悪役令嬢の里帰り

椿森

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 父が陛下に上奏して婚約するための誓約を改めて結び、王子と対面をすることになった。
 母はやはり不満なのか、対面の日が近づくにつれて父とよく話し合っている姿を見かけた。
 私は王子様とお会いするよりも、美しい庭園があると聞いてそちらを楽しみにしていた。
 エルフの郷サンヨルフの風景も大好きだが、花が群生している場所は多くない。比べて、ヒトの手によって造られた庭園にはとりどりの花がたくさん咲いていると聞いて、サンヨルフとは違った美しさがあるのだろうと期待を膨らませていた。

 対面の当日、見た目がとても質素な馬車が邸の前に止まっていた。

「お父様、王宮からお迎えをいただけるのですよね?」
「ああ、そうだね。あの馬車に乗るんだよ」
「?王宮の馬車にしては華やかさがないですが···」

 王族の所有するものは、すべて煌びやかなものだと思っていたので、質素な馬車が迎えであることに不信感を募らせた。

「いわゆる、お忍びだよ。あからさまに王家の馬車があると何事かと痛くもない腹の中を探られることになるし。そもそも、確定ではないけどこの婚約の話にいい感情を持っていない貴族の目にとまるのも避けたいしね」
「そうなんですか」

 大人の事情のことはよくわからないが、あまり目立つ事は良くないのだろうということはわかった。
 私自身、あまり目立つことは好きではない。

「テアニア嬢ですね、お迎えにあがりました」

 馬車の前まで行けば、シンプルではあるが上等とわかるコートを着た男性が恭しく礼をした。

「テアニア・ハーゲンと申します。本日はよろしくお願いいたします」

 家族やサンヨルフの人以外に会うのは、これが初めてとなる。
 失敗しないかと内心心配しつつも、淑女たるもの顔に出してはいけない。
 教えられた通りにカーテシーをすれば、感嘆するようなため息が聞こえた。

「ハーゲン侯爵、ご息女は本当にお美しいですね。しかも、礼儀もしっかりされている」
「ええ、いい子に育ちまして。私も鼻が高いですよ」

 紳士は相好を崩して微笑んでいた。
 お父様と話しているところをじっと見つめていれば、紳士が急にこちらを見てドキリとした。

「これは申し訳ない、名乗っておりませんでしたね。私はアリアス・ブロワ、伯爵位を賜っております。国王陛下の側仕えの1人です」

 ブロワと名乗った紳士は微笑みを崩さないまま、手を差し出してきた。
 私は少し躊躇ってからその手をとると、紳士は笑みを深くする。その笑顔に、どこか違和感を感じるような気がするけど、それが何かはよく分からなかったために口を噤んだ。

「さあ、王子がお待ちです。参りましょうか」
「テアニア、気をつけて」
「はい、お父様」

 紳士にエスコートしてもらいながら馬車に乗り込む。
 お父様は離れられない用事があり、お母様は外せないお茶会があるとの事で王宮に行くのは私と侍女の2人だけ。
 不安がないかといったら嘘にはなるが、期待もあったので気にしないように、馬車に揺られて行った。

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