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第63話 『春休みは、まあやること決まってんだけどな』
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1986年(昭和61年)3月20日(木) <風間悠真>
1年の修了式が終わって春休みに入る。
春休みが終われば2年になるわけだが、別にこれといって感慨深くはない。学年が上がって歳をとる、ただそれだけだと達観している51脳と、春休みに無意味な期待をしている13脳がいた。
「悠真、いま、ちょっといい?」
そうやって聞いてきたのは美咲だ。
「ん? どした?」
「ここじゃちょっと……」
すぐ近くに高遠菜々子と近松恵美がいたのだ。同盟ではないが、美咲と凪咲、純美や礼子は菜々子と恵美の6人で協定(?)を結んでいる。
オレに対する恋愛感情を認めて、ある程度の許容範囲でお互いがオレにどう接するかを黙認している。だから仲良しでもなければ、ケンカするわけでもない。
不思議な関係だ。オレ抜きで考えれば、表面上は仲良しに見えるかもしれない。
オレは美咲を屋上へ誘った。
1年の教室は3階だから、廊下の突き当たりの階段を上がって扉を開ければ屋上へとつながっている。
「で、どーした? 改まって?」
オレはストレートに聞いた。
「あ、あのね、悠真……。春休みは何してるの?」
美咲の質問にオレは少し戸惑った。春休みの予定なんて特に考えていなかったからだ。
「特に何も決めてないけど。なんで?」
オレの返事を聞いて、美咲は少し緊張した様子で続ける。
「もし良かったら、一緒に出かけない?」
デートの誘いね。はいはい。
「いいね~。どこに行きたい?」
オレの反応に安心したのか、美咲の表情が明るくなった。屋上の風が美咲の髪を揺らし、春の陽気がオレたちを包み込んでいるようだ。
「映画とか、どう?」
「映画か!」
そう言えば映画ってデートの定番中の定番だけど、なぜかみんなで行った記憶しかない。なぜだ? まあ考えてもしょうがないが、なんか理由があったんだろ。
少なくともオレにはなかった。
「バイトのシフト考えないといけないな。佐世保まで行くってなると1日がかりだから、まじでデートだな」
オレは笑いながらそう言って美咲の顔を見る。
「あっ! 言おうと思ったんだけど、佐世保じゃないよ。下五峰の福川市。あたし調べたんだ! フェリー2回も乗り換えなくちゃいけないけど、佐世保のフェリー料金の半分なんだよ!」
まじか。それは知らなかった。
「よし、じゃあ決まりだな。あとはいつ行くか決めよう」
そう言ってオレたちは予定を相談した。美咲の予定が決まったらバイトのシフトを組もう。バンドの練習もしないといけないから、ちゃんとスケジュールたてないとまずいな。
春の陽気に包まれた屋上で、オレと美咲は映画デートの計画を立てながら、時間がたつのも忘れて話し込んでいた。
「福川市か。意外と近いんだな」
オレは美咲の調査力に感心しつつ、自分が知らなかったことに少し恥ずかしさを感じる。前世の記憶にはあったんだけどな。ああ、前世は映画を女と見に行くなんてことなかったんだった。
ははは……。改めて思うが本当にイケてない中学生だったな……。
「うん。福川会館っていう映画館があるんだって。1960年代からあるらしいよ」
「へえ、そうなんだ……」
「あぅっ!」
突然の事故にオレは思わず声に出してしまった。
美咲の手がオレのアソコに触れてしまったのだ。オレたちは2人で体を密着させて並んで座り、肩を寄せ合ってしゃべっていた。いつの間にか美咲の手はオレの太もも、ああ、もちろんイヤらしくない距離を保ってたんだよ。
太ももの上に乗っかっていた手が当たったんだ。
「あっ! ゴメン!」
美咲はすぐさま手を放し、その拍子に体も離れてしまった。
美咲は顔が真っ赤だ……。
「あ、いや、いいよ別に……」
その『いいよ』が何を意味しているのかはオレと美咲で捉え方が違うだろうが、それしか言葉が浮かばない。
まさか、わざと?
いやいやいや、それはない。
オレは自分の耳が真っ赤になるのがわかった。顔も赤いのかもしれない。オレは横目で美咲を見るが、美咲も顔を真っ赤にしてモジモジしていた。
オレはゆっくりと美咲の方へ手をやり、つなぐ。
美咲は拒否はしなかった。
昼休み終了のチャイムがなるまで、オレたちはずっとそうして時間を過ごした。
「ゆーうまっ♡」
凪咲だ。
こういう時の凪咲は妙にカワイイ。
……そしてなぜか、さっきの事故で美咲の手が触れた股間がうずく。
「お、おう……どした?」
「昼休みどこ行ってたのよ~! 探したんだから」
「ん、ちょっとな。それよりどした?」
凪咲はオレの前に立って両手を後ろで組んでいるが、その仕草に思わず目を奪われた。
まあ、可愛い子は何しても可愛いんだけどね。
「ねえ、春休みの予定ってある?」
期待混じりの凪咲の声に、オレは昼休みの美咲とのやり取りが一瞬頭をよぎったが……関係ない。
「あー、まだ何も決めてないんだけど」
曖昧に答えるオレの返事に凪咲の表情が明るくなった。
「じゃあ、一緒に出かけない? ほら、鯨ミュージアム、工事してたでしょ? あれリニューアルオープンで横浦シーパラダイスって名前に変わるんだって!」
水族館か。まあデートの定番だよな。美咲とスケジュールがかぶらなければ問題ない。
「そう言えばなんか工事してたな。てっきり別のなんかができると思ったけど、リニューアルかー。いいね! いつがいいの?」
なんだか横浜のシーパラダイスを思い出した。成人して東京へ出て、横浜に住んでいた頃彼女とデートで出かけた記憶がある。
凪咲は少し考え込むような表情を見せた後、答えた。
「まだ具体的な日は決めてないんだ。でも春休みの中頃くらいがいいかな」
オレは頭の中で美咲との映画デートの予定と照らし合わせた。まあこういうのは早い者勝ちだ。美咲には調整してもらおう。ていうか美咲も凪咲も部活があるし、確かバイトっぽいやつもしてなかったか?
……まあいいや。
「そっか。じゃあ日にちが決まったら教えてよ。できるだけ予定合わせるから」
凪咲の顔がパッと明るくなった。
「ホント? 約束だよ?」
「うん。約束だ」
純美・礼子・菜々子・恵美にも同じようにスケジュールを押さえられたのは言うまでもない。
次回予告 第64話 『春休みの6人とバンド+バイト三昧』
1年の修了式が終わって春休みに入る。
春休みが終われば2年になるわけだが、別にこれといって感慨深くはない。学年が上がって歳をとる、ただそれだけだと達観している51脳と、春休みに無意味な期待をしている13脳がいた。
「悠真、いま、ちょっといい?」
そうやって聞いてきたのは美咲だ。
「ん? どした?」
「ここじゃちょっと……」
すぐ近くに高遠菜々子と近松恵美がいたのだ。同盟ではないが、美咲と凪咲、純美や礼子は菜々子と恵美の6人で協定(?)を結んでいる。
オレに対する恋愛感情を認めて、ある程度の許容範囲でお互いがオレにどう接するかを黙認している。だから仲良しでもなければ、ケンカするわけでもない。
不思議な関係だ。オレ抜きで考えれば、表面上は仲良しに見えるかもしれない。
オレは美咲を屋上へ誘った。
1年の教室は3階だから、廊下の突き当たりの階段を上がって扉を開ければ屋上へとつながっている。
「で、どーした? 改まって?」
オレはストレートに聞いた。
「あ、あのね、悠真……。春休みは何してるの?」
美咲の質問にオレは少し戸惑った。春休みの予定なんて特に考えていなかったからだ。
「特に何も決めてないけど。なんで?」
オレの返事を聞いて、美咲は少し緊張した様子で続ける。
「もし良かったら、一緒に出かけない?」
デートの誘いね。はいはい。
「いいね~。どこに行きたい?」
オレの反応に安心したのか、美咲の表情が明るくなった。屋上の風が美咲の髪を揺らし、春の陽気がオレたちを包み込んでいるようだ。
「映画とか、どう?」
「映画か!」
そう言えば映画ってデートの定番中の定番だけど、なぜかみんなで行った記憶しかない。なぜだ? まあ考えてもしょうがないが、なんか理由があったんだろ。
少なくともオレにはなかった。
「バイトのシフト考えないといけないな。佐世保まで行くってなると1日がかりだから、まじでデートだな」
オレは笑いながらそう言って美咲の顔を見る。
「あっ! 言おうと思ったんだけど、佐世保じゃないよ。下五峰の福川市。あたし調べたんだ! フェリー2回も乗り換えなくちゃいけないけど、佐世保のフェリー料金の半分なんだよ!」
まじか。それは知らなかった。
「よし、じゃあ決まりだな。あとはいつ行くか決めよう」
そう言ってオレたちは予定を相談した。美咲の予定が決まったらバイトのシフトを組もう。バンドの練習もしないといけないから、ちゃんとスケジュールたてないとまずいな。
春の陽気に包まれた屋上で、オレと美咲は映画デートの計画を立てながら、時間がたつのも忘れて話し込んでいた。
「福川市か。意外と近いんだな」
オレは美咲の調査力に感心しつつ、自分が知らなかったことに少し恥ずかしさを感じる。前世の記憶にはあったんだけどな。ああ、前世は映画を女と見に行くなんてことなかったんだった。
ははは……。改めて思うが本当にイケてない中学生だったな……。
「うん。福川会館っていう映画館があるんだって。1960年代からあるらしいよ」
「へえ、そうなんだ……」
「あぅっ!」
突然の事故にオレは思わず声に出してしまった。
美咲の手がオレのアソコに触れてしまったのだ。オレたちは2人で体を密着させて並んで座り、肩を寄せ合ってしゃべっていた。いつの間にか美咲の手はオレの太もも、ああ、もちろんイヤらしくない距離を保ってたんだよ。
太ももの上に乗っかっていた手が当たったんだ。
「あっ! ゴメン!」
美咲はすぐさま手を放し、その拍子に体も離れてしまった。
美咲は顔が真っ赤だ……。
「あ、いや、いいよ別に……」
その『いいよ』が何を意味しているのかはオレと美咲で捉え方が違うだろうが、それしか言葉が浮かばない。
まさか、わざと?
いやいやいや、それはない。
オレは自分の耳が真っ赤になるのがわかった。顔も赤いのかもしれない。オレは横目で美咲を見るが、美咲も顔を真っ赤にしてモジモジしていた。
オレはゆっくりと美咲の方へ手をやり、つなぐ。
美咲は拒否はしなかった。
昼休み終了のチャイムがなるまで、オレたちはずっとそうして時間を過ごした。
「ゆーうまっ♡」
凪咲だ。
こういう時の凪咲は妙にカワイイ。
……そしてなぜか、さっきの事故で美咲の手が触れた股間がうずく。
「お、おう……どした?」
「昼休みどこ行ってたのよ~! 探したんだから」
「ん、ちょっとな。それよりどした?」
凪咲はオレの前に立って両手を後ろで組んでいるが、その仕草に思わず目を奪われた。
まあ、可愛い子は何しても可愛いんだけどね。
「ねえ、春休みの予定ってある?」
期待混じりの凪咲の声に、オレは昼休みの美咲とのやり取りが一瞬頭をよぎったが……関係ない。
「あー、まだ何も決めてないんだけど」
曖昧に答えるオレの返事に凪咲の表情が明るくなった。
「じゃあ、一緒に出かけない? ほら、鯨ミュージアム、工事してたでしょ? あれリニューアルオープンで横浦シーパラダイスって名前に変わるんだって!」
水族館か。まあデートの定番だよな。美咲とスケジュールがかぶらなければ問題ない。
「そう言えばなんか工事してたな。てっきり別のなんかができると思ったけど、リニューアルかー。いいね! いつがいいの?」
なんだか横浜のシーパラダイスを思い出した。成人して東京へ出て、横浜に住んでいた頃彼女とデートで出かけた記憶がある。
凪咲は少し考え込むような表情を見せた後、答えた。
「まだ具体的な日は決めてないんだ。でも春休みの中頃くらいがいいかな」
オレは頭の中で美咲との映画デートの予定と照らし合わせた。まあこういうのは早い者勝ちだ。美咲には調整してもらおう。ていうか美咲も凪咲も部活があるし、確かバイトっぽいやつもしてなかったか?
……まあいいや。
「そっか。じゃあ日にちが決まったら教えてよ。できるだけ予定合わせるから」
凪咲の顔がパッと明るくなった。
「ホント? 約束だよ?」
「うん。約束だ」
純美・礼子・菜々子・恵美にも同じようにスケジュールを押さえられたのは言うまでもない。
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