【完結】皮肉な結末に〝魔女〟は嗤いて〝死神〟は嘆き、そして人は〝悪魔〟へと変わる

絆

⑳ 独りぼっち

　ノロノロと、私は出来たばかり、来たばかりの自室へ上がる。
　部屋に入り……私はスマホを手に取る。
　電話帳を開き、ヤ行を検索してお目当ての人物を見つける。
　名前は――『柳川晴子』。私の所属するグループの一人。そして――私の親友。
　震える手で、通話ボタンを押す。

　トゥルルルル……トゥルルルル……

（お願い……出て……）

　私は祈る気持ちを抑えられない。手が震え、呼吸は荒くなる。心は荒波のように激しい感情が溢れ、それでいて何処か凪いだ海のように理性を保っていた。
　もしも――もしも、晴子まで――。
　頭の中は、それだけだった。それだけしか、なかった。
　と、

　ガチャ

　音がして、私は向こうが口を開くよりも先に言葉を放つ。
　
「もしもし、晴子⁉」

　祈りが、届いた。そう思った。
　だけど、

『――おかけになった電話番号は、お繋ぎ出来ません。番号をお確かめになってもう一度おかけ直しください』
「――っ！」

　機械的な音声が流れ、私は一瞬呆気に取られる。しかしすぐに我を取り戻して何度も電話をかけ直した。
　それでも結果は同じ。無機質な声が流れるだけ。

（こ、れ……）

　まさか、と思った。慌ててタ行を検索し、『谷口広江』に電話をかける。
　が、

『――おかけになった電話番号は、お繋ぎ出来ません。番号をお確かめになってもう一度おかけ直しください』
「――――――っ！」

　やはり、同じように繋がらない。
　震える手で、また別の名前で電話をかける。『池田千佳』……同じグループの、友人。ううん、親友。
　だけど、
　


『――おかけになった電話番号は、お繋ぎ出来ません。番号をお確かめになってもう一度おかけ直しください』

　

「ぁ………………っ！」

　繋がらない。三人同時に繋がらない。そんなことはありえない。ありえない。ありえない……はず、だ。
　だけど、一つ可能性がある。
　その可能性を否定すべく……私は上手く動かせない手でスマホを操作し……最後の友人に電話をかける。
　名前は――『飯垣百合』。

　
　トゥルルルル……トゥルルルル……

（お願い……お願い……！）

　祈り、縋る。もう、もう私には……彼女達しかいないのに！
　そして――

『――もしもし、希津奈ちゃん？』
「っ百合！」

　出てくれたことに安堵する。同時に嬉し涙が零れる。眼鏡をかけた、引っ込み思案の百合。暗いだの、自分では何もできずに言いなりになっているだの、他のグループの女子から陰口を叩かれることもあるけど……私にとっては、何時も後ろに引っ付いてきて、「希津奈ちゃん希津奈ちゃん」と名前を呼んでくれる。大事な親友の一人。

「――百合！　あの……！」

　私は心から百合が出てくれたことに喜んで――





『――ごめん。晴子ちゃんが、希津奈ちゃんと話すなって言っているから――』





　――拒絶される。
　ブツン、と電話が途切れる。ツー、ツー、と機械音が流れる。

「………………っ！」

　スマホが手から零れる。同時に足元から崩れ落ちる。

「あ………………あ………………っ！」
　
　私は――分かった。分かってしまった。晴子が他の子に命じて、電話をブロックしていることに。
　そして、もう私には――何も残っていないことを。



「嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」

　独りぼっちの世界に、絶叫が木霊した。