大事に育てた畑を奪われたからこの村は見捨てることにした ~今さら許しを乞うても無駄なんだよ~(完)

みかん畑

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15 ダイババ

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 ダイババは奥まった部屋の私室で呑気に読書をしていた。
 欠伸をして俺達を出迎える。

「俺に殺される為によく来たな」

 三十過ぎの髭面の男だ。
 鑑定する。
 戦力値は110。
 ゲームと同じだな。

 そして、神から愛されたステータスだと言える。
 カルマオンラインで生を受けた人間のなかで、生まれ持った純粋な戦力値だけなら一番高い男だろう。

 ダイババが俺達を全く警戒していない理由が手に取るように分かる。

 誰も、強さにおいて彼と並んだことがないのだろう。
 今日、俺に出会うまで、まるでゲーム感覚で戦いに勝利してきたに違いない。

 他の盗賊から一目置かれていた男も、ダイババからすれば子供と変わらない。
 その隔絶した強さが、ダイババの人生を狂わせたのだろうか。

 どんな事情があるにせよ、俺が彼を許すことなどないが。

「お前が盗賊を率いて略奪を繰り返していたことは分かっている。俺の村の娘も奴隷にされた」
「だから俺を殺しにきたのか。何だつまらん。手下が裏切ったわけじゃなかったか」

 悪びれた様子が一切ないな。
 反省の気持ちなんて欠片もないらしい。

「死にたくなかったら剣を構えろ」
「小僧。まるで俺に勝てるような口ぶりだな。面白いが、俺の心を動かす程ではない」

 億劫そうにダイババが三日月刀を手に立ち上がる。

「俺の名は――」
「いい。どうすぐ死ぬんだ。このダイババとやりあって無事でいた奴なんかいねえ。お前もすぐに骸に変えてやるよ」

 まるで風のような動きだった。
 瞬間移動かと思わせる程の速度。

 ワーグ、そしてここにいた盗賊連中を倒したことで、俺のレベルは30に達した。
 戦力値は109まで伸びた。

 魔剣を使用せずにいた場合、彼我の戦力値の差はたったの1。
 しかし、それでもまだ1もかけ離れている。
 システムというのは残酷だ。
 1の違いが、ダイババに有利を与える。

 ダイババの方が、俺より僅かに早い。僅かに反射神経が上だ。僅かに筋肉も強い。ほんの少し、しかし埋めようのない差が、俺とダイババの間にはある。

 もし魔剣を持参していなければ、俺はジリ貧になって負けていただろう。
 ダイババの精神力は完成されている。
 運が俺を有利にするといったこともなさそうだ。

「何がおかしいんだぁ?」

 俺はあえて魔剣を抜かずに、賊から奪った三日月刀でダイババと打ち合っていた。

 カナミとネリスには反対されたが、俺はどうしてもダイババの強さを身を以って知っておきたかった。
 こんな機会、二度とないだろうからな。

 実力は伯仲している。
 内心、ダイババも舌を巻いていることだろう。
 人生でこれ程の使い手にあったことは、ないに違いない。

「クソが、思ったよりやるじゃねえか」
「あんたは想定していた通りに強いな。だが、想定以上に強くはなかった。安心したよダイババ。お前を潰すことに何の支障もない」
「何が言いてえんだぁ!?」

 もう分かった。十分に理解した。
 基本的にシステムは絶対だ。
 戦力値の差は埋めがたい絶対的な差だった。

「魔弾を撃て!」
「ちいっ」

 カナミとネリスにダイババの足を止めさせ、俺は距離を取って三日月刀を放り投げた。
 そして、水の魔剣を抜いた。
 瞬間、俺の戦力値は119へと変貌し、ダイババを上回った充実感に心が支配される。

「さあ、第二ラウンドと行こうか」
「うざってえんだよ!」

 連続で剣を振る。速度が、重さが、ダイババをいたぶる。
 奴の剣は俺を掠らず、俺の反撃は着実にダイババの身体を裂いていくようになる。

 俺の剣に当たればダイババの三日月刀は弾かれ、慌てて構えなおした剣も弾き飛ばされそうになる。

「俺は神の子だ! ダイババ様だ! 王国の騎士も冒険者も、俺には勝てねえ! そうだろう!」
「お前はただの負け犬だ。社会に馴染めず俺に裁かれるのを待っていただけの、ひ弱な男だ」

 初めて、ダイババの瞳に恐怖が宿った。
 そうだ、その感情が見たかった。
 倒すにしても、後悔もさせずに負かすことはしない。

 その為に、手を抜いてやってたんだ。

「うああああああ……!」
「お前にも見せてやるよ!」

 狂乱するダイババに水刃が直撃する。
 左手の指が飛び、ダイババが両手から右手に三日月刀を持ち替える。

 もう、こいつに勝ち目はなくなった。

「終わりだな。もう二度と、お前の思い通りになることなんて一つもないんだ」

 ヒューヒューとダイババが肩で息をする。
 その血走った目が、カナミに向いた。

「ああ……っ! あああああっ!」

 だが、遅いんだよ。
 カナミを人質にしようとしたダイババの、足の腱を切断した。

「俺を素通りして女に近づけるわけないだろ」

 全身を切り刻まれ、ついには右手を切断されてダイババは三日月刀を落とした。

「俺の負けだぁ……。許してくれ。俺を殺したら王子が黙ってない……」
「うるせえなぁ。少し寝とけよ」

 ダイババの腹を裂いてやった。

「あがああああ!」
「耳障りだから少し寝てろ」

 敗北したダイババを昏倒させ、雑にポーションを飲ませる。 
 こいつは生け捕りにする契約だったからな。

「連れ帰るんですね」
「たっぷりと罰を与えてもらう」

 両手両足を縛り、ロープで引きずって持ち帰ることにする。

「それと、セラも連れて帰らないとな。女を置き去りにするなんて最低だろ?」

 カナミが倒して動けなくなったセラだが、手足を縛った状態でポーションは飲ませておいた。
 このまま遺跡に取り残すわけにもいかないだろ。

 というわけで、道を引き返してセラを背負う。
 彼女のでかい胸が背中に当たって最高だ。
 ここまでグラマラスで色っぽい女もいないだろうな。

「兄さん、その方を助けるなんて……」
「タクマの命を狙った奴だぞ?」
「動けないように縛ってある。それに、何か事情がありそうだった。置き去りにはしない」

 敵であろうと女は見殺しにしたくない。
 それに、気絶する間際に見せた笑顔の理由が気になった。
 そういう思いで、俺はセラを背負って地上へ帰ることにした。

 街へ戻った俺は、まず疲れ切っていたカナミとネリスを宿に送り届けた。

 二人は一緒にギルドへ行くと言っていたが、汗臭いから湯あみを済ませるよう頼むと、言われた通りにしてくれた。

 二人とも年頃だからな。汗について指摘すれば無理についてこなくなるとは思っていた。

 その後、俺はセラを宿に預け、ダイババをギルドに送り届けた。

 王都と情報を共有していたらしいギルドはとんでもない騒ぎになったが、足止めされたくなかった俺はサルマンドのギルドマスターにダイババを引き渡して、明日の面談時に細かい情報を共有することで了承をもらった。

 というか、俺の恰好は鮮血まみれで髪まで真っ赤に染まっていた程だったから、向こうも長居はさせたくなかったんだろうな。

 そんなこんなで、俺は用事を済ませるとセラを預けた宿へ向かうのだった。
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