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ごめんね
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月日が流れて、足の怪我が回復した頃。
エレノアはリハビリを始めて、弱っていた身体を目覚めさせていった。
エレノアはアーサーのことを想いながら、ハツラツと身体を動かす。
メイドのアリアが「今日はここまでにしましょう」とオーケーサインをくれた。
「どうでしょう? だいぶ勘が戻ってきたのではありませんか?」
「そろそろ登校できるかな」
「平気なのですか? あそこはお嬢様への風当たりが強いようで、我々使用人一同も案じているのですが」
「平気よ。アーサーが守ってくれるもの」
「お嬢様の騎士様ですね」
「早くアーサーに会いたいなー」
と、噂をすれば陰である。
ノックの音と共に、アーサーが入ってきた。
「その、来てよかっただろうか」
部屋に来るのも一度や二度じゃないのに、緊張しているアーサーがおかしくて吹き出してしまった。
「もう、そんなところに立ってないで中へどうぞ。アリア、お茶を淹れてくれるかしら」
「言われなくとも運んできます。私が仕事をしていないように思われるので慎みを覚えてくださいませ」
「あら、ごめんなさいね。大切なお客様の前で恥を掻かせてくれたメイドには罰が必要かしら?」
「美味しいお茶を淹れて参ります」
優しげに微笑んでアリアが部屋を出ていく。
ミナや他のお客様の前だと一言も喋らないのに、最近のアーサーには気安い一面も見せるアリアだ。
弟っぽい雰囲気を見せるアーサーを気遣ってくれているのかもしれない。
最近のアーサーは可愛すぎるので、気に掛けたくなる気持ちはエレノアにも分かった。
「ずっと身体を動かしていたの?」
「うん。早く本調子にしてデートがしたいもの」
エレノアがいつものようにベッドに腰かけて、椅子にアーサーが座る。
エレノアの言葉に反応したアーサーは、「デート」と呟いて、驚き顔で「デートしてくれるのか?」と間の抜けたことを言ってきた。
「もう、恋人同士なんだからデートくらいするに決まってるじゃない。アーサーはもしかして嫌なの?」
「そんなわけない! 嬉しいよ! エレノアは本当に優しいな……」
「大袈裟だなー。でも、アーサー的にはあたしが勉強してた方が嬉しいんでしょ?」
以前の勉強熱心だったアーサーを思い出しつつ尋ねると、元・鬼教官は涼しげに「その問題は解決したから」と言ってきた。
「どういうことかな?」
「催眠学習をしてもらおうと思って」
言いつつ、アーサーがユニコーンのような幻想的な一角獣、メアを呼び出す。
霊体ように薄っすらと浮かび上がってきた従魔が受肉する様はいつ見ても非現実的だ。
「メアには俺が持ってる魔法の知識を与えている。眠っている間にメアの睡眠教育を受ければ、飛躍的に学力が向上すると思う。自分で試したけど、けっこう頭の中がスッキリ整理できた」
「わ、すごい。あたしの為に頑張ってくれてたんだ?」
「起きてる間は恋人の時間を過ごして、寝てる間にメアから知恵を授かれば、エレノアの負担が減ると思って……」
最近のアーサーが勉学に励んでいる印象だったのは、自分の為だったのだ。
エレノアは改めてアーサーへの想いを募らせた。
何も言わずとも、彼の心は常に自分に向いている。
ちゃんと考えてくれている。
記憶を失って以来、見えてきたアーサーの想い。
それはどこまでも真摯で、エレノアを思いやる優しい彼の姿だった。
そんな彼に無理をさせていたことを申し訳なく思う。
優しい彼に甘えて、厳しい態度を取らせていたのは自分の甘さだったのかもしれない。
「ごめんね。いつも無理させて」
「それは俺の方なんだ。エレノアの心を縛りつけてるのに、君を手放せなくてごめん」
「え、何それ……」
「君は、キア・ユーベルのことが気になっているんだろう?」
泣き出しそうなアーサーから出てきたのは、思いもよらぬ言葉だった。
エレノアはリハビリを始めて、弱っていた身体を目覚めさせていった。
エレノアはアーサーのことを想いながら、ハツラツと身体を動かす。
メイドのアリアが「今日はここまでにしましょう」とオーケーサインをくれた。
「どうでしょう? だいぶ勘が戻ってきたのではありませんか?」
「そろそろ登校できるかな」
「平気なのですか? あそこはお嬢様への風当たりが強いようで、我々使用人一同も案じているのですが」
「平気よ。アーサーが守ってくれるもの」
「お嬢様の騎士様ですね」
「早くアーサーに会いたいなー」
と、噂をすれば陰である。
ノックの音と共に、アーサーが入ってきた。
「その、来てよかっただろうか」
部屋に来るのも一度や二度じゃないのに、緊張しているアーサーがおかしくて吹き出してしまった。
「もう、そんなところに立ってないで中へどうぞ。アリア、お茶を淹れてくれるかしら」
「言われなくとも運んできます。私が仕事をしていないように思われるので慎みを覚えてくださいませ」
「あら、ごめんなさいね。大切なお客様の前で恥を掻かせてくれたメイドには罰が必要かしら?」
「美味しいお茶を淹れて参ります」
優しげに微笑んでアリアが部屋を出ていく。
ミナや他のお客様の前だと一言も喋らないのに、最近のアーサーには気安い一面も見せるアリアだ。
弟っぽい雰囲気を見せるアーサーを気遣ってくれているのかもしれない。
最近のアーサーは可愛すぎるので、気に掛けたくなる気持ちはエレノアにも分かった。
「ずっと身体を動かしていたの?」
「うん。早く本調子にしてデートがしたいもの」
エレノアがいつものようにベッドに腰かけて、椅子にアーサーが座る。
エレノアの言葉に反応したアーサーは、「デート」と呟いて、驚き顔で「デートしてくれるのか?」と間の抜けたことを言ってきた。
「もう、恋人同士なんだからデートくらいするに決まってるじゃない。アーサーはもしかして嫌なの?」
「そんなわけない! 嬉しいよ! エレノアは本当に優しいな……」
「大袈裟だなー。でも、アーサー的にはあたしが勉強してた方が嬉しいんでしょ?」
以前の勉強熱心だったアーサーを思い出しつつ尋ねると、元・鬼教官は涼しげに「その問題は解決したから」と言ってきた。
「どういうことかな?」
「催眠学習をしてもらおうと思って」
言いつつ、アーサーがユニコーンのような幻想的な一角獣、メアを呼び出す。
霊体ように薄っすらと浮かび上がってきた従魔が受肉する様はいつ見ても非現実的だ。
「メアには俺が持ってる魔法の知識を与えている。眠っている間にメアの睡眠教育を受ければ、飛躍的に学力が向上すると思う。自分で試したけど、けっこう頭の中がスッキリ整理できた」
「わ、すごい。あたしの為に頑張ってくれてたんだ?」
「起きてる間は恋人の時間を過ごして、寝てる間にメアから知恵を授かれば、エレノアの負担が減ると思って……」
最近のアーサーが勉学に励んでいる印象だったのは、自分の為だったのだ。
エレノアは改めてアーサーへの想いを募らせた。
何も言わずとも、彼の心は常に自分に向いている。
ちゃんと考えてくれている。
記憶を失って以来、見えてきたアーサーの想い。
それはどこまでも真摯で、エレノアを思いやる優しい彼の姿だった。
そんな彼に無理をさせていたことを申し訳なく思う。
優しい彼に甘えて、厳しい態度を取らせていたのは自分の甘さだったのかもしれない。
「ごめんね。いつも無理させて」
「それは俺の方なんだ。エレノアの心を縛りつけてるのに、君を手放せなくてごめん」
「え、何それ……」
「君は、キア・ユーベルのことが気になっているんだろう?」
泣き出しそうなアーサーから出てきたのは、思いもよらぬ言葉だった。
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