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そして全能神は愉快犯となった

【142話】

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「全能神様、聞きたいことがあるのですが」

「ん、何だ珍しいなクオン」

 そうクオンが仕事中にサイヒに話しかけるのは珍しい。
 大体クオンは執務式を取り仕切っていて暇がない。
 サイヒはサイヒで全能神でなければ出来ない仕事をしている。
 そんなクオンがサイヒに話しかけたのだ。
 コレは何かある。
 執務室に居た誰もに緊張感が走った。

「この間のダイカーン伯爵の件ですが…」

「暗行御史が解決したのだろう?」

「えぇ、そういうことになってますね」

「何か問題が?」

「いえ、ただどの暗行御史が仕事をしたのかと思いまして」

「何が言いたい?」

「提出された書類がやけに簡潔で」

「良いことではないか」

「少々文章に癖がありまして」

「ほうほう、それで?」

「全能神様の癖に似ているのですよね」

「ほう、私に似た癖の暗行御史が居るのだな」

「ええ、そして『暗行御史が解決した』と言う事実は皆の中にあるのに詳しい内容は誰も覚えていないのですよね」

「ふむふむ、まぁそういう事もあるのだろう。余程影が薄い暗行御史なのだな」

「で、その影の薄い暗行御史なのですが…その暗行御史が来る前に空色の髪の美少年が目撃されているのですよね、毎回毎回」

 クオンの目が冷たい。
 絶対零度の冷たさである。
 サイヒとルークは平気そうだが執務室の文官たちはもう凍えて死にそうだ。

「ですがその少年も、『空色の髪の美少年』と言うのは思い出せても何処の誰かは思い出せないようですよ」

「それはそれは、影の薄い美少年も居たものだ」

「で、私に何か言う事はありませんか、全能神様?」

「マロンに今日の菓子はピスタチオを使ったものが良いと伝えてくれ」

 ビキビキビキ

 クオンの額に血管が浮かぶ。

「少し…2人きりで話をしましょうか、全能神様………」

「いや、特に私は話すことは………」

「ありますよね、お話?」

「うっ、る、ルーク、たす…」

 伴侶絶対主義の魔王ルークが目をそらす。
 怒ったクオンはルークでも相手にしたくないのだ。

「ま、待てクオン!後で茶でも飲みながら話あおぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅうぅうぅ」

 首根っこを掴まれた全能神が部下に引きずられていく。
 どこに連れていかれるのやら。
 ドップラー効果で声だけが最後まで響いていた。

 教訓:内緒ごとはもっと上手くやりましょう
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