無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します

みかん畑

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旅立ち

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 集合は一週間後の夕方だった。
 王都の南門近く。 簡素な馬車が二台、並んで停まっている。
 装飾はないが整備は行き届いていた。

「集まったのはこれで全員かしら」

 そう言ってリリカは周囲を見渡した。

 人数は多くない……というか、少ない。
 入植団というより、少数の移民と最低限の護衛だ。

 俺のほかにいたのは、六人ほど。
 まず目についたのは、獣人の少女だ。 
 ネコのような縦長の瞳。身軽そうな装いで、腰には短剣。
 視線だけで俺を値踏みしている。

 残りは若い男が二人。誰とも目を合わせず俯いてる。
 あとは子供が二人。こちらは兄弟らしく、顔立ちが少し似ている。

「俺はカイル。こっちは弟のユルです」 
「よろしくお願いします」

 視線をやったら、丁寧に挨拶された。
 二人とも薄汚れており、枯れ枝のように線が細い。
 命をかけてでも今回の旅路に参加した理由が分かった。
 路上で野垂れ死ぬよりはマシと考えてのことだろう。

 さて、俺の方は剣を新調した。
 何かあったときの為の保険だ。

「道中の警護は、こちらで担当します」

 そう言って、甲冑姿の騎士が一歩前に出る。
 同じ装備の騎士が、もう一人。

 名はハインツとレオンというらしい。
 護衛の数は少ないが、実戦慣れしているのは佇まいで分かった。

「無理な戦闘は避けるわ。生きて辿り着くことが最優先だから」

 まだ声変わり前の幼さが残っているが、リリカの意思は強い。誰も異論はない。

「フィンは戦力として数えていいの?」
「俺は結界師なんだが」

 リリカに答えると、彼女は不思議そうに首を傾げた。

「結界師だと、戦力には数えられないの?」
「普通は数えないな。後方で結界を張るだけの仕事だから」
「じゃあ、いざというときは子供たちの手を握ってあげてくれる?」
「それくらいでよければ」

 リリカは一人一人に声をかけていく。
 彼女なりにリーダーシップを発揮しようとしているのが伝わってきた。

「ネネ。困ったことがあったら何でも言ってね」

 リリカは亜人の娘にも気さくに話しかけた。
 偏見はないらしく、よくできたお嬢さんだ。

(……身なりはいいが、お貴族様ってことはなさそうだな。商人の娘か?)

 疑問に思いつつ、馬車に乗り込む。

 ほどなくして、馬車が動き出した。 
 王都の石畳を抜け、舗装の甘い道へ。
 進むにつれて空気が少しずつ変わっていく。

 走り出して一時間も経つと、白夜結界の影響が薄れているのを感じた。
 魔力の流れが荒く、偏りがある。
 王都では感じなかった“素の世界”に近い感覚。
 これが、王都を出るってことなんだな。

「フィン、少しいいかしら」
 
 隣に座っていたリリカが小声で話しかけてきた。

「どうした?」
「さっきから外を見ているようだから気になって」 
「ああ。王都に比べて瘴気が濃く見えるから」
「何にも見えませんけど」
「結界師には見えるんだよ」

 なぜ瘴気が見えるのか?
 そういう体質だからとしか言いようがない。
 子供の頃から俺には見えてたんだ。

「瘴気が濃いとどうなるの?」
「魔物に遭遇するリスクが高くなる。リリカは魔物が生まれる仕組みを知っているか?」
「大気中の魔素が結合して魔物になる……だったかしら」
「そうだ。魔素は使われずに溜まり続けると瘴気に変わる。瘴気が結合して魔物を生成する前にろ過するのが、白夜結界の役割だ」

 説明を聞いていたリリカが「なるほど」と頷いた。

「つまり、今はろ過装置の効果が薄いから魔物に遭遇しやすいってことね? じゃあ、フィンが結界を張っていれば、新たに魔物が生まれることはないし、魔物は弱体化される。そういうことで合ってる?」
「あのなぁ。ここからグランフォードまで何日かかると思ってるんだ」
「村をいくつか経由しながらいくから、九日くらいかしら?」
「その間、結界を維持し続けろと? 想像しただけで気が滅入る」

 素直に伝えると、リリカはなぜか吹き出した。

「ふふ。フィンって思ったより口が悪いんだ?」
「そういうリリカもだいぶ本性見えてるぞ。最初はもっとおしとやかだった気がするな」
「ふふっ」

 何がおかしいのか、リリカは笑い続ける。
 変わった娘だなと思いつつ、再び外に視線をやった。

 リリカには細かく説明しなかったが、白夜結界の効果が予想以上に薄い。
 都市部から離れたとはいえ、循環がここまで働かないなんてことがあるだろうか?

 白夜結界の管理は、魔導院に属する魔術師たちの管轄だ。
 高尚な学問を修めた連中が管理してるのだから、問題はないと思いたいが。

 ふと、俺に結界術を教えてくれた先生のことを思い出した。
 エルンストがこの有様を見たらなんて言うだろう。

『下手くそめ。わしにやらせてみろ』

『どうだ。貴様の術がゴミカスだとよく分かったか』

『結界の効果だと? ないと思うならやめてしまえ。若造が』

(……ろくな思い出がないな)

 口は悪いし手は出るし、うまくできてもマグレだとかいって研鑽を怠るなと叱咤してくる。
 とんでもない先生だが、腕だけは一流だった。

 ……俺の本分じゃないが、「危険感知」くらいは使うか。
 先生から受け継いだのは結界に付与効果を与える術式だ。
 と言っても、戦力を底上げしたりとか、そんな便利な効果はない。

 危険を察知したり、物音を消したり、その程度の術式だ。

 通常の結界より消耗は少ないし、これくらいなら維持できる。
 旅の仲間として、最低限の義理は果たそう。
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