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第39話 相手の意思 自分の意志
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「……は?」
間の抜けた声が、思わず漏れた。
グライヴは胸を張って続ける。
「一目惚れってやつだ。あんたみたいに、芯のある女と出会うなんて、人生で一度あるかどうかだ。……もし嫁になってくれるなら、仲間になってもいい。オレの剣も、この命も、お前のために使う」
フェイは口元を押さえたが、明らかに笑いを堪えていた。
沈黙が落ちる。
だがグライヴは、まったく冗談の色を見せない。真剣だった。
「……守る、って何よ」
エヴァが絞り出すように言った。
「私は、守られるために剣を持ってるんじゃない。後ろに立たれるくらいなら、前に出る。私は、私の意志で戦ってるのよ」
その瞳の奥に宿るのは、戦場を駆けてきた者の覚悟だった。
グライヴは、目を見開いた。そして……笑った。
「ははっ、ますます惚れた。……最高だ。あんたは“戦える女”じゃない。“戦う理由を持ってる女”だ」
「なっ……!」
「気高くて、強くて、美しい。おまけに心の芯が真っ直ぐだ。オレが惚れるのは当然だろ」
エヴァの頬に、怒りとも照れともつかぬ赤みがさした。
「ば、ばかじゃないの!? いきなり嫁とか……!」
「誠実な男だぞ、オレは」
グライヴは胸を叩く。
「ちゃんと幸せにする。戦場でも日常でも。守り抜く覚悟がある」
エヴァは混乱していた。
(なんなの、いきなり……っていうか、どうしてこっちがこんなに動揺してるのよ……!)
心の中で、思考がぐるぐる回る。
(でも……確かに、彼が仲間に加わってくれたら大きい。力は申し分ない。精神的にも一本筋が通ってる。けどそれと結婚は全然別問題……!)
言葉に詰まったまま、どうにか冷静さを保とうとしたその時――
「はいはい、そこまで」
フェイが軽く手を挙げて割って入った。
「エヴァ、無理に答えなくていい。仲間ってのは、そうやって強引に引っ張るもんじゃない。……“戦いたい”と思った時に、自然と隣にいればいいだけの話だ」
穏やかで、優しい声。
その言葉に、エヴァもグライヴもぴたりと動きを止めた。
「今はそれでいい。だから今日は、これで退くよ」
フェイはくるりと背を向け、扉へと向かう。
だが、その背中に――
「おい、待て!」
グライヴの声が追いかけた。
「そんな簡単に帰るな! こっちはまだ……」
「まだ何?」
「……いや、別に……なんでもねぇ」
グライヴは唇をかんだ。悔しそうに、だが――どこか、戸惑っているように。
フェイは振り返らず、肩越しに声を投げた。
「また来るよ。君が“本当に必要だ”って思えたときに。……その時は、歓迎するさ。エヴァも、君のプロポーズに返事くらいは考えておくかもね」
「ちょ、フェイ!?」
「冗談だよ」
その場の空気が、ようやく少し緩んだ。その空気のまま、2人は入り口に向かって踵を返した。
グライヴは黙って、控え室の扉へ向かう二人の背中を見送っていた。
だが、その直前――低く、だが強く声を張り上げた。
「……後悔しても知らねぇぞ!」
足を止めることなく、フェイが振り返る。
「後悔するような選択は、しない主義なんだ。じゃあね、グライヴ」
ちらりとだけ、エヴァも肩越しに視線を送る。
「……今度会うときは、こっちから“誘わない”から。そっちが歩いてこなきゃ、もう知らないわよ」
グライヴは返さない。ただその場に立ち尽くし、二人の背を見送った。
その拳は、見えないほど小さく震えていた。
そして──
⸻
静かな夜の風が、街の灯りの間をすり抜けていく。
宿へ戻る道中、フェイとエヴァは多くを語らなかった。
だが、それが気まずさではなく、それぞれの思考に向き合っているからだということは、互いにわかっていた。
やがて、灯りの漏れる小さな宿の前で、フェイがふっと息を吐いた。
「……まぁ、あれでも一応前には進んだ、ってことでいいんじゃないかな」
エヴァは軽く肩をすくめた。
「……なんだったのよ、ほんと。嫁って。命かけて守るって。頭おかしいでしょ、あいつ」
そう言いつつも、その頬には微かに朱が差している。
フェイはニヤリと笑った。
「でも、ちょっとはときめいた?」
「はぁ? なわけないでしょ!」
エヴァはぷいとそっぽを向いた。
「……ま、寝て起きたら忘れてやるわ。明日は次の作戦、考えないといけないし」
「うん、それがいい」
宿の扉を開けると、暖かい灯りと、わずかなパンとスープの匂いが二人を迎えた。
疲れを引きずりながら、二人は階段を上がっていく。
⸻
そして、翌朝――
朝焼けがまだ街を染めきらない頃。
エヴァがカーテンをめくると、空は鈍色。だが、その下で街は確かに目覚め始めていた。
窓際で腕を組んでいたフェイが、静かに言った。
「……一旦、帝都へ戻ろうか。補給と報告、それに……少し時間も必要だ」
エヴァは一拍置いて、うなずく。
「わかった。いまは、それが正解ね」
静かだが、迷いのない声だった。
準備を整え、宿をあとにする頃には、昨日の名残はすでに風の中へと溶けていた。
二人の足取りは、もう次の目的地を見据えていた。
間の抜けた声が、思わず漏れた。
グライヴは胸を張って続ける。
「一目惚れってやつだ。あんたみたいに、芯のある女と出会うなんて、人生で一度あるかどうかだ。……もし嫁になってくれるなら、仲間になってもいい。オレの剣も、この命も、お前のために使う」
フェイは口元を押さえたが、明らかに笑いを堪えていた。
沈黙が落ちる。
だがグライヴは、まったく冗談の色を見せない。真剣だった。
「……守る、って何よ」
エヴァが絞り出すように言った。
「私は、守られるために剣を持ってるんじゃない。後ろに立たれるくらいなら、前に出る。私は、私の意志で戦ってるのよ」
その瞳の奥に宿るのは、戦場を駆けてきた者の覚悟だった。
グライヴは、目を見開いた。そして……笑った。
「ははっ、ますます惚れた。……最高だ。あんたは“戦える女”じゃない。“戦う理由を持ってる女”だ」
「なっ……!」
「気高くて、強くて、美しい。おまけに心の芯が真っ直ぐだ。オレが惚れるのは当然だろ」
エヴァの頬に、怒りとも照れともつかぬ赤みがさした。
「ば、ばかじゃないの!? いきなり嫁とか……!」
「誠実な男だぞ、オレは」
グライヴは胸を叩く。
「ちゃんと幸せにする。戦場でも日常でも。守り抜く覚悟がある」
エヴァは混乱していた。
(なんなの、いきなり……っていうか、どうしてこっちがこんなに動揺してるのよ……!)
心の中で、思考がぐるぐる回る。
(でも……確かに、彼が仲間に加わってくれたら大きい。力は申し分ない。精神的にも一本筋が通ってる。けどそれと結婚は全然別問題……!)
言葉に詰まったまま、どうにか冷静さを保とうとしたその時――
「はいはい、そこまで」
フェイが軽く手を挙げて割って入った。
「エヴァ、無理に答えなくていい。仲間ってのは、そうやって強引に引っ張るもんじゃない。……“戦いたい”と思った時に、自然と隣にいればいいだけの話だ」
穏やかで、優しい声。
その言葉に、エヴァもグライヴもぴたりと動きを止めた。
「今はそれでいい。だから今日は、これで退くよ」
フェイはくるりと背を向け、扉へと向かう。
だが、その背中に――
「おい、待て!」
グライヴの声が追いかけた。
「そんな簡単に帰るな! こっちはまだ……」
「まだ何?」
「……いや、別に……なんでもねぇ」
グライヴは唇をかんだ。悔しそうに、だが――どこか、戸惑っているように。
フェイは振り返らず、肩越しに声を投げた。
「また来るよ。君が“本当に必要だ”って思えたときに。……その時は、歓迎するさ。エヴァも、君のプロポーズに返事くらいは考えておくかもね」
「ちょ、フェイ!?」
「冗談だよ」
その場の空気が、ようやく少し緩んだ。その空気のまま、2人は入り口に向かって踵を返した。
グライヴは黙って、控え室の扉へ向かう二人の背中を見送っていた。
だが、その直前――低く、だが強く声を張り上げた。
「……後悔しても知らねぇぞ!」
足を止めることなく、フェイが振り返る。
「後悔するような選択は、しない主義なんだ。じゃあね、グライヴ」
ちらりとだけ、エヴァも肩越しに視線を送る。
「……今度会うときは、こっちから“誘わない”から。そっちが歩いてこなきゃ、もう知らないわよ」
グライヴは返さない。ただその場に立ち尽くし、二人の背を見送った。
その拳は、見えないほど小さく震えていた。
そして──
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静かな夜の風が、街の灯りの間をすり抜けていく。
宿へ戻る道中、フェイとエヴァは多くを語らなかった。
だが、それが気まずさではなく、それぞれの思考に向き合っているからだということは、互いにわかっていた。
やがて、灯りの漏れる小さな宿の前で、フェイがふっと息を吐いた。
「……まぁ、あれでも一応前には進んだ、ってことでいいんじゃないかな」
エヴァは軽く肩をすくめた。
「……なんだったのよ、ほんと。嫁って。命かけて守るって。頭おかしいでしょ、あいつ」
そう言いつつも、その頬には微かに朱が差している。
フェイはニヤリと笑った。
「でも、ちょっとはときめいた?」
「はぁ? なわけないでしょ!」
エヴァはぷいとそっぽを向いた。
「……ま、寝て起きたら忘れてやるわ。明日は次の作戦、考えないといけないし」
「うん、それがいい」
宿の扉を開けると、暖かい灯りと、わずかなパンとスープの匂いが二人を迎えた。
疲れを引きずりながら、二人は階段を上がっていく。
⸻
そして、翌朝――
朝焼けがまだ街を染めきらない頃。
エヴァがカーテンをめくると、空は鈍色。だが、その下で街は確かに目覚め始めていた。
窓際で腕を組んでいたフェイが、静かに言った。
「……一旦、帝都へ戻ろうか。補給と報告、それに……少し時間も必要だ」
エヴァは一拍置いて、うなずく。
「わかった。いまは、それが正解ね」
静かだが、迷いのない声だった。
準備を整え、宿をあとにする頃には、昨日の名残はすでに風の中へと溶けていた。
二人の足取りは、もう次の目的地を見据えていた。
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