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その後

チビリコリスと一緒6

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「あまい匂いがします」

 くんくんとリコリスが甘い匂いの元を辿ろうとする。
 それは段々近づいてきている。

「アムカ、お茶の用意してやぁ」

「承知しましたミヤハル様」

 アムカが給湯室へ向かった。
 給湯室とっても点心を作るアムカの為に、割とちゃんとしたキッチンだったりする。
 ミヤハルなど冷蔵庫に自分用のドリンク迄置いている。
 ちなみに自分の物に名前を書かないと勝手に食べられる時がある。
 リコリスの名前が書かれたプリンも置かれている。
 
「リコリス、菓子は食べるか?」

 何処から出したその声、と言うくらい優しい声で魔王がリコリスに尋ねた。

「あまいもの、食べて良いんですか!?」

「リコリスの為に作った。是非食べてくれ」

「マオーが作ったんですか?」

「我が作った。手作りでなく市販のものが良かったか?」

「いえ、私のためにおかし作ってもらったのはじめてです。うれしいです」

 リコリスの赤い瞳が涙で潤む。

「ど、どうした?何か嫌なことがあったか?」

「うれしいと、なみだ出るんですね」

 泣き笑いを浮かべるリコリス。
 今までどれだけのことを我慢してきたのだろう。
 自分のために菓子を作って貰った事も無いのだ。
 1人娘であったにもかかわらず。
 
 リコリスの両親は、互いにしか興味が無かったから。
 娘のリコリスにすらリコリスに興味をしめさなかったから。
 寧ろ実の娘に嫉妬し、都合の良い薄っぺらい愛情しか与えなかったから。

 リコリスはそんな薄っぺらい両親の愛を糧に、寝る間も惜しんで《武神》の務めを果たしてきた。

「好きなだけ食べて良いからな」

「はいマオー、ありがとうございます」

 ぺこりとリコリスがお辞儀をする。
 小さな子供が行儀よく挨拶してる姿は非情に可愛らしい。
 魔王は抱き締めたくてたまらなくなったが、周囲の目が怖いので止めておいた。
 やったが最後、ロリコンの称号を与えられるだろう。
 そして薄い本になって、今年の夏のコミュニケーションマーケットで出されるのは想像に難くない。

 コミュニケーションマーケットは業が深いのだ。
 腐女子・腐男子だけでない。
 男性向けの作品だって売られている。

 リコリスは意外と人気があったりする。

 モブレものが多い所に男の深い闇を感じる。
 快楽堕ちモノが人気だ。
 魔王×リコリスなんて、リア充のカップリングなど読みたくない大きなお友達なのだ。
 愛らしい少女が穢される。
 そこに快楽を感じるのだ。
 モブオジサンは何処でも現れる。

 モブオジサンは嫌がる女の子を最後には快楽堕ちさせる恐ろしい存在だ。
 ミヤハルだって敵わない。
 臭い体臭は女の子をいやらしい気分にさせてしまう。
 何て恐ろしい存在なんだモブオジサン。

 ミヤハルの本も人気が出そうだが、本の存在を知った伴侶が建物ごと凍結させた事件があって以来、ミヤハルをモデルにした本は無くなった。
 だがその夫婦愛の深さに感動した女子たちは、エントビースド×ミヤハルの少女漫画のような恋物語を書くようになったのだ。
 キュンとしてドキドキしてベッドの上で転げまわりたくなる甘いお話。
 これはエントビースドは気に入っている。
 コミュニケーションマーケットが潰されないのは、そう言った事情もあったりする。

 流石にミヤハルとユラも、少女であるリコリスをモデルに本を描いたりしない。
 少女であるリコリスは描かない。
 
 だが腐海は深い。

 この世界にはTSと言う言葉が転がっているのだ。
 なので男体化リコリス×オウマの薄い本を、前回のコミュニケーションマーケットで古代種たちが出したのだ。
 その日、古代種2人のブースで1番人気だったそうだ。

 魔王総攻め派のミヤハルが新たなカップリングの扉を開きつつある。

 凄いぞTS。
 愉快犯の性癖すら歪めるとは。

 つぎのコミュニケーションマーケットでは男体化リコリス×魔王の本が出せれているかもしれない。

 そんな目に合っているなどつゆ知らず、リコリスは生まれて初めての甘味の味に蕩けた笑顔でクッキーに舌鼓をうつのであった。
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