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9.迷宮の前に
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2人合わせて銀貨6枚で探索者のライセンスを手に入れた。ライセンスカードには倒した魔物の情報などが記載され、年に一度の査定に影響する為、決して失くさないようにと言われた。身分証としても使えるそうなので、手放さないようにしよう。
迷宮はギルドの地下通路を抜けて階段を上った先にあった。
陽射しが差し込む開けた空間があって、遠目に迷宮の入り口が見える。
近づいて見ると、途方もない大きさだ。
人が豆粒に思える程の質量で、正直圧倒される。
受付嬢が信仰の対象にするのも分かる気がするな。
天までそびえる摩天楼だが、人類が踏破できているのは6層までだ。
神が造りし試練の塔。人の手で再現するとなったら、建造に一世紀くらいは掛かるのだろうか。
「ギルドが管理してるとはいえ、こんな街中にあるなんてな。迷宮から魔物が溢れ出すことはないのか?」
「そうならないように、領主は探索者ギルドを運営してるのよ」
迷宮の入り口は扉さえない暗闇で、常に解放されている。ギルドから通じる通路を渡らないと入れないようになっていて、一般人は決して近づけない場所だ。
「行こう。迷宮に入ったら絶対に俺の傍を離れないように」
「分かってる。死にたくないもの」
エレナも内部の構造には興味があるようだ。
2人で入口に向かって歩いていると、「おい、待ってくれ」と呼び止められた。
いいところで水を差すなよ、と思いつつ振り返る。
見覚えのない青年がいる。
爽やかな風貌の青年は、モテそうな甘いマスクだ。
オッサン2人を従えるように歩いている。
付き従うのは、筋骨隆々とした寡黙そうな男と、腹の出た中年のオッサンだ。
3人を見て、エレナは気まずそうに俺の背中に隠れた。
「僕はスコット。エレナを購入予定だった探索者だ」
「何か用か?」
「実は、奴隷商が手違いをしてしまったみたいでね。本来購入予定だった僕達でなく、君の元にエレナが行ってしまったみたいなんだ。店主からは話し合うように言われてるんだが、少し時間をもらえないかな」
(……あの奴隷商、手違いで買われたってことにしたのか。いや、その設定は無理がありすぎるだろ。一つしか商品がなかったのに手違いなんて起こるわけない。スコットもそれは分かってるはずだ)
冷静に鑑定をする。
スコット:Lv24
ライ:Lv27
レクネス:Lv21
俺よりレベルは上だな。それでも話し合う余地はないが。
「君は金貨100枚で彼女を買ったと聞いた。どうだろう。僕達は金貨を130枚出す。彼女を譲ってもらえないかな」
エレナが俺の腕を抱いてくる。
俺は『大丈夫だ』と安心させるように目配せした。
金の問題じゃない。いくら積まれても、今さらエレナを手放そうとは思わない。
金髪碧眼の少女は、俺の気持ちが伝わったのか薄く微笑み返してくれた。
「やれやれ。随分と親しくなったみたいだね。だけど、最初にエレナに恋したのは僕の方だ。彼女を愛しているんだよ」
「エレナは譲れない。俺だってエレナが大事なんだ」
ハッキリ伝えると、スコットは大袈裟に溜息をついた。
反対に、エレナは嬉しそうに俺を見てる。可愛いな。
「せっかく穏便に済ませようと思ったのに。確か、ミト君と言ったね。君に神明裁判を挑もう」
「神明裁判?」
「ふざけないで! 決闘で決着をつけるって意味じゃない!」
エレナが俺の腕を引いてスコットと引き離そうとする。
「言っておくけど、断ることはできないよ。事前に契約をしていたのは僕達だし、仮とはいえ契約書だってある。こういう双方の言い分が食い違ったケースでは、裁判が認められているんだ」
裁判とは名ばかりの原始的な決着方法じゃないか。正しい方なら神様が勝たせてくれるだろう。そんな理屈だ。
「どうする? 断るかい? 代理人を立ててもいいけど、その場合はこちらも相応の相手を頼ることになる」
「分かった。ここで決着をつけよう」
「ねえ、本気なの? 結審に時間は掛かるけど、正規の手順で裁判を起こすことだってできるわ」
エレナは俺に決闘をしてほしくないらしい。確かに、相手は先輩の探索者だ。普通に考えたら、俺よりも戦闘慣れしているはずだ。しかし、俺にとっては大した相手じゃない。
「大丈夫だ。すぐに片づける」
「……本当に? 今さらあなた以外に抱かれるなんて耐えられないのよ」
エレナの言葉をキスで塞ぐ。
彼女は諦めたように頷き、自分からも濃厚なキスをしてきた。
スコットに見せつけるように舌まで入れてくる。
せめてもの抵抗、意思表示なのだろう。
「まったく焼けるね。すぐに上書きしたくなったよ」
名残惜しそうに俺を見つめるエレナと距離を置き、スコットと互いに剣を構える。
合図は宙に投げたコインが地面に落ちたら、というルールにした。
「では、決着をつけようか。エレナは僕がもらう」
「不可能だ。あんたじゃ俺には勝てないからな」
俺が目配せをすると、不安そうにしながらもエレナはコインを放った。
地面にコインが落ちると同時、スコットは勢いよく踏み込んでくる。
刺突がくると直前で分かった俺は、ひらりとかわすことができた。
「何っ」
(なるほど、これが『危険感知』か)
危険が迫った時に、素早くそれを察知することができる。
時間にすると数秒程度の余裕しか作れないが、その一瞬のおかげで、俺はスコットの突きをかわすことができた。
「意外だな。僕の突きを避けるとは」
「一つだけ聞いておきたい」
「何だい?」
「なぜ共同購入を選んだんだ? 3人の男に代わる代わる抱かれるエレナの気持ちを、考えたことはなかったのか?」
「仕方がないだろう。額が額だ。さすがに一人じゃ金が足りなかったんだ。最初に抱く権利は僕が持ってるし、最終的には責任を取るつもりだったよ」
責任を取ると言いつつ仲間に金を借りて抱かせるとか、男として最低すぎるだろ。
(こいつとは分かりあえないな)
さっさとトドメを刺すことにする。
「俺はエレナを抱いた。今さらお前の入り込む隙はない」
「嫉妬する……ねっ!」
挑発されたスコットが斬りかかってくるが、やはり危険に対する嗅覚が研ぎ澄まされている。
どこに立っていれば安全か、そこまで分かれば攻撃を避けるのも簡単だった。
安全圏まで下がって回避しつつ、こちらからも剣を繰り出すことにする。
と、スコットの身体と装備に真紅の円が見えた。
(ここを攻撃しろってことだな?)
真紅のサークルを狙って剣を打ち込むと、スコットの剣が半ばから圧し折れた。
もしかしなくても、今のが『急所攻撃』だ。
クリティカルヒットってくらい綺麗に入った一撃は、スコットの武器を一撃で破壊した。
「なっ……僕の剣が……」
「どうする。まだ続けるか?」
「当り前だろう!」
危険感知で攻撃を避けつつ、真紅のサークル目掛けて剣の柄を叩きこむ。
顔面に一撃をもらったスコットの眼球が反転する。
手足の力が抜け、脱力したスコットは地面に沈んだ。
綺麗に入りすぎて意識を刈り取られたらしい。
「もう、心配したわ!」
エレナが抱きついてくる。
スコットの仲間は憐れむような視線を敗北者に向けた。
「こりゃ完全に脈ナシだな」
「男としても探索者としても負けですね」
遠巻きに見ていたライが会話に入ってきた。
ネクネスは弛緩したスコットを担ごうとしている。
「悪かったな。うちのリーダーが迷惑をかけた」
「そう思うならさっさと止めて欲しかったな」
「男同士っていうのは拳を交えた方が分かり合える場合もあるだろ?」
スコットは起き上がってくる気配がない。
あの様子じゃしばらくはおねんねかもしれない。
「まさか、スコットがここまで一方的にやられるなんてな。あんた、相当な使い手とみた。どこでそれだけの修練を積んだんだ?」
「神様のご加護があったんだ」
「そうかい。それじゃスコットに勝ち目はなさそうだ」
ライはあっさり仲間の敗北を受け入れて引き下がった。
「そうだ。今回の件の迷惑料として情報が欲しい。あんたらは何層まで登ってきたんだ?」
「俺達か? 今は3層を中心に活動してるところだ」
「4層にはまだ行ってないのか?」
「今の俺達の実力じゃとても無理だ。行った瞬間終わるだろうな」
階層間でそんなに敵の強さが変わってくるのか。良い話を聞けた。
「迷宮ってのはそんな簡単に上がれるもんじゃねえからな。とにかく時間をかけて安全に上る。一つ階層を上げたら別世界だと思いな」
「ああ、覚えておこう」
ただ、俺の場合は残機がある上に、一晩寝ると蘇生回数が全回復する。エレナの安全さえ確保できたら、俺一人で偵察くらいはできると思う。チートサマサマだな。
迷宮はギルドの地下通路を抜けて階段を上った先にあった。
陽射しが差し込む開けた空間があって、遠目に迷宮の入り口が見える。
近づいて見ると、途方もない大きさだ。
人が豆粒に思える程の質量で、正直圧倒される。
受付嬢が信仰の対象にするのも分かる気がするな。
天までそびえる摩天楼だが、人類が踏破できているのは6層までだ。
神が造りし試練の塔。人の手で再現するとなったら、建造に一世紀くらいは掛かるのだろうか。
「ギルドが管理してるとはいえ、こんな街中にあるなんてな。迷宮から魔物が溢れ出すことはないのか?」
「そうならないように、領主は探索者ギルドを運営してるのよ」
迷宮の入り口は扉さえない暗闇で、常に解放されている。ギルドから通じる通路を渡らないと入れないようになっていて、一般人は決して近づけない場所だ。
「行こう。迷宮に入ったら絶対に俺の傍を離れないように」
「分かってる。死にたくないもの」
エレナも内部の構造には興味があるようだ。
2人で入口に向かって歩いていると、「おい、待ってくれ」と呼び止められた。
いいところで水を差すなよ、と思いつつ振り返る。
見覚えのない青年がいる。
爽やかな風貌の青年は、モテそうな甘いマスクだ。
オッサン2人を従えるように歩いている。
付き従うのは、筋骨隆々とした寡黙そうな男と、腹の出た中年のオッサンだ。
3人を見て、エレナは気まずそうに俺の背中に隠れた。
「僕はスコット。エレナを購入予定だった探索者だ」
「何か用か?」
「実は、奴隷商が手違いをしてしまったみたいでね。本来購入予定だった僕達でなく、君の元にエレナが行ってしまったみたいなんだ。店主からは話し合うように言われてるんだが、少し時間をもらえないかな」
(……あの奴隷商、手違いで買われたってことにしたのか。いや、その設定は無理がありすぎるだろ。一つしか商品がなかったのに手違いなんて起こるわけない。スコットもそれは分かってるはずだ)
冷静に鑑定をする。
スコット:Lv24
ライ:Lv27
レクネス:Lv21
俺よりレベルは上だな。それでも話し合う余地はないが。
「君は金貨100枚で彼女を買ったと聞いた。どうだろう。僕達は金貨を130枚出す。彼女を譲ってもらえないかな」
エレナが俺の腕を抱いてくる。
俺は『大丈夫だ』と安心させるように目配せした。
金の問題じゃない。いくら積まれても、今さらエレナを手放そうとは思わない。
金髪碧眼の少女は、俺の気持ちが伝わったのか薄く微笑み返してくれた。
「やれやれ。随分と親しくなったみたいだね。だけど、最初にエレナに恋したのは僕の方だ。彼女を愛しているんだよ」
「エレナは譲れない。俺だってエレナが大事なんだ」
ハッキリ伝えると、スコットは大袈裟に溜息をついた。
反対に、エレナは嬉しそうに俺を見てる。可愛いな。
「せっかく穏便に済ませようと思ったのに。確か、ミト君と言ったね。君に神明裁判を挑もう」
「神明裁判?」
「ふざけないで! 決闘で決着をつけるって意味じゃない!」
エレナが俺の腕を引いてスコットと引き離そうとする。
「言っておくけど、断ることはできないよ。事前に契約をしていたのは僕達だし、仮とはいえ契約書だってある。こういう双方の言い分が食い違ったケースでは、裁判が認められているんだ」
裁判とは名ばかりの原始的な決着方法じゃないか。正しい方なら神様が勝たせてくれるだろう。そんな理屈だ。
「どうする? 断るかい? 代理人を立ててもいいけど、その場合はこちらも相応の相手を頼ることになる」
「分かった。ここで決着をつけよう」
「ねえ、本気なの? 結審に時間は掛かるけど、正規の手順で裁判を起こすことだってできるわ」
エレナは俺に決闘をしてほしくないらしい。確かに、相手は先輩の探索者だ。普通に考えたら、俺よりも戦闘慣れしているはずだ。しかし、俺にとっては大した相手じゃない。
「大丈夫だ。すぐに片づける」
「……本当に? 今さらあなた以外に抱かれるなんて耐えられないのよ」
エレナの言葉をキスで塞ぐ。
彼女は諦めたように頷き、自分からも濃厚なキスをしてきた。
スコットに見せつけるように舌まで入れてくる。
せめてもの抵抗、意思表示なのだろう。
「まったく焼けるね。すぐに上書きしたくなったよ」
名残惜しそうに俺を見つめるエレナと距離を置き、スコットと互いに剣を構える。
合図は宙に投げたコインが地面に落ちたら、というルールにした。
「では、決着をつけようか。エレナは僕がもらう」
「不可能だ。あんたじゃ俺には勝てないからな」
俺が目配せをすると、不安そうにしながらもエレナはコインを放った。
地面にコインが落ちると同時、スコットは勢いよく踏み込んでくる。
刺突がくると直前で分かった俺は、ひらりとかわすことができた。
「何っ」
(なるほど、これが『危険感知』か)
危険が迫った時に、素早くそれを察知することができる。
時間にすると数秒程度の余裕しか作れないが、その一瞬のおかげで、俺はスコットの突きをかわすことができた。
「意外だな。僕の突きを避けるとは」
「一つだけ聞いておきたい」
「何だい?」
「なぜ共同購入を選んだんだ? 3人の男に代わる代わる抱かれるエレナの気持ちを、考えたことはなかったのか?」
「仕方がないだろう。額が額だ。さすがに一人じゃ金が足りなかったんだ。最初に抱く権利は僕が持ってるし、最終的には責任を取るつもりだったよ」
責任を取ると言いつつ仲間に金を借りて抱かせるとか、男として最低すぎるだろ。
(こいつとは分かりあえないな)
さっさとトドメを刺すことにする。
「俺はエレナを抱いた。今さらお前の入り込む隙はない」
「嫉妬する……ねっ!」
挑発されたスコットが斬りかかってくるが、やはり危険に対する嗅覚が研ぎ澄まされている。
どこに立っていれば安全か、そこまで分かれば攻撃を避けるのも簡単だった。
安全圏まで下がって回避しつつ、こちらからも剣を繰り出すことにする。
と、スコットの身体と装備に真紅の円が見えた。
(ここを攻撃しろってことだな?)
真紅のサークルを狙って剣を打ち込むと、スコットの剣が半ばから圧し折れた。
もしかしなくても、今のが『急所攻撃』だ。
クリティカルヒットってくらい綺麗に入った一撃は、スコットの武器を一撃で破壊した。
「なっ……僕の剣が……」
「どうする。まだ続けるか?」
「当り前だろう!」
危険感知で攻撃を避けつつ、真紅のサークル目掛けて剣の柄を叩きこむ。
顔面に一撃をもらったスコットの眼球が反転する。
手足の力が抜け、脱力したスコットは地面に沈んだ。
綺麗に入りすぎて意識を刈り取られたらしい。
「もう、心配したわ!」
エレナが抱きついてくる。
スコットの仲間は憐れむような視線を敗北者に向けた。
「こりゃ完全に脈ナシだな」
「男としても探索者としても負けですね」
遠巻きに見ていたライが会話に入ってきた。
ネクネスは弛緩したスコットを担ごうとしている。
「悪かったな。うちのリーダーが迷惑をかけた」
「そう思うならさっさと止めて欲しかったな」
「男同士っていうのは拳を交えた方が分かり合える場合もあるだろ?」
スコットは起き上がってくる気配がない。
あの様子じゃしばらくはおねんねかもしれない。
「まさか、スコットがここまで一方的にやられるなんてな。あんた、相当な使い手とみた。どこでそれだけの修練を積んだんだ?」
「神様のご加護があったんだ」
「そうかい。それじゃスコットに勝ち目はなさそうだ」
ライはあっさり仲間の敗北を受け入れて引き下がった。
「そうだ。今回の件の迷惑料として情報が欲しい。あんたらは何層まで登ってきたんだ?」
「俺達か? 今は3層を中心に活動してるところだ」
「4層にはまだ行ってないのか?」
「今の俺達の実力じゃとても無理だ。行った瞬間終わるだろうな」
階層間でそんなに敵の強さが変わってくるのか。良い話を聞けた。
「迷宮ってのはそんな簡単に上がれるもんじゃねえからな。とにかく時間をかけて安全に上る。一つ階層を上げたら別世界だと思いな」
「ああ、覚えておこう」
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