8 / 56
君が心配なんだ
しおりを挟む
「どうしてもフェンリルの森へ行くと言うのなら俺も一緒に行こう」
ルークの申し出を私は断固として断った。
「王太子であるルーク様をあんな危険な場所に行かせるわけにはいきません」
私の剣幕にルーク様が一瞬たじろいだ。
「お願いです、どうか私一人で行かせてください」
「いや駄目だ。絶対に君を一人では行かせない」
ルーク様はなかなか引き下がらない。
「なぜですか? 私の能力が低く未熟だからですか?」
私の問いかけにルーク様は首を左右に振った。
「なぜそうなるエマ。……俺はただ君が心配なんだ。君の魔法の威力の凄まじさはよく知っている。元々の素質に加えて魔法学園に入学してからは早朝から晩まで誰よりも長く鍛錬に励んでいる君のことだ、魔力に関しては君を信頼している」
「ではなぜ?」
ルーク様は私にそっと近づくと慈しむような眼差しを向けて言った。
「……どんなに強いと言っても、君は俺にとって小さく華奢な18の女の子なんだ。そんな君を一人であんな危険な森へ行かせたくない、守りたいと思う俺の気持ちをなぜわかってくれない?」
『守りたい』などと面と向かって言われるとなんだかどきりとしてしまって思わず赤面してしまった。
ルーク様って……他の学園の女の子たちに対してもこんな風に優しくて、勘違いされてしまいそうな発言をするのかしら?
「お言葉ですが、私のことを侮らないでいただきたいわ。私はそんな誰かに守ってもらわなければならないようなやわな女では……!」
「わかっている」
ルーク様が私の言葉を遮った。
「君の言いたいことはよくわかっている。先ほどの言葉はすべて俺の勝手な気持ちだ」
ルーク様からそう言われると何も言えなくなってしまう。
「……エマ、君の気持ちはよくわかった。君の言う通りできるだけ早くフェンリルの森に行けるようなんとか策を練るからもう数日だけでも待ってもらえないか? くれぐれも一人で森へ行くなどということはどうか考えないでくれ」
ルーク様からそう念押しされ、私は引き下がらざるを得なかった。
・
・
・
ルーク様の手前そうは言ったものの。
私はやはりフェリクスの容体が心配だった。
ルーク様がどうしても譲らないので、結局私は彼に黙って夜のうちにこっそり一人で出発することにした。
やはり王太子である彼を命の危険にさらすわけにはいかない。
あれほどルーク様に念を押されたのにその約束を破って森へ行くのは少々良心が咎めたけれど、私が無事に戻れさえすれば問題はないはずだ。
魔法学園の寮をこっそり抜け出し、私はフェンリルの森へと向かった。
森の入り口の手前にたどり着いた私は魔法詠唱し、光魔法のシールドを張る。
毎日のレベル上げのおかげで今はレベルが25まで上がってきたから以前よりもシールドを張っていられる時間は長くはなったけれど、のんびり森を探索するほどには持たない。
もし森にいる間にMPが尽きてしまったら、光魔法のシールドが解除されてしまい、フェンリルに存在を察知されてしまう可能性がある。
(MPが切れてしまう前になんとかティアロットの薬草を見つけて持ち帰らなきゃ……)
私は緊張しつつ森へ足を踏み入れた。
・
・
・
夜のフェンリルの森はなんとも不気味な様子だった。
以前昼間に少しだけ足を踏み入れた時にはそれほど怖くは感じなかったけれど、
時々遠くで聞こえる野生動物の声に体がびくりとする。
本で読んだ知識によればティアロットの薬草はフェンリルの森に湧き出る祈りの水のそばで群生するらしい。水場を辿っていくと祈りの水が湧き出ている場所に出た。
「……あった!」
ティアロットの薬草だ。涙の形に似た淡いブルーの小さな花がその目印だ。
「これだけあれば足りるはず……」
私は持ってきた布袋にティアロットの薬草を詰め、袋を縛った。
「あとは森を出るだけ……」
そう思って来た道を引き返そうとしたその時、魔獣が襲ってきた。
光のシールドは離れている敵から気配を消すのには効果的だけれど、姿を目視できるほど近くにいる場合は居場所が分かってしまう。
幸い雑魚モンスターのピリルだったから、光の中級魔法で倒すことができた。
ほっと一息ついたところでハッとする。
今中級魔法を使ってしまったことによってMPが減ってしまった。森の出口までMPが持つだろうか?
一刻も早く森を出なければ……。私は焦った。全力で走るけれど、暗いせいもあり普段のような速さで走れない。
それでもあと少しで出口にたどり着ける……と思ったその時、シールドが消えた。
(嘘でしょ……?)
いやシールドが消えたからと言って、フェンリルに見つかると決まったわけじゃない。このまま森を出られれば……。
「グルゥゥゥゥゥ……ギィィィィィ……!」
背後から大きな唸り声が聞こえた。振り返るとそこには燃えさかる青い炎を背負ったフェンリルがいた。
ルークの申し出を私は断固として断った。
「王太子であるルーク様をあんな危険な場所に行かせるわけにはいきません」
私の剣幕にルーク様が一瞬たじろいだ。
「お願いです、どうか私一人で行かせてください」
「いや駄目だ。絶対に君を一人では行かせない」
ルーク様はなかなか引き下がらない。
「なぜですか? 私の能力が低く未熟だからですか?」
私の問いかけにルーク様は首を左右に振った。
「なぜそうなるエマ。……俺はただ君が心配なんだ。君の魔法の威力の凄まじさはよく知っている。元々の素質に加えて魔法学園に入学してからは早朝から晩まで誰よりも長く鍛錬に励んでいる君のことだ、魔力に関しては君を信頼している」
「ではなぜ?」
ルーク様は私にそっと近づくと慈しむような眼差しを向けて言った。
「……どんなに強いと言っても、君は俺にとって小さく華奢な18の女の子なんだ。そんな君を一人であんな危険な森へ行かせたくない、守りたいと思う俺の気持ちをなぜわかってくれない?」
『守りたい』などと面と向かって言われるとなんだかどきりとしてしまって思わず赤面してしまった。
ルーク様って……他の学園の女の子たちに対してもこんな風に優しくて、勘違いされてしまいそうな発言をするのかしら?
「お言葉ですが、私のことを侮らないでいただきたいわ。私はそんな誰かに守ってもらわなければならないようなやわな女では……!」
「わかっている」
ルーク様が私の言葉を遮った。
「君の言いたいことはよくわかっている。先ほどの言葉はすべて俺の勝手な気持ちだ」
ルーク様からそう言われると何も言えなくなってしまう。
「……エマ、君の気持ちはよくわかった。君の言う通りできるだけ早くフェンリルの森に行けるようなんとか策を練るからもう数日だけでも待ってもらえないか? くれぐれも一人で森へ行くなどということはどうか考えないでくれ」
ルーク様からそう念押しされ、私は引き下がらざるを得なかった。
・
・
・
ルーク様の手前そうは言ったものの。
私はやはりフェリクスの容体が心配だった。
ルーク様がどうしても譲らないので、結局私は彼に黙って夜のうちにこっそり一人で出発することにした。
やはり王太子である彼を命の危険にさらすわけにはいかない。
あれほどルーク様に念を押されたのにその約束を破って森へ行くのは少々良心が咎めたけれど、私が無事に戻れさえすれば問題はないはずだ。
魔法学園の寮をこっそり抜け出し、私はフェンリルの森へと向かった。
森の入り口の手前にたどり着いた私は魔法詠唱し、光魔法のシールドを張る。
毎日のレベル上げのおかげで今はレベルが25まで上がってきたから以前よりもシールドを張っていられる時間は長くはなったけれど、のんびり森を探索するほどには持たない。
もし森にいる間にMPが尽きてしまったら、光魔法のシールドが解除されてしまい、フェンリルに存在を察知されてしまう可能性がある。
(MPが切れてしまう前になんとかティアロットの薬草を見つけて持ち帰らなきゃ……)
私は緊張しつつ森へ足を踏み入れた。
・
・
・
夜のフェンリルの森はなんとも不気味な様子だった。
以前昼間に少しだけ足を踏み入れた時にはそれほど怖くは感じなかったけれど、
時々遠くで聞こえる野生動物の声に体がびくりとする。
本で読んだ知識によればティアロットの薬草はフェンリルの森に湧き出る祈りの水のそばで群生するらしい。水場を辿っていくと祈りの水が湧き出ている場所に出た。
「……あった!」
ティアロットの薬草だ。涙の形に似た淡いブルーの小さな花がその目印だ。
「これだけあれば足りるはず……」
私は持ってきた布袋にティアロットの薬草を詰め、袋を縛った。
「あとは森を出るだけ……」
そう思って来た道を引き返そうとしたその時、魔獣が襲ってきた。
光のシールドは離れている敵から気配を消すのには効果的だけれど、姿を目視できるほど近くにいる場合は居場所が分かってしまう。
幸い雑魚モンスターのピリルだったから、光の中級魔法で倒すことができた。
ほっと一息ついたところでハッとする。
今中級魔法を使ってしまったことによってMPが減ってしまった。森の出口までMPが持つだろうか?
一刻も早く森を出なければ……。私は焦った。全力で走るけれど、暗いせいもあり普段のような速さで走れない。
それでもあと少しで出口にたどり着ける……と思ったその時、シールドが消えた。
(嘘でしょ……?)
いやシールドが消えたからと言って、フェンリルに見つかると決まったわけじゃない。このまま森を出られれば……。
「グルゥゥゥゥゥ……ギィィィィィ……!」
背後から大きな唸り声が聞こえた。振り返るとそこには燃えさかる青い炎を背負ったフェンリルがいた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜
華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。
日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。
しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。
続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574
完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。
おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。
合わせてお楽しみいただければと思います。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
結婚してるのに、屋敷を出たら幸せでした。
恋愛系
恋愛
屋敷が大っ嫌いだったミア。
そして、屋敷から出ると決め
計画を実行したら
皮肉にも失敗しそうになっていた。
そんな時彼に出会い。
王国の陛下を捨てて、村で元気に暮らす!
と、そんな時に聖騎士が来た
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる