生存率0%の未来世界からの脱出

UG21

文字の大きさ
7 / 29
第一章 剣の刺さった狼犬

4話 剣を扱う狼犬

しおりを挟む
 突然、私の来た道から目覚まし時計の様なアラーム音が鳴り響く。

「!」
 化け物は直ぐに音のした方に向かっていった。

  今です!

 去った事を確認すると、棚を掴む。

 スマホの目覚まし機能を使用して、来た道の洞窟に置いていた。そして、化け物がそれに気を取られている隙に棚を倒して逃げる作戦だ。

 棚を手前に引く。やや重たかったが、直ぐに傾き始めて、激しい音を立てながら倒れた。

 よし!

 全速力で走り始める。

 息を切らしながら走っていると、光が見えて来る。

 見えてきました! もう少し……ですが……!!

 重量感のある足跡が背後から響く。

 思いのほか、化け物の方が速く、迫ってきているのが感覚と音で分かる。

 鬼気迫る思いで、更に全身に力を入れて足を動かす。

 なんとか、追い付かれずに洞窟を抜けることに成功する。

 しかし、直ぐに足を止めた。

 確かに外だが、左右は高いコンクリートの様な壁に阻まれている。

 そして、唯一進める先に……角の生えた鹿のような生物が数十匹以上いた。

 爬虫類の緑褐色の目をし、その下には恐竜のような鋭い歯が並んでいる。

「助けて!!!」
 悲鳴を上げている人を取り囲んでいる。

 腕、手足、皮膚が次々に食い千切られていく……

 しかし、それでも絶命しない様で叫び声を上げ続けている。

 その中の一匹が、口から赤い液体を垂らしながらゆっくり私の方に向く。

 金属をこすり合わせているかのような甲高い奇声を上げた。

 一気に数十匹の化け物が私の方に接近する。

 後ろを振り向くが、洞窟から鉈を持った化け物も出てきていた。

「……!」
 片方の壁に体を寄せる。

 二種類の化け物はゆっくり近づいてきている。

 首を振って、逃げ道を探すが、とても化物の間を通り抜けられそうにない……

 ああ、もう終わりですか……

 全身の力が抜けて、壁に背中をこすりながら座り込む。

 もう終わり、自分は今から死ぬ。化物の餌。終わり、自分は死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ……

 両親や縫子さんの姿が思い浮かぶ。

「……!」
 感情が決壊して、心が張り裂けそうになる。

 涙で目の前が霞む。拭っても拭っても止まらない。

「死にたくないです!! 嫌です!!」
 気が付いたら大声で泣き叫んでいた。

 突然、狼の遠吠えの様な声が直ぐ近くで聞こえる。

「……!?」
 音のする方を向くと、高所にそれはいた。

 極寒の地に降り積もる白い雪のような綺麗な色をしている狼だった。体に何かを背負っているように見える。

 狼は私のすぐ目の前に飛び降りてきた。

 私と同じかそれ以上の巨大な狼だ。そして、何かを背負っていたのではなかった。剣が胴体に突き刺さっている。

 狼は私を背にして威嚇するように唸り声を上げる。

 鹿のような化け物達が奇声を上げながら襲い掛かって来た。

 狼は首を捻り、剣を口で加えた。

 一瞬だった。

 数匹の化け物が赤色の血液をまき散らしながら半分に両断されたのは。

 狼は銀色に輝く剣を口で加えていた。

 生き残った化け物は奇声を上げながら散り散り逃げて行く。

 しかし、鉈の化け物は高く跳躍し、狼の背後を狙って鉈を振り下ろしてきた。

「!」
 不意打ちを軽々しく回避し、振り向きざまに剣で化け物の胸部を切りつける。

 胸部から激しく出血しているが、鉈を振り上げて反撃をする。

 それも回避する。

 そして、狼は化け物を中心に時計回りにステップし始めた。

 化け物が狼の動きをとらえようとするが、明らかについていけていない。

 しびれを切らしたのか、化け物は狼に接近して、鉈を振り下ろした。

 しかし、そこに狼はいない。

 剣を加えた狼が背後から、首を切り飛ばした。

 切り株の様な首がぐちゃりと音を立てながら地面に落ちた。

 首から激しく出血しているが、よろよろと立っている。

 そして、留めと言わんばかりに、化け物の鉈を持っていた腕を切り飛ばし、足も切断する。

 完全に決着がついた瞬間だった。

 狼の加えている剣に赤い血が滴る。

 首を動かして、血を振り払う様な動作をすると、首を捻って、器用に再び胴体に突き刺した。

「……」
 ただ、私は呆然と見ていた。

 まるで映画のワンシーンのような光景で現実味があまりにもない。

 巨大な狼がゆっくり私に近づいてきた。

「……!」
 少し恐怖を感じたが、私に向けるその黄色い目には何故か、敵意を感じられない。

 恐る恐る様子を見ていると、私の顔を舐め始めた。

 生暖かい感触が顔中に伝わる。

「ちょ、ちょっと……!?」
 思わず抵抗するが、狼は嬉しそうに息を荒くして、尻尾を振っている。

「……よく分からないですが、助かりました。ありがとうございます」
 狼の大きな顔を触る。

 綿のようにモフモフな上、暖かい。

「暖かいです……」

「クゥ~ン!」
 嬉しそうな声を出す。

「よしよし……」
 狼に抱き付きながら、優しく撫でる。

 落ち着きます……癒されます……

 安心感からか、目から涙が零れる。

 ああ、本当に私は助かったんですね……

「クゥ~ン……」
 私の涙を舐める。

「優しいですね……!?」

 何か引きずるような音が聞こえた。

 音のする方を見ると、鉈の化け物も鹿野の化け物も動いている。特に鉈の化け物は無事な方の手で地面を這いつくばっていた。 双方、地面が真っ赤に染まるほど出血し、だれがどう見ても致命傷なのに、動いている。

 し、死んでいない……!?

 再生しているようには見えない、どちらかというと苦しんでいるようにも見える。

「と、とりあえず、ここから離れたいですね……」

 突然、狼は姿勢を低くした。

「……えっ? 乗っていいんですか?」

「ワン!!」
 はいと言ったかのように吠えた。

「分かりました……失礼します……」
 狼の背中にまたがると、立ち上がった。

「わぁ!?」
 バランスを崩しそうになって、狼の毛を掴む。

 狼は走り出す。

 冷たい風が私の体に当たる。

 そこそこ速度が出ているようだが、乗っている不快感は感じない所か、寧ろ心地よい。

 外に出た様だが、濃霧が発生しているようで、遠くがよく見えない。

 私は何処に向かっているのでしょうか? まぁ、この狼さんに任せますか……にしても、眠いです……

 強烈な疲労感と睡魔に襲われる。なるべく寝ないように重たい瞼を開けようとするが、抗えなかった。




 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...