【完結】皮肉な結末に〝魔女〟は嗤いて〝死神〟は嘆き、そして人は〝悪魔〟へと変わる

某棒人間

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⑬ side 池田千佳

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 夕焼けの中学校帰りを私達四人が他愛もない会話をしながら歩いていく。しかし、他愛もない会話と言いつつも、実際会話しているのは仕切り屋の晴子とタイプが同じでノリがいい広江だけ。眼鏡をかけた見るからに引っ込み思案の百合は「あはは」「そうだねー」と相槌を打って会話に参加している風を装いながら、実際はただただ首を縦に振って晴子と広江のご機嫌を取っているに過ぎない。
 もっとも、私池田千佳もその百合と同じことをしている訳だが。

「ふふ……そうなんだ」
「そうなのよ! それでね――」

 特に中身のない晴子の会話に、相槌を打ってやる。するとベラベラとまた得意げに、或いは感情のままに、言葉をしゃべり始める。
 晴子は、分かりやすい性格だ。気分屋で好きな物は何が何でも手に入れようとするが、手に入ったらすぐに飽きてしまう。他の付き合っている女子から彼氏を盗ったが、すぐに別れた。そんな話はしょっちゅうだ。
 よく言えば邪気が無く、悪く言えば考え無し。それが、私の思う柳川晴子という人物だ。

(ほんっと、馬鹿みたいに笑うわ……自分が何して来たのか、いるのか分かっていないんだろうなあ)

 はっ……と私の顔に黒い笑みが浮かぶ。おっといけない。こんな表情見せられない。
 本当に、この女は希津奈を仲間外れにしてどうしたいのか? 

(ま、私は別にいいけど……というか、望むところだけど)

 くつくつと、どうしても皮肉な笑みが零れてしまう。
 仲良し五人組なこのグループだが……晴子は乙女心と秋の空、を体現するかのように気分屋だ。そしてそれが爆発してグループ内の女子に向けられると、無視をする等のいじめに発展する。
 今の音無希津奈のように……そして、昔の私のように。

(今思い出しても、腸が煮えくり返りそう……)

 ある日いきなり怒り出し、それから無視されグループから孤立させられる子の気持ちが分かるだろうか?
 理由なんて、その時の晴子の気分次第。求めていた言葉を返してくれなかった、自分より良いものを身に着けていた、そして――自分より優位に立たれたから、等。

(ほんっと、子供じみている)

 いじめることで、気分を紛らわし、他人より優位に立たないと気が済まない。自分より上に立たれる相手を良しとしない。そのうち大人になったら、マウントをとるのに夢中になるのではないだろうか?

(まあ、知ったこっちゃないけど)

 このグループで、最初に無視を――いじめを受けたのは、私だった。ある時いきなり怒り出し、広江達にも指令を出して、徹底的に私を仲間外れにして来た。
 後からこっそり百合に聞けば、「千佳が私のことをむかつく、きしょいと言ってきた」とか言い出しやがった。
 言う訳ないだろ、馬鹿が。自分の都合よく記憶を改ざんしやがって。
 
(そんな奴と今でも付き合っている自分も、馬鹿なんだろうけど)

 皮肉に笑う。他のグループに混ざるのも考えたが、すでにグループとして完成されている中で入るのは容易ではなかった上に、こっちまで晴子の怒りを買ったら……と迷惑がるいじめ時代のクラスの女子達。
 私も、態々そんな奴らのとこへいくのも面倒で……そのまま一人で過ごしていた。
 そして――終わりは、唐突に来た。

(ああ……本当……)

 ある日普通に晴子から挨拶してきて――そのままいじめを受ける前の、〝日常〟に戻ったのだ。
 理由は単純明快。晴子の気分。それにほかのメンバーが従った。ただそれだけ。

(――ばっかみたい)

 いじめに遭っていた頃は、本当につらかった。だけど、いじめが無くなった後、気付いた。
 ああ、本当にくだらない奴にくだらないことされていたんだなって。
 そして――思ったのだ。

(自分だけ不幸になるなんて、許さない)

 いじめを見て見ぬふりしていたお前達も、グループの女子全員も、されろ。私を人身御供として送り出して、さも自分達は言われただけ、やりたくてやったんじゃないんです、なんて口が裂けても言えないようにしてやる。私がつらい目に遭ったのだから、お前等もつらい目に遭わないと不公平だ!
 そう思い――晴子のグループに入ったまま、ずっと機会を伺っていた。

(百合じゃなく、希津奈だったのは予想外だったけど)

 まずいじめのターゲットにされるのは、百合みたいな根暗そうでぼんやりとした子だ。だから私がいじめの標的にされたら、次は絶対百合の奴だと思っていたのだが――予想と違って、希津奈の方だった。

(まあ、でもいいわ)

 どちらが遅いか早いか。もっと言えば私自身誰でもいい。誰でもいいから、嘗ての私みたいに辛くて辛くて、苦しんで苦しんで苦しみ続ければいいと思う。
 それが、晴子の言いなりで無視といじめに加担した奴の罪だから。

(百合曰く、どうにか希津奈が晴子に取り入って、いじめを止めさせようとしたらしいけど――)

 でも、そんなの本人の自己満足だ。本当に、清く正しい人間なら、いじめに遭っている人を助けるべきだし、いじめに加担などしない。
 晴子の言いなりになったことで――希津奈も百合も広江も、みんな同罪なのだ。

(ま、広江や晴子は〝いじめ〟なんて考えていないんだろうけど)

 たぶん、いじめだとも思っていない。人間関係のトラブルの内。さらに言えば、グループ内でのコミュニケーションの一つみたいに考えているのだろう。
 ああ――本当に――

(くだらない)

 だから決めたのだ。晴子に取り入って、いいように他のメンバーも仲間外れにしてやると。自分が嘗て遭った辛い目に、見て見ぬふりして晴子の言いなりになった奴等に、離れるまでの間に出来る限り復讐してやると。
 そして――漸くその機会が訪れたのだ。

(もっともっと、苦しめてやる)

 苦しめて苦しめて、その上でまたグループに入れる。そしてまた別の奴をターゲットにしてやる。それを繰り返せば、上手くいけばこのグループ内でのみ威張り散らす〝暴君〟を、他のメンバー全員で逆に無視してやることも出来るかもしれない。そうだ、晴子自身もいじめに遭うべきだ。こいつは、いじめに一度遭って、人の痛みを知るべきなのだ――!
 私は暗い愉悦から……薄ら笑みを浮かべながら晴子達の会話に相槌を打ち続けるのだった。






 暗い薄ら笑みを浮かべる池田千佳。キャッキャッと楽し気に騒ぐ柳川晴子と谷口広江。伏し目がちながらも晴子達の会話に相槌を打つ飯垣百合。
 この時――この四人は、まだ知らなかった。
 自分達の選択が、後にどんな結果となって我が身に返ってくるのかを。
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