10 / 16
結婚したい
しおりを挟む
「キアって、ミナのお兄さんの?」
「学園で会ったミナが言っていた。君が、彼のお兄さんのことだけは覚えていると」
「ちょっと、え? 何言ってるの」
混乱する。ミアのお兄さんのことは知っているが、それは社交界で何度か引き合わされたからで、正直、印象は薄い。
悪人ではないのだろうけど、それでも二人きりで話したいとは思えなかった。
エレノアが安心できるのはアーサーの隣だけなのである。
「あたしが愛してるのはアーサーだよ! どうしてそんなこと言うの!? 信じられない……」
「君は無理をしているんでしょ。俺は孤児だし……。君を守ってやれる力もない。そんな男より、家柄もあって、君を守れる彼といた方が、幸せなんじゃないか?」
「本気で言ってるの?」
アーサーは同じ気持ちでいてくれると思っていた。
ちゃんと愛し合っていると思っていた。
ずっと、一方通行な恋をしていたというの?
怒りと悔しさでボロボロと涙が零れてくる。
愛し合っていると思っていたのは、自分の方だけだったのか……。
「ごめんエレノア、泣かないで」
「バカ! 誰のせいよ! アーサーのせいなんだからね! 大馬鹿!」
「すまない……」
アーサーは疲れ果てた様子で立ち上がる。
「また……俺は失敗したんだな」
「逃げるの!?」
一日に二度も女性から逃げるアーサーである。
ヘタレであった。
「ねえ、待ってよ……。あたしのことが嫌いになったの? だから、別れたいの?」
「そんなわけない。でも、不安なんだ。俺なんかが君の隣にいていいのかって、ずっと考えてる。俺は、俺なんかが幸せになっていいのかって……。その幸せが、君の本当の幸せを踏みにじっているんじゃないかって」
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
「このタイミングで!?」
エレノアは怒りつつ、アリアからコップを奪い取ると立て続けに二杯を飲み干した。
「いい飲みっぷりですね」
「いいから出てって。今大事な話してる」
「御武運を」
退室していくアリアを見送って、エレノアは溜息をついた。
急速に、肩の力が抜けていった。
アーサーに近づいて、彼の肩に手を乗せる。
するとアーサーは顔を真っ赤にして、エレノアを抱きしめた。
その力が強すぎて、疑いようもない。
アーサーはちゃんと自分に惚れている。
でも、不安だったのだ。
そして、その不安は自分が抱えていたものと同様のものであった。
あたしも、アーサーを独り占めして、彼の幸福を奪っていると思ってた。
相手が大切すぎて、自分が幸せにできるか不安なんだよね。
でもさ、本当に幸せになりたかったら、そこは踏み止まるしかないんだよ?
そうじゃないと、離れ離れになっちゃうから。
「あたしを幸せにしたいなら、アーサーが頑張ってよ。ヒドイ例えだけど、ミアのお兄さんが裏であたしに暴力を振るう人だったらどうするの。それってちょっと無責任じゃない?」
「従魔をつけようと思っていた」
エレノアは無言でアーサーの頬をつねる。
「ねえ、そういう話がしたかったんじゃないって、さすがのアーサーでも分かるよね?」
「ふぁい……ふぁふぁります(はい……わかります)」
脱力する。こんなどうしようもない彼、あたし以外に引き取り手があると思ったのが間違いだったかもしれない。
今の言葉は、アーサーに伝えると同時に、自分に向けて投げかけた言葉でもあった。
さて、そろそろ幕引きといこう。
ミナが自分を裏切ってくれた以上、いつまでも義理立てしていても仕方ない。
楽しかった非日常にさよならを告げよう。
「それとね。……ごめん。実はね、あたし、記憶消えてなかったんだよ」
「は……?」
ポカンと、アーサーが口を開ける。
「全部ウソ。ミナと示し合わせてたの。アーサーがちゃんと記憶を失くしても愛してくれるか、ずっと試してた。酷い女でしょ。幻滅した?」
「……いや、君は悪くない。君を追い詰めていたのは本当だし、辛くなかったとは思わない。俺にやり直しの機会を与えてくれて……ありがとう」
アーサーの唇にキスをする。
久しぶりの、恋人同士のキスだ。
「両想いでしょ?」
「そうだな。俺たちは両思いだ。俺はやっぱり……君を手放せない」
「当たり前でしょ。だから、あんな酷いこと、もう言わないで……」
涙が視界を滲ませる。押さえていても、嗚咽が漏れた。
「ごめん……! ごめん……。本当にすまない。二度と言わない。幸せにするから……したいから」
アーサーが、ローブのポケットに手を入れて。
指輪を取り出した。
「へ……?」
「渡そうと思って渡しそびれていた。従魔の契約を譲る指輪だ。メアはこれがないと君に従わないから、注意してくれ」
「ん……?」
「俺の魂の一部だと思って、持っていて欲しい。け、結婚したい」
「えええ!?」
アーサー・コンラッド。予測のつかない行動を多々、取ってくる彼であるが、またしてもやってくれたなと、エレノアは悲鳴をあげた。
「学園で会ったミナが言っていた。君が、彼のお兄さんのことだけは覚えていると」
「ちょっと、え? 何言ってるの」
混乱する。ミアのお兄さんのことは知っているが、それは社交界で何度か引き合わされたからで、正直、印象は薄い。
悪人ではないのだろうけど、それでも二人きりで話したいとは思えなかった。
エレノアが安心できるのはアーサーの隣だけなのである。
「あたしが愛してるのはアーサーだよ! どうしてそんなこと言うの!? 信じられない……」
「君は無理をしているんでしょ。俺は孤児だし……。君を守ってやれる力もない。そんな男より、家柄もあって、君を守れる彼といた方が、幸せなんじゃないか?」
「本気で言ってるの?」
アーサーは同じ気持ちでいてくれると思っていた。
ちゃんと愛し合っていると思っていた。
ずっと、一方通行な恋をしていたというの?
怒りと悔しさでボロボロと涙が零れてくる。
愛し合っていると思っていたのは、自分の方だけだったのか……。
「ごめんエレノア、泣かないで」
「バカ! 誰のせいよ! アーサーのせいなんだからね! 大馬鹿!」
「すまない……」
アーサーは疲れ果てた様子で立ち上がる。
「また……俺は失敗したんだな」
「逃げるの!?」
一日に二度も女性から逃げるアーサーである。
ヘタレであった。
「ねえ、待ってよ……。あたしのことが嫌いになったの? だから、別れたいの?」
「そんなわけない。でも、不安なんだ。俺なんかが君の隣にいていいのかって、ずっと考えてる。俺は、俺なんかが幸せになっていいのかって……。その幸せが、君の本当の幸せを踏みにじっているんじゃないかって」
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
「このタイミングで!?」
エレノアは怒りつつ、アリアからコップを奪い取ると立て続けに二杯を飲み干した。
「いい飲みっぷりですね」
「いいから出てって。今大事な話してる」
「御武運を」
退室していくアリアを見送って、エレノアは溜息をついた。
急速に、肩の力が抜けていった。
アーサーに近づいて、彼の肩に手を乗せる。
するとアーサーは顔を真っ赤にして、エレノアを抱きしめた。
その力が強すぎて、疑いようもない。
アーサーはちゃんと自分に惚れている。
でも、不安だったのだ。
そして、その不安は自分が抱えていたものと同様のものであった。
あたしも、アーサーを独り占めして、彼の幸福を奪っていると思ってた。
相手が大切すぎて、自分が幸せにできるか不安なんだよね。
でもさ、本当に幸せになりたかったら、そこは踏み止まるしかないんだよ?
そうじゃないと、離れ離れになっちゃうから。
「あたしを幸せにしたいなら、アーサーが頑張ってよ。ヒドイ例えだけど、ミアのお兄さんが裏であたしに暴力を振るう人だったらどうするの。それってちょっと無責任じゃない?」
「従魔をつけようと思っていた」
エレノアは無言でアーサーの頬をつねる。
「ねえ、そういう話がしたかったんじゃないって、さすがのアーサーでも分かるよね?」
「ふぁい……ふぁふぁります(はい……わかります)」
脱力する。こんなどうしようもない彼、あたし以外に引き取り手があると思ったのが間違いだったかもしれない。
今の言葉は、アーサーに伝えると同時に、自分に向けて投げかけた言葉でもあった。
さて、そろそろ幕引きといこう。
ミナが自分を裏切ってくれた以上、いつまでも義理立てしていても仕方ない。
楽しかった非日常にさよならを告げよう。
「それとね。……ごめん。実はね、あたし、記憶消えてなかったんだよ」
「は……?」
ポカンと、アーサーが口を開ける。
「全部ウソ。ミナと示し合わせてたの。アーサーがちゃんと記憶を失くしても愛してくれるか、ずっと試してた。酷い女でしょ。幻滅した?」
「……いや、君は悪くない。君を追い詰めていたのは本当だし、辛くなかったとは思わない。俺にやり直しの機会を与えてくれて……ありがとう」
アーサーの唇にキスをする。
久しぶりの、恋人同士のキスだ。
「両想いでしょ?」
「そうだな。俺たちは両思いだ。俺はやっぱり……君を手放せない」
「当たり前でしょ。だから、あんな酷いこと、もう言わないで……」
涙が視界を滲ませる。押さえていても、嗚咽が漏れた。
「ごめん……! ごめん……。本当にすまない。二度と言わない。幸せにするから……したいから」
アーサーが、ローブのポケットに手を入れて。
指輪を取り出した。
「へ……?」
「渡そうと思って渡しそびれていた。従魔の契約を譲る指輪だ。メアはこれがないと君に従わないから、注意してくれ」
「ん……?」
「俺の魂の一部だと思って、持っていて欲しい。け、結婚したい」
「えええ!?」
アーサー・コンラッド。予測のつかない行動を多々、取ってくる彼であるが、またしてもやってくれたなと、エレノアは悲鳴をあげた。
10
あなたにおすすめの小説
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
あなたに嘘を一つ、つきました
小蝶
恋愛
ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…
最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ
せめて、淑女らしく~お飾りの妻だと思っていました
藍田ひびき
恋愛
「最初に言っておく。俺の愛を求めるようなことはしないで欲しい」
リュシエンヌは婚約者のオーバン・ルヴェリエ伯爵からそう告げられる。不本意であっても傷物令嬢であるリュシエンヌには、もう後はない。
「お飾りの妻でも構わないわ。淑女らしく務めてみせましょう」
そうしてオーバンへ嫁いだリュシエンヌは正妻としての務めを精力的にこなし、徐々に夫の態度も軟化していく。しかしそこにオーバンと第三王女が恋仲であるという噂を聞かされて……?
※ なろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる