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32 まっとうな道
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「最低な人達ですね」
俺の家に入るなり、ミイナは不快そうに呟いた。
俺だって同意見だ。カナミまで狙っていたことは許せそうにない。
多くの村人から謝罪され、村長からは聖女に口利きをして欲しいと土下座までされたが、怒りが増すだけだった。あんなものは謝罪ですらない。
今さら許しを乞うても無駄なんだよ。
畑の件だけじゃない。妹まで犯そうとしたんだ。
許せるわけないだろうが。
「兄さん、長い間すみませんでした。兄さんが苦しんでいるのを知りながら、何もできず……」
「結果的に言えば、お前の身体を守れた。それだけで十分だ」
「兄さん……。私、兄さんの妹で良かったです」
カナミを抱きしめる。
いい胸してるな。
「あ、兄さん。大きくなってますね」
「不潔です」
ミイナに断罪された。
いい話になりかけてたのに、俺のせいでごめんな。
しかし人生とは分からないものだ。
まさかミイナを連れて帰ったことで、村に終焉をもたらすことになるとは。
若い連中は村を捨てて王都に移り住んでたから、どの道終わりは近かったんだろうけどな。
村に残ってたのは家業を継がされる連中と、村長とよろしくやってた親戚連中だけだ。
他の奴らは成人を迎えるとさっさと村を捨ててしまった。
老人が若者を食い物にする構造を、どこかで感じ取っていたのかもしれない。
結果から言えば、捨てて正解だったわけだ。
「タクマ、私にもギュってする権利をあげるわ」
アリシアがせがんでくる。
彼女は村長の家には泊まらず、俺と居ることを選んだ。
一緒にいれば安心だと思ってるんだろう。
「村長の家に行かなくていいのか?」
「いいの。タクマと一緒にいてあげる」
アリシアは胸は薄いが可愛い女だ。
村ではカナミと争う美人だった。
かつての高嶺の花が誘うように俺を見つめている。
二人きりだったら抱いてたな……。
「あたし達がいるの忘れてないよな?」
「分かってるって」
釘を刺すネリスも可愛い。
抱き上げていっぱい突いてやりたいが村に滞在してる間はお預けだろう。
少しでも隙があればトイレに連れ込んでやってたが、ミイナが目を光らせているのでその隙はない。
「またエッチなこと考えてたろ」
「今日は早めに休もうな」
あわよくば夜中に目覚めてネリスをトイレに連れ込めるかもしれない。
いや、そんなことをしたらネリスに魔法を撃たれるかもしれない。
里帰りで変異体を発動させるなんて情けなさすぎるので、大人しく休むことにした。
ドンドンドン。
と、女達と早めの就寝準備をしていると誰かが尋ねてきた。
警戒しつつ外に出ると、媚びるような笑顔のロシノが立っていた。
お前……。本当に諦めないよな。
タフな交渉人だ。
「よう、せっかく戻ってきたんだ。少し話そうぜ」
「そうだな。お前とは話すことがあった」
家から離れるつもりはない。
扉から少し離れたところで、俺は足を止めた。
「ここでいいだろ」
「ああ、それで、まあ用件はアレだ。ほら、村の連中が破門になるってやつ。あいつら馬鹿だよな。お前を良いように使ってきた罰が当たったんだ。特に村長は酷かった。畑ってのは農家にとって子供のようなものだ。それを取り上げるなんて許されない。そうだよな?」
ヘラヘラと笑いながらロシノが言葉を続ける。
何を言いたいのか俺にはサッパリ伝わってこないが。
「だから、俺が何を言いたいかっていうと、お前の妹は俺が娶るって約束じゃないか。そうなると俺達は義兄弟になる。つまり、俺は例外だよな? あの聖女様が言ってた破門の件、俺は該当しないよな?」
「ああ、そのことか」
そういえばまだ言ってなかった。
「妹だけどな。俺に惚れてたらしい」
「……は? 兄妹だぞ? お前、当然断ったんだよな?」
「いや、考えてみたら俺が苦労して食わせてきたんだ。俺が収穫するのは当然だろ」
「お前、ふざけてんのか! 妹に手出すなんてありえねえだろ!」
「いや、普通に抱けたよ。元々血は繋がってないしな。色々と落ち着いたら結婚もするつもりだ。親父には怒られるかもしれないが、いつかあの世に行ったら詫びるさ」
「てめえ、クズかよ! じゃあ、アリシアはどうなんだよ! 二人とも妻にするのか!?」
「まさか未練があるのか?」
嘲笑ってやる。
そんなに大事ならどうしてカナミに乗り換えようとしたんだ。
「アリシアは死んでると思ったんだ。あいつ、村の男にも人気あったけど、ムカつく態度ばっか取ってたからな。やって、誰かが森に捨てたと思ったんだ。まさか生きて帰ってくるとは思わないだろ! なあ、お前から説得してくれないか!」
「お前じゃアリシアは支えられない」
「いいや、支えられる! 二股なんかしてるような男に俺は負けない!」
「四股だ」
「は……?」
カナミ、ネリス、セラ、アリシア。
「皆、納得してる。俺は四人と結婚する」
「ふざけんなよ……。はぁ? そんなの許されるか。お前、最低じゃねえか!」
「やっぱり俺って最低なのか?」
「ふざけんじゃねえよ! ふざけすぎだ! ずるいだろ!」
「ずるいかどうかは知らん」
「俺と勝負しろ!」
「いや、何でそうなる」
「俺のはずだったんだよぉ!」
意味不明な言葉を喚きながらロシノに殴りかかられた。
本気を出す気も起きず、俺は足を引っかけてロシノを転がした。
「分かるだろ。俺とお前じゃ喧嘩にならない。もう帰れ。お前も村を捨てて自由に生きろ」
「クソ……! クソ!」
ロシノを助け起こして背中を叩く。
「カナミとアリシアのこと、せめて絶対に幸せにしろよ」
「お前に言われるまでもない。お前は、もっと色々な奴に親身になってやれ。そうすりゃ俺なんかよりモテる」
「うるせえよ。誰がお前なんかのアドバイス当てにするか」
愚痴りながらロシノは帰っていく。
その背中に声を掛ける。
「なあ、お前は村に残るのか?」
返事はないと思ったが、ロシノは答えた。
「この村の男連中がお前の妹にしようとしたことは最低だ。なのに、俺は止めるどころかそのことすら知らなかった。俺には、この村をまとめる資格はない。明日にでももう村は出るよ。ずっと……すまなかったな」
謝られたところで友人になる気などない。
だが、俺の中では一つの区切りがついた気がした。
遠ざかっていく背中を見送って、俺は家に入った。
俺の家に入るなり、ミイナは不快そうに呟いた。
俺だって同意見だ。カナミまで狙っていたことは許せそうにない。
多くの村人から謝罪され、村長からは聖女に口利きをして欲しいと土下座までされたが、怒りが増すだけだった。あんなものは謝罪ですらない。
今さら許しを乞うても無駄なんだよ。
畑の件だけじゃない。妹まで犯そうとしたんだ。
許せるわけないだろうが。
「兄さん、長い間すみませんでした。兄さんが苦しんでいるのを知りながら、何もできず……」
「結果的に言えば、お前の身体を守れた。それだけで十分だ」
「兄さん……。私、兄さんの妹で良かったです」
カナミを抱きしめる。
いい胸してるな。
「あ、兄さん。大きくなってますね」
「不潔です」
ミイナに断罪された。
いい話になりかけてたのに、俺のせいでごめんな。
しかし人生とは分からないものだ。
まさかミイナを連れて帰ったことで、村に終焉をもたらすことになるとは。
若い連中は村を捨てて王都に移り住んでたから、どの道終わりは近かったんだろうけどな。
村に残ってたのは家業を継がされる連中と、村長とよろしくやってた親戚連中だけだ。
他の奴らは成人を迎えるとさっさと村を捨ててしまった。
老人が若者を食い物にする構造を、どこかで感じ取っていたのかもしれない。
結果から言えば、捨てて正解だったわけだ。
「タクマ、私にもギュってする権利をあげるわ」
アリシアがせがんでくる。
彼女は村長の家には泊まらず、俺と居ることを選んだ。
一緒にいれば安心だと思ってるんだろう。
「村長の家に行かなくていいのか?」
「いいの。タクマと一緒にいてあげる」
アリシアは胸は薄いが可愛い女だ。
村ではカナミと争う美人だった。
かつての高嶺の花が誘うように俺を見つめている。
二人きりだったら抱いてたな……。
「あたし達がいるの忘れてないよな?」
「分かってるって」
釘を刺すネリスも可愛い。
抱き上げていっぱい突いてやりたいが村に滞在してる間はお預けだろう。
少しでも隙があればトイレに連れ込んでやってたが、ミイナが目を光らせているのでその隙はない。
「またエッチなこと考えてたろ」
「今日は早めに休もうな」
あわよくば夜中に目覚めてネリスをトイレに連れ込めるかもしれない。
いや、そんなことをしたらネリスに魔法を撃たれるかもしれない。
里帰りで変異体を発動させるなんて情けなさすぎるので、大人しく休むことにした。
ドンドンドン。
と、女達と早めの就寝準備をしていると誰かが尋ねてきた。
警戒しつつ外に出ると、媚びるような笑顔のロシノが立っていた。
お前……。本当に諦めないよな。
タフな交渉人だ。
「よう、せっかく戻ってきたんだ。少し話そうぜ」
「そうだな。お前とは話すことがあった」
家から離れるつもりはない。
扉から少し離れたところで、俺は足を止めた。
「ここでいいだろ」
「ああ、それで、まあ用件はアレだ。ほら、村の連中が破門になるってやつ。あいつら馬鹿だよな。お前を良いように使ってきた罰が当たったんだ。特に村長は酷かった。畑ってのは農家にとって子供のようなものだ。それを取り上げるなんて許されない。そうだよな?」
ヘラヘラと笑いながらロシノが言葉を続ける。
何を言いたいのか俺にはサッパリ伝わってこないが。
「だから、俺が何を言いたいかっていうと、お前の妹は俺が娶るって約束じゃないか。そうなると俺達は義兄弟になる。つまり、俺は例外だよな? あの聖女様が言ってた破門の件、俺は該当しないよな?」
「ああ、そのことか」
そういえばまだ言ってなかった。
「妹だけどな。俺に惚れてたらしい」
「……は? 兄妹だぞ? お前、当然断ったんだよな?」
「いや、考えてみたら俺が苦労して食わせてきたんだ。俺が収穫するのは当然だろ」
「お前、ふざけてんのか! 妹に手出すなんてありえねえだろ!」
「いや、普通に抱けたよ。元々血は繋がってないしな。色々と落ち着いたら結婚もするつもりだ。親父には怒られるかもしれないが、いつかあの世に行ったら詫びるさ」
「てめえ、クズかよ! じゃあ、アリシアはどうなんだよ! 二人とも妻にするのか!?」
「まさか未練があるのか?」
嘲笑ってやる。
そんなに大事ならどうしてカナミに乗り換えようとしたんだ。
「アリシアは死んでると思ったんだ。あいつ、村の男にも人気あったけど、ムカつく態度ばっか取ってたからな。やって、誰かが森に捨てたと思ったんだ。まさか生きて帰ってくるとは思わないだろ! なあ、お前から説得してくれないか!」
「お前じゃアリシアは支えられない」
「いいや、支えられる! 二股なんかしてるような男に俺は負けない!」
「四股だ」
「は……?」
カナミ、ネリス、セラ、アリシア。
「皆、納得してる。俺は四人と結婚する」
「ふざけんなよ……。はぁ? そんなの許されるか。お前、最低じゃねえか!」
「やっぱり俺って最低なのか?」
「ふざけんじゃねえよ! ふざけすぎだ! ずるいだろ!」
「ずるいかどうかは知らん」
「俺と勝負しろ!」
「いや、何でそうなる」
「俺のはずだったんだよぉ!」
意味不明な言葉を喚きながらロシノに殴りかかられた。
本気を出す気も起きず、俺は足を引っかけてロシノを転がした。
「分かるだろ。俺とお前じゃ喧嘩にならない。もう帰れ。お前も村を捨てて自由に生きろ」
「クソ……! クソ!」
ロシノを助け起こして背中を叩く。
「カナミとアリシアのこと、せめて絶対に幸せにしろよ」
「お前に言われるまでもない。お前は、もっと色々な奴に親身になってやれ。そうすりゃ俺なんかよりモテる」
「うるせえよ。誰がお前なんかのアドバイス当てにするか」
愚痴りながらロシノは帰っていく。
その背中に声を掛ける。
「なあ、お前は村に残るのか?」
返事はないと思ったが、ロシノは答えた。
「この村の男連中がお前の妹にしようとしたことは最低だ。なのに、俺は止めるどころかそのことすら知らなかった。俺には、この村をまとめる資格はない。明日にでももう村は出るよ。ずっと……すまなかったな」
謝られたところで友人になる気などない。
だが、俺の中では一つの区切りがついた気がした。
遠ざかっていく背中を見送って、俺は家に入った。
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