【完結】皮肉な結末に〝魔女〟は嗤いて〝死神〟は嘆き、そして人は〝悪魔〟へと変わる

某棒人間

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㉑ あんなにも仲良しだったはずなのに……

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 今が何時なのか、よく分からない。ただ外の日が沈んで夕焼け空になったことは分かった。

「………………」

 新しく用意された自室で、私は呆然自失してから……漸く意識を浮上させた。

「………………」

 暗く日が沈むまで……自分はスマホを握りしめたまま項垂れていたらしい。足を折り曲げたまま長時間同じ体制だった為節々が痛む。

「………………」

 だが、そんなことはどうでもよかった。
 握りしめたままのスマホに力なく視線を送る。電話帳に登録された名前が映し出された画面。
 私の、大切な〝親友〟のはずの子達の名前。
 固いけども脆く、だからこそ大切にしなければいけなかったはずの〝絆〟の名前。
 だけど。

「……無い」

 暮れる空、朱が差す世界。そこに私は独りぼっち。
 普段なら……〝独り〟だなんて思わない。例えどんなに物理的に遠くても……〝絆〟を信じることが出来た。孤独に耐えることが、出来た。
 だけど。

「何にも……無くなっちゃった……」

 今はもう、何も残っていなかった。
 母との〝絆〟も、晴子達親友との〝絆〟も無い。
 何一つ、残って……いない。
 いや、もしかしたら――






「最初から………………無かった……?」






 その可能性に気付き――
 ポタリ
 
「………………ぁ」

 涙が一滴、零れた。
 止めないと。そう思うが、決壊した涙腺は止まらない。
 ポタリ、ポタリ
 溢れる熱い雫が滴り落ちて、スマホの画面を濡らす。

「っう……くぅ………………うぅううううううううう!」

 嗚咽が零れる。涙が溢れて止まらない。
 今まで堪えてきた何かが崩れ落ちていく。
 ずっと我慢してきた。耐えようと努力した。繋ぎ止めようと、必死になって耐えてきた。
 だけどそれは無駄でしかなかったのだ。だってもう――〝絆〟を結んだ相手は、誰一人残っていない。

(どうして……)

 何時からこうなったのか。どうしてこうなったのか?
 分からない。分かるはずがない。いや……分かりたくないのかもしれない。
 苦しいと叫んでいる。助けを求めている。〝絆〟を求めている。
 皮肉にも〝絆〟を全て断たれて……母の言う『クラスメイトや友達との絆を大事にしなさいね』というを痛感させられる。
 今まで――母の言う通り、〝絆〟を大切に、〝絆〟に縋って生きて来た。
 それなのに――今更。今更〝絆〟が無くなった世界でどうやって生きて行けというのだろうか?
 
 
(必死に……今まで必死になって、〝絆〟を守ってきたのに、なのに……!)

 その〝絆〟に裏切られた。しかも、よりにもよってその裏切りは〝絆〟が原因で起こった。
 誰を恨めばいいのだろうか? 晴子達との確執は、何が原因なのか? 光輝君と話しをしたせい? なら彼を恨めばいいのだろうか? いや、光輝君が話しかけてくれたのは、回夜歩美さんと会ったからだ。ならば、彼女を恨めばいいのか?
 だけど、あの日回夜さんと会ったのは、母が木田を家に呼んだからだ。だから私は家に帰りづらくなって、回夜さんと会った。ならば木田を恨めばいいのか?
 それとも……女手一つで育ててくれて、だけども娘よりも男を選んだ母を恨めばいいのだろうか?

(……違う)

 きっと、そうじゃない。そうじゃないのだ。上手く言えない……だけど、そうじゃない。きっと、誰かのせいという訳ではない。
 涙をぬぐい……その拍子にふと本棚の上に飾った写真立てが目に入る。

(あ……)

 それが視界に入った瞬間――ノロノロと、起き上がる。ずっとへたり込んでいたために、長時間正座した時の様に足が痺れた。だけど、そんなこと気にしていられない。
 震える手で写真立てを手に取る。朱が差した部屋の中で、一つ色鮮やかに存在を際立たせる写真。



 それは――晴子達と一緒に撮った、高校の入学式での写真だった。



(皆で、撮って……それで……仲間で共有して……私は、印刷したんだっけ……)

 桜舞い散る学校の門の前。皆がはしゃぎ、騒ぎながら母に撮ってもらった写真。
 私の理想とする〝絆〟の象徴。
 だけど、

「どう、して……」

 もう何度目かも分からない同じ言葉……「どうして」を繰り返す。
 どうして? 本当にどうしてこうなったのだろうか? 何故こんなことになってしまったのだろうか?
 〝絆〟を大事にして来たはずだ。固く、強固に結ばれていたけども、同時に脆く壊れやすいから……大事に大事に、千切れないように大切にしてきたはずの〝絆〟。 
 なのに母は娘に手を出すような男を選び、晴子達は些細なことで私を仲間から除外した。

「何が、悪かったのかな?」

 写真を胸に抱き、呟く。

「私が悪いの? 私が間違えたの? ねえ、教えてよ」
 
 答えてくれる人はいない。当然だ。ここにはもう、私しかいないのだから。

「戻りたい……この頃に、戻りたいよぉ!」

 写真の頃――高校に入学した時は、確かにあったのだ。あったはずなのだ。母との〝絆〟も、晴子達との〝絆〟も。
 少なくとも、それを信じていられた。〝絆〟を感じることが出来た。
 それが――最初から、無かったなんて……疑うなんてこともしなかったのに。
 それが、どうして? どうしてこうなった? どうしてこうも変わってしまったのか?
 そう、涙した――時だった。





「――違う」





 唐突に、閃いた。

「最初から無かった訳じゃない」

 そう。その通りだ。
 言いながら、私の中に電流の様に確信めいた天啓が舞い降りた。

「無かったんじゃない。あったけど……変わっただけなんだ」

 なんの根拠もない予測にして想定。だけど、私の中で、急に浮かび上がったそれは『確信』へと変わる。
 〝絆〟が無かった、訳ではない。ただ、母も晴子も、その他の百合達も、ほんの少し『変わって』しまっただけなのだ。
 だってそうでしょう? 写真の中の晴子も皆も、こんなに笑顔で写真に写っている。母も、入学式では笑顔だった。
 みんな幸せだった。笑顔だった。だから――そう、〝絆〟はあったのだ。
 だけど――変わってしまって〝絆〟がほころび始めた。
 このままでは――崩れ、壊れ続けていくだけ。
 なら――その前に。





「〝絆〟は柔くて脆いものだから、大切にしないといけない。
 全てが変わって、無くなる前に……〝絆〟が無くなる、その前に……」





 私は決意を口にし……引っ越し作業に使っていた、部屋の隅に置いておいた大きなキャスター付きの旅行鞄を掴んだ。

「行かなくちゃ」

 〝絆〟が消える、その前に。〝絆〟を永遠に、する為に。




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