56 / 118
56 永遠の離別
しおりを挟む
夕食後、俺はセラとミイナを伴って屋敷を出た。
腰には霊剣アクアスを装備している。
『旦那様の腰はしっくりくるのう』
アクアスからは当然のように念話が飛んでくる。
うるさくなりそうだったが、柄を撫でてやる。
『変異体』に心を蝕まれなくなってから、とても気分が良かった。
力は失くしたが、この腕だけでも女達を守れるよう鍛えよう。
さて、面会先はダイババである。
「久しぶりに兄の顔を見ることになるわね」
「平気か?」
「直接会ってみないと分からないわ」
無理もないな。ただ一人の身内だ。
俺はセラの肩を抱いてやった。
俺達は教会へ出向き、そこから大司教を伴って監獄へ向かった。
面会の手続きは既に済ませてあり、あっさりダイババの収監された檻まで案内される。
「ダイババの様子はどうですか?」と大司教が余所行きの顔で看守に尋ねた。
「ええ、落ち着いていますよ。普通、独房にいると気が狂うんですがね」
意外なことに、奴は模範囚のような振る舞いをしているらしい。
「では、何かありましたらベルを鳴らしてください」
「案内ありがとうございました。あなたに神の導きがありますように」
ラグエルが賄賂を握らせる。
ニッコリと笑って、看守の騎士は遠ざかっていった。
「ようこそ。お茶も出せずにすみませんねぇ」
隔離された檻のなかでダイババがニヤついている。
ベッドと机とトイレが収まった部屋に、ダイババはいた。
「お前も来るとは聞いてなかったぜ、勇者」
「元盗賊王の顔が見たくなったんだ」
「ほざいてろよ。そっちの聖女はお前の女か? 抱かせろよ。そうじゃなきゃ、お前らの話は聞いてやんねえぞ」
セラを連れてくれば少しは大人しくすると思ったが、彼女はストッパーになりえなかったか。
「少し話をしませんか、ダイババ様」
「いいぜえ。その代わり、あんたのでっけえ胸を揉ませてくれよ」
「魔法で少し痛めつけないと話ができないようだね」
「ラグエル、処刑の日取りを早めるか?」
「ラグエル様もタクマも落ち着いてください……!」
二人して怒られてしまった。
「ダイババ様、あなたはアルニス王子によって処刑を早められました」
「だからどうした。俺に王子を密告しろとでも? 俺が一筆書けば、それをネタにアルニスとこのダイババ様の繋がりを表に出せるかもな?」
「ご協力いただけないでしょうか。もし、今ダイババ様ご自身が仰ったように一筆書いて下さるのなら、あなたが心安らかに眠れるよう、教会で弔わせていただきたいと思います」
「ハッ。そんなことをして何になるんだ? 俺にメリットがねえだろうが」
「はい、ダイババ様にメリットはありません。しかし、ダイババ様の罪を理由にセラさんが被害を被ることは、減るかと思います」
「…………ッ!」
ダイババがセラを大事にしていることは分かっている。
鑑定でもそうだが、ダイババはセラがどれだけ組織を裏切ろうと、彼女を殺さなかった。
俺達は相当数の奴隷がセラの手引きで逃げたことを把握している。
「くだらねえ。俺が何もしなくても、お前らが勝手にセラを守るだろうが」
「それじゃ足りないって言ってるんだよ」
「ああっ!? どういう意味だ!」
「お前を消したアルニスが、次に誰を消すか想像できないのか? いや、違うな。お前は想像したくないんだ。愛する妹をアルニスに殺されるのが怖いからだ」
ダイババが柵に手をかける。
「アルニスがセラを殺す理由がねえ。セラはアルニスの情報なんざ何も持ってねえ」
「それを判断するのはアルニスだ。そして、あいつは小心者のクソ野郎だ。俺達がセラを生かしたことはアルニスだって知ってるはずだ。セラを生かしたのはたんに俺がセラに惚れたからだが、あいつらが別の目的があると勘違いしてセラを殺そうとしたって、俺はおかしいと思わない。というか、連中なら確実にそうするだろうな。実兄であるレオニード、父王イドルフ、そしてかつての仲間だったダイババ、邪魔になりそうな奴はことごとく消そうとしてる。次は妹の番なんじゃないか?」
連中は王になる為になりふり構ってない。
王になった後に何を為すかよりも、王となること自体に執着した結果だろうか?
俺達には連中が何になりたいのかがサッパリ見えてこない。
「例えばセラさんに嘘を言わせ、『アルニス王子と奴隷売買の繋がりを以前から知っていた』などと言わせることも、私達には可能でした。たた、私達はセラさんを危険に晒したくない。だからそういった、誰かに暗殺の危険が集中するようなやり方は、避けたいと思っています。しかしながら、アルニス王子は将来的にセラさんが邪魔になる可能性があるなら、迷わず暗殺を試みるでしょう。それを防ぐ手立てはただ一つ、アルニス達を牢屋にぶち込むことです」
「ダイババ。嘘を書く必要はない。セラを守る為、あんたが奴隷売買について知ってることをここに書いてくれないか」
紙とペンを渡す。
「……ちくしょう。時間は掛かるぞ。お前に右腕と左手の指まで飛ばされたんだからな」
「書きあがるまで待つ。お前に謝罪する気はないぞ」
「期待してねえよ。クソが」
ダイババがペンと紙に文字を書き始める。
「兄さん……」
「お前は俺みたいになるんじゃねえぞ。そこのガキと一緒に、まっとうな道を生きろ」
「……バカ。兄さんさえいれば幸せだったのに」
「もう何も言うな。集中できねえだろう」
ダイババの手紙が涙で滲む。
俺達はダイババの魂が黄泉路を迷うことのないよう祈りを捧げた。
生前葬を終え、ダイババに心ばかりの足のつきそうにない差し入れをして帰った。
それが、俺達が監獄で見たダイババの最後の姿だった。
腰には霊剣アクアスを装備している。
『旦那様の腰はしっくりくるのう』
アクアスからは当然のように念話が飛んでくる。
うるさくなりそうだったが、柄を撫でてやる。
『変異体』に心を蝕まれなくなってから、とても気分が良かった。
力は失くしたが、この腕だけでも女達を守れるよう鍛えよう。
さて、面会先はダイババである。
「久しぶりに兄の顔を見ることになるわね」
「平気か?」
「直接会ってみないと分からないわ」
無理もないな。ただ一人の身内だ。
俺はセラの肩を抱いてやった。
俺達は教会へ出向き、そこから大司教を伴って監獄へ向かった。
面会の手続きは既に済ませてあり、あっさりダイババの収監された檻まで案内される。
「ダイババの様子はどうですか?」と大司教が余所行きの顔で看守に尋ねた。
「ええ、落ち着いていますよ。普通、独房にいると気が狂うんですがね」
意外なことに、奴は模範囚のような振る舞いをしているらしい。
「では、何かありましたらベルを鳴らしてください」
「案内ありがとうございました。あなたに神の導きがありますように」
ラグエルが賄賂を握らせる。
ニッコリと笑って、看守の騎士は遠ざかっていった。
「ようこそ。お茶も出せずにすみませんねぇ」
隔離された檻のなかでダイババがニヤついている。
ベッドと机とトイレが収まった部屋に、ダイババはいた。
「お前も来るとは聞いてなかったぜ、勇者」
「元盗賊王の顔が見たくなったんだ」
「ほざいてろよ。そっちの聖女はお前の女か? 抱かせろよ。そうじゃなきゃ、お前らの話は聞いてやんねえぞ」
セラを連れてくれば少しは大人しくすると思ったが、彼女はストッパーになりえなかったか。
「少し話をしませんか、ダイババ様」
「いいぜえ。その代わり、あんたのでっけえ胸を揉ませてくれよ」
「魔法で少し痛めつけないと話ができないようだね」
「ラグエル、処刑の日取りを早めるか?」
「ラグエル様もタクマも落ち着いてください……!」
二人して怒られてしまった。
「ダイババ様、あなたはアルニス王子によって処刑を早められました」
「だからどうした。俺に王子を密告しろとでも? 俺が一筆書けば、それをネタにアルニスとこのダイババ様の繋がりを表に出せるかもな?」
「ご協力いただけないでしょうか。もし、今ダイババ様ご自身が仰ったように一筆書いて下さるのなら、あなたが心安らかに眠れるよう、教会で弔わせていただきたいと思います」
「ハッ。そんなことをして何になるんだ? 俺にメリットがねえだろうが」
「はい、ダイババ様にメリットはありません。しかし、ダイババ様の罪を理由にセラさんが被害を被ることは、減るかと思います」
「…………ッ!」
ダイババがセラを大事にしていることは分かっている。
鑑定でもそうだが、ダイババはセラがどれだけ組織を裏切ろうと、彼女を殺さなかった。
俺達は相当数の奴隷がセラの手引きで逃げたことを把握している。
「くだらねえ。俺が何もしなくても、お前らが勝手にセラを守るだろうが」
「それじゃ足りないって言ってるんだよ」
「ああっ!? どういう意味だ!」
「お前を消したアルニスが、次に誰を消すか想像できないのか? いや、違うな。お前は想像したくないんだ。愛する妹をアルニスに殺されるのが怖いからだ」
ダイババが柵に手をかける。
「アルニスがセラを殺す理由がねえ。セラはアルニスの情報なんざ何も持ってねえ」
「それを判断するのはアルニスだ。そして、あいつは小心者のクソ野郎だ。俺達がセラを生かしたことはアルニスだって知ってるはずだ。セラを生かしたのはたんに俺がセラに惚れたからだが、あいつらが別の目的があると勘違いしてセラを殺そうとしたって、俺はおかしいと思わない。というか、連中なら確実にそうするだろうな。実兄であるレオニード、父王イドルフ、そしてかつての仲間だったダイババ、邪魔になりそうな奴はことごとく消そうとしてる。次は妹の番なんじゃないか?」
連中は王になる為になりふり構ってない。
王になった後に何を為すかよりも、王となること自体に執着した結果だろうか?
俺達には連中が何になりたいのかがサッパリ見えてこない。
「例えばセラさんに嘘を言わせ、『アルニス王子と奴隷売買の繋がりを以前から知っていた』などと言わせることも、私達には可能でした。たた、私達はセラさんを危険に晒したくない。だからそういった、誰かに暗殺の危険が集中するようなやり方は、避けたいと思っています。しかしながら、アルニス王子は将来的にセラさんが邪魔になる可能性があるなら、迷わず暗殺を試みるでしょう。それを防ぐ手立てはただ一つ、アルニス達を牢屋にぶち込むことです」
「ダイババ。嘘を書く必要はない。セラを守る為、あんたが奴隷売買について知ってることをここに書いてくれないか」
紙とペンを渡す。
「……ちくしょう。時間は掛かるぞ。お前に右腕と左手の指まで飛ばされたんだからな」
「書きあがるまで待つ。お前に謝罪する気はないぞ」
「期待してねえよ。クソが」
ダイババがペンと紙に文字を書き始める。
「兄さん……」
「お前は俺みたいになるんじゃねえぞ。そこのガキと一緒に、まっとうな道を生きろ」
「……バカ。兄さんさえいれば幸せだったのに」
「もう何も言うな。集中できねえだろう」
ダイババの手紙が涙で滲む。
俺達はダイババの魂が黄泉路を迷うことのないよう祈りを捧げた。
生前葬を終え、ダイババに心ばかりの足のつきそうにない差し入れをして帰った。
それが、俺達が監獄で見たダイババの最後の姿だった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる