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【63話】

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「サイヒ―!会いたかったよ!!」

 オグリから降りたサイヒを迎えたのは、アンドュアイスの熱い抱擁だった。
 体型に恵まれたアンドュアイスにギュウギュウと抱き締められて、かなり苦しい。

「落ちつけアンドュ、それよりオグリを労わってやってくれ」

「オグリ、ご苦労様~」

『にーちゃただいまなの!』

 オグリを労いながら撫でるアンドュアイス。
 その姿は非常に気持ちをほっこりさせる。

「そう言えばルーク、アンドュが私に抱き着いても怒らないのだな?」

「尊いと尊いが掛け合わされればよりいっそう尊いのだと気付いたのでな」

「ブラコンが爆発した訳な」

「兄さんが無邪気な方だったことに漸く思い出せた。礼を言うサイヒ」

「ん、ちゃんとお前たちが仲直り出来て良かったよ」

 ルークの銀色の髪をサイヒが梳く。
 気持ちよさそうにルークは目を細めた。

「お兄様!私もお待ちしておりましたわ!!」

「私もそろそろマロンの菓子が食べたくて仕方なかった。今日も旨い菓子はあるのか?」

「お兄様が帰ってくるので張り切りました!」

「それは楽しみだ」

 サイヒの笑みにマロンが頬をバラ色に染めて、嬉しそうに笑う。
 ソレを見て、クオンがはにかむ様な笑みを浮かべた。
 マロンの満面の笑顔を見れた事が嬉しい反面、その笑顔を引き出したのがサイヒだというのが悔しくもあるのだ。

「ルーク様を振り回したんだ。ちゃんと対価は払えよ」

「うむ、ではルークと2人私の部屋に籠るとするか」

「何で対価払うつもりだ!?」

「色めいた話がこんな大勢の前で聞きたいと?」

「誰が色めいた話が聞きたいと言った!?」

「何で対価を払うか聞いてきたではないか。ルークが喜ぶ対価なら自ずとそうなるだろう?」

「殿下をそう言う目で見るな!」

「ルーク、私と部屋で2人きりになりたくないか?」

「な…なりたい……」

 ルークが頬をバラ色に染めて、潤んだ目でサイヒを見つめる。
 指を指で弄ってモジモジと恥じらう乙女の様な仕種をする。

「コーン様、どうぞ」

 マロンがクオンにハンカチを手渡す。
 それに礼を言ってクオンはハンカチを手に取るとガフッ、と慣れた動作で血を吐いた。
 後ろに控えていたモンラーンが胃痛用のポーションの瓶を差し出す。
 モンラーンにハンカチを渡すと、瓶を手に取り一気に中身を煽った。
 一連の動作に無駄な動きがない。

「取り合えず、そう言う事は夜まで待て!」

「ほうほう、夜にルークの部屋に赴けと。クオン、お前の方が如何わしくはないか?」

「その礼の仕方から離れろ!」

「確かにクオンとルーシュは似ているな…」

「うむ、よく似ている」

『クオン、ルーシュに似てるなのー!』

 3人(?)が半日前に分かれたもう1人の不憫の名前を出した。

「ルーシュ?サイヒの友達?クオンに似てるの?」

「ハイ兄さん。ルーシュはサイヒの友人でクオンの上位互換です」

「へ~クオンに似てるならいい人だね!会ってみたいな」

『オグがにーちゃをルーシュに紹介するなの!その時にルーシュにルイン紹介して貰うなの!』

「ルイン?」

『ルインはルーシュの家族なの!オグとにーちゃといっしょなの!!』

「そっか~、オグリはルインに会いたいんだね~」

『にーちゃと一緒に会うなの!』

「でもフレイムアーチャに行くなら又手形発行しないといけないね?」

「いや、ルーシュの場所なら【空間転移】でいける。明日にでも伺う事を夜には伝えておこう」

「ありがとーサイヒ」

『サイヒ、ありがとうなの~』

 ピュアピュアな大型犬とグリフォンに礼を言われてサイヒもご機嫌だ。
 愛犬が可愛い。
 尊い…。
 横を見るとルークも尊いモノを見る目をしていた。
 可愛いはジャスティス。
 クオンとマロンもほっこりしている。

 オグリの言葉は分からない(サイヒは分かる)が、アンドュアイスのセリフで何となく話している内容は分かるのだろう。
 すっかり末っ子ポジションである。

「サイヒ、お腹空いてない?マロンちゃんが美味しいご飯作ってくれてるよ!」

「簡単なモノではありますが」

「それは是非ご馳走になろう」

「はい、お兄様♡」

 そうしてぞろぞろと連れ立ってマロンの宮へ入る。
 最近改築した大きな扉からオグリも中に入る。
 無駄に広い皇太子妃の宮なら3メートルほどの大きさのオグリも窮屈なく入れる。
 ちょっとした空間に絨毯が敷かれており、慣れた動作でオグリがソコに寝そべった。

「良い待遇だ。オグリは今回の功労者だ、マロン労ってやってくれ」

「はい、お兄様♫」

『オグ、サイヒからする美味しそうな匂いも気になるなの!』

「私からする美味しそうな匂い?あぁ土産に貰ったクッキーだな、食べるか?」

『オグリ、クッキー食べるなの!にーちゃも御一緒するなの!』

「じゃぁ僕もクッキー食べるね。ご一緒だねオグ」

『ご一緒なの~』

 嬉しそうな2人にサイヒが2人(?)の前にクッキーを広げてやる。
 手作りのクッキーは形が様々だが種類が豊富だ。
 試作段階だったらしいので種類だけは色々あるのだろう。

「土産に手作りのクッキーとは珍しいな」

「うむ、何でも名産品を作るとか言ってシスターたちが張り切ってクッキーを作っていた」

「名産品?シスター?」

 クオンが訝し気に眉を寄せる。
 確かにシスターがクッキーを名産品にするとは、普通あまり聞かないだろう。

「シスターハナクッキーを作ると張り切っていた」

 サイヒの言葉にクオンが胃を抑えた。
 流石に察しが良い。
 もう野生の獣の勘も超えているかも知れない。

「ちなみにお前は何処で何をして何と名乗っていた…?」

「うむ、神殿でシスターをしてハナと名乗っていたぞ」

 ガフッ!

 凄まじい早業で懐から出したハンカチを鮮血に染めて、それを懐にしまう。
 本当にクオンの動作は無駄がない。

「わぁ~本当にサイヒが帰って来たらクオンが血を吐くようになったね~。仕種も優雅だね~」

『ルークの言ってたとうりなの~』

 ピュアな主従に喜ばれてクオンは複雑な気分なった。
 自分だって身に着けたくて覚えた芸ではない。

「クッキー美味しいね~」

『おいしいね、にーちゃ!』

「何だクッキーが気に入ったのか?では定期的に貰いに行くとしよう」

「本当?嬉しい~」

『オグもウレシイなの~』

「まぁ、でしたら私もお兄様のご友人に会いたいですわ。お兄様の昔のお話を聞きたいです」

「マロン様の護衛の為私も行く」

「サイヒと旅行…楽しそうだ……」

 5者5用の反応である。

「皆が楽しそうで何よりだ」

 うんうん、とサイヒが頷く。
 こうしてルーシュのいない所で帝国組のフレイムアーチャへの小旅行計画が進められていた。
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