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セクハラにうんざり
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藤澤君は藤澤君で総務室の女性社員である高橋さんに話しかけられてなかなか離してもらえない様子だ。にこにこと仲が良さそうに見える。
「藤澤君ってお休みの日は何してるの?」
「うーん、買物行ったり家の掃除したりですかね」
「そうなんだー、今度、皆でスノボ行くんだけど藤澤君も行かない?」
「あ、いいですね! スノボ、昔はよく行ってたんですけど最近朝が辛くって」
「やだー、まだそんな年じゃないでしょ」
高橋さんはふふふと笑いながら藤澤君の肩を軽く叩いた。藤澤君のような人にはあんな感じでお誘いの声がたくさんかかるのだろう。藤澤君が女性と話をしていることで胸に痛みを覚えるなんて、私はどうかしている。
「葉月さんって、藤澤さんと仲いいんですか?」
交通費の申請の関係で席まで来ていた総務室の佐藤さんが、面白がるように私に尋ねてきた。
佐藤さんは私の四つ下の後輩で、時々一緒にお昼ご飯に行ったりもする。
色白の肌に色素の薄い瞳、蒸気したように赤みのさした頬、ぱっちりとした瞳が印象的な癒し系の女性で男性社員からも人気がある。
「え? なんで?」
思いがけない佐藤さんからの質問に驚いて聞き返す。
「藤澤さんってわりと葉月さんのところによく行ってるような気がするし」
「それは……タイ工場のプロジェクトが今色々と慌ただしいから……」
「そうなんですか。でも、いいなあ。藤澤さんってほんとかっこよくないですか?この間、休日に会社の何人かで遊びに行ったんですけど、なんかいまいちつれないんですよねえ。彼女はいないって言ってたのに」
これは何かの牽制だろうか? と思うのはさすがに自惚れ過ぎだろう。
佐藤さんが藤澤君と私を本当に特別に仲がいいなどと思っているはずがない。私も二十五歳頃までは、三十歳くらいの女性に負けるはずがないと無意識に思っていたからよくわかる。
もしかすると私が藤澤君に関する有用な情報を持っているかもしれないくらいは思っているかもしれないけれど、特別な関係だとは思いもしないだろう。
私が彼のマンションに居候しているなどとは夢にも思っていないだろう。まあ居候しているだけで別に特別な関係でもなんでもないのはそのとおりだけど。
「ほんとかっこいいよねえ。目の保養になるわあ」
私はそう相槌を打った。
「ですよね! その上仕事もできるし。彼女いないとか本当だと思います? ああ見えて実は女遊び激しいのかな?」
「どうだろうね? そりゃあモテるだろうけど。私はそういう話、全然聞いたことないから」
事実だった。そういえば藤澤君に彼女がいるとかいないとか聞いたこともなかった。まあ私を居候させているくらいだから、恐らく今はいないのだろう。
「そうそうこの間、藤澤君ったら一生懸命葉月さんのことかばっちゃって」
「え?」
「荒井課長から聞いてないですか? この間、葉月さんがお休みだった日、営業二課から葉月さんに依頼してた仕事の進捗がどうなってるのかって、大村課長が慌てて電話をかけてきて。荒井課長、葉月さんから何も聞いてないって言って、ちょっとご立腹で」
その話は初耳だった。私の仕事のやり方がまずかったのだろうかと不安になった。
「ええと……どの話かな?」
営業二課から依頼される仕事の量は日に日に増えてきていて、毎日残業をしても処理しきれないほどの量になっていた。佐藤さんから聞いてもどの仕事の話かすぐにはわからなかった。
「なんか工場の敷地の契約書がどうのって……」
たしかに藤澤君から工場の敷地に関する契約の相談をされていた。荒井課長には報告はまだしていなかったが、先に総務室の不動産管理担当者に詳細を確認してからにしようと思っていたところだった。
「荒井課長、そんな話は聞いてないしどうなってるんだろうって……」
「そしたら藤澤さん、あれは僕が依頼し忘れていて、とか、僕の連絡ミスで、とかって、なんか急に慌てて必死になっちゃって。なんか葉月さんのことかばってるみたいに見えちゃいました」
そんなことがあったなんて。藤澤君も荒井課長もそんなことがあったなら言ってくれれば良かったのに。
「ほんと、情に厚いっていうか、いい人ですよねえ。この間は私がたくさん書類のファイルを持ってたら倉庫まで運ぶの手伝ってくれて。藤澤さんって、女の人みたいに綺麗な顔してるのに結構筋肉質だしスタイルもいいですよねえ」
佐藤さんは嬉しそうにそう話す。どうやら本当に話したかったのはその話だったようだ。藤澤君が私の知らないところでそんな風に気遣ってくれていたなんて知らなかった。
彼に負けないように私も仕事を頑張らなくちゃいけないと私は改めて思った。
そう思った帰り、荒井課長に廊下で呼び止められた。
「あ、葉月さん、そうそう今度のアニュアルレポートの印刷業者にさ、見積の額聞いておいてよ」
「わかりました。私、加納さんからアニュアルレポートの仕事を引き継いだばかりでまだわかっていないところがあるのでまた確認しておきます」
「ん、わかった。俺でよければまた教えるから、いつでも連絡して? ……夜でも休みの日でもいつでも構わないから。俺の携帯番号、知ってるよね?」
荒井課長はすれ違いざま体を近づけてきて、そう小声で言った。私はなんでもない風を装って、曖昧な笑顔で答えた。そんな自分をまた少し嫌いになった。
「藤澤君ってお休みの日は何してるの?」
「うーん、買物行ったり家の掃除したりですかね」
「そうなんだー、今度、皆でスノボ行くんだけど藤澤君も行かない?」
「あ、いいですね! スノボ、昔はよく行ってたんですけど最近朝が辛くって」
「やだー、まだそんな年じゃないでしょ」
高橋さんはふふふと笑いながら藤澤君の肩を軽く叩いた。藤澤君のような人にはあんな感じでお誘いの声がたくさんかかるのだろう。藤澤君が女性と話をしていることで胸に痛みを覚えるなんて、私はどうかしている。
「葉月さんって、藤澤さんと仲いいんですか?」
交通費の申請の関係で席まで来ていた総務室の佐藤さんが、面白がるように私に尋ねてきた。
佐藤さんは私の四つ下の後輩で、時々一緒にお昼ご飯に行ったりもする。
色白の肌に色素の薄い瞳、蒸気したように赤みのさした頬、ぱっちりとした瞳が印象的な癒し系の女性で男性社員からも人気がある。
「え? なんで?」
思いがけない佐藤さんからの質問に驚いて聞き返す。
「藤澤さんってわりと葉月さんのところによく行ってるような気がするし」
「それは……タイ工場のプロジェクトが今色々と慌ただしいから……」
「そうなんですか。でも、いいなあ。藤澤さんってほんとかっこよくないですか?この間、休日に会社の何人かで遊びに行ったんですけど、なんかいまいちつれないんですよねえ。彼女はいないって言ってたのに」
これは何かの牽制だろうか? と思うのはさすがに自惚れ過ぎだろう。
佐藤さんが藤澤君と私を本当に特別に仲がいいなどと思っているはずがない。私も二十五歳頃までは、三十歳くらいの女性に負けるはずがないと無意識に思っていたからよくわかる。
もしかすると私が藤澤君に関する有用な情報を持っているかもしれないくらいは思っているかもしれないけれど、特別な関係だとは思いもしないだろう。
私が彼のマンションに居候しているなどとは夢にも思っていないだろう。まあ居候しているだけで別に特別な関係でもなんでもないのはそのとおりだけど。
「ほんとかっこいいよねえ。目の保養になるわあ」
私はそう相槌を打った。
「ですよね! その上仕事もできるし。彼女いないとか本当だと思います? ああ見えて実は女遊び激しいのかな?」
「どうだろうね? そりゃあモテるだろうけど。私はそういう話、全然聞いたことないから」
事実だった。そういえば藤澤君に彼女がいるとかいないとか聞いたこともなかった。まあ私を居候させているくらいだから、恐らく今はいないのだろう。
「そうそうこの間、藤澤君ったら一生懸命葉月さんのことかばっちゃって」
「え?」
「荒井課長から聞いてないですか? この間、葉月さんがお休みだった日、営業二課から葉月さんに依頼してた仕事の進捗がどうなってるのかって、大村課長が慌てて電話をかけてきて。荒井課長、葉月さんから何も聞いてないって言って、ちょっとご立腹で」
その話は初耳だった。私の仕事のやり方がまずかったのだろうかと不安になった。
「ええと……どの話かな?」
営業二課から依頼される仕事の量は日に日に増えてきていて、毎日残業をしても処理しきれないほどの量になっていた。佐藤さんから聞いてもどの仕事の話かすぐにはわからなかった。
「なんか工場の敷地の契約書がどうのって……」
たしかに藤澤君から工場の敷地に関する契約の相談をされていた。荒井課長には報告はまだしていなかったが、先に総務室の不動産管理担当者に詳細を確認してからにしようと思っていたところだった。
「荒井課長、そんな話は聞いてないしどうなってるんだろうって……」
「そしたら藤澤さん、あれは僕が依頼し忘れていて、とか、僕の連絡ミスで、とかって、なんか急に慌てて必死になっちゃって。なんか葉月さんのことかばってるみたいに見えちゃいました」
そんなことがあったなんて。藤澤君も荒井課長もそんなことがあったなら言ってくれれば良かったのに。
「ほんと、情に厚いっていうか、いい人ですよねえ。この間は私がたくさん書類のファイルを持ってたら倉庫まで運ぶの手伝ってくれて。藤澤さんって、女の人みたいに綺麗な顔してるのに結構筋肉質だしスタイルもいいですよねえ」
佐藤さんは嬉しそうにそう話す。どうやら本当に話したかったのはその話だったようだ。藤澤君が私の知らないところでそんな風に気遣ってくれていたなんて知らなかった。
彼に負けないように私も仕事を頑張らなくちゃいけないと私は改めて思った。
そう思った帰り、荒井課長に廊下で呼び止められた。
「あ、葉月さん、そうそう今度のアニュアルレポートの印刷業者にさ、見積の額聞いておいてよ」
「わかりました。私、加納さんからアニュアルレポートの仕事を引き継いだばかりでまだわかっていないところがあるのでまた確認しておきます」
「ん、わかった。俺でよければまた教えるから、いつでも連絡して? ……夜でも休みの日でもいつでも構わないから。俺の携帯番号、知ってるよね?」
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