自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑

文字の大きさ
28 / 34

自滅王子はやり直しても自滅する運命らしい※ジュン視点

しおりを挟む
『離さないでくださいね』
『君を離したりしない』

 ――真夜中、ハッとして目覚める。

 隣を向いてもそこにはアリシアがいるだけだ。

 そこに、夢で見た彼女の姿はない。

(……いや、本当に夢だったのか?)

 頭がズキズキと痛む。

 あまりにリアルだった、彼女の温もりと触れた指の感触。
 優しい石鹸の匂いまで、現実と変わらなかった。

 あんな迫真的な夢が存在するのだろうか。

 今の夢の内容がただの夢だったとは思えない。

 まるで、前世の記憶が突然呼び覚まされたような、そんな錯覚を覚えた。

「記憶のピースが少しずつ揃ってる」

 隣から、アリシアの声がした。
 見れば、彼女の瞳の虹彩が闇の中で虹色に輝いている。

「その目……。またアリシアに取りついたのか」

 昼間、彼女の口から語られた情報によって、リリナが加護を受けていること。その力によって、全ては在るべき形へ収束していくことが語られた。

 つまるところ、俺たちが行動を起こすまでもなく、レギは自滅してしまうということだった。

「俺の記憶は元に戻るのか?」
「戻る。いつになるか分からないけど」

 淡々と返事が返ってくる。

 この名もなき神は、俺たちの知り得ない多くの情報を持っている。
 情報収集はやってやり足りないということはない。

「……もっと早く記憶を取り戻すことはできないのか」

 昼間の、泣いて怒りをぶつけていたリリナを思い出すと、胸が痛んだ。
 それだけの愛情を俺に対して抱えていながら、ずっと独りで秘めていたのだと思うと、愛しさと同時に切なさが湧きあがってくる。

「あなたはかつて、リリナと愛し合っていた。彼女を大切にしたいという気持ちは、理解できる。でも、だからって無理はよくない」

 ……もしかして、何か方法があるのか?
 記憶を取り戻す手段が。

「この強化アイテムを使えば、私が力になれるかもしれない」
「これは……豚の貯金箱か?」

 まさか、金銭を要求するつもりなのか。
 少し引いたが、アリシアは大まじめに貯金箱を揺らす。

「あなたがどれだけリリナを愛してるか教えてほしい。もしかしたら、力になれるかもしれない」

 どこから取り出したのかも分からない、得体の知れない貯金箱だ。
 しかし、これにすがれるなら賭けてみたいと思う。

「……分かった」

 俺は金貨を……いや、小切手を机の引き出しから取り出して、そこに投入できる金額を全て書き込む。

「いくら書いたの?」
「俺の全てだ」

 貯金箱に小切手を入れる。
 瞬間、激しい眩暈に襲われた。

「取り戻せるかもしれない」
「……本当か?」
「うん。私に名を与えて欲しい」

 名前……。
 一度は失われた神だという。
 だったら、

「グローディアだ」

 名前に深い意味はない。
 女神教に消された神だと聞いて、グロノス族を連想した。
 本当に、ただそれだけの理由で与えた名前だったが。

 彼女には劇的な変化をもたらしたらしい。

 アリシアの身体が強く発光し、そこから霊的な神秘性を備えた少女が分離した。
 幼く、儚げな容姿をした麗しい少女だ。

「……代替わり。新たな女神の創造に、あなたは立ち合った」

 ズキ……と俺の胸が痛み、血が滲んだ。

「おい、何をしたんだ」
「聖痕を与えた。私の信者であるという印を」
「お前を信仰した覚えはないが」

 告げた瞬間、グローディアの身体が半透明になった。

「あなたが信仰を止めれば私は消える。そうなれば、もう一度王族が暴走した時に止められないかも」
「……完全にオカルトと繋がってしまった」

 真剣に頭が痛い。

「ほっといても勝手に自滅して収束するけど、ジュンが望むならレギの破滅を加速させてもいい」
「まあ、何もしないで待つより建設的かもな」

 それまでは、グローディアを信仰して彼女の存在を維持しよう。

「ところで、お布施が増えても私は強くなる。もっと稼いで、私に投資するといい」
「神っていうシステムはあまり好きじゃないが、現金なところは嫌いじゃないな」

 働いて、稼いで、女神を強くする。
 単純だが明確な目標ができた。

「ところで、俺の記憶だが」
「無理だった。でもほっといても戻る」
「お前、詐欺師じゃないよな」
「失礼すぎる……!」

 俺の信仰心が薄れたせいか、彼女の姿が半透明になる。
 俺は慌てて机から飴玉を取り出し、グローディアの口に詰め込んだ。

「なんか食ってろ」
「もが……!」

 暴れて怒るが、お布施をやってれば元気になるんだろ。
 薄くなったり濃くなったりする女神を見ながら、面倒な置物が増えたなと思った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

襲ってきた王太子と、私を売った婚約者を殴ったら、不敬罪で国外追放されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

処理中です...