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14 他人様の迷惑を考えろ

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 俺達はワーグの死体を避けて進み、その先にあった石板の窪みへ盗賊から奪った鍵を挿した。すぐに変化が訪れて、行き止まりだと思っていた壁が崩れる。その先に見えたのは、地下へ通じる隠し階段だ。

 階段を下った先は、ダイババの寝床だろう。

「凄い。どういう仕組みなんですかこれ」
「さあな。古代人(運営)のセンスだ」

 俺が先導して先へ進む。長い階段を汗を流しつつ下ると、アリの巣みたいに通路が広がっていた。
 ダイババの部屋に通じる幅の広い通路と、左右に細かく分れた細い通路がある。
 やたら細かく道が別れているが、実のところほとんどは居住区だ。
 盗賊の幹部連中や、そいつらが囲ってる女達の寝床があるだけだな。

「出てこいダイババ! お前達を始末しにきたぞ!」

 俺はいきなり声を張り上げた。
 アジトは蜂の巣を突いたような騒ぎになり、幹部連中とおぼしき男達が三日月刀を手に集まってきた。

 鑑定するが、戦力値は70前後。
 王都にいる大抵の騎士より強いじゃないか。

「侵入者のガキめ!」

 一際強そうなのが出てきた。
 戦力値は74か。
 この中だとなかなか高いな。

 男が飛び込んできたので、水の魔剣と三日月刀で鍔迫り合いになる。
 俺は零距離からの水刃を使う。
 ヒュン、と飛んだ水の刃があっさり男の身体を裂いた。

「何を……っ」

 男がひるんだ隙に、剣を弾いて袈裟斬りにしてやった。
 ワーグとの戦闘で魔剣の使い方を覚えておいて良かった。

「こいつは強い……ぞ」

 それが、男にとって最期の言葉になった。

 俺は続けて剣を振るい、男の首を落とした。
 スプリンクラーのように血をまき散らしながら、首のない胴体が倒れる。

「この卑怯者! よくも副首領を!」

 残った賊が男の死を惜しみながら向かってくる。

 しかし、俺からすれば「知るかボケ」って感じだ。
 つうか、腹立たしいのが他人様に迷惑をかけまくってる癖に、こいつらが一丁前に感情をあらわにしてることだ。

 こいつらに捕まって人身売買の道具にされて、どれだけの人々が涙を流し絶望し、また命を奪われたことか。
 嘆く資格があるのはこいつらの被害者で、加害者であるこいつらにその資格はない。

 全くもって同情するに値しない連中だ。

 これが貧困が原因でパンを盗んでしまった男とかだったら、俺だって同情はする。斬ろうとも思わない。だが、目の前にいるのはクズのなかのクズ。他者の痛みに共感せず、残酷に女子供を拉致して売り物にできる連中だ。

 お前らのそれは自業自得だろうが。

 怒りに支配された俺は一切、躊躇わない。
 賊を次々に斬る。
 血だまりに沈める。

 比較的長い戦いが続いた。

 カナミとネリスも魔法を撃ちこみ、通路に出てきた盗賊達は殲滅された。
 さすがに息が切れた。日焼け対策に着てきたローブは血だらけだ。
 こんな格好で街に戻ったら通報されるだろうな。

「……先を急ぐか」
「兄さん、囚われてる人がいるかもしれません。一応、見ていきますか?」
「いないと思うが、一応見て回るか」

 こんな状況で他人の心配ができるなんてな。
 以前は甘さだと思っていたが、少し妹を見直してしまう。

「行くか」

 枝分かれした各部屋を見て回る。
 しかし、いるのは囚われた女性ではなく、自分から盗賊に身体を売った娼婦だけだった。

 女達は自分の男が死んだと聞くと、口汚く俺達を罵って出ていった。

 一応、安全の為に共に地上へ帰ることも提案したが、その必要はないと拒絶された。
 まあ、今なら魔物は排除してきたから安全に出られるだろう。

 しかし、無駄骨だった感は否めない。もちろん、そのことで妹を責めるつもりなどないのだが。

「あと一つ、部屋がありますね」
「一応見てこうぜ。すげー疲れてきたけど」

 最後の部屋の扉を開ける。
 その部屋は、他と違い豪奢な調度品の置かれた部屋だった。

 女が一人、怯えるようにベッドの隅で啜り泣いている。

 全く嬉しくないが、当たりか?

「あんたは……どっちだ? 自分からここに来た女か?」
「いいえ、違います! どうか助けてください!」

 ベッドで怯えるように泣いていた女が、俺達を見るなり走り寄ってきた。
 どう見ても賊に誘拐され、望まない仕事に従事していた女性だ。

 褐色の蠱惑的な肌。
 裸体でベッドシーツを身体に巻きつけ、心許ない恰好をしている。

「騒ぎを起こしてすまなかった。だが、もう大丈夫だ。ダイババ以外の盗賊は倒した。あとは頭をやるだけだ」
「私は奴隷のセラです。本当に、あなた方でダイババを討てるのでしょうか?」

 俺がどう返答をしようか迷っていると、カナミが叫んだ。

「兄さん避けて!」
「な……っ」
「くっ」

 突然、カナミの掲げた杖が光を噴いた。
 遅れて、魔弾が放たれたということに気づく。

 女が目を見開く。
 身体に巻き付けたベッドシーツに穴が空いている。

 カナミ……なんてことを……。

 女が脇腹を押さえて崩れ落ちた。
 カナミの撃った魔弾が命中し、深手を与えたのだ。

「いきなり何をするんだ!?」

 カラン、と何かが落ちる音がする。
 見るとセラが手元に隠していたナイフが落ちた音だった。

「……ダイババに命じられて侵入者を排除するよう言われてたのか」

 女は何も答えず、薄っすらと笑った。
 そのまま、固く目を閉じる。

 望んでやっているようには見えなかった。
 だが、本当のところは俺などには分からない。

「カナミ。今のは助かった」
「心臓に悪かったです。兄さんが死んじゃうかと思って……」

 危ないところだった。
 もし、カナミを連れていなかったら、俺はセラに刺されていたかもしれない。

 俺達は血塗られたアジトの個室を一つずつ確かめ、残存戦力が空になっていることを確認した。
 そして、もう増援が来ないことを確かめて奥の間へ進んだ。
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