自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑

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自滅王子は愚かな計画を立てたようです※王子視点

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「……殿下!」

 慌ただしく執務室に入ってきた宰相が、生意気にも王子である俺を睨みつけた。
 相も変わらず口うるさく反抗的な男だ。

「また嫌味でも言いにきたのか?」
「殿下! カルカトからの手紙を無視していたというのは本当なのですか!?」
「ああ、あのことか」
「シリウス王子の式典に招かれたというのに、一カ月も返事をしないとは!」

 書類の束に潰された机を漁ると、開封済みだが手をつけていない手紙も山ほど出てくる。
 そのなかに、運良く件の手紙を見つけた。

「まだ式典までには二週間もある」
「二週間しかないのです! これは外交欠礼にあたりますぞ!」
「多少、返事が遅れただけだろう」
「一カ月も、遅れたのです! なぜ、こんな重要な手紙を後回しにしてしまったのか……!」
「ウリアが催促してこなかったのだ。手紙の仕分けは彼女にやらせている。だが、彼女は俺に手紙を渡したあと、注意をしてこなかった。そんなに重要な手紙なら何度か注意を促すべきだろう」
「言い訳にもなりません。この執務室にある書類は全て、殿下の裁量で捌くべきもの。それを放置して、あまつさえ婚約者に責任を転嫁するするなど、恥を知ってください!」
「リリナなら細かく俺をフォローしてくれた。優先順位の高い書類があれば期限までに捌くよう注意をしてきてくれた。それを、ウリアは何故できないんだ」
「リリナ嬢を捨ててウリア嬢を迎え入れたのは殿下でしょう! 何を今更……!」

 誰も彼もがリリナを褒め称え、ウリアを選んだのが間違いだったかのように俺を嘲笑う。

 だが、リリナはリリナで問題の多い令嬢だった。
 勝手な振る舞いが多く、少しも言うことを聞いてくれなかった。
 俺が何度ベッドに誘っても拒絶して、まったく愛を育もうという気がなかった。

 外面のいいリリナに皆は騙されているようだが、宰相までこの始末とは……。

「分かった。シリウスには今日中に手紙を出す。それで問題ないだろう」
「くれぐれも、失礼のなきようお願いします。カルカトとはかつて戦争をしていましたが、シリウス王子は戦争を嫌う穏健派。余計な火種は作らないでいただきたい」
「分かっている。用がそれだけなら部屋を出てくれ」
「……殿下。辺境へ向かったリリナ嬢ですが、現地では聖女と慕われ大変な人気を得ているようです。元帝国人だからと差別することなく、重税を廃して民の暮らしを向上させ、今ではジュン・アルガスの治めるアルガス領は中央にも匹敵する程の大都市へ成長しつつあると言われています」
「……何が言いたい」
「今回の婚約破棄の一件で、殿下の評判は地に落ちました。リリナ嬢を手放し、あまつさえ弾圧し辺境へ送ったのだと噂されているからです」

 なんだと……!?

「あいつは自分の意思で辺境へ行った! 俺は関係ないだろう!」
「事情を知らない者からはそう思われていないのですよ。清らかで心優しいリリナ嬢が、時代遅れの貧しいドレスを着て辺境へ送られたと、王都の民は彼女に同情を寄せています」
「ありえないありえないありえない! 苦労しているのは俺の方だ! あいつの抜けた穴を埋め、ウリアは何の役にも立ってくれない! お前たち臣下からは嫌味を言われ続け、父には何を訴えても無視される! この俺がいったい何をしたというのだ! ただ愛する女性と結ばれようとしただけだ! そして、リリナも同じように自分の愛する男の下へ向かった! 同じことをしてるのに、なぜ苦しんでる俺の方が批判される! リリナが俺を捨てて男の下へ向かったという噂にはならないのか!」

 宰相の冷ややかな視線が突き刺さる。
 何だその目は……。

 以前のように怒るでもなく、ただただ呆れている様に胸騒ぎがする。

「卒業パーティでの見せしめのような婚約破棄……。あの場に居たのが貴族だけだとお思いですか。給仕をしていたメイドたち、パーティを手伝っていた使用人、多くの平民が、殿下が一方的にリリナ嬢に婚約破棄を訴え、詰り、妾になれと恫喝していた場面を見ています。リリナ嬢に同情するなですと? 自身の発言、振る舞いを振り返ってから仰っていただきたい……!」

 くっ……。

「今まで散々、尽くしてくださったリリナ嬢を一方的に捨て、用済みとなれば辺境へ送り込む非道なる王子。それが、今の王都でのあなたへの評判です」
「馬鹿な……。すぐに噂を流している者を捕えよ」
「王都の民を全員捕えろと? これ以上の失点は進退に関わります事、お忘れなきよう。ご自身の名誉を回復したいのであれば、リリナ嬢へ詫びて戻ってくるよう訴えることです。もっとも、彼女にその気はないでしょうがね」

 嫌味を言って宰相が出ていく。
 入れ替わりで、ウリアが部屋に入ってきた。

 ああ……。俺のウリア……。

「大切な手紙ならちゃんと知らせないとダメだろう。お前のせいで宰相に怒られたではないか」
「私、ちゃんと伝えましたわ」
「え? そうだったか?」
「はい。再三、お伝えしましたが殿下は忙しいと言って無視をしていましたの」
「そうだったのか。しかし、それでも……。いや、犯人捜しはやめよう。やはり、ふたりで仕事をするのは難しいかもしれないな」
「そうですわね。文官たちも非協力的ですし、殿下の望む仕事をこなしているとは言い難いですわ」
「そうなると、後宮に入れる妻を増やすしかないか」
「……そんなことが可能ですの?」
「神明裁判をしようと思う」
「神明裁判?」
「ある物事を決闘によって決める風習だ。昔はコロッセオを開く為の理由として使われていたが、今、俺は再び神明裁判を開こうと思う。目星をつけた令嬢の代理人を王宮に召喚し、俺の代理人と戦わせる。そうして負けた方の令嬢を俺の所有物にして、補佐をさせるんだ」

 良い案だと思ったが、ウリアは気に入らないという表情をしている。

「……妾が増えるというのはあまりいい気分ではありませんわね。妃教育でその必要性は学びましたが」
「分かってくれ。これも将来、王として立派に国を運営する為だ」
「耐えますわ。あなたが王となる為なら」

 理解のあるウリアを迎えられたことを誇りに思う。
 やはり、俺に相応しいのは理解者である彼女だ。

 大切なのは学力や知識ではなく、人を支えようという当たり前の心なのだと思う。
 リリナにはなかった人を敬い支えるという心を、ウリアは持っているんだ。

「これからもよろしく頼むぞ、ウリア」
「ええ、こちらこそ」

 明るい未来を守る為の戦いが、始まろうとしている。
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