大事に育てた畑を奪われたからこの村は見捨てることにした ~今さら許しを乞うても無駄なんだよ~(完)

みかん畑

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22 大司教

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「お優しいんですね。報酬のほとんどを使って奴隷を助けるだなんて」

 道すがらそんなことを言われる。
 奴隷達の信用はまだ得られていないが、ミイナは少しだけ俺を見直したようだ。

「まあ、親父によく言われてたからな。弱い奴は守ってやれって」
「素敵な父親だったんですね」
「俺が唯一、尊敬している人だ」

 養父ガラン。自称記憶喪失だったガキを育ててくれた恩人だ。ガラン以外はクズばかりだったが、あの人がいたから俺は人間を心底嫌わなくて済んだ。そういう意味でもあの人は恩人だ。

 俺とミイナは教会へ向かった。
 帯剣したままミイナと共に大司教の部屋へ向かう。
 途中、何人かが俺の腰に提げている物を見て驚愕していた。

「この剣に覚えがあるらしいな」
「それは元々教会の宝物庫にあり、クオンに託されたものですから」

 なるほどな。
 あいつと俺が入れ替わってたらそりゃ気になるよな。
 その件も含めて話しておく必要があるだろう。

 ミイナが大司教の部屋をノックする。
 返事を待って執務室に入ったが、俺は調度品の多さに眩暈がした。
 ここは美術館か何かか? 壁には歴代の大司教の壁画まで飾られている。

 やたら金の掛かってそうな部屋に大司教はいた。
 年寄りを想像していたが、まだ年若い二十代前半の男だった。

(ミイナを拾ったと聞いていたが、ずいぶんと若いな)

「入りたまえ。クオンはどうした」
「聖剣が彼――タクマを選びました。この方が新しい勇者です」
「おや、どこで冗談を覚えたんだ?」

 笑っていた大司教が、聖剣を見て真顔になった。

「神も残酷な真似をなさる。それで、彼は冒険者かね? ダイババの討伐はどうなった」
「冒険者としてタクマが倒したそうです。その帰り道にクオンの誤解から剣を交えることになり、最終的に聖剣は彼を選びました」
「教会はいいところなしだな。推薦した勇者は聖剣を奪われ、懇意にしている第一王子からの依頼は冒険者ギルドに持って行かれた」
「申し訳ありません」
「全ては神のお導きだ。君が謝ることじゃない。しかし、クオンには申し訳ないことをしたね。無事に魔王を討つことができたら、君との婚姻を考えると話していたんだが」

 ミイナは話を聞いて寂しそうにしている。
 まだクオンに情が残ってるらしいな。当然だが。

「彼と二人で話がしたい。席を外してくれるか」
「……はい」

 ミイナが出ていく。

 俺は一人取り残され、大司教ラグエルと二人きりになった。

「少し飲まないか。いい時間になってきた」

 既に日が落ちて久しい。
 俺はラグエルの提案を飲み、グラスを受け取った。

「新しい勇者の誕生に乾杯」

 なみなみと注がれたワインに口をつける。
 胃が熱くなり、身体にガソリンでも流し込まれた気分になった。

「楽にしてくれ。新しい勇者と親交を深めたい。そういう場だと思ってくれると嬉しい」
「何か頼みごとがあるなら単刀直入に言ってくれたら聞くぞ」

 その方が俺も頭を使わずに済む。
 俺が切り込むと、ラグエルは笑った。

「余裕がなくなっているようだね。逆に、何か悩みがあるなら聞こうか。私は大司教だし、子羊の話に耳を傾けるのも職務だ」
「そういうことなら、第一王子に取り次いで欲しい。盗賊王ダイババの妹であるセラを俺の奴隷にした。保護したいと思っている」
「なるほど。教会は、君に依頼をした第一王子と懇意でね。この国には二人王子がいるが、信仰に熱心なのは第一王子の方なんだよ。第二王子は反対に教会を毛嫌いしてる。乞食のように寄付を願って財政を傾けるんだから当然だな」
「大司教にあるまじき暴言だな」
「フフ、だが君もこの部屋を見て驚いていただろう。この国の馬鹿共は奴隷を虐げても教会に寄付をすれば天国に行けると思ってるんだ。まったく下らないよ」

 ラグエルと身体が温まるまで酒を飲み続ける。

「君の相談については了承した。私から王子に取り次げるようにしよう」
「本当か?」
「ああ、本当だとも。ところで、君は無宗教なのかな。あまり信仰を大切にしている気配はないね」
「セラの件が上手くいったら改宗してもいいと思ってる」
「それは話が早くて助かるな。聖剣は代々教会が管理していたものなんだ。部外者に持ち出されると体面が悪い」
「それは構わないが、どうしてこんな大層な剣が小国にあるんだ」

 神話級の聖剣など何処にでも転がっているものではない。
 戦力値250以上で挑める難関クエストを攻略し、ようやく手に入るものだ。
 疑問に思っていたので尋ねると、ラグエルは詳細に答えてくれた。

「この国……ラムネアはかつて覇権国家だったんだ。王位継承争いで国が割れなきゃ今も大国だったかもしれないが、かつての栄華の名残は今も国の至るところにある。その内の一つがその聖剣だったわけだ」
「なるほどな。この国で勇者が誕生した理由が分かった」

 パッケージにも乗るような人物がこんな辺境国をウロウロしてる理由が気になってたが、かつてラムネアが近隣諸国まで支配していた名残らしい。これでスッキリできた。

「あんた達は俺に魔王を倒して欲しいんだろな」
「倒すに越したことはないが、時期というものがある」
「面白い考えだな。魔王を倒すのに時期が重要なのか?」
「ああ、重要だとも。今、魔王はブルーム共和国を攻めている。敵の敵は友軍と成り得るのではないかね?」

 ブルーム共和国。
 この世界でラクシア帝国と並ぶ強大国だ。
 その国力を、ラムネアは削ぎたいらしい。

「ラムネアの何倍も国力がある大国だが、戦いはどうなってるんだ?」
「何と言えばいいかな。魔王や魔物は結界の張られた街には決して侵入することができない。それは君も知っているだろう?」
「この王都にも張られている結界だな。古の神が張ったんだったか」

 ゲームでの仕様と同じだ。魔王や魔物は街に侵入できない。
 街に入れるのは人間やその家畜だけだ。

「そう、それがある限り、魔王は人間の街を支配することはできない。だが、人間も街から一切出ずに暮らすことはできない。食糧や交易の問題があるからだ。また、ブルームのなかには近年になって作られた、結界の存在しない都市などもある。そういったところは魔王に攻められればひとたまりもない」
「自分から振っておいて何だが、あまり明るい話にはなりそうにないな」
「そうだろうとも。ブルームでは餓死者が増え、交易もままならず大変な被害を被ってるらしい。因果とはいえ、同情はするよ」
「ラムネアから支援はしないのか?」
「ブルームは勇者を貸せと言ってきたが、病床の陛下は断ったそうだ。我々に不利な条約を押しつけてきたブルームが今更どうなろうが知ったことじゃない。そういう理屈らしい」
「そうだったのか」

 ブルームの民には同情するが、現状では俺も魔王に対抗することなどできない。
 断ってもらって助かった。やはり気分のいいものではないが。

「まあ、君は自分の問題を解決することに集中するといい。国の命令として君に魔王討伐の依頼が下りるのはまだ先のことだろう。少なくとも、魔王達がブルームで遊んでいる間は我々に被害はないのだから」

 別れ際、ラグエルからは第一王子につくようアドバイスを受けた。

「第二王子はいずれ全てが明るみに出て裁かれる。幼い子供を食い物にしたんだ。当然の報いだ」

 覚えておこう。俺はそう言って彼と別れた。
 火照った頭が、冷たい風にあたって冷めていくのを感じた。
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