自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑

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急転直下、驚天動地

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 朝、ジュンの為に朝食を準備して待っていると、彼は驚いた様子でテーブルに並んだ料理を見つめた。といっても、トーストを焼いてベーコンと卵でスクランブルエッグを作って、サラダを盛っただけなんだけど。

「これを君が……?」
「うん。昨日の食材が余ってたから、一晩泊めてもらったお礼に……。私、一度家に戻ろうと思うの」
「いや、それは駄目だ。危険すぎる」

 ジュンが慌てた様子で私の元にくる。

「でも、記憶もないのに私を置いておくなんて嫌でしょ? 恋人でもないのに、迷惑はかけられないから……」
「少しずつ記憶が戻り始めてるんだ。俺は、リリナのことを……愛していた」
「ジュンは優しいな」

 本当は、全然思い出せていないんだと思う。

 それでも、ジュンはアリシアの面倒を見てくれたり、優しいところがあるから、きっと私のことも心配して言ってくれたんだ。

「本当に平気だから。チキュウ……? っていうところの神様の加護もあるみたいだし、もう一人でも平気。ジュンは女の人、苦手でしょ? だから、無理なんてしなくても――」
「君を守らせてほしいんだよ」

 ジュンが少しだけ語気を強くした。
 それが、私の為に怒ってくれてるみたいで……胸がギュっとなる。

「記憶は関係ない。君は純粋で、優しくて、可愛くて、誰にも渡したくないんだ……。頼むから、他の誰でもない、俺に迷惑をかけてくれ。記憶がないからって俺を見捨てないでほしい」
「そんなつもりは……」
「頼らないっていうのは、いらないって言ってるのと同じじゃないか。記憶だって必ず取り戻すから、もっと大事にさせてくれ」
「記憶はほっとけば思い出すと思う」
「その幼女誰!? 浮気!?」
「ち、ちが……!」

 新しい神様が増えたらしかった。

 で、現状把握終了。

 ひとまず、私は一回親と話してくることにした。
 泊まるにしても親の説得は不可避だ。

 てなわけで帰宅するって伝えたら、ジュンもついてくるって言い出した。
 で、一緒に実家まで来てもらうことになったんだけど。

「あの、ジュン?」
「愛してる。自分でもよく分からないけど、君がいないともう駄目な身体になったらしい。嫌じゃないなら、もう少し甘えていいかな」
「う、うん……」

 めちゃくちゃぬいぐるみ扱いするじゃん……!
 屋敷を出る直前、力強くジュンの腕のなかに閉じ込められた。

「可愛いな」
「え、私なんかが可愛いの?」
「可愛いよ! 頭を撫でたくなる可愛さだ」

(……ロリコン?)

 そんな感じのやり取りがあって、ジュンの屋敷で抱っこされまくった私は、彼と手をつないで実家の屋敷へ。しっかり恋人握りで手を握られて、離そうとしても絶対に離してくれない。この子供っぽい強引さ、ジュンだなーって思った。

「ここがリリナの家か」
「うん。大きいでしょ?」

 さて、まずはただいまって挨拶をしよう。

「ただいまー」

 応接間の方にお父様とお母様は揃ってた。

「リリナ……!」
「ああ、ちゃんと戻ってきてくれた!」

 両親が私をギューって抱きしめてくる。
 またしてもぬいぐるみモードへ。
 一向に私を離す気がない両親。
 そこに、

「リリナさんを私にいただけませんか」

 なんかプロポーズされてる!?
 急転直下、事態は大きな変化を迎えた。

「えっと、ジュン?」
「記憶が戻った。いや、本当に。君を……愛している」
「えっ……う、嬉しい」

 本当に、記憶が戻ったの?
 ジュンは気恥ずかしそうに私を見つめてくる。

 その目が、私の知ってる恋人のジュンで、胸がいっぱいになってしまった。

 そういえば、このシチュエーション、前回と全く同じだ。
 私の実家に来て、ジュンがお父様たちに婚約を認めてもらうっていう状況……。

 彼の記憶が刺激されるのも当然かもしれない。

 だけど、盛り上がる私たちとは裏腹に、お父様は難しい目でジュンを見定めようとしている。

「私はね、ジュン・アルガス辺境伯。娘はこのまま家に置いておいてもいいかもしれないと思っているんだ」
「それは、一生結婚をさせないということでしょうか」
「そうだね。陛下との婚姻についても、一度白紙にさせていただこうと考えている」

 意外な言葉だった。
 お父様は、娘の心配よりも国の行く末を案じていると思っていたし、実際、今までずっとそうだったから。

「私は、身勝手な思いで娘を束縛していたのかもしれない。学園での一幕は私も聞いたよ。レギ・フードルは、学びの場である学園で、娘の貞操を無理やり奪おうとしていたみたいだね。親として、これ程の屈辱はないと思った。だが、それと同じくらいに、傷心の娘に頼ってもらうことができなかった、己の親としての未熟さが情けなくて仕方ない」
「……私たちは親失格だわ。リリナは、学園からも、家からも逃げた。そして、止まり木として選んだのがあなただったのね。ジュン・アルガス侯爵」

 辺境伯ではなく、侯爵。
 ハッキリと、母はそう言った。

「ねぇアーサー、娘の幸せを一番に考えるなら、この方に娘を託すしかないと思うわ」
「それは分かる。分かるが、親としての責任を何一つ果たすことなく、娘を預けるのは……どうしても納得できないんだ」
「私にも気持ちは分かります。私も、リリナの恋人でありながら、彼女に悩みを打ち明けてもらうことができなかった。最後の最後で彼女が私を頼ってくれたことには、本当に感謝しています。それが例え偶然やめぐり合わせだったのだとしても……」
「ところでジュン・アルガス君。君が連れてきた二人の娘さんはいったい……」

 ジュンはアリシアと一緒にグローディアを連れてきている。
 どう説明するのかなと思ってたら、彼は「引き取った孤児の娘です」と告白した。

「寄る辺がなく、働き口を求めて国境沿いにある街から歩き詰めで王都まで来たと聞いてます。とても放っておけず、家で面倒を見ることにしたのですが、恥ずかしながら王都ではメイドを雇っておらず、自分で面倒を見ています。申し訳ありません、このような大事な場に二人も連れてきてしまって……」
「いや、君の誠実さと懐の深さを垣間見た思いだよ。とても真似できることじゃない、立派な行いだ」
「そうね。ジュン・アルガスは立派な青年だわ」

 狙ったわけではないのだろうけど、二人のジュンに対する評価は爆上がりだった。

「祖国の為だと思って我慢してきたけど、乱心した王に娘を供物として差し出すなんて絶対に嫌だわ。ねえ、彼に預けましょうよ」
「分かっている。私だって今さら、陛下に娘を預けようとは思わないよ。ただ、親としての責任を果たさず彼に娘を預けるのは納得がいかないというか……」
「なら入り婿になってもらえばいいじゃない。別邸に住んでもらうのはどうかしら」
「それはいいかもしれないね。別邸なら目と鼻の先だし、彼が不在の時でも私たちが娘を護ることができる」

 二人の気持ちはすごくありがたい。

 でも、ジュンにその気はあるのかな。
 私との婚約の為に、気ままな一人暮らしを捨てていきなり同居だなんて……。

「受けさせてもらいます。リリナと一緒に、二人に認めてもらえるよう努力します」
「……うん。婚約者らしい前向きさだね。それじゃあ、よろしく」

 と、ジュンとお父様が握手をして、お母様が嬉しそうに拍手をしたその時だった。

 玄関の方が慌ただしくなって、使用人たちの制止を振り切って宰相、ジュリオ・ロウが応接間にやってきた。

「アーサー・カフテル卿! 陛下の婚約者を、王宮で預かりたいのですが!」
「うん、断るよ。娘は今しがたジュン・アルガス辺境伯に嫁いだ。もう陛下にはやれない」

 嫁いだ!? 私は驚いてしまったけど、すかさずお母様も話を合わせてしまった。

「ええ、もう婚前交渉も済ませてしまったし、陛下との婚約は破棄よ」

 まだすませてませんが!? 少なくともこちらの世界では!
 キラリと瞳を輝かせて、ジュンも話に乗っかる。

「宰相閣下、申し訳ありません。先日、陛下がリリナ嬢に狼藉を働こうとした際に助け舟を出したことが切っ掛けで縁が出来、彼女とは婚前交渉を済ませてしまいました。彼女に罪はありません。この一件の罪は全て、私が引き受けます」
「いやいや、彼に罪はないよ。もし、彼が罪に問われるというのなら、責任は私にあると言いたいね。娘とその友人に対する監督不届きだ。しかし、学園での陛下の狼藉は私も聞き及んでいるし、正式に抗議もしたところだから、もし、このタイミングで私が裁かれるようなことがあれば、同じ派閥の者たちは黙ってないだろうね。特に最近の陛下は乱心ぶりが酷いと聞くから、人心が離れることは請け合いだよ」
「くっ……。では、ジュン・アルガス辺境伯を王宮へ召喚したい」
「だからさ、もうぶっちゃけて言うけど、ジュン・アルガスは私が庇護すると――」
「いえ、それは出来ぬのです」
「なんだって?」

 お父様がイライラし始めるけど、宰相は一歩も譲らなかった。

「ジュン・アルガス辺境伯……。いえ、ジュン・アルガス王子殿下。現国王陛下に代わり、この国を治めていただきたい」

「「「はぁ?」」」
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