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残骸神※ジュン視点

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 アリシアと一緒に風呂から出てきたリリナが、貴族らしくないシャツとズボンでリビングへ戻ってきた。

 せっかく小綺麗にしたのにまた汚れては元も子もないので、二人が風呂に入ってる間に買ってきた服をリリナに渡して、アリシアも着替えさせた。

 風呂に入り食事も与えられたアリシアは、安心からかスヤスヤと客間のベッドで寝ている。

 準備していた珈琲をテーブルに並べると、リリナは対面のソファに座り、疑うこともなく口に含んだ。

 少し不用心だと思ったが、それだけ信用されたのかもしれない。

「何から何まで……ありがとうございます」
「別に、たまたま手が空いてたからな。それで、あの娘は何者なんだ? 少し話したが、ギランドから来たと言っていた。王都からは遥か北にある国境沿いの街だ。子供一人で歩ける距離じゃない」

 落ち着いたことで、疑問がぶり返してくる。

 しかし、リリナは本当に何も知らないのか、申し訳なさそうに頭を下げてきた。

「すみません」
「いや、偶然会っただけなら知らなくても当然なんだが」

 俯いてしまった彼女だが、意を決したのか、正面から俺を見据えてきた。
 何か相談したいことでもあるのか?

「ジュンは、前世からの縁って信じますか?」
「質問の意味を受け取りかねるな。信じたことはないが……」
「私には、前世の記憶があるんです」
「面白い話だ。遠回しな告白なら聞くが」

 冗談かと思い受け流そうとした直後、鈍い頭痛がした。

 白い光の映像がフラッシュバックする。

 強い光の中心に、レギがいる。
 俺の傍らには、リリナが――

「ジュン? 大丈夫ですか」
「何でもない」
「もしかして、何か思い出したんですか?」
「俺は何も……」
「嘘です。ジュンは覚えているはずです。あの時、私とジュンは一つになりました。私が覚えてるなら、ジュンだって……!」

 リリナが身を乗り出すようにして訴えてくる。

 前世の記憶? そんなもの実在するはずがない。
 理屈ではそう思うのに、一方で否定しきれない俺もいる。

 リリナに対する胸の内側から湧き上がってくるような思いは、どこで育まれたものなのか。
 その答えが掴めていないからだ。

「ふたりとも、仲直りしないの?」

 幼い声が、空気を引き裂いた。

 見ると、眠れなかったのか寝室から出てきたアリシアが、俺たちをジーっと見つめていた。

「ふたりとも前の方が仲良くしてた」

 前世の記憶とやらに関連するであろうアリシアの言葉。
 少し、話を聞いてみたいな。

「アリシアも何か覚えてることがあるなら教えてくれないか」

 彼女に尋ねてみるが、アリシアは首をフルフルと横に振るだけだ。

「私、何も覚えてない」
「でも、俺とリリナが仲良しだったことは覚えてるんだろ?」
「ううん。教えてもらっただけ」
「……教えてもらった? 誰にだ」
「神様」

 淡々とした言葉に、何故か背筋がゾクリとする。
 冗談や嘘をついてるようには見えない。
 そんな演技ができるとも思えない、アリシアの言葉だったからか。

「アリシアに神様が教えてくれたの」
「アリシア、その話は本当ですか!?」
「嘘じゃないよ」

 アリシアがニッコリ微笑む。

「だって、今もここにいるから」

 瞬間、アリシアの纏う気配が変わる。

 彼女の瞳の虹彩が虹色に輝き、空気を冷たく塗り替えた。

「……オカルトは勘弁してくれ」

 実体を伴った現実として、神がアリシアに憑依する。

 なぜ、アリシアが王都へ来たのか。
 その答えが目の前にいる。

「あなたは……! あなたは女神ルナリアですか!」
「違う」 

 アリシアに宿ったモノがハッキリと否定する。

 初めて、リリナが怒るところを見た。
 その、女神ルナリアに彼女は恨みがあるらしい。

 ルナリアといえばトリテ王国のみで信仰される創造の神だ。
 王国の興りに王子へ加護を与えたことで有名だが、話しの内容から察するに、前世の因縁とやらにも絡んでくるらしい。

 頭が痛い……。
 まっとうだったはずの俺の人生が、一気にオカルト色だ。

「私は地上での名を持たない。神とだけ呼べばいい」
「ルナリアが時間を巻き戻したことをご存知でしょうか。同じ神なら、何であのような無法を止めてくれなかったんですか!」
「リリナ、落ち着け」

 悔しそうに、リリナがボロボロと泣き出す。

 アリシアに宿った神とやらは、無感動にその様子を眺めるだけだった。

「私は力を持たない。私にできるのは、知識を与えることだけ」
「知識って何ですか」
「リリナには、異なる世界の神様がついてる。私はそれを伝えにきた」
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