大事に育てた畑を奪われたからこの村は見捨てることにした ~今さら許しを乞うても無駄なんだよ~(完)

みかん畑

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 この世界で殺人への抵抗があるかと言えば、それはイエスだ。
 だが、相手が人殺しに慣れた無法者ともなれば、情けを掛ける余裕はない。

「命だけはお助けを……! どうかご慈悲を……!」
「そう言って命乞いしてきた連中も殺してきたんだろ?」
「誓って殺しはしてない!」
「殺したら商売にならないもんな。お前らが人身売買に関与してることは分かってるんだよ。俺からしたら生かす価値もない人間だ」
「頼む! 反省してる!」

 口先だけの薄っぺらい言葉だ。
 信用する気はないが、俺は剣を下ろした。

 ゲーム知識を元にダイババが潜む遺跡に潜入したが、記憶通りのマップで安心した。しかし、ダイババの元へ向かう為には盗賊を殺して鍵をドロップしなければならない。

 ダイババはピラミッド型の遺跡の最深部におり、そこへ辿りつく為には専用の鍵が必要になる。

「見逃してくれるのか?」
「そんなはずないだろ。ダイババの居場所まで連れていけ。団員なら鍵を持ってるはずだよな」
「どうしてそこまで……」

 団員の疑問は当然だが、俺は転生者だ。
 ゲームに関わることなら知らないことの方が少ない。
 男は悔しさを滲ませた表情で頷いた。

「俺達も散々恨みを買ってきたからな。誰かがここの情報を嗅ぎつけたってことか」
「まあそんなところだ。どうする? ここで死ぬか、ダイババへの忠誠を示すか。まあ、お前が死んだところで鍵は奪うから関係ないがな」
「分かってる。俺は団長を信じて案内するさ」

 やはり素直に案内する気などサラサラなかったか。

 団員が俺に背中を見せて歩き始めたところで、俺は背後から剣を突き刺した。

「な、なんで……」
「お前が誤った通路へ誘導しようとしたからだ。その道はお前達が飼いならしている魔獣に通じる通路だよな?」
「死にたく……」
「あの世で奴隷達に詫びることだ」

 剣を抜いて血を払う。
 この世界に来てから初めて手を汚してしまった。

 いつかはこの時が来ると思ってたが、呆気ないものだ。

「死んだんですね」
「俺達を騙そうとしたからな」
「ま、仕方ないよな。どうせ裏切る腹積もりの奴だったんだし、殺さなきゃこっちがやられてただろ」

 ネリスはあっけらかんとしている。
 村という閉鎖的な空間にいた俺達兄妹と違って、彼女の方が現実を知ってるのかもしれない。

「こいつ、どうする?」
「放っておくしかない。隠そうにも場所がない。先を急ごう」
「せめて祈りを……」

 カナミが祈ってやってるが、行き先は地獄以外にない。

 俺は気持ちを切り替えて頭のなかでマップを広げると、正解を引き当てて通路を進んでいった。

 ピラミッド内は静かなものだ。
 盗賊が待ち構えているかと思ったが、誰も出迎えにこない。
 そういう意味ではさっきの盗賊は不運だったな。

 もっとも、早いか遅いかの違いだけで、盗賊団は壊滅させるつもりだが。

「おっと、お客さんのお出ましだな」
「私達で排除します。兄さんは力を温存してください」
「せっかく買った杖を試すぜ」

 現れた敵はピラミッドを根城にしているマミーという魔物だった。包帯を身体に巻いた人型モンスターだ。戦力値は66。今のカナミ達なら問題なく排除できる敵だ。二人は魔弾を掃射し、魔物達を蹴散らしてくれた。

 ゲームだったらもう少し時間が掛かったかもしれないが、この世界では首や頭といった弱点を狙えばクリティカル扱いになる。技の精度がそのまま強さに繋がるのは利点だな。ポリゴンと違って死体が残ってグロテスクなのはげんなりするが。

「どんなもんだ」
「修行の成果が出てきましたね」
「二人とも、頼りになるな」
「兄さんのお陰です」
「あたし達だけでもダイババに勝てたりして」
「それはないから油断するなよ」

 魔物がいなくなると靴音だけが響くようになる。

 俺は先を急ぎつつダイババを討伐した後のことを考えていた。

 ゲーム内では、盗賊王を倒すと財宝と黄金の鍵が手に入った。

 この黄金の鍵は別のダンジョンへの入口を開く為の鍵になっている。

 上質なマジックアイテムには上級、精霊級、神話級、幻想級の四つの等級が存在するが、黄金の鍵を使って入手できるアイテムは神話級だ。ただ、戦力値が250以上でクリアできるダンジョンなので、今手にしても全く意味がないんだよな。宝の持ち腐れだ。かつて仲間と踏破した道を、カナミ達と進むことはできるのか。それは、今後の俺次第だろうな。

 迷宮の深層へ階段を降りていく。
 と、開けた空間に出た。
 そこには銀色の毛並みの巨大な狼が居た。
 首領の飼い犬か。

 魔王が召喚した以外の魔物については、飼いならすことが不可能なわけではない。
 とはいえ、レベルの高い魔物を使役する為には高度な訓練と高い技量、そして何より魔物を飼いならし使役するだけの強さが必要だ。

 鑑定するとワーグという名称、そして戦力値80という数値が見えた。
 ダイババはあれを従えるだけの才覚があるということか。

 しかし、道理で遺跡内に潜んでいる手下が少ないはずだ。
 あれが一匹いれば、大抵の侵入者は始末できるだろうな。

「絶対に前に出るな。俺の背中に隠れてろ」

 カナミとネリスに命令する。

「支援は?」
「必要ない。注意を引きつけないでくれ」

 戦力値が数値で見えない二人には相手の恐ろしさが伝わないんだろうな。
 魔法を覚えてはしゃいでる二人を落ち着かせる為にも、俺は仕掛けた。
 レベルの違いを分からせる為に――

 ワーグは剣を構えて走ってくる俺を見ると、大気を震わせる程の音量で吠え、威嚇してきた。この時点でピリついた空気に足元をすくわれ、カナミとネリスは動けなくなっている。

 これは威嚇と呼ばれるスキルだ。自分より戦力値が低い相手を強制的に足止めする効果があり、二人には覿面てきめんだった。

 しかし、俺には通じない。堂々とワーグに向かっていき、剣をひと振りした。

 俺が剣を振った瞬間、水の魔剣の刀身が煌めいた。
 そして、魔剣の効果で水の刃が放たれる。それがワーグを切り刻んだ。
 出血の量、そして受けたダメージの様子から見るに、当たれば刀身が直撃する程度のダメージにはなりそうだ。

 ワーグが果敢に体当たりをしてくる。が、俺は剣でガードした。

(さすがに体力があるな……)

 ワーグは刃が食い込むのも構わず、俺を押し倒そうと体重をかけてくる。接近した状態では剣を振る余裕がない。だが、それでも俺が念じれば水の魔剣はその効果を発動した。零距離からの水刃。それがワーグの頭に直撃し、脳漿のうしょうを飛び散らせた。

 巨体が微かに揺らぐ。それは明確なチャンスだった。
 味をしめた俺は執拗に魔剣の効果を使う。
 魔剣の刀身が煌めく度に俺の魔力が吸われている感覚がある。

 三度目の水刃で、勝負は決した。

 意思の篭もった瞳と睨みあうこと数刻。
 ワーグの四肢から力が抜け、巨体がぐらつき倒れたのだ。

 訪れたのは、静かだが確実な勝利だ。

(これで戦力値80か……)

 この手で葬ったという実感が手に宿る。
 強かった……。しかし、俺の方が上だ。

「兄さん、倒したんですね」
「あ、あたし達、まだまだだったんだな」
「これ程の魔物はそういないんだがな」

 飼い犬を始末したことで道が開けた。
 もう、ダイババの寝床は目と鼻の先だ。
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