太陽のしたで、ひと夏の恋。

彰野くみか

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プロローグ

思い出 -幼い日-

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思い出 -幼い日-

***

 ザザーっと音を立てて、満ちては引くさざ波。子どもながらに海のそれが好きだった。
 だから私は、今日もおばあちゃんの家を一人で抜け出して、この海辺に来ている。
 ママはともかく、パパにバレたら一大事だけど。
 私は波打ち際をゆっくりと歩いた。一日に何度も何度も。
 姉妹がいるのに、なぜか一人で来たくなってしまう魅力のあるこの海だけど、夕日が落ちて来ると、さすがに帰らなければならない。
「はぁ」
 そう思うと、子ども心にため息がこぼれる。
 しぶしぶテトラポットを眺めながら、道路への階段を登っていると、テトラポットの上に誰かいた。遠くてよくは見えなかったけど、あれは明らかに子ども。
 私は頭で考えるよりも先に、足が動いていた。
「ねえ、危ないよ!」
 振り返った子を見ると、私より年上の男の子だった。
 透き通ったサラサラの黒い髪の毛に夕日が当たって、私は見惚れてしまい、一瞬だけど心臓が跳ねるのを感じた。
 しかし、彼のこげ茶の瞳からは、涙が溢れていた。
「どうしたの?」
 私は自然と口が開いていた。だけど、バツが悪そうに目を背ける彼。
 でも、私はそんな彼から目が離せなかった--。
 ざぁっと風が吹くと、彼は少しよろけて海に落ちるんじゃないかと思わせるから、私の身体はまた、頭で考えるより早く彼のいるテトラポットの上へと行っていた。
「わっ、何……」
 彼は当然、驚いた表情を浮かべたけど、私はお構いなし。
「私、美月! 森田美月だよ。よろしくっ!」
 こういう時には、一切、人見知りをしない私の性格が嬉しくなる。
「…………」
 しかし、彼はだんまりを決め込んだ。
「……ねぇ、名前なんていうの?」
 少し眉間にシワを寄せて訊く私は、ちょっぴり不機嫌。
「え……」
「私は名乗ったよ! だから君も名乗ってよね!」
 我ながらなんて勝手な言い分だろう--とか、子どもの私には関係なかった。それでもだんまりな彼。
「ん~、じゃあさ! なんて呼べばいい? それだけでも教えてよ!!」
 私のその言葉に、彼は一瞬目を丸くしたけど、重かった彼の口がようやく開いた。
「なっちゃん……」
「なっちゃん? そう呼ばれてるの?」
「うん」
「そっかぁ! よろしくね、なっちゃん!!」
「……うん!」
 ようやく笑顔を見せてくれた、なっちゃんに対して、少し心が暖かくなった。


「なっちゃん!」
「美月ちゃん!」
 太陽が照らした海辺に、どちらともなく集まるなっちゃんと私。
 次の日から、私となっちゃんはこの海辺で遊んだ。
 いつの間にか呼び名も、「なっちゃん」と「美月ちゃん」で定着していた。
 私たちは、約束したわけではなく、なんとなく二人ここに集まっていた。
 なっちゃんは口数は少ないけど、私の話によく笑ってくれる。そんな、なっちゃんの笑顔を見ると、ほんのりと灯火が点いたように、心が暖かくなった。
 その感覚が、子ども心に心地よかった。

 この日の私たちは、「貝がら集め」をしていた。より多く貝がらを集められた方の勝ち。
「わー! 綺麗な色の貝がら……!!」
 私は、浅瀬で淡い黄色の貝がらを見つけ、それに見入っていた。
 初めて見るそれに、いつの間にか私は、心を奪われていた。
「なっちゃん、見て見て! この貝がら珍しいよ!!」
 そう言っては、今見つけた貝がらをなっちゃんの方へとやった。
「本当だ、綺麗な黄色だね!」
 珍しいものを前になっちゃんのテンションも上がっていて、そんななっちゃんの姿を見られることの方が、私はもっと嬉しかった。
「もう一枚見つけたいね!」
「もう一枚? なんで??」
「だって、なっちゃんに一枚。私に一枚でオソロイになるじゃん!!」
 なっちゃんとお揃いの貝がら──なんとなく欲しかった。なっちゃんは男の子だからオソロイの貝がらなんて嫌がるかな? ……そう思ったけど、なっちゃんの反応は意外なものだった。
「そうだね……!!」
 なっちゃんの笑顔に、自然と顔が綻ぶ。
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