生存率0%の未来世界からの脱出

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第一章 剣の刺さった狼犬

5話 岩と一体化した人間

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「……!!」
 目の前には血だらけの鉈を持った化け物がいる。

 焦燥感に駆られながら、逃げようとするが何かを体が掴んでいて動けない。

「タスケテ!!」
 目線を下げると、顔を削られた赤い顔の男子生徒が私を掴んでいるのが見える。

「……!!」
 化け物は血の滴る大きな鉈を振り上げて、動かない私に目掛けて振り下ろした──


「ハッ!?」
 息を飲んで起き上がる。

 小さな洞穴で寝ていたようで、すぐ先に大きな出口が見える。

「クゥ~ン……」
 巨大な狼が私に寄り添ってくる。

 私の事が分かっているみたいですね……

 ふさふさの頭をなでる。

 夢でしたか……できれば、この世界自体も夢でしたらよかったのですが、そんな都合よく行きませんか……

 思わず軽いため息を吐く。

 お腹が激しくなる。

「……」
 この世界にきてどれぐらい経過したのか分かりませんが、お腹がすきました……食料を探さないといけないですね……

 ゆっくり立ち上がる。

 狼は興奮気味に息を立てている。

 付いてきてくれそうですね。ペットは飼ったことはありませんが、なんだか、なつかれているようですね。そうでした、一応、これをやって見ましょう。

 スマートウォッチ的な物で狼をスキャンする。

 ゆっくりではあるがゲージが徐々に溜まっていき、100%になる。

 おお! できました!

『狼犬』
 大型犬種の一種
 従来では、他犬種と比べると、馴致は困難な部類に入り、知能も非常に高く、ブリーダーやトレーナーとして熟練した者でなければ、完全にしつけることは容易ではない。※Wikiより参照
 しかし、2400年代のデープカンパニーが開発したD─25型飼育チップを脳に埋め込むことにより誰でも容易に飼うことが出来るようになった。また、『コンセンサー装置』により意思疎通も可能で、ほぼ人間同様のしつけが可能となった。

 凄い画期的ですね……この狼さんも元々は誰かのペットだったということですね。

「ワン!」
 返事をしたかのように元気よく吠える。

 『コンセンサー装置』があれば意思疎通が可能なんですか……それらしいものはこの狼さんには付いてないですね……

 それにしても、この説明って、従来の狼犬の話ですよね? 今のこの狼さんの姿は大きさもあれですし、剣も扱えますし、私のしっている狼犬とは大きく違いますね。やっぱり、ここはパラレルワールドかなにかなのでしょ……

 名前……決めた方がいいですよね?

「名前……何がいいですか?」

「ワン!」
 元気よく吠える。

 そもそも、元の名前とか、首輪が無いので分かりませんね……どうしましょうか……

『スノー』
 何故か、その単語が思い浮かんだ。

「……スノーはどうでしょうか?」

「ワン! ワン!!」
 嬉しそうに吠える。

「決まりですね! スノー!」

「ワン!!」

 懐かしさの余り笑みが零れる。

 懐かしい……何故でしょうか? 懐かしく感じますね……

「人のいる場所に連れて行って貰えますか?」
 スノーに乗って、声を掛ける。

「ワン!」
 任せろ! とでも言ったかのように霧の中を走り始める。

「よし! いいですね!」

 出来れば、自衛隊さんに会いたいです! その人たちでしたら、サバイバル術もありますし、もしかしたら、元の世界に帰れる方法も知っているかもしれません!

「……!」
 何か聞こえたような気がします!

「ストップです!」
 指示を出すと、スノーはその場で足を止める。

「……」
 耳を澄ませる。

「Au secours!」「Au secours!!」
 男性の叫び声が何度も聞こえる。

 これは、フランス語! 助けてって言ってますね!

「声のする方に行ってください!」

「ワン!」

 声のする方に進む。

「誰か!!」
 フランス語で叫んでいる。

「!?」
 余りにも理解しがたい光景で、目を大きく見開いてしまう。

 男性の下半身が岩に埋まっている。まるで、取って付けたかのように……

「だ、大丈夫ですか?」
 戸惑いながらも、フランス語で声を掛ける。

「これが大丈夫のように見えるかよ!?」
 かなり動揺しているようで、怒鳴り返すように返事をする。

「何があったんですか?」

「分からねえ、絵具みてぇな物が接近してきたと思ったらこれだ!」

 あの元の世界で起きた謎の現象の事ですか、運悪く岩の中にワープしたということでしょうか? どちらにしても、早く助けないといけないですね!

「落ち着いてください! いま助けますから!」

「早くしてくれ! 下半身の感覚が無いんだ!」

「分かりました! 引っ張ってみます!」
 とりあえず、垂直に引っ張って見ましょう! 駄目でしたら他を考えます!

 両手を掴んで、引っ張る。

「……!」
 少しきついですが、歯ごたえを感じます!

「!?」
 突然、ブチッと引き千切れる様な音と同時に一気に抵抗がなくなった。

 勢い余って、後ろに倒れる。

「……ッ!?」
 何が起きたのか、理解したくなかった。目を逸らしたいが、しかし、凍りついた瞳から情報が強制的に脳を駆け巡ってしまう。 

「助かったのか?」
 戸惑いながら自分の下半身を見る。

「……お、俺の足が!?」
 声を震わせて、徐々に青ざめて行った……

 下半身からピンク色の内臓の様な長細い物が飛び出てて、それと共に地面一面、ペンキをひっくり返したかの様に一辺の地面が真っ赤に染まり広がっている。
 男性が刺さっていた岩は、ザクロの実の様に、肉片や皮膚などが混ざり合っていた。

 叫び声を上げて、悶絶し始める。

 私はただ震えて、それを見る事しか出来ない。

「ワン!! ワン!!」
 突然、威嚇しているかのようなスノーの吠える声が聞こえる。

「ワン!!」
 私の襟を噛んだ様で、体が浮いたと思ったら、スノーの背中に乗せられていた。

 走り始めて、叫び声を上げる男性を置いていく。

「待ってくれ!」
 叫んでいるのが聞こえる。しかし、振り向けなかった。ただ震えることしかできない。

 耳を塞ごうと思ったとき、より男性の甲高い叫び声が響いた。今までとは違い明らかに尋常ではない。

 思わず、振り向いたとき、大きな黒い影が見えた。霧ではっきりは見えないが、明らかに5メートル以上はある。

 悲鳴が止んだと同時に遠くからでもはっきり聞こえた。

 骨と肉が潰れる様な音が……

「……!」
 心が音を立てて崩れそうで、息をするもの辛い。

 自分の腕に顔を伏せて、制御できない涙が零れ続けていた。

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