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一つのエピローグ※キョウヤ視点

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 エリクが去った後、陛下は苛立ちを爆発させた。

「三勇者がいながらなぜ辺境の領主一人止められなかった! エリクと共謀して手を抜いていたんじゃないだろうな!」
「ふざけんな! 命懸けで戦ったのを見てなかったのか!? あの野郎が加減しなかったら俺達は死んでたんだぞ!」

(そうだ。エリクはいつでも僕達を殺せた。ただ殺す価値がないから見逃されただけだ)

 脅威となり得ないと判断されたんだ……。

「やめてツルギ。何か、書くものありますか」

 一人冷静なユイカが受け取った紙に数字を書き始める。
 そして、それを王に差し出した。

「穴だらけですけど、あいつのステータスです。あたしは鑑定で、エリクのステータスを覗きました。あいつは神クラスのスキルを何個も持ってました」
「神……? スキルって、効果量は『大』までしか上がらないはずだろ!?」
「分からないけど、あの子は女神の加護の効果量『神』っていうのも持ってた。そのスキルが悪さをしてるんだと思う」
「災いをもたらす4人目の勇者。伝承通りというわけか。なぜ神はあのような邪悪な者に慈悲を与える……。おかしいじゃないか! 私が何をしたと言うんだ……」

 今の陛下に何を言っても無駄だろう。
 彼は王だが、娘を持つ父でもあった。
 あんなに残酷なこと、許せるものではない。

「僕は戦います。例え勝ち目がなくとも、同じ勇者なら戦いようもあるはずです」

 姫殿下のことを諦められない。
 その一点において、僕と陛下の想いは同じだと思う。

「俺も、負けたままで引く気はないぜ」
「お前達……」
「あたしは降りるわ」

 ユイカが聖剣を放った。カランカランと音を立てて剣が床に転がる。

「あとはあたしのいない所で好きにして」
「ユイカ、お前本当に逃げるのか。俺達はお前の知識が頼りなんだぞ」
「何マジになってんの? 承諾もなしに一方的に召喚されたの忘れた!? もうあたしを巻き込むのはやめてよ! あんなステータスに勝てるわけないじゃない! せっかく見逃されたのに死にたくないわよ!」

 ユイカは逃げるように出ていった。

「……もう解放してやろう。勇者はまた呼べる」

 今後について案を練ろうとしていたところで、扉が乱暴に開け放たれた。
 白衣を着た青年が騎士と揉めながら入ってくる。

「困りますマルク様! 今は勇者様と陛下が謁見中なのです……!」
「いえいえ、だからこそ都合がいいんですよ」
「……騒々しい。マルク、いったい何の騒ぎだ」
「4人目の勇者に敗れたと聞きまして。私の研究が役に立つ時が来たなと」

 眼鏡の奥の瞳がギラついて見える。

「お前の研究は凍結したはずだが。また成果の出ない人体実験でもさせろと言うのか?」
「成果が出たのでご報告に参りました」
「貴様……。研究は凍結したと……」
「研究費は凍結されましたが、個人的な研究まで禁じられた覚えはありません」
「人体実験に他人を巻き込むなと言ったはずだ!」
「ですから、実験には自分の身体を使いました。ちょっと失礼」

 マルクが聖剣を拾い上げる。

「聖剣は一定の魔力量のある者に恩恵を与える。ちょうどいい。勇者が2人いるじゃないですか。私と戦っていただけますか?」
「お前のおふざけに付き合う暇などない!」
「今のままで魔王エリクに勝てるとでも? 姫殿下は変人扱いされてる私にも優しい少女でした。取り返せるものなら取り返したいと、私も願っているのですよ」
「……すまないが、2人とも相手をしてやってくれ」

 ツルギと共に剣を構える。

「加減なしでいきます。僕も自分の力を再確認したいので」
「ええ。どうぞお構いなく」

 マルクの動きが加速する。
 ――あの時と同じ感覚だった。

 エリクを前に、手も足も出なかった時と……。
 いや、気のせいだ。
 僕は負けない。

 勇者が二度も負けるはずが――

「神風!」
「鬼神!」

 加速の戦技、防御の戦技をそれぞれ発動し、僕達はマルクに斬りかかった。
 1秒未満の攻防……。防御を上げたはずのツルギが腹を裂かれて倒れる。
 そして、僕の速度もマルクには追いつけず、背中から斬られた。

「いかがでしたかぁ!? 研究によって、私はもう一つの心臓とも言えるコアを体内に増設しました! その結果、人間が練れる魔力量を遥かに超越できたのです! しかも、私の研究成果であるコアシステムは、安全な手術で埋め込める! 適合者を死なせる心配もありません!」
「素晴らしい……。それがあれば、エリクを倒せるかもしれない。コアシステムは幾つ作れるのだ」
「材料が足りなくて今は作れません」
「その材料を言え! すぐに用意してやる!」
「亜人の女児です」

(……殺せと言うのか。強くなる為に)

「研究資金が凍結されたので、新しい奴隷を購入できませんでした。でも、安い買い物ですよねぇ。亜人の幼い娘は利用価値もなく人間と比べて安いですし」
「……陛下。僕とツルギは絶対に強くなります。命を犠牲にするような真似はおやめください」
「それではいつ姫が救い出せるか分からない。恒久的な平和の為です。悪しき4人目の勇者を討つ為に、亜人種には平和の礎になっていただきましょう」
「ふざけるな! 命を何だと思ってる! ましてや子供の命だぞ!?」

 選択を迫られた陛下が苦悩している。
 彼は今、王国の運命を決定づけようとしている。

 亜人の命を……罪もない幼い命を消耗するような研究を押し進めれば、亜人国家との開戦は避けられないだろう。そんな未来を姫殿下が望んでいるとは思えない。

「キョウヤよ」
「陛下、この男は追放するべきです! 人命軽視が甚だしい!」
「コアシステムを受け入れてくれ。もし逆らうなら、爆破の術式でリューンを木端微塵にする」

 一瞬、言われた意味が分からなくて頭の中が真っ白になった。

「そういうことかよ」

 ハイポーションで傷を癒したツルギが立ち上がる。

「俺も専属メイドにはお手つきした。その時に気になったんだ。あいつ、隠すみたいな場所に刺青を入れてたんだ。しかも、当人はそれに気づいてないみたいだった。おおかた、俺達が不要になれば一緒に爆破するつもりだったんだろ。入れ墨に見せかけた術式でな」
「ユイカにも教えてあげないと!」

 ドゴォォォォォン……。
 何かが爆ぜる音が轟いた。
 大気が震える程の衝撃だ。

 今の爆発……。
 まさか、ユイカがやられたのか?

(……僕達は何のためにこんな国に来たんだろう)

 惨めさで涙がこぼれてきた。

 最初から、勇者は捨て駒だった。
 そんなことにも気づかず、僕は――

「私のララはもうここにはいない。亜人の命と引き換えに娘が戻ってくるなら、安い買い物だ」

 何も考えずリューンを抱きたい。
 僕に出来ることは、もう何もないーー
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