男として育てられた公爵家の令嬢は聖女の侍女として第2の人生を歩み始めましたー友人経由で何故か帝国の王子にアプローチされておりますー

高井繭来

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 今日のルーシュは男装である。
 少し伸びた若葉色の髪を後ろで無造作に束ねる。
 ちっぱいは晒を巻かなくても皮の胸当てをつければ見事絶壁になる。
 冒険者風の服を着て。
 腰に愛剣を下げる。
 簡易”男”冒険者の出来上がりだ。

 ちなみにルーシュが冒険者を装っているのには訳がある。

 ルーシュはお金がない。
 いや、ある事はあるが聖騎士をしていた時の貯金は母に管理されている。
 ルーシュが剣に目がなくて聖剣や魔剣を高額な額で購入しようとするからだ。

 では何故ルーシュが生活できているのかと言うと、ひとえに実家暮らしだからである。
 必要な物は家で揃えてくれる。
 ドレスも装飾品も好きなだけ買って貰える立場だ。
 これでも公爵令嬢なのだ。
 アンドュアイスとの婚約が決まった日から、神殿でのメイド仕えは終えて実家で花嫁修業中である。

 ドレス、動きにくい…。
 コルセット、苦しい…。
 化粧、顔の皮膚呼吸が阻害されている気がする…。

 つまりルーシュは女の生活が嫌なのだ。

 だがガフティラベル帝国次期皇帝に嫁ぐ身として学ぶことは学ばなければならない。
 しかし時には気も抜きたい。
 日の曜日はルーシュの休日である。
 最近は主に王宮でのメイドのバイトをしている。
 王宮のメイドだとマナーも学べるし王族の暮らしも学べる。
 良いことづくめだと両親の許可は得た。

 そしてルーシュは溜めていたアルバイト代を使って今回の装備を揃えた。

 頑張って溜めたが仕方がない。
 男物の私物は全て捨てられてしまったのだから。
 愛剣だけは泣いて阻止した。

 そして本日は日の曜日。
 バイトに行くと言って、ルーシュは邸を出るとすぐ様に男装に着替えギルドに向かっているのである。
 ギルドに向かう理由。
 ダンジョンに入りたいからだ。
 ダンジョンに入れるのは王宮で許可を得たモノかギルドを通してクエストを受け持った者。

 何故ダンジョンに入りたいか?
 それはバレンタインが関係する。

 己は手作りのマフィン(アンドュアイスは酷く喜んだが)に対して、アンドュアイスからのプレゼントは帝国随一のショコラティエが作ったチョコレートだ。
 一般男性の給金3ヵ月分相当。
 流石にお礼も手作りお菓子とはいかない。
 まぁアンドュアイスが喜んでくれるなら、また作るのもやぶさかではないのだが。

 兎に角ルーシュはチョコのお礼に王族が身に付けても浮かない程度の品を入手しようと思った訳だ。
 そして高級なものをルーシュが今手に入れる方法があるとしたらダンジョンに潜るしかない。
 下層へ下りたらそれなりの魔石の入手も可能だろう。

 久しぶりの男装に、女の格好の時の息苦しさを忘れて機嫌を良くしながら、ルーシュはギルドの扉を開けたのだった。
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