から眺める、薄闇の瞬く星々の宙。それはまさに物語の中で語られる、銀河を旅しているかのよう。
「ふふ、どう? 星々を翔ける馬車の旅は?」
白兎が茶目っ気たっぷり、得意満面で問いかける。
馬車の中は前と後ろの両方にクッションの効いたソファーが敷かれ、僕たちは対面する形で座っていた。その左右にはガラスの窓と扉。二人だけなので、馬車の中は十分な余裕がある。なんなら同じソファーに座っても、狭いと感じないくらいの広さがあった。
窓からの景色に夢中だった僕は、ニッコリ笑顔の白兎の方を向いて応える。
「すごいよ! 興奮する! 流石夢の世界! 現実じゃこんな旅出来ないもん!」
興奮して素直に頷き熱弁する僕に対し、
「……そうだね」
何処か切なそうな表情を浮かべる白兎。
「? どうかした?」
「……なんでもない、よ」
問いかければ、微笑を浮かべて否定される。ううん? なんだぁ?
更に問い詰めようと口を開きかけた……が、
「ああ、蒼依は運がいいね」
ふっと白兎は馬車の窓から外を見る。
「? 何……?」
視線の先を追う。と、
「っ⁉ な、なにあれ……」
見れば宙の彼方から、赤い何かが此方へ近付いて来るのが見えた。
「大丈夫。襲っては来ないよ」
驚く僕に、白兎が耳元で囁く。気付けば、頬を寄せて同じ窓から同じ景色を瞳に映していた。
端正な顔立ちの白兎が間近にいる。白い肌に紅の瞳に黒髪が映える。その自分と違い少女と見間違えてしまいそうなほどの美しい少年の姿に、知らず心が跳ねた。
が、
「それより、見ていて」
「んん?」
白兎は僕の心情に構わずジッと窓の景色を見続ける。つられて僕も窓の外の景色に視線を戻す。
どんどんと近付いて来る赤い、何か。よく見ると、その何かは胎動しているかのようにゆらゆらと揺らめいている。
「いや」
違う。よく見れば、赤い何かの揺らめきは何かの生物を思わせるように、一定のリズムを保っている。これは……まるで……。
「と、り……?」
「うん、正解」
白兎の声に再び振り返る。ニッコリと余裕のある笑顔で微笑む白兎。
「あれは太陽の化身、〝金烏〟さ」
「〝金烏〟?」
「そう。見ていて」
白兎に促されてまたもや窓ガラスの方へと向き直る。
「う、わあ……」
徐々に徐々に、大きくなる金烏。輪郭は段々と鮮明になり、その姿が露わになる。
それは一言で言うなれば、火の鳥。巨大な炎の翼を羽ばたかせ、三本の脚を持つ紅蓮の鳥。纏う赤い炎が揺らめき、その鳥の身体は名前の通り金色に輝く。
神々しい巨鳥は翼を羽ばたかせて、僕等の頭上を通り過ぎていく。
「っ!」
反対側の窓に移動し、姿を追う。
金烏はひゅるりと滑空し、くるりと通って来た星屑の天の河を一回転。そのまま僕等の通って来た道を逆に飛翔していく。
「わ、あ……」
その後姿が見えなくなるまで見送る。と、
ハラハラ……ハラハラ……。
金烏が通った後に、その燃える身体から飛び散った火の粉が舞う。
ゆっくりと……宙に滞空する赤い火の粉。それはまるで、先ほどの金烏の神々しさを自分達に知らしめているかのような、名残。
「蒼依は運がいいね。金烏と遭遇出来るなんて」
白兎の声で我に返る。振り返って先の金烏について質問する。
「さっきの火の鳥が……金烏……」
「そう。太陽の化身。生誕を司る鳥。新たに産まれて来る命を運ぶ、輝ける鳥さ」
ふと、金烏が去った方を見る。さっきまで僕等がいた方――来た方角を。
「あんなのが見えるとは……流石夢」
「……そうだね」
ふと白兎を見れば、何処か悲しそうな表情。
「? どうかした?」
「……ううん。何でもないよ」
笑い返して来る白兎。その儚げな微笑みに知らずドキッと心臓が跳ねた。
「蒼依」
「ん、んん?」
名を呼ばれ、少し動揺して返事がどもる。しかし白兎は気にした様子はなく、淡く微笑む。
「一緒に、旅を続けようね」
「お? お……おう……」
白兎の言葉に、僕は生返事を返したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる