婚約者の王子に聖女など国に必要ないと言われました~では私を信じてくれる方だけ加護を与えますね~

高井繭来

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《106話》

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 その豪奢なベッドで寝ているその人は、あまりに細く力なかった。
 生気を感じられない。
 体中痛いのか寝返りすら打つことも出来ず、背中は褥瘡(床ずれ)がいっぱいに出来ていた。
 若いころには戦王と呼ばれ、猛々しい男らしさを兼ね備えた皆の憧れた姿はそこには無かった。

 ヒューヒューと呼吸すらも苦しそうで、セブンたちが部屋に入って来たのも気付いていないようだった。

「王様、街で評判の医者を連れてきました」

 宰相の声で王の意識がセブンに向けられた。
 そしてその双眸が見開かれる。

「******」

 その声は小さく誰にも聞き取れなかった。
 だがセブンだけは何を言ったのかわかった。
 口の動きで。
 よく見た口の動きだった。
 己の名を呼んでくれた時と同じ動きをその口はしていた。

 ”アシュバット”

 確かに王はセブンをそう呼んだ。

 体に震えが走る。 
 まだ自分を覚えていてくれていたのだと。
 姿も色も変わっているのに自分に気付いてくれたと。
 嬉しかった。
 だが素直に喜べなかった。
 病床の母の姿を思い出したから。

「私は平民街で診療所を開いていますセブンと申します。こちらは助手のサラとナナ。少しお身体を伺います」

 セブンはサラに手伝わせながらてきぱきと診察を始める。
 体位を変える度、王は苦しそうだった。
 声を上げないのはここで自分が苦しんでいる姿を見せたら宰相がセブンを追い出すことが目に見えていたから。
 それを病床の身で即座に判断できる当たり、まことに賢王であると言えた。

「ナナ、麻酔を」

「了解よドクター」

 ナナが王の額に手を添える。
 そこから快楽ホルモンを流すのだ。
 これで痛みが軽減される。

 その間にセブンは採血を行い、簡易キットでその数値を見る。

 そして最近の状態を国王専属医師から聞く。

 セブンが奥歯をギリッ、と食いしばった。
 険しい目をし、一瞬で普段の医師の顔に戻る。

「王様の病気は白血病の疑いがあります」

「な、白血病だと!?」
 
 国王専属医師が驚きの声を上げる。
 初めて見るのであろう。
 稀な病気だ。
 診断を下せる医師のほうが当然多い。

「何だ白血病と言うのは?」

 宰相が口を挟む。
 それにセブンは医師の顔で答えた。

「白血病の症状は、骨髄中の白血病細胞が増えることで正常な血液細胞が作られにくくなることや、白血病細胞が臓器に入り込み、臓器が腫れたりはたらきが悪くなることであらわれます。白血病の種類によっても少しずつ異なります。
急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病は進行が早いため、なるべく早く治療を始める必要があります。ただし、特徴的な症状はなく、風邪に似た症状にとどまることもよくあります。
一方、慢性骨髄性白血病や慢性リンパ性白血病では、白血病細胞がゆっくり増えるため、当初自覚症状に乏しく、健康診断などで白血球数の増加を指摘され見つかることもよくあります。
骨髄で増えた白血病細胞が肝臓や脾臓などの臓器に入り込むと、おなかの膨満感や痛み、骨や関節の痛みなどの症状があらわれます。
また、成熟しておらず、きちんと機能しない白血球が増え、正常な血液細胞が減ると、だるさ、息切れ、動悸、めまい、あざができやすい、鼻や歯茎からの出血、発熱、のどの腫れなど複数の症状がみられることがあります」

「確かに王様の病状と重なるな…」

 腐っても王宮医師だ。
 セブンの判断にプライドから否を唱えない。
 自分が見抜けなかった病気を年若いセブンが気付くなど医師としてのプライドは傷ついたはずなのに、この国王専属医師はそれでもセブンの言葉を受け入れた。
 自分のプライドより国王の体をいとうているのだろう。

「判断の決定打として骨髄検査がしたいのですが」

「あぁ必要だが…あなたはそれが可能なのか?」

 ディノートの技術では骨髄検査は出来ない。
 だがセブンの診療所は違う。
 クロイツから中古品とはいえ最新医療器具を買っているからだ。

「ウチの診療所なら骨髄液を調べられます。今日は骨髄の摂取だけして診療所に持って帰ります。分析が終わり次第すぐにお知らせします」

「了解した、国王様を頼む」

「サラ、手伝え」

「了解、です」

「ちょっと待て、その骨髄何とかと言うのは何なんだ?」

 宰相がいざやらんと言うときに口を挟む。
 はっきり言って邪魔な存在である。
 だが無碍にするわけにもいかない。

「骨髄検査は、通常腸骨に直接針を刺して骨髄血を採取する検査です。まずは、問診や血液検査で白血病の可能性が確かめられたのち、必要な方に行われます。
骨髄検査は、局所麻酔薬を注射してから行われますので、通常強い痛みを感じることはありません」

「ソレをすれば王様は助かるのだな?」

「まずは白血病でもどの種類化を特定しなくてはなりません。ですが、今出来る療法としては食事療法があります。
白血病などの血液がんでは、発症リスク軽減や、治療の効果がある食べ物は見つかっていません。
療養中の食事は、全身状態を良好に保ち、体力を維持することや、感染などを防ぐために、十分なエネルギーを補給でき、タンパク質、ビタミン、ミネラルといった栄養素をバランスよく含む食事をゆっくりと食べるように心がけることが大切です。
白血病の治療中、気になる症状があらわれたときに活用できる食事の工夫があります。
たとえば、体重減少が気になるときには、食べられるものを食べられるときにとるようにしてみましょう。油を使った少量でエネルギーの高い食品や、糖分の多いものをうまく取り入れてください。
食欲がなくなったときは、副作用の強い時期を過ぎれば少しずつ食べられるようになることが多いので、無理に食べなくてもよいでしょう。
食べる気になったときにすぐに食べられるように近くに好きなものを用意したり、食事の盛り付けや味付けの工夫をしたりといったことも有効です。
また、吐き気や嘔吐があるときには、刺激やにおいの少ないもの、冷たいものや、あっさりとしたもの、口当たりのよいもの、のみ込みやすいものであれば、食べやすいようです。
吐き気や嘔吐の原因によっては、無理して食べたりしない方がよい場合もありますので、国王専属医師様に相談してください」

「分かった、食事にも気を配るよう厨房にも言いつけておく」

「よろしく頼みます」

 宰相は詐欺でも疑っているのか怪訝な目でセブンを見ていたが、国王専属医師はセブンの知識の深さに己ではなくセブンに国王の命を守ってもらう事にしたらしい。
 王宮の中でも珍しい、差別も侮蔑もしない良い人間なのだろう。
 この医師が付いているなら国王も安心して任せられる。
 セブンは心の中でほっ、と息を吐いたのだった。
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