大事に育てた畑を奪われたからこの村は見捨てることにした ~今さら許しを乞うても無駄なんだよ~(完)

みかん畑

文字の大きさ
52 / 118

52 プレリュード※追想

しおりを挟む
 死の瞬間の記憶は、痛みというより不快感の方が大きかった。
 俺は太った豚のようなサラリーマンに押し出され、ホームから転落した。
 直進してくる電車は快速で、俺が通学に使っていた駅は普通電車しか止まらなかった。だから、俺がミンチになるのは確定事項だったと言える。

 俺はホームの下に逃げようとしたが、それよりも電車の方が速度は上だった。
 ああ、せっかく運動を頑張って特待生コースの枠を勝ち取って、バイトをして暖かい飯が食えるようになって、家にも少しは金が入れられるようになったのにな。

 こんなところで俺は死ぬのか? 最期の瞬間、俺の頭にあったのは申し訳ないという思いだった。

 俺のお袋は世間一般で言えばクズに該当されるらしい。

 だが、俺からすれば立派なお袋だった。
 メシは作らないしギャンブルで借金は作るしパチンコが大好きな親だったが、高校だけは行けと言って何とか学校に行けるように金を工面してくれた。

 お袋はよく知らないオッサンを家に入れてセックスしてたから、あまり家に帰るのは好きじゃなかった。だけど、オッサン達は俺に小遣いをくれて、母のことも一応愛してるみたいだったから、気前のいい奴らだった。ただ、でかい声で喘ぐから迷惑ではあったが……。

「親孝行、何にもしなかったな」
「ならチャンスをくれてやろうか。わいは優しい神様なんや」

 気がつくと、俺は白い部屋にいた。
 そこは小さな個室で、自称神のオッサンが対面に座っている。

 部屋には机と、ノートパソコンが一台だけ置かれている。
 電源ケーブルが部屋の隅のタコ足から伸びていた。
 パソコンは開かれ、既に起動はしているようだ。
 ジジジ……とハードディスクの音が聞こえる。

「よう、まだ若いのに死んだな、あんちゃん。わいのことは気軽に神様って呼んでくれや」
「神……。あんたがか?」

 白いスーツを着たオッサンだ。ヤのつく職業っぽい見た目だが、まっとうな神なのだろうか?

「まあ、神って言っても底辺の方やけどな。一口に神って言ってもぎょうさんいるんや。破壊神、管理神、創造神、外道神……」
「あんたは外道神なのか」
「破壊神や! おっそろしいこと言うなや! 外道神言うんはな、よその創造神の管轄に入ってきて話も聞かんと全部壊して自分の世界に作り変えようとするそら怖ろしい奴らなんや! これを撃退する為に、わいらみたいな破壊神がおるんやで。いわばわいは世界の守護者やな!」
「へえー。すごいなー」
「ほんまにそう思ってるんかいな!」

 ノリが良くてテンション高めの神様みたいだな。

「ところでその胡散臭い関西弁もどきは何だ?」
「うっさいのう。指名入るようにお前はそうしろって、ウチの親父がそう言うとるんや。この人相やからなぁ。まあしゃーないけど。……ああ、お前は一回目やから知らんくても無理ないけど、人は死ぬとその後のライフプランを神と話し合って、天国にいけるよう得を高める修行をするんや。その今後の人生相談みたいなんを、誰とやるんかをお前は次回から選ぶことができる。まあ、指名するんはランダムに当たった過去の神様の中からやけどな。お前が次に会った神が途中であわんなー思ったら、すまへんけど前の人と交代してもらえんかーゆうたらチェンジできるから覚えとき」

 美少女の神にあたったらずっとそれをキープしておけるのか。
 いい仕組みだな。

「お前こんなに親身になってやってんのに、もうわいのこと切ろうとしてるやろ。ほんまどいつもこいつも顔やな!」
「本題に入ってくれ」
「うわ冷た……。はぁーーー。まあええわ。単刀直入に言うで。お前に取れる選択肢は次の三つや。①もう一度地球人に転生する。②前世の経験を生かして、異世界に転生する。③徳を消費して天国に行く」
「ならば俺は③を選ぼう」
「行けるか! なんでそう自信満々なんや。お前の徳は3! 地球で何しとったんや! ……って、怒るのも酷やったな。そんな若い身空で死んでもうたんやもんな」

 シンミリする神様だ。
 わりといい神様らしい。
 次も美少女じゃなかったらこの神に頼もう。

「②はどういうやつなんだ?」
「これは、まあなんて言うたらいいかな。オンラインゲームってあるやろ」
「俺もやってたぞ」
「その世界に行って、勇者として魔王を倒すんや。しかし、これが一番きつい。剣とか魔法とかの世界やから、適正ないのが行ってもおっそろしい死に方するだけなんや。一応システムのサポートは得られるけどな」
「そんなに難しいことなのか? オンラインゲームは勝てるゲームだ。怯えなければ勝てるはずだ」
「その怯えるなっていうのが普通は無理なんやけどな。ちなみに②を選んだ場合、お前には④の選択肢ができるで。破壊神に昇格して外道神と戦うっていう選択肢や。異世界で修練を積んだ魂は強力になるからな。戦力として活躍が見込めるっちゅう話や。破壊神はええぞー。気に入った女を自分の天国に住ませられるからな」
「なんだと?」
「天国っちゅうんはそれぞれの神様が持ってる固有の世界のことや。徳の高い魂は神様の面接を受けて、合格すればその天国の住人になれるんや。徳の高い魂は、その神の力の源になるからな。せやから神様の目的は魂を導いて徳を上げて、自分の天国に住ませるっちゅうことになるな」

 なるほど。良い神として魂を導き、最後には自分の天国に入れて信仰心を受け取るということか。

「徳の低い魂を天国に入れるとどうなるんだ?」
「いや、徳が低いとそもそも天国に入れんからな。無理矢理入れたらその神さん、穢れて邪神になってまうやろなぁ」
「なるほど。俺が破壊神になったらあんたには何かメリットがあるのか?」
「管理神への昇格が狙えるなぁ。わいの評価が上がるで」
「まあ、参考にはなった。なら俺は②を選ぼう」
「おお……! ほんならわいは異世界を用意するで」

 オッサンがパソコンにカチカチと何かを打ちこんでいく。
 マイクラみたいに世界を創造できるのか?
 何を打ちこんでるのかは俺には見えない。

「そのパソコンで作れるんだな」
「すまんけど細かい話はできないルールなんや。言えるのは、魔王を倒した瞬間にあんちゃんは破壊神に昇格するってことだけや」
「その異世界で気に入った女を天国に連れていくこともできるのか?」
「すまんけどそれも言えん決まりや。わいに言えるんは『がんばれ』ってことだけや。それと一個だけ、向こうではあんちゃんは一人やけど、サポートは受けられる。人工AIみたいな奴で、あんちゃん専属のサポートや。どんなスキルを使えるようになるかは行った先のシステムと、そいつの成長次第やろな」
「分かった、もう覚悟はできてる」
「オーケーや。それと、お前さんは若い身空で死んで苦労したから、特別なスキルを持たせたる。いわゆるチートやけど、やったらあかんってルールもないからな。わいの親父がふざけて作ったスキルやけど、面白かったら感想聞かせてくれや」

 オッサンが俺の後ろを指差す。

「できたで。あのゲートをくぐったらあんちゃんの異世界譚のスタートや」
「あんた、けっこうインテリなことできるんだな」
「ま、見た目ほど難しくはないで。わいが貯めこんだ貯金みたいなんは、かなり持ってかれるんやけどな」
「ところで、俺が破壊神になったら親孝行はできるのか?」
「できるで……。せやから、男見せてくれ。ちなみにお前が倒すべき魔王の強さは300。お前の強さは20からスタートや……」

 はぁ……?

「おい、まさかカルマオンラインの世界で魔王を倒せと言うのか? それなら無理な相談だぞ。スタート地点で詰む可能性がある。せめて俺を――」
「スタート地点は選んどるから平気や! たぶん!  お前の言いたいことは分かっとる! 分かっとるけど、俺も親父に命令されて仕方ないんや! 詳しい話も聞かんと②を選んだ己の判断を悔やんでくれ! すまん!」

 ドン、と背中を押されて俺はゲームに落ちた。

 ま た 押 さ れ る の か?

 俺の声は暗闇に溶ける。

 目が覚めると、俺は泥にまみれたクソガキだった。

(ガキからスタートかよ……!)

 鬱蒼とした森にいる。
 ここは、どこの森だ? カルマオンラインをベースにしたのだろうが、さすがに場所が分からない。草木の匂い、踏む閉めた草地の感覚、俺の想像していたゲームとは違い、現実だ。

 クソ、倒せるものなら魔王なんか倒して破壊神になりたい。
 あの神様はムカつくが、これはチャンスでもあるんだ。
 だが、ステータス画面を確認したところ、俺のスキルは『鑑定』と『変異体』のみ。
 変異体は強力な効果のようだが、もしこんなところで魔物に遭遇すれば、俺は一巻の終わ――

 ウォーン……! 聞き覚えのある鳴き声だ。
 これは、シルバーウルフ! 満月の夜にだけ現れる魔物じゃねえか! その戦力値は75!

(こんなところでレアモンスターかよ……!)

 俺は森を必死に逃げまどう。
 背後からハッハッとスタッカートの音が聞こえた。

 もう終わりだ。人間の足で逃げ切れるわけがない。
 俺は足をもつれさせ、地面に転がって悶えた。

 ガキの手足は使いづらく、重心も悪いからすぐに転ぶ。

 そうして、闇の中から四足の魔物が姿を見せ、死を覚悟した時――

「よう、ガキの出歩く時間じゃねえぞ」

 俺はガランと出会った――
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...