《蒼眼のトライブ Last Testament(ラスト・テスタメント)》

ケリーエヴァンス

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第11話 再会 仮面の下で

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謁見を終え、フェイとエヴァが城の回廊を並んで歩いていた。
そのとき、廊下の先から、数人の騎士団員を従えた一人の青年が姿を現す。

「──お久しぶりです」

声は静かだったが、不思議と空気を切り裂くような芯があった。
フェイはその声にすぐ反応し、顔を上げてぱっと笑った。

「ん? あ、ライアス」

気軽に片手を挙げて手を振るフェイに応えるように、青年──帝国第一団団長、ライアス・ヴェル=ハルドが、ゆっくりと歩み寄ってきた。

彼の存在には、一種の“異質さ”があった。

細身の体に柔らかく揺れるエメラルドグリーンの髪。優しげな目元とあどけなさの残る頬。
外見だけを見れば、どこか貴族の書斎で本に囲まれて過ごす青年、あるいは詩を紡ぐ吟遊詩人のようですらある。

年齢は成人しているはずだが、印象はあくまで若く、繊細。
それに加えて、無意識のうちに気配を抑えているせいで、気を抜けば通り過ぎてしまいそうなほどの“存在の薄さ”があった。

だが──。

彼の目を真正面から見たとき、誰もがその認識を打ち砕かれる。
その双眸には、鋼のように揺るがぬ意志と、獣のような洞察の鋭さが潜んでいた。

常に微笑みを浮かべながらも、その笑みの裏にある観察力は鋭く、
相手の言葉の隙、態度の揺らぎ、立ち姿の緊張すら読み取ってしまうような静かな目だった。

ライアスが口を開くと、その声は穏やかで心地よく、まるで柔らかな弦楽器の音のように響く。
だがその言葉の運びは明瞭で、一つ一つが理路整然としている。
まるで、すべての言葉に「意味を持たせて話す」ことが習い性になっているかのようだった。

そして何より──彼が剣を握ったとき、その印象はさらに塗り替えられる。

風のように軽く、影のように迷いがない。
研ぎ澄まされた殺気が一太刀ごとに織り込まれており、それでいて流れるような所作に無駄がない。
まるで舞っているかのような美しさと、戦士としての機能美を兼ね備えた動きだった。

「──久しぶりですね。……変わらず、お元気そうだ」

その声に、フェイはにこりと笑い返す。

「君もね。今では威厳すら感じるね」

隣で黙っていたエヴァが、わずかに眉をひそめながらライアスを見つめた。

「お知り合い……ですか?」

問いかけに、フェイは肩をすくめる。

「まあ、ちょっと昔にね」

ライアスは目を細め、どこかつかみどころのない笑顔を浮かべた。

「……説明してくれる?」

視線がするどくフェイに向けられる。エヴァの瞳が問い詰めるように細くなる。

「さあ、それは気分次第?」

「…………」

あきれたように沈黙するエヴァをよそに、ライアスは穏やかに彼女へと目を向けた。

「この人を呼びに行っていたのですね。任務、ご苦労様でした。……大変だったでしょう」

その気遣う言葉に、エヴァは姿勢を正し、すぐに応じる。

「いえ、問題ございません。ありがとうございます」

──実際には、心労は山ほどあったのだが。
それはあくまで胸のうちにしまっておく。職務に私情は持ち込まない、それが彼女の矜持だ。

フェイは相変わらず、にこにことした無害そうな笑みを浮かべている。
まるで人騒がせな子どもが、親の背中に隠れて悪戯を笑っているかのように。

そして──その笑顔を、ライアスもまた、少しだけ懐かしげに見つめていた。

-----

白く、無機質な部屋だった。
石材とも木材ともつかない、何か特別に加工された素材でできたその空間は、吸音性が異様に高く、外の気配は一切感じられない。
音の反響もなく、呼吸音すら布の奥に沈むようだった。

部屋の中央には、低い卓と対になる二脚の椅子。装飾は一切なく、壁にも窓はない。唯一、天井の中央に浮かぶ小さな魔光灯だけが、微かな淡い白光を落としていた。

扉が閉まる音すら吸い込まれたあと、室内にはふたりの人物だけが残った。

「……どうした?」

低く、押し殺した声が床に落ちるように響いた。

「いくつか、妙な動きが増えているようです」

それに応える声は、どこか冷静で、だが内奥に警鐘をはらんでいる。

「……」

返事はない。ただ、空気がわずかに緊張する。

「それと──」
言葉を区切り、相手の視線を感じながら、静かに続ける。

「“復活”に関する兆しが、本格的に姿を見せはじめました。確実とは言えませんが……間違いなく、動いています」

一瞬、空間がわずかに沈黙に支配される。
相手は何も言わない。だがその沈黙こそが、重大さを示していた。

「……ついに来た、か」

その声には、予感と覚悟の両方があった。
予想していた未来が、ついに扉を開いた──そんな手触りを、ふたりは共有している。

「“とき”が近いと判断しました」

呼吸をひとつ置き、真っ直ぐに続ける。

「なので、こちらも動きます」

沈黙が数拍、間を繋いだあと──

「……わかった」

短く、しかし重い返答が返ってきた。
許可ではなく、委任。信頼という名の命令。

「……よろしくお願いします。老師(ししょう)」

その言葉の語気には、敬意と共に、どこか微かな――懐かしさすら混ざっていた。

対する相手は何も返さなかった。
ただそのまま、ゆっくりと椅子から立ち上がる気配だけが伝わってくる。
誰にも見られず、誰にも知られず、何かが密かに動き始めたことだけが、部屋に残った。

やがて、密室の白がほんのわずかに色を変えた。

それは外の夜気が薄らぎ、遥か彼方の地平に、新しい光が生まれたからだ。
天井の魔光灯がそれを察知したかのように、淡く、光量を絞る。

この白い部屋には、朝も夜もない。
だがこの日、ふたりの会話だけが、確かに“夜”の終わりを告げた。

静けさの中、始まりの気配だけが、確かに残されていた。
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