【完結】皮肉な結末に〝魔女〟は嗤いて〝死神〟は嘆き、そして人は〝悪魔〟へと変わる

某棒人間

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品行方正

追憶⑤ 火葬場にて

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 黒い喪服の一団がたむろしている横で、

「お年寄りの中に、時々いるのよ。咲子おばあ様のような方が」

 回夜歩美さんはベンチに座りながらその様を視界に収めつつ、そう口にした。






「それは……どういう……」

 歩美さんと同じベンチに座り、俯く私の前に立つ光輝お兄ちゃんが問いかける。

「言葉通りの意味よ」

 そう前置きし……歩美さんは語り始める。

「お年寄りの中には、異常に物を貯め込む方がいるの。
 戦争やオイルショックを経験しているせいで、とにかく物を捨てられない。『まだ何かに使えるから』と思って捨てられず貯めてしまう」
「……確かに……テレビなんかではそういう人を紹介したりはしているが……咲子おば様の家は奇麗だ。身なりだって、整っている……」

 光輝お兄ちゃんが歩美さんに抗議(?)する。が、歩美さんは首を横に振る。

「それは所謂『ゴミ屋敷』。でも咲子おば様はそうじゃない。冷蔵庫、もっと言えば食べ物に執着していたのね」
「〝執着〟?」

 眉を顰める光輝お兄ちゃん。構わず続ける歩美さん。

「『店で安かったから』『チラシや広告で見て取り寄せた』とかは、あくまできっかけ。
 本当の願いは、『皆に喜んでもらいたいから』。
 美味しいものを皆に食べさせてあげたい。普段会えない皆の為に用意してあげたい。素敵な皆との時間を過ごしたい。
 そんな願いが食べ物への〝執着〟を呼び、結果今回の事件に発展した、と」
「………………」

 苦虫を嚙み潰したような表情で、それ以上は言葉が出ない様子の光輝お兄ちゃん。

「年を取って、消費期限の確認も怠ってしまったのね。おまけにすぐに出せるようにと常温で暫く置いておいたらしいわ」

 食中毒になるのも、当然と言うわけ……なのだろう。
 だが、

「………………」

 私には、もう――どうでもよかった。

「……梅香」

 光輝お兄ちゃんの声。それに私は、どうにか顔を上げてお兄ちゃんの顔を見上げる。

「……大丈夫、か?」
「………………ぁ」

 心配、させている。
 祐樹が倒れてから、母はずっと弟に付き添った。私も父も、出来るだけ病院に赴いた。そして――家族全員が祈り続けた。弟の快復を。
 しかし――その甲斐なく、今日弟は天国へ旅立つ。

「私、は――」

 険しい表情の、光輝お兄ちゃん。それを、前にし――

「私、は――














 大丈夫、だよ」

 笑顔を、向けた。

「………………そう、か」

 可能な限り感情を切り捨てたような、声。光輝お兄ちゃんはポン、と私の頭に手を置いて、一言。

「無理、するなよ? 俺に手伝えることがあれば、言ってくれ」
「………………うん」

 少しぶっきらぼうな、光輝お兄ちゃんの優しさ。でも、私は知っている。光輝お兄ちゃんが、誰よりも優しいのを。どんなに素敵なのかを。
 だから、私は答える。

「大丈夫。私は、〝大丈夫〟だよ」

 この場において、最もふさわしいであろう言葉を。
 例え自分が、〝大丈夫〟でなかろうとも。




「………………」

 歩美さんが私を見ている気配がした。その視線が憐れんでいるのか、それとも悲しんでいるのか。私には分からなかった。
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