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絆
⑱ 亀裂
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「希津奈ちゃんは、可愛いね」
木田さんの声と共に耳に感じる吐息。振り向くと、すぐ目の前にある木田さんの笑顔。
「き、木田、さん……」
「希津奈ちゃん」
ねっとりとした、木田さんの声。肩を捕まれ動けない私に、木田さんが囁く。
「希津奈ちゃんは、ドンドン可愛いくなるね。最初に会った時より、もっともっと綺麗になっちゃって……」
「ひっ」と悲鳴を上げると同時に、体が硬直する。逃げようと思うが、足が全く動かない。
「ねえ……僕のこと、嫌い?」
「そ、そんなことは……」
引きつりながら言葉を返す。どうしよう。逃げようとしても、肩を捕まれて、動けない。何よりも、体が動いてくれなかった。
「じゃあ好きかな? 僕は好きだよ」
「え……」
放心する。何? この人は……何を言っているの?
「ふふ……肌が奇麗だね。やっぱ若いからかな? お母さんの弓香とは大違いだ……」
「………………!」
母と比べられ、絶句する。
嗚呼、そうだ。やっぱり、この人は――。
私は最初、この人と出会い……そして、二人きりになった時のことを思い出す。
『希津奈ちゃんは、可愛いね』
母が自販機に飲み物を買いに行った僅かな時間。その時、木田さんは――こいつは、私をなめまわすように見つめてそう言った。
その時の――獣のような視線が、忘れられなかった。
しかし――それは一瞬だけだった。すぐに母も帰ってきて、何をどうこうされるということもなかった。
だから、私は……母の再婚に何も言えなかった。言うことが出来なかった。
だけど――!
「や、止めて下さい……!」
押し殺した、だけど力強い言葉が私の口から流れる。
だけど、
「ふふ……健気な所も、可愛いね」
全くひるむことはない。それどころか、気をよくして体を嘗め回すように撫で始める。
「っ――⁉」
ぞくりとする悪寒。迫る恐怖。本能的な忌避。あらゆる負の感情が溢れ出す。
ダ レ カ タ ス ケ テ
私の頭の中は、その言葉だけが浮かぶ。
誰か助けて。お願い。早く来て。お母さん……お母さん……お母さん……!
「ああ……美味しそうな匂いだね……とても甘い、良い香りだよ。ちゃんと、シャンプーしているんだね……」
はぁはぁと荒い息を吐き出しながら木田さんがそう呟く。その表情には、怖気を誘う恍惚の笑み。
「い、いや……離して!」
精一杯の力で抵抗する。しかし、体格と力で勝る木田には勝てない。
「ははは……希津奈ちゃん、本当に可愛いね……僕だけのものにしたいくらいだ」
「嫌っ……! 止めて、お母さん!!」
必死に叫ぶ。抗う。抜け出そうとする。だけど、出来ない。動けない。
「希津奈ちゃん……!」
荒い息の木田は、そのまま私をリビングと繋がっている和室へと私を掴んだまま連れ込む。
「止めて……止めて……止めてぇ!」
絶叫する。だけど誰も来ない。助けに来てくれない。
そのまま和室の床に倒される。頭はどうにか打たなかった。だけど、そのまま木田が覆い被さってくる。
「希津奈ちゃん……」
「ひぃっ!」
狂気に歪んだ笑みを浮かべる木田を見て、思わず悲鳴を上げてしまう。
怖い。怖い。怖い。
震えることしか出来なかった。
「希津奈ちゃん、可愛いね……」
幾度も聞いた言葉。体が強張り、動けなくなる。
「やっぱやるなら、あんな年増女じゃなくて、希津奈ちゃんみたいな若い娘じゃないとね……!」
「え……」
今、この男はなんと言った? 私の耳はおかしくなったのかと疑った。木田の言葉が信じられず、呆然としてしまう。
「あのババアより、希津奈ちゃんの方がずっと可愛いよ……! あいつはただのオバサンじゃないか!」
「……!」
こいつ……! 最初から、母じゃなく、私目当てで――⁉
愕然とする私。しかし――
ピタリ
「っ――⁉」
私の服に木田が手をかける。同時に私は我に返り――次いで何をされるか察し――渾身の力で抵抗する!
「い、いやあ! 止めて!」
「大声出すな!」
「ぐぅ!?」
口を押さえられる。痛い。苦しい。息が出来ない。
「んー! んー!」
それでも私は暴れるのを止めない。このままだと、こいつに犯されてしまう。それだけは絶対に――! しかし、そんな私の願いも空しく――木田によって強引に服がめくられていく。
「ははは、やっぱり可愛いよ、希津奈ちゃん……」
「……!」
木田は笑う。私は目を見開き――そして、絶望する。
嗚呼、もう駄目なんだ。
そう思った――時だった。
「何しているの!」
目を見開く。声のした方に無理矢理顔を向けると、
(お母さん――!)
母が、買い物袋を床に落として――此方を凝視していた。
「こ、これは――」
木田が慌てふためく。同時に母が駆け寄って来て私と木田とを無理矢理引き離してくれる。
「お母さ――」
喜び、涙を零して抱き着こうとした、瞬間。
バチン
「………………え?」
頬が、痛い。
そっと自分の頬を触れる。痛い。そう、痛いのだ。
今、何をされた? 私は、今どうなっている?
呆然とする私に、母が憤怒の表情で此方を見て、言葉を放つ。
「私から彼を盗らないで!」
木田さんの声と共に耳に感じる吐息。振り向くと、すぐ目の前にある木田さんの笑顔。
「き、木田、さん……」
「希津奈ちゃん」
ねっとりとした、木田さんの声。肩を捕まれ動けない私に、木田さんが囁く。
「希津奈ちゃんは、ドンドン可愛いくなるね。最初に会った時より、もっともっと綺麗になっちゃって……」
「ひっ」と悲鳴を上げると同時に、体が硬直する。逃げようと思うが、足が全く動かない。
「ねえ……僕のこと、嫌い?」
「そ、そんなことは……」
引きつりながら言葉を返す。どうしよう。逃げようとしても、肩を捕まれて、動けない。何よりも、体が動いてくれなかった。
「じゃあ好きかな? 僕は好きだよ」
「え……」
放心する。何? この人は……何を言っているの?
「ふふ……肌が奇麗だね。やっぱ若いからかな? お母さんの弓香とは大違いだ……」
「………………!」
母と比べられ、絶句する。
嗚呼、そうだ。やっぱり、この人は――。
私は最初、この人と出会い……そして、二人きりになった時のことを思い出す。
『希津奈ちゃんは、可愛いね』
母が自販機に飲み物を買いに行った僅かな時間。その時、木田さんは――こいつは、私をなめまわすように見つめてそう言った。
その時の――獣のような視線が、忘れられなかった。
しかし――それは一瞬だけだった。すぐに母も帰ってきて、何をどうこうされるということもなかった。
だから、私は……母の再婚に何も言えなかった。言うことが出来なかった。
だけど――!
「や、止めて下さい……!」
押し殺した、だけど力強い言葉が私の口から流れる。
だけど、
「ふふ……健気な所も、可愛いね」
全くひるむことはない。それどころか、気をよくして体を嘗め回すように撫で始める。
「っ――⁉」
ぞくりとする悪寒。迫る恐怖。本能的な忌避。あらゆる負の感情が溢れ出す。
ダ レ カ タ ス ケ テ
私の頭の中は、その言葉だけが浮かぶ。
誰か助けて。お願い。早く来て。お母さん……お母さん……お母さん……!
「ああ……美味しそうな匂いだね……とても甘い、良い香りだよ。ちゃんと、シャンプーしているんだね……」
はぁはぁと荒い息を吐き出しながら木田さんがそう呟く。その表情には、怖気を誘う恍惚の笑み。
「い、いや……離して!」
精一杯の力で抵抗する。しかし、体格と力で勝る木田には勝てない。
「ははは……希津奈ちゃん、本当に可愛いね……僕だけのものにしたいくらいだ」
「嫌っ……! 止めて、お母さん!!」
必死に叫ぶ。抗う。抜け出そうとする。だけど、出来ない。動けない。
「希津奈ちゃん……!」
荒い息の木田は、そのまま私をリビングと繋がっている和室へと私を掴んだまま連れ込む。
「止めて……止めて……止めてぇ!」
絶叫する。だけど誰も来ない。助けに来てくれない。
そのまま和室の床に倒される。頭はどうにか打たなかった。だけど、そのまま木田が覆い被さってくる。
「希津奈ちゃん……」
「ひぃっ!」
狂気に歪んだ笑みを浮かべる木田を見て、思わず悲鳴を上げてしまう。
怖い。怖い。怖い。
震えることしか出来なかった。
「希津奈ちゃん、可愛いね……」
幾度も聞いた言葉。体が強張り、動けなくなる。
「やっぱやるなら、あんな年増女じゃなくて、希津奈ちゃんみたいな若い娘じゃないとね……!」
「え……」
今、この男はなんと言った? 私の耳はおかしくなったのかと疑った。木田の言葉が信じられず、呆然としてしまう。
「あのババアより、希津奈ちゃんの方がずっと可愛いよ……! あいつはただのオバサンじゃないか!」
「……!」
こいつ……! 最初から、母じゃなく、私目当てで――⁉
愕然とする私。しかし――
ピタリ
「っ――⁉」
私の服に木田が手をかける。同時に私は我に返り――次いで何をされるか察し――渾身の力で抵抗する!
「い、いやあ! 止めて!」
「大声出すな!」
「ぐぅ!?」
口を押さえられる。痛い。苦しい。息が出来ない。
「んー! んー!」
それでも私は暴れるのを止めない。このままだと、こいつに犯されてしまう。それだけは絶対に――! しかし、そんな私の願いも空しく――木田によって強引に服がめくられていく。
「ははは、やっぱり可愛いよ、希津奈ちゃん……」
「……!」
木田は笑う。私は目を見開き――そして、絶望する。
嗚呼、もう駄目なんだ。
そう思った――時だった。
「何しているの!」
目を見開く。声のした方に無理矢理顔を向けると、
(お母さん――!)
母が、買い物袋を床に落として――此方を凝視していた。
「こ、これは――」
木田が慌てふためく。同時に母が駆け寄って来て私と木田とを無理矢理引き離してくれる。
「お母さ――」
喜び、涙を零して抱き着こうとした、瞬間。
バチン
「………………え?」
頬が、痛い。
そっと自分の頬を触れる。痛い。そう、痛いのだ。
今、何をされた? 私は、今どうなっている?
呆然とする私に、母が憤怒の表情で此方を見て、言葉を放つ。
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