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24 雇用予定

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「そういや、宿のベッド四つしかなかったよな」
「二部屋しか借りられなかったので、少しベッドが足りないですね。何人かはソファで寝ると言っていましたが」
「毛布を買い足して今夜は耐えてもらうしかないな」
「気が利きますね、タクマ」

 そんなやり取りがあって。
 宿に戻ると俺の評価は無駄に上がってしまった。

 帰りに毛布が足りないことに気づき買っていっただけなのだが、困っていた彼女達は俺のことを神か何かのように崇め始めたのだ。尊敬のハードルが下がり過ぎだろ。

「本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません!」

 奴隷にされていたエリスが優雅に一礼する。
 奴隷市場で気丈にも他の娘を庇っていたので記憶に残っていた。
 気位が高そうだが、情に篤い信頼できそうな女だと思う。

 しかし、洗練された所作だな。
 自分の購入した物の価値を分かってなかったので、少しうろたえてしまう。

「元貴族か何かか?」
「没落した家の娘です。行く宛もなく彷徨っていたところを奴隷にされました。一度は神に見放されたものだと思いましたが、タクマ様のような殿方に拾っていただいたこと、神に感謝しています」
「そうか。まあ、これからは自分の為に生きてくれ。行く宛がないなら面倒は見るが、お前達を無理に拘束するつもりはない」
「そんな……。私など金貨300枚で買ってくださったのに」
「これからの人生に比べたら大した金額じゃない。気にするなと言っても難しいだろうけどな」
「タクマ様……。どうか私達をお傍に置いてください。私以外の娘は平均年齢も十代半ばと若く、ここを出ていっても帰る場所がありません。だからどうか……」

 スラスラと説明してくれるエリスだが、彼女だってまだ十八歳くらいに見える。
 俺みたいにチート能力があるわけでもなし、放り出す気にはなれないな。

「分かった。実は近日中に屋敷へ移り住むことになっている。そこでひとまず面倒を見ようじゃないか」
「ありがとうございます! 皆、挨拶をしてください」

 エリスの号令で奴隷にされていた娘達が集まってくる。
 しかし、近くで見ると何と言うか……若すぎないか?

「リコです。十三歳です。文字が書けます。よろしくお願いします」
「ミオと申します。十四歳です。こちらにいるのがユナ、十三歳です。それとノノはまだ十二歳なのですが、妹達の分も一生懸命働きます! だからどうか……」
「あ、ああ、分かってる。まあ、無理はしないようにな。俺は貴族でも何でもないから、そんなに厳しくないと思ってくれていい。メイドの真似事のようなものをしてくれたら助かる」
「はい!」

 気合十分のミオ、それと同じく三姉妹のユナとノノか。ユナはおっとり系で、ノノは遊び盛りの幼い少女に見える。最初に挨拶したリコはリラックスした様子で落ち着いている。将来大物になりそうだな。うーん。しかし、ロリメイド四人か……。

「もし、特別な要望がありましたら私にお申し付けください。きっと満足していただけるよう努力しますので」

 三姉妹の長女、ミオとは別の意味で覚悟が決まったエリスだ。

 非常に濃いメンツが集まってしまった。

 まあ、年齢はともかくとして、奴隷にされていただけあって娘達のレベルは高く、ギャルゲーのヒロインくらい可愛い女の子達だった。まだ子供なのも多いし、助けて当然だろう。

 しかし、俺が彼女達を助けたのは完全にエゴだ。
 もし捕まってるのが男達だったら金を積む気は一切なかった。
 その辺の機微が分かってないから、ミイナも俺みたいなのを評価するんだろうな。

 ちらりと見ると、ミイナは「うんうん」と誤解した笑顔で頷いている。

「やっぱりタクマは器の大きい方ですね」
「そんなわけないだろ。今日はもう休ませてもらう。何かあったら呼んでくれ」

 これだけの女達と一緒に居るのは精神的にキツイ。
 というわけで、俺は隣室へ移って休むことにした。

 妹達は俺が奴隷を一括購入したことに呆れていたので、今日は別の部屋で休むことになるかもしれない。
 たまには一人でゆっくり休みたいと思うが、ベッドの数が足りない問題がある。
 やはり、後から俺の部屋に合流するかもしれない。

 眠気はこなかったが、ひとまずベッドで横になることにした。

 そうして考え事をしながら床に就いていた俺だったが、十五分くらいした時にノックの音が鳴った。
 対応すると、カナミ、ネリス、セラの三人が扉の前に立っていた。

「……まあ、こっちの部屋の方が広々使えるからな」

 納得して部屋に通したんだが、部屋に入れるなり彼女達は頭を下げてきた。

「兄さん、ごめんなさい」
「あたしも、ごめん」
「え? いや、急にどうした。部屋を共有することなら当然だと思ってるが」

 疑問に思ってるとセラが困り顔で教えてくれた。

「奴隷を買うってあなたが言い出した時、私達は疑っていたのよ。どうせ手籠めにするつもりで保護したに違いないって」
「でも、タクマは奴隷の為に毛布まで準備して、手を出す素振りもなかった。あたし達、揃いも揃ってミイナに説教されてな。タクマのことを誤解するなって」
「いや、俺なんか誤解されて当然な屑だ。実際、三人も女を作ったし」
「それは日本の風習なんだろ? お前は悪くない」

 当たり前のようにネリスに否定されて思い出す。
 そういえばそんな嘘もついてたな。

「今さらだけど、それも嘘だ。俺はお前達を繋ぎとめたくて嘘をついたんだ。最低だろ?」

 上がり過ぎた好感度がうっとうしいので本当のことを言ってしまう。
 軽蔑されると思ったら、カナミは嬉しそうに微笑んだ。

「兄さんが心を開いてくれて嬉しいです」
「え? まさか、気づいてたのか?」
「さすがに嘘だなと薄々は感じていましたが、自分から告白してくれるとは思いませんでした。気づいてませんでしたか? 私達、兄さんに愛されたくて騙されたフリをしていたんですよ?」
「なんだって?」
「可愛いな。タクマ、もう嘘はつかなくていい。あたし達が、お前の心を受け止めるから」

 孤児院での一件でミイナは俺に惚れこんでくれたらしいが、聖女の影響力を甘く見ていた。まさか、女達までミイナに感化されるとは。

「今日のこと聞いたわ。身寄りのない男の子に、誰にも頼まれてないのに自分から絵本を読んであげたって」

 誤解されすぎて怖い!

「本当に偶然だ! ただの気まぐれだぞ!」
「またそんなことを言って。兄さん、眼帯の女の子も行き場がないからと引き取るそうじゃないですか。ツンツンしてるように見えて本当に優しいんですから」
「こんな素敵な男なんだから、何人惚れても仕方ないよな……。だけど、お前の一番はあたし達なんだから、それは忘れちゃダメだぞ?」
「そうですよ。兄さんと結婚できるのは私達の特権なんですから」

 気まぐれに善意を見せただけで、とんでもなく評価されてしまった。

 結局、何を言っても良く取られてしまうので、この日は説得を諦めた。
 疲れていた俺は女達と交わらずにぐっすりと休ませてもらった。
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