Looter [略奪者]

ラージャ☀️

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ギルドへ帰還

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どの位眠っただろう。焚き火は既に熾になっていた。3人は誰ともなく起き出し、出発の準備を始める。一切の光源がないので松明一本を壁の切れ目に差して、灯りが届く範囲に残したものがないかを確認し、出発する。先頭は『アガラ・ゴロシャ』の剣士、レイノさん。俺とホウルはその後ろを並んで歩いている。

「あ、やっぱり…」

ホウルが指差した所を見ると分岐で、出口に行けない方の道に行って戻ってきた足跡がついていた。

「グーリの奴、案内もなしに戻ろうとするから…」

先に俺達を見捨てて引き返した『アガラ・ゴロシャ』のリーダー、グーリはそれほど先行していないようだ。恐らく不眠不休で、迷路で迷いながらの強行軍でヘトヘトになっていることだろう。

「この分だとギルドに着く頃に追いつくかな。」

俺達は仮眠や休憩を取りながらだが、迷路で迷うことなく戻っている。そんなに速くはないが着実に近付いているはずだ。

『シューレム』ダンジョンを出ると、外は夕方だった。ダンジョン前に5人組のDランク冒険者パーティーがキャンプを張っていたので情報交換をした。彼等は明日から一角うさぎ狩りをする予定だった。黒い魔獣の話は知っていたが、信じていないようだ。

「あれは本当の話だったよ。でももうこちらのレイノさんが退治してくれたから大丈夫。」

「へぇ。あんた凄いんだな。Bランク指定の魔獣を倒すなんて。」

「俺1人では無理だったな。この二人がいたから倒せたんだ。」

「あの“魔獣なのに魔法を使う”って噂、本当だったのか?」

「あー、あれね。魔法っていうか魔法っぽく見える技と言葉っぽく聞こえる唸り声でしたよ。」

「やっぱりそうか。魔獣が『燃え上がれ、炎よ!』とか唱えたらどうしようかと思ったぜ。」

「ないない。魔獣が呪文を唱えられる訳ないじゃん。」

「ケイジンさんの勘違いかぁ。」

「そうそう。」

「そういえば、こっちから町へ戻っていく男を見なかったか?」

「あー、ちょっとイカツイ感じの、ここらじゃ見かけない顔の男なら、昼過ぎにすれ違ったな。」

「そうか…。」

「なんだい、仲間かい?えらく機嫌が悪かったようだけど。」

「そうなんだが…何か言ってたか」

「あー、何か騙されたとか言ってたっけ」

「ああ、賠償請求がどうとかブツブツ言ってたな」

「ありゃあ、ギルドで面倒起こしそうだったぞ。」

「早く捕まえなきゃ、か…」

「もう暗くなるし、向こうもキャンプを張るだろうから、追いかけるのは明日にしたらいい。」

「“岩山ルート”、知ってるよね?」

ラゼル村と『シューレム』ダンジョンを結ぶ道は1つではない。やや遠回りになるが平らな道で魔物の出現率の低い、体力温存ができる“森ルート”。岩山を2つ越えなければならないし、魔物の出現率も高いが、時間を節約できる“岩山ルート”。他にも冒険者それぞれ自分の好みのルートがあるが、大体の人がこの2ルートのどちらかを選ぶ。“森ルート”で片道1日半、“岩山ルート”で1日弱だ。

俺達もキャンプの準備をして休みを取った。見張り番はホウル→俺→レイノさんの順番でした。


翌朝、俺達が出発するとき、彼等は

「ギルドに入るまでに捕まえてくれよ。」

と言ってダンジョンに潜っていった。

“岩山ルート”はキツイ山道だが、休みを取って準備万端な俺達にはたいしたことはなく、順調にラゼル村に近付いていた。途中出会った魔物はほぼ全てレイノさんが一刀のもとに切り捨てていた。俺達は解体をしながら、どこの急所を狙ったら解体がし易いか話したりしていた。レイノさんは解体については殆ど素人で、どの魔物から何が採れるのか、どうすれば上手に採れるのか、等色々聞かれた。

ラゼル村に近付くと、見覚えのある4人組が血相を変えて走ってくるのが見えた。『ファリスの希望』パーティーだ。

「おーい!」

ホウルが手を降ると4人は気付き、顔を見合わせて走り寄ってきた。

「そんなに慌ててどうかしたんですか?」

「どうしたもこうしたもねぇよ!何だ、無事か。」

ホウルがガダムに背中を叩かれている。

「さっきミッションから戻ってきたグーリとか言う奴がギルドで、君達が『黒い魔獣』討伐で邪魔をしたとか、囮になったとか色々言ってて、ギルマスから君達の緊急捜索指令が出たんだよ。」

エルが状況を説明してくれた。

「あー、間に合わなかったか…」

「君達が無事なら良いんだ。詳しいことはギルドで聞こう。急いだ方が良い。」

俺達は『ファリスの希望』と共にギルドに急いで戻った。


ーーーーーーー


半日前、ラゼル村の入り口ではちょっとした騒ぎが起きていた。

「よし、通っていいぞ。次の者!」

ボロボロの見かけない男が片足を引き摺りながらやってきた。

「身分証を拝見。」

「・・・。」

黙って差し出された冒険者ギルドの身分証をみる。

「モシャ?Cランクの魔法使い?あんたが?」

見るからに戦士といった風体の男は煩わしそうに手を振った。

「拾った身分証はギルドに届けてもらわないと。で、あんたのは?」

「ダンジョンで魔物に囲まれたとき、この村で雇った荷物持ちに俺の荷物は盗まれたんだ!」

「それは困ったな。銀貨1枚で仮身分証を発行するから、ギルドで身分証を再発行してもらってくれ。仮身分証を返してくれれば銀貨1枚は返還する。」

「だから俺の荷物は盗まれたって言ってるだろう!」

「その背負ってる鞄はあんたのじゃないのか?」

「こいつは今回のミッションで失った仲間のものだ、俺のじゃない。」

「中に金目のものは?」

「無い。俺達のパーティ『アガラ・ゴロシャ』の金は全部俺が管理してたからな。」

「じゃあその背負ってる両手剣で仮身分証を発行してやるよ。」

「何だと!?俺が自分の愛剣を他人に触らせる訳ないだろう!それもこれも全部この村の盗っ人荷物持ちのせいだ!お前らもグルか?ギルドマスターに文句を言ってやるからここを通せ!」

「駄目だ。身分証の無い者はここを通せないことになっているからな。」

「やっぱりお前達グルだな?力ずくでもここを通らせて貰うぞ!」

そう言って男が背中の剣に手を伸ばしたとき、周りの人だかりを押し分けて冒険者ギルド・ギルドマスターのノルドが姿を現した。40絡みでくせっ毛の中肉中背の男だ。

「『アガラ・ゴロシャ』のグーリ殿ではないか。」

「ノルド!あんたが全部仕組んだんだろう!」

グーリと呼ばれた男は目的の相手に会えたので、今までの鬱憤を晴らさんばかりに怒鳴りつける。

「何の事だ?俺は村の入り口で暴れてる男がいると呼ばれただけだが。」

「あんたのせいで『アガラ・ゴロシャ』で生き残ったのは俺だけなんだぞ!どう責任を取ってくれるんだ!」

「待ってくれ。ここで立ち話も何だからギルドの方で話を聞こうではないか。」

「何だとは何だ?人に聞かれては困ることなのか?ああん?」

「いや、そうではないが、往来の迷惑になる。」

「知ったことか!あんたのせいで仲間がヤラれたんだ、あんたの処のガキ2匹が俺達を嵌めやがったんだ!」

「俺のせい?何のことだ?ウチの子二人とは誰のことだ?」

「あんたがあんな化け物退治ミッションを俺達に押し付けたからだ!『黒い魔獣退治』?あんなもんAランクでもなきゃ太刀打ちできやしねぇよ!」

「ほう、指定ランクが低かったということか。だが『アガラ・ゴロシャ』より低いランクのパーティで無事帰還したところもあるからな。」

「じゃあ、彼奴等のせいだ!彼奴等が俺達を嵌めやがったんだ!人の荷物を盗みやがって!あんたのギルドは盗っ人を飼ってんのか?」

大人しく成り行きを見守っていた冒険者ギルド員がピリつき出した。

「誰のことを言ってるんだ?」

「はっ、名前なんか知らねえよ!神官と軽装の薄気味悪い…」

「ギルマス、ホウルとグラトのことらしいですよ。4、5日前にギルド前で待ち合わせて出発するところをうちの受付が見てたようです。」

「そうか、わかった。なぁグーリ、あんたが雇った荷物持ちはな、ウチの期待の新人だ。盗みなんか働かない。俺が保証する。」

「けっ、そんなこと言ったって事実、俺の荷物を盗んでるんだぜ?どう落とし前つけてくれるんだ?」

「あんたはBランク、彼奴等はまだEランクだ。まさかEランクに後れを取ったのか?」

「…魔物に囲まれて乱戦になってたんだ!そのすきを狙いやがって、ありゃあ相当盗み慣れてんな。」

「…まあ、本人達に聞くのが早いだろう。で、二人は何処に?」

「知らねえよ。今頃『黒い魔獣』に喰われてんじゃねえか?ハハハ。」

「まさかダンジョンの中に置いてきたのか!」

「さあね。囮になって俺を逃してくれたんだぜ、きっとな。」

「話にならんな。矛盾もある。みんな、コイツを捕縛してくれ。」

「「「おうっ!」」」

「なっ、何しやがる!近寄ったら斬るぜ」

グーリは背中の剣を抜いた。

「村内で抜刀はご法度だ。」

「まだ村に入っちゃいねえよ!お前らが入れてくれなかったんだぜ!」

グーリは両手剣を振り回し、片足を引き摺りながら村から離れるように逃げ出した。

「「「待てっ!」」」


「ホウルとグラトが心配だ。誰か『シューレム』ダンジョンへ行ってくれないか?」

「俺たちが行くぜ。な、リーダー。」

「ああ、任せてもらおう。」

「『ファリスの希望』か。頼んだ。経費はギルドから出す。」

「そんなものいらん。彼等はウチのメンバー候補だからな。」


ーーーーーーー


「あ?あれは…ギルマス!『ファリスの希望』が帰ってきました!あの二人生きてましたよ!」

「はあ?随分早いじゃないか。」

村の入り口でグーリ捕縛の知らせを待っていたノルドが振り返ると元気に手を降るホウルの姿が見える。

「おーーい!」

「何だ、元気じゃないか。人の気も知らないで…」

集まっていたギルド員達に小突かれながらホウルとグラトがノルドの前に通される。

「只今戻りました、ギルマス。」

「お前ら一体何しでかしたんだ?あれ、その人は『アガラ・ゴロシャ』の…レイノ…だったか?」

「はい。」

「グーリの話では生きていないことになっていたが?」

「色々ありまして…」

「…そうか。ギルドで詳しい話を聞かせてもらおう。」

「判りました。」

「私達も行きます。」

「ああ。メンバー候補なんだろ?」ニヤニヤ

「ウォッホン!さあみんな行くよ。」

「素直に心配してたって言えばいいのに。」

「ウチのリーダー、“ツンデレ”ってやつなんですよ。」

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