生存率0%の未来世界からの脱出

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第一章 剣の刺さった狼犬

12話 脱出

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「……!」
 私の両親と縫子さんが豪華な食事をとりながら、楽しそうに雑談しているのが見える。

 皆さん! 生きていたんですね! 良かったです……!

 直ぐにそこに向かって走り始める。

 距離はそんなに離れていないはずだ。3人共動いていない。しかし、どれだけ向かっていても追い付かない。むしろ離れて行っている……

 なんで!? なんでですか!? 

 混乱と焦燥感に駆られる。

「……ハッ!」
 目が開く……真っ暗な洞窟だ。

 夢でしたか……

 深いため息を吐く。

 自衛隊に保護されたら何となく助かる……とおもっていましたが、その認識は甘かったようですね。元の世界に帰るめども立ちませんし、それに、食料だって……このままでは餓死しそうです!

 それに、避難民の方がこれ以上増えたら、下手したら何も食べられなくなるかもしれません……このままだとまずいです……

 スマートウォッチ的な物を見る。

 このスキャン能力をうまく活用したら、問題は解決するかもしれません!

 秋人さんには信じて貰えませんでしたが、なんとか、明日、説得してみましょう!

 考え事をしていると、足音が近づいてきている音が聞こえる。

 いつもの見回りでしょうか?

 しかし、足音は私の前で止まった。

「……!?」
 体を触られている感覚があったため、思わず目を見開く。

「ッ!!?」
 衝撃の余り全身が震えあがる。

 目の前にはチョコレートで性交渉を持ちかけた男がいたからだ。興奮気味に息を立てて、目はギラギラしている。

「……!」
 悲鳴を上げたくても、喉から空気が漏れているかのように全く声が出せない。ただ、空しく空気が出る音が響くだけだ。

「お、お前が悪いんだから……!」
 男は私にのしかかり、ブレザーを剥がそうとする。

 男の体重と硬い地面に下半身が挟まれて激痛が走った。

 徐々に状況が呑み込めてくる。このままでは駄目だと……

 煮えたぎるような怒りが湧き上がって、本能的に自分を奮い立たせる。


「……!!」
 男の目に向かって拳を入れる。

「ぎゃぁ!?」
 小さな悲鳴を上げて、片目を抑える。

 その隙に抜けだそうとするが、男がのしかかっているせいで抜け出せない。

「だ、誰か!! 助けっ!?」
 息の詰まる思いで、何とか声をだすが、

 それに焦ったのか、男は私の首を絞め始める。

 呼吸が全く出来ずに、気が狂いそうなほど苦しい。

「……ッ!」
 酸素を求めて抵抗するが、手首が閉まるのが緩む様子が無い。

 どれだけ抵抗しても苦しさから解放はされない。

 意識が朦朧とした時、

 男の首が重量を失って落ちた。

 首が私の顔のそばに転がった後に、胴体も遅れて崩れ落ちた。

「……!?」
 何が起きたのか分からなかったが、解放されて、ようやく呼吸が出来るようになる。

 激しくせき込みながら、崩れてきた胴体から抜け出す。

 い、一体何が起きたんですか!?

 呼吸を整えながら周りを見ると、そこには一度見たら忘れるはずがない、剣を加えた白い狼……スノーが立っていた。
 どうやら、穴の開いている天井から来たようだ。

「ス、スノー!?」
 一瞬、驚きと戸惑いが混ざり合い、自分でもどういう感情で名前を叫んでいたのか分からない。

 しかし……

「も、もしかして、ずっと私を見守っていてくれてたんですか!? あんなに酷いことを言ったのに……!」
 嬉しさのせいか、胸が熱くなる。

「ワン!」
 
「スノー……!」
 駆け寄ろうとする。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 背後から男の絶叫が響く。

「!?」
 振り向くと、スノーが切り落とした男の生首が悲鳴を上げている。

「なんだ……って、うわぁぁぁ!!」「化け物だ!!」
 寝ていた避難民がその声で目を覚まし次々と悲鳴が伝染する。

「スノーは化け物ではありません!」
 必死に声を上げる。

 しかし、悲鳴と混乱は収まらない。

「何事だ!?」「何が起きているんだ!?」
 ライトを持った自衛隊が向かってくる。

「ば、化け物だ!」「人が殺された!!」
 避難民たちが半狂乱で声を上げる。
 
「化け物だ!!」
 スノーを見て銃を構える。

「……!!」
 スノーを庇うように前に立つ。

「待って下さい!! スノーは化け物ではありません!」
 
 自衛官達はひっ迫した様子で私の方に銃口を向けている。

「逃げろ! 危ないぞ!!」
 先頭に居る秋人が声を上げる。

「化け物だ!」「殺せ!!」「あの女もそうだ!」
 避難民の興奮気味の罵声が響く。

 銃口を向けられているが、そこまで怖くない。人命を重視する自衛隊なら人を巻き込んでまで撃ってこないなんとなくの安心感があるからだ。

「撃たないで下さい! スノーは私を守ってくれただけで人に危害はっ!?」
 スノーが突然、私を押し倒す。

 その直後、正面から銃声が鳴り響く。

 銃弾はスノーに直撃したようで、顔から血が垂れている。

「ばか、撃つな!! 人に当たる!」
 秋人が撃っていた自衛官を抑えていた。

 う、撃ってきた……!? もし、スノーが庇ってくれなかったら当たっていたかもしれません!
 そう考えると、脂汗が全身から滲み出る。

「グルルルル……!!」
 威嚇してるかのように唸り声を上げる。今にも襲う勢いだ。

 スノーの顔から銃弾が落ちた。あの時と同じく、銃弾は効いていない。

「……!」
 スノーが人をバラバラにした光景がフラッシュバックする。

「駄目です! スノー!! その人たちを傷つけては駄目です……!」
 焦燥感に駆られながら体にしがみ付く。

 犯罪組織の人たちはともかく、この方たちは、ただ自分自身を守ろうとしているだけです! だから、傷つけたらだめです……!

「何をしている!」「化け物を殺せ!」「その女も同類だ!」
 避難民から怒声が響く。

「落ち着け、皆!」
 秋人は宥めようとしているようだが、一向に収まる気配はない。

 他の自衛官も銃を下す気配はなく、表情も強張っている。

「スノー逃げましょう! 私も一緒に連れてってください!」
 避難民もヒートアップしていますし、いったん離れるのが一番です!

 スノーの上に乗る。

「……ワン!!」
 飛び跳ねて、天井に空いている穴から出ようとする。

「逃げるぞ!」「逃がすな!」「殺せ!!」
 避難民から怒号が響いていたが、銃弾は飛んでこなかった……

 外は星空すら見えない暗闇に包まれて、自分の手すらも見えない。

「スノー、あの時は、ごめんなさいです……!」
 心苦しさの余り、真っ先にその言葉が出る。

「ワン!!」
 元気よく吠える。気にしていないとでも言わんばかりだ。

「ありがとうございます……」
 反応を聞いて、少し心が軽くなる。

「所でどこに向かっているのでしょうか?」

「ワン! ワン!!」

「任せろって言う感じですか。分かりました!」
 どのみち、こんなに真っ暗でしたら、自分では動けないですしね。スノーに任せるしかありません!



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