1 / 7
プロローグ
彼の希望と現実
しおりを挟む
「ごめんな」
そう言って、あなたは自分を責めたね。だけど、悪いのは、自分を労われなかった私だよ……。
ごめんね? 心配かけて……。
ごめんね……迷惑ばかりかけて……。
***
それは、何気ない会話から始まった。
「もうひとり、子どもが欲しい」
五年前に、子連れで再婚した私には、既に子どもが五人居る。
前の旦那である、立花良一くんとの子どもがさんにんに、今の旦那の藤本健一くんとの子どもがふたり。
良ちゃんと離婚する時に、私が長女の泉海と次男の海斗を引き取ったから、私と健ちゃんの間には、今、子どもが四人居る状態だ。
それなのに、もうひとり欲しいと告げられた。
私は若くして、双子の長女と長男を出産したから、まだ子どもを産むには充分な年齢ではあるけど、三十三才にもなると、体力的にも厳しくなってくるし、これから妊活をして出産となると、高齢出産の域に入ってくる。
はっきり言って、リスクの方が上回るから、私としては避けたいところ。
「急にどうしたの?」
とりあえず、なぜ彼が子どもが欲しいと思うようになったかを尋ねてみる。
「んー、俺と血の繋がりのある子って、由海と海羽だけじゃん? なんていうか、男の子も欲しい……」
ちょっと気まずそうに言うのは、次男である海斗がいるからだろう。
でも、確かにそうだ。健ちゃんとの子どもは、女の子しかいなくて、それってやっぱり父親としては寂しいものなのかな?
でも……。
「健ちゃんの気持ちは分かった。分かるよ。だけど、今の収入じゃ、もうひとり産んで育てるのは無理」
私はきっぱりと言い切った。
健ちゃんは小学校の先生をしていて、はっきり言って収入は多い方ではない。
私もたまに声楽家として、コンピレーションCDに参加したり、コンサートにちょこっと出演したりはしているけれど、家庭の方が大事なので、最近ではもうほとんど専業主婦状態。そんな私の収入なんて、すずめの涙にも満たないほど。
いまでも、キツキツでやりくりしているのに、もうひとり増えるとなると……やっぱり厳しかった。
それに、子どもは自然の成り行きに任せようと、結婚する時に約束した。だから、一方的な健ちゃんの希望はきけなかった。
健ちゃんは、ひとつ大きなため息を吐くと、ぶっきらぼうに「分かった」と告げ、寝室からリビングに行ってしまった。
そりゃあ、可能なら私だって健ちゃんの希望は叶えてあげたい。
だけど、無理なものは無理だった。
私もリビングに行こうと思い立ちあがろうとすると、激しい目眩がして、少しよろけてしまった。
その目眩は一分ほど続き、その間、若干動悸もしていた。
結局、私はリビングには行かずに、そのまま横になった。
今頃、健ちゃんはきっとお酒を呑んでるんだろうな。幼稚園の頃から知っている健ちゃんの行動パターンくらい、お見通しだった。
いつもなら、健ちゃんが戻ってくるまで起きているけど、なんとなく身体もだるかったので、今日はこのまま寝る事にした。
動悸がなかなか治まらず、眠れないでいると、部屋のドアが開いて、健ちゃんが入ってきた。
「なんだ、寝てるのか」
残念そうに呟く健ちゃんの声を、動悸と闘いながれ聞いた。健ちゃんもベッドに入ると、そっと私の髪の毛に触れて、囁いた。
「由香理……ごめんな」
私ほさっきの事を言っているんだと思い、「気にしてないよ」と返した。すると健ちゃんは、「盗み聞きしてたのかよ……」と、照れたように言った。
「最初から起きてたもん」
「それが盗み聞きだって……」
健ちゃんは、呆れたように言った後、キスをしてきた。
──うぅ……やっぱりお酒臭い……。
だけど、健ちゃんのキスは、徐々に深くなってきて。
「ちょっと……待って……」
「え?」
少しの間キスしただけなのに、動悸がさっきより激しくなって、目眩も復活してので、健ちゃんのキスを制止した。それを健ちゃんは誤解したらしく、なにも言わずに反対を向いてしまった。
***
翌日。目が覚めると、動悸も目眩も治まっていて、私は安心した。
──気のせいだったみたいで良かった。まだ続くようなら、今日にでも病院に行こうと思ったから。
私は、隣でまだ眠っている健ちゃんを見つめた。
ちょっと癖のついた髪の毛に、更に寝癖がついていて、なんか可愛かった。
出来るなら、このまま寝ている健ちゃんを見ていたいけど、そろそろ健ちゃんも子どもたちも起こさないといけない。昨日の今日だから、健ちゃんを起こすのは気まずいけど、起こさなかったから、それこそ後でなにか言われそうだから起こさないと。学校に遅刻でもしたら、大変だしね。
「健ちゃん、朝だよ! 起きて」
「んー……?」
健ちゃんの身体を揺すると、寝ぼけた様子で私の膝に頭を乗せてきた。
あぁ、もう! 朝は色々と忙しいから、イチャイチャしている時間はないのに!
でも、寝ぼけて甘える健ちゃんは嫌じゃない。
本当は私も、もっと健ちゃんに触れていたい……。
「健ちゃん、起きてよー!!」
「んー? やだぁ」
そのまま腕を私の腰に回して、更に甘てる健ちゃん……。
私は時計を見た。十分くらいなら大丈夫……かな?
「はぁ……私も甘いなぁ」
そう呟くと、「後、十分だからね?」と健ちゃんに伝えた。
私の言葉に対する返事はせずに、顔を上げ、「ちゅー」とか言い出した。
全く。昔から変わらないんだから……。
「っん」
次の瞬間、健ちゃんの方からキスをしてきた。そのキスは、昨日の夜の分も補うかのように深くなり、健ちゃんは私の上に乗っかると、キスを首筋に移動させた。
「ちょっ」
「一回だけ、ダメ?」
「だっダメだよ!! そんな時間ないよ??」
──私はこの時、選択を間違えてしまった。
この時、健ちゃんと身体を重ねていれは、手遅れにならなかったかもしれないのに──……。
そう言って、あなたは自分を責めたね。だけど、悪いのは、自分を労われなかった私だよ……。
ごめんね? 心配かけて……。
ごめんね……迷惑ばかりかけて……。
***
それは、何気ない会話から始まった。
「もうひとり、子どもが欲しい」
五年前に、子連れで再婚した私には、既に子どもが五人居る。
前の旦那である、立花良一くんとの子どもがさんにんに、今の旦那の藤本健一くんとの子どもがふたり。
良ちゃんと離婚する時に、私が長女の泉海と次男の海斗を引き取ったから、私と健ちゃんの間には、今、子どもが四人居る状態だ。
それなのに、もうひとり欲しいと告げられた。
私は若くして、双子の長女と長男を出産したから、まだ子どもを産むには充分な年齢ではあるけど、三十三才にもなると、体力的にも厳しくなってくるし、これから妊活をして出産となると、高齢出産の域に入ってくる。
はっきり言って、リスクの方が上回るから、私としては避けたいところ。
「急にどうしたの?」
とりあえず、なぜ彼が子どもが欲しいと思うようになったかを尋ねてみる。
「んー、俺と血の繋がりのある子って、由海と海羽だけじゃん? なんていうか、男の子も欲しい……」
ちょっと気まずそうに言うのは、次男である海斗がいるからだろう。
でも、確かにそうだ。健ちゃんとの子どもは、女の子しかいなくて、それってやっぱり父親としては寂しいものなのかな?
でも……。
「健ちゃんの気持ちは分かった。分かるよ。だけど、今の収入じゃ、もうひとり産んで育てるのは無理」
私はきっぱりと言い切った。
健ちゃんは小学校の先生をしていて、はっきり言って収入は多い方ではない。
私もたまに声楽家として、コンピレーションCDに参加したり、コンサートにちょこっと出演したりはしているけれど、家庭の方が大事なので、最近ではもうほとんど専業主婦状態。そんな私の収入なんて、すずめの涙にも満たないほど。
いまでも、キツキツでやりくりしているのに、もうひとり増えるとなると……やっぱり厳しかった。
それに、子どもは自然の成り行きに任せようと、結婚する時に約束した。だから、一方的な健ちゃんの希望はきけなかった。
健ちゃんは、ひとつ大きなため息を吐くと、ぶっきらぼうに「分かった」と告げ、寝室からリビングに行ってしまった。
そりゃあ、可能なら私だって健ちゃんの希望は叶えてあげたい。
だけど、無理なものは無理だった。
私もリビングに行こうと思い立ちあがろうとすると、激しい目眩がして、少しよろけてしまった。
その目眩は一分ほど続き、その間、若干動悸もしていた。
結局、私はリビングには行かずに、そのまま横になった。
今頃、健ちゃんはきっとお酒を呑んでるんだろうな。幼稚園の頃から知っている健ちゃんの行動パターンくらい、お見通しだった。
いつもなら、健ちゃんが戻ってくるまで起きているけど、なんとなく身体もだるかったので、今日はこのまま寝る事にした。
動悸がなかなか治まらず、眠れないでいると、部屋のドアが開いて、健ちゃんが入ってきた。
「なんだ、寝てるのか」
残念そうに呟く健ちゃんの声を、動悸と闘いながれ聞いた。健ちゃんもベッドに入ると、そっと私の髪の毛に触れて、囁いた。
「由香理……ごめんな」
私ほさっきの事を言っているんだと思い、「気にしてないよ」と返した。すると健ちゃんは、「盗み聞きしてたのかよ……」と、照れたように言った。
「最初から起きてたもん」
「それが盗み聞きだって……」
健ちゃんは、呆れたように言った後、キスをしてきた。
──うぅ……やっぱりお酒臭い……。
だけど、健ちゃんのキスは、徐々に深くなってきて。
「ちょっと……待って……」
「え?」
少しの間キスしただけなのに、動悸がさっきより激しくなって、目眩も復活してので、健ちゃんのキスを制止した。それを健ちゃんは誤解したらしく、なにも言わずに反対を向いてしまった。
***
翌日。目が覚めると、動悸も目眩も治まっていて、私は安心した。
──気のせいだったみたいで良かった。まだ続くようなら、今日にでも病院に行こうと思ったから。
私は、隣でまだ眠っている健ちゃんを見つめた。
ちょっと癖のついた髪の毛に、更に寝癖がついていて、なんか可愛かった。
出来るなら、このまま寝ている健ちゃんを見ていたいけど、そろそろ健ちゃんも子どもたちも起こさないといけない。昨日の今日だから、健ちゃんを起こすのは気まずいけど、起こさなかったから、それこそ後でなにか言われそうだから起こさないと。学校に遅刻でもしたら、大変だしね。
「健ちゃん、朝だよ! 起きて」
「んー……?」
健ちゃんの身体を揺すると、寝ぼけた様子で私の膝に頭を乗せてきた。
あぁ、もう! 朝は色々と忙しいから、イチャイチャしている時間はないのに!
でも、寝ぼけて甘える健ちゃんは嫌じゃない。
本当は私も、もっと健ちゃんに触れていたい……。
「健ちゃん、起きてよー!!」
「んー? やだぁ」
そのまま腕を私の腰に回して、更に甘てる健ちゃん……。
私は時計を見た。十分くらいなら大丈夫……かな?
「はぁ……私も甘いなぁ」
そう呟くと、「後、十分だからね?」と健ちゃんに伝えた。
私の言葉に対する返事はせずに、顔を上げ、「ちゅー」とか言い出した。
全く。昔から変わらないんだから……。
「っん」
次の瞬間、健ちゃんの方からキスをしてきた。そのキスは、昨日の夜の分も補うかのように深くなり、健ちゃんは私の上に乗っかると、キスを首筋に移動させた。
「ちょっ」
「一回だけ、ダメ?」
「だっダメだよ!! そんな時間ないよ??」
──私はこの時、選択を間違えてしまった。
この時、健ちゃんと身体を重ねていれは、手遅れにならなかったかもしれないのに──……。
0
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
断罪された薔薇の話
倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。
ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。
とても切ない物語です。
この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる