生存率0%の未来世界からの脱出

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第一章 剣の刺さった狼犬

4話 剣を扱う狼犬

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 突然、私の来た道から目覚まし時計の様なアラーム音が鳴り響く。

「!」
 化け物は直ぐに音のした方に向かっていった。

  今です!

 去った事を確認すると、棚を掴む。

 スマホの目覚まし機能を使用して、来た道の洞窟に置いていた。そして、化け物がそれに気を取られている隙に棚を倒して逃げる作戦だ。

 棚を手前に引く。やや重たかったが、直ぐに傾き始めて、激しい音を立てながら倒れた。

 よし!

 全速力で走り始める。

 息を切らしながら走っていると、光が見えて来る。

 見えてきました! もう少し……ですが……!!

 重量感のある足跡が背後から響く。

 思いのほか、化け物の方が速く、迫ってきているのが感覚と音で分かる。

 鬼気迫る思いで、更に全身に力を入れて足を動かす。

 なんとか、追い付かれずに洞窟を抜けることに成功する。

 しかし、直ぐに足を止めた。

 確かに外だが、左右は高いコンクリートの様な壁に阻まれている。

 そして、唯一進める先に……角の生えた鹿のような生物が数十匹以上いた。

 爬虫類の緑褐色の目をし、その下には恐竜のような鋭い歯が並んでいる。

「助けて!!!」
 悲鳴を上げている人を取り囲んでいる。

 腕、手足、皮膚が次々に食い千切られていく……

 しかし、それでも絶命しない様で叫び声を上げ続けている。

 その中の一匹が、口から赤い液体を垂らしながらゆっくり私の方に向く。

 金属をこすり合わせているかのような甲高い奇声を上げた。

 一気に数十匹の化け物が私の方に接近する。

 後ろを振り向くが、洞窟から鉈を持った化け物も出てきていた。

「……!」
 片方の壁に体を寄せる。

 二種類の化け物はゆっくり近づいてきている。

 首を振って、逃げ道を探すが、とても化物の間を通り抜けられそうにない……

 ああ、もう終わりですか……

 全身の力が抜けて、壁に背中をこすりながら座り込む。

 もう終わり、自分は今から死ぬ。化物の餌。終わり、自分は死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ……

 両親や縫子さんの姿が思い浮かぶ。

「……!」
 感情が決壊して、心が張り裂けそうになる。

 涙で目の前が霞む。拭っても拭っても止まらない。

「死にたくないです!! 嫌です!!」
 気が付いたら大声で泣き叫んでいた。

 突然、狼の遠吠えの様な声が直ぐ近くで聞こえる。

「……!?」
 音のする方を向くと、高所にそれはいた。

 極寒の地に降り積もる白い雪のような綺麗な色をしている狼だった。体に何かを背負っているように見える。

 狼は私のすぐ目の前に飛び降りてきた。

 私と同じかそれ以上の巨大な狼だ。そして、何かを背負っていたのではなかった。剣が胴体に突き刺さっている。

 狼は私を背にして威嚇するように唸り声を上げる。

 鹿のような化け物達が奇声を上げながら襲い掛かって来た。

 狼は首を捻り、剣を口で加えた。

 一瞬だった。

 数匹の化け物が赤色の血液をまき散らしながら半分に両断されたのは。

 狼は銀色に輝く剣を口で加えていた。

 生き残った化け物は奇声を上げながら散り散り逃げて行く。

 しかし、鉈の化け物は高く跳躍し、狼の背後を狙って鉈を振り下ろしてきた。

「!」
 不意打ちを軽々しく回避し、振り向きざまに剣で化け物の胸部を切りつける。

 胸部から激しく出血しているが、鉈を振り上げて反撃をする。

 それも回避する。

 そして、狼は化け物を中心に時計回りにステップし始めた。

 化け物が狼の動きをとらえようとするが、明らかについていけていない。

 しびれを切らしたのか、化け物は狼に接近して、鉈を振り下ろした。

 しかし、そこに狼はいない。

 剣を加えた狼が背後から、首を切り飛ばした。

 切り株の様な首がぐちゃりと音を立てながら地面に落ちた。

 首から激しく出血しているが、よろよろと立っている。

 そして、留めと言わんばかりに、化け物の鉈を持っていた腕を切り飛ばし、足も切断する。

 完全に決着がついた瞬間だった。

 狼の加えている剣に赤い血が滴る。

 首を動かして、血を振り払う様な動作をすると、首を捻って、器用に再び胴体に突き刺した。

「……」
 ただ、私は呆然と見ていた。

 まるで映画のワンシーンのような光景で現実味があまりにもない。

 巨大な狼がゆっくり私に近づいてきた。

「……!」
 少し恐怖を感じたが、私に向けるその黄色い目には何故か、敵意を感じられない。

 恐る恐る様子を見ていると、私の顔を舐め始めた。

 生暖かい感触が顔中に伝わる。

「ちょ、ちょっと……!?」
 思わず抵抗するが、狼は嬉しそうに息を荒くして、尻尾を振っている。

「……よく分からないですが、助かりました。ありがとうございます」
 狼の大きな顔を触る。

 綿のようにモフモフな上、暖かい。

「暖かいです……」

「クゥ~ン!」
 嬉しそうな声を出す。

「よしよし……」
 狼に抱き付きながら、優しく撫でる。

 落ち着きます……癒されます……

 安心感からか、目から涙が零れる。

 ああ、本当に私は助かったんですね……

「クゥ~ン……」
 私の涙を舐める。

「優しいですね……!?」

 何か引きずるような音が聞こえた。

 音のする方を見ると、鉈の化け物も鹿野の化け物も動いている。特に鉈の化け物は無事な方の手で地面を這いつくばっていた。 双方、地面が真っ赤に染まるほど出血し、だれがどう見ても致命傷なのに、動いている。

 し、死んでいない……!?

 再生しているようには見えない、どちらかというと苦しんでいるようにも見える。

「と、とりあえず、ここから離れたいですね……」

 突然、狼は姿勢を低くした。

「……えっ? 乗っていいんですか?」

「ワン!!」
 はいと言ったかのように吠えた。

「分かりました……失礼します……」
 狼の背中にまたがると、立ち上がった。

「わぁ!?」
 バランスを崩しそうになって、狼の毛を掴む。

 狼は走り出す。

 冷たい風が私の体に当たる。

 そこそこ速度が出ているようだが、乗っている不快感は感じない所か、寧ろ心地よい。

 外に出た様だが、濃霧が発生しているようで、遠くがよく見えない。

 私は何処に向かっているのでしょうか? まぁ、この狼さんに任せますか……にしても、眠いです……

 強烈な疲労感と睡魔に襲われる。なるべく寝ないように重たい瞼を開けようとするが、抗えなかった。




 

 
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