短編集 ありふれた幸せ

たけむら

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鉄塔 ――三十六歳・男(演出家)

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 新幹線の高架。それを越えると僕が育った町がある。
 視界一面に田んぼが広がっていて、何も無い場所だった。
 あるのは新幹線の高架と、幾つもの鉄塔。
 夕暮れを遮るように頭上を通過して行く薄汚れたコンクリートの塊と、地平線の外側からどんどんと巨大化して迫ってくる何本もの鉄細工。
 それが、いつも見ていた僕の風景。帰り道の景色だった。

 空っぽの夕暮れ。絵にかいたような田舎と真新しい老人ホーム。どこからかやって来た人達をどこかへと運んで行く頭上の道。あっという間にぶっとんで飛んで行く乗り物の中の誰の目にも映らない場所。その一瞬の為にずっと僕の目の前に在り続ける高架。その圧力。

 誰かのために電気を運んでいるらしい鉄塔が田んぼにおとす奇妙な影。

 映画ならきっと自転車を停めて眺めたりするシーン。美しい田舎の風景。画面の中に切り取られた景色と、切り落とされた感情。後付けの物語。
 そんな誰かにとってのノスタルジー、僕にとっての息苦しさ。鉄塔。

 特に楽しくも無い高校から、誰にも会わない様にと心の底で願いながら自転車を漕いだ道。馬鹿ばっかりで下らない元クラスメイトが粒ぞろいの田舎の町。

 少人数の明るいクラス。子供の頃から知り合いだからいじめはない。嘘ばかりだ。
 僕に見えていたのは、自分以外の全てが高く高く降り積もった穴の中に透明なぬるま湯が満ちていく世界だった。
 あの水が僕の背を追い越した時、溺れてしまうのかそれともここから抜け出せるのか。そればかりを考えて。

 なにもかもが素通りしていく場所。ここにいない自分ばかりを思い描いた時間。

 あの日の僕の頭の上を、新幹線が走り抜けた。
 ほんの一瞬、一秒にもならない位の里帰り。
 その一瞬の視界を遮った鉄の塔。
 いくつかの田んぼはただの草むらに変わっていて、不法投棄の山も増えていた。
 
 もう地図からも消えてしまったその町の名前を、僕はまだ覚えている。
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