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ヘタレ②
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幼馴染にして、妹分。
可愛いエレノアがご執心のアーサーが、学園の食堂に隣接したテラスで一人、黙々と勉学に励んでいた。一心不乱に魔導書を紐解き、頭に叩き込んでいるように見える。
婚約者が事故に遭って以来、未だ学園にも通えていないというのに、己の勉強に熱を入れる感覚が理解できない。
ミナはささくれ立った感情のまま、アーサーの真向かいに腰かける。
アーサーはちらりとミナを見たが、すぐに興味を失くしたように食い入るように魔導書を睨み始める。
ミナは魔導書に手を伸ばすと、開いていたページを閉じた。
「何? 今忙しいんだけど」
「エレノアを置いて一人で勉強に励むなんて、さすが学園の首席様は違うわね」
皮肉を込めて言ってやる。
前からこの男は気に入らなかったのだ。
他人に興味がなく、いつも自分の世界に没頭しているように見える。
それでいて、エレノアの心を強く掴んで離さない。
たまたま、エレノアを助けたというだけで、なぜこうも肩入れされるのかが理解できない。
エレノアには、例えば自分の兄のような人物が相応しいはずだ。
公明正大で他人を気遣えて、家柄だってちゃんと保証されている。
アーサーが賢者ガルスに拾われるまで孤児院に居たというのは有名な話だ。
アーサーはエレノアにふさわしくない。
そのことだけは、胸を張って言える。
だから、例えエレノアに嫌われようと、こいつだけはエレノアから遠ざけなければならない。
キッとアーサーを睨みつけて、ミナは今日まで溜め込んでいたマグマのような感情を吐き出した。
「前から思ってたんだけど、あなた、エレノアに相応しくないわね」
エレノアの名前を出した瞬間、ガバリとアーサーは顔を上げた。
まるで躾けのなってない犬のようだ。
魔法を学ぶ前に最低限の紳士としての振る舞いくらい学んで欲しい。
見ていて不快で仕方ない。
これを可愛いと言えるエレノアの神経が理解できない。
「そんなこと、分かってる」
「なら別れなさいよ」
「……今、勉強してるから」
「勉強なんて後でもできるでしょ。話が終わったら好きなだけ一人でやりなさいよ。言っておくけど、エレノアは無理に魔法なんか学ばなくても十分幸せになれるの。あなたがしてることはただの自己満足よ」
「でも、卒業しないと」
「そんなのね、何とでもなるの! なんなら私が少し学園長に話を通してあげるだけで、エレノアは楽勝で卒業できるのよ。本当よ? あなたみたいな力のない学生には分からないでしょうけどね」
嘲笑を込めて言ってやる。
アーサーは手垢のついたボロボロの魔導書を見てから、「そうなのか」と呟いた。
「あなたと私達では住む世界が違うわ。実はね、私のお兄様がエレノアに興味を持っているの。あなたがエレノアから手を引いてくれれば、彼女は確実に幸せになれるわ。だって、エレノア、あなたのことは忘れたけど、夜会で会ったお兄様のことは覚えてるもの」
一瞬、アーサーの表情が凍りつく。
「エレノアは、君の兄君を覚えてたのか」
「あなたは婚約者の癖に忘れ去られたそうね? どんな態度でエレノアに接していたのかしら? エレノアを苛めるのは楽しかった?」
アーサーが黙りこくる。
もう一押しだと思う。
人形のようなアーサーの顔が、どんどん感情を失くしていくのが見て取れる。
薄汚い野良犬風情が……。
私とエレノアの前から失せなさいよ。
「……帰る」
「逃げるの? 話はまだ終わってないんだけど」
ボロボロの魔導書を剥げた鞄に入れて、アーサーは立ち去る。
弱り切ったその背中に、「エレノアを解放しなさい!」と言葉を叩きつける。
アーサーは背中を丸めて遠ざかっていった。
可愛いエレノアがご執心のアーサーが、学園の食堂に隣接したテラスで一人、黙々と勉学に励んでいた。一心不乱に魔導書を紐解き、頭に叩き込んでいるように見える。
婚約者が事故に遭って以来、未だ学園にも通えていないというのに、己の勉強に熱を入れる感覚が理解できない。
ミナはささくれ立った感情のまま、アーサーの真向かいに腰かける。
アーサーはちらりとミナを見たが、すぐに興味を失くしたように食い入るように魔導書を睨み始める。
ミナは魔導書に手を伸ばすと、開いていたページを閉じた。
「何? 今忙しいんだけど」
「エレノアを置いて一人で勉強に励むなんて、さすが学園の首席様は違うわね」
皮肉を込めて言ってやる。
前からこの男は気に入らなかったのだ。
他人に興味がなく、いつも自分の世界に没頭しているように見える。
それでいて、エレノアの心を強く掴んで離さない。
たまたま、エレノアを助けたというだけで、なぜこうも肩入れされるのかが理解できない。
エレノアには、例えば自分の兄のような人物が相応しいはずだ。
公明正大で他人を気遣えて、家柄だってちゃんと保証されている。
アーサーが賢者ガルスに拾われるまで孤児院に居たというのは有名な話だ。
アーサーはエレノアにふさわしくない。
そのことだけは、胸を張って言える。
だから、例えエレノアに嫌われようと、こいつだけはエレノアから遠ざけなければならない。
キッとアーサーを睨みつけて、ミナは今日まで溜め込んでいたマグマのような感情を吐き出した。
「前から思ってたんだけど、あなた、エレノアに相応しくないわね」
エレノアの名前を出した瞬間、ガバリとアーサーは顔を上げた。
まるで躾けのなってない犬のようだ。
魔法を学ぶ前に最低限の紳士としての振る舞いくらい学んで欲しい。
見ていて不快で仕方ない。
これを可愛いと言えるエレノアの神経が理解できない。
「そんなこと、分かってる」
「なら別れなさいよ」
「……今、勉強してるから」
「勉強なんて後でもできるでしょ。話が終わったら好きなだけ一人でやりなさいよ。言っておくけど、エレノアは無理に魔法なんか学ばなくても十分幸せになれるの。あなたがしてることはただの自己満足よ」
「でも、卒業しないと」
「そんなのね、何とでもなるの! なんなら私が少し学園長に話を通してあげるだけで、エレノアは楽勝で卒業できるのよ。本当よ? あなたみたいな力のない学生には分からないでしょうけどね」
嘲笑を込めて言ってやる。
アーサーは手垢のついたボロボロの魔導書を見てから、「そうなのか」と呟いた。
「あなたと私達では住む世界が違うわ。実はね、私のお兄様がエレノアに興味を持っているの。あなたがエレノアから手を引いてくれれば、彼女は確実に幸せになれるわ。だって、エレノア、あなたのことは忘れたけど、夜会で会ったお兄様のことは覚えてるもの」
一瞬、アーサーの表情が凍りつく。
「エレノアは、君の兄君を覚えてたのか」
「あなたは婚約者の癖に忘れ去られたそうね? どんな態度でエレノアに接していたのかしら? エレノアを苛めるのは楽しかった?」
アーサーが黙りこくる。
もう一押しだと思う。
人形のようなアーサーの顔が、どんどん感情を失くしていくのが見て取れる。
薄汚い野良犬風情が……。
私とエレノアの前から失せなさいよ。
「……帰る」
「逃げるの? 話はまだ終わってないんだけど」
ボロボロの魔導書を剥げた鞄に入れて、アーサーは立ち去る。
弱り切ったその背中に、「エレノアを解放しなさい!」と言葉を叩きつける。
アーサーは背中を丸めて遠ざかっていった。
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