異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

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ベアルダウン王国編

179話 主人公、暗黒大陸を冒険するー1

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 見渡す限りの砂漠。
 生物の姿は見えない。植物すら生えていない。まさに不毛の地。

 僕達は、この砂漠を進んでいた。すでに5日。目指す座標には、まだ到着しない。

「今日はここまでにしよう。じゃ、タクミ。ここに紋様描いて!」

 シオンの指示で、砂の上に転移の術を施す。僕は、前に描いた紋様を消して、進んだ先に新しい紋様を描く、ということを繰り返していた。

「ほんっと、いい術を教えてもらったね!タクミがいたら、全員で来る必要無いし。何かあっても拠点のハドリー岬に帰れるし。これなら、タクミ一人でもできるよね?」

「いやいや、それはダメだよ。僕ひとりだと、どっちに行ったらいいか分からないし。何かあった時に判断できないし。」

「ミライがいれば、方向はわかるでしょ。でも何かあると困るから、こうやって付き合ってあげてるじゃん!」

 今日、一緒に進んでいるのはリオンとシオンだけだ。他のみんなは、拠点があるハドリー岬で待機している。



 アズマに教えてもらった転移の術で、ハドリー岬へ帰る。
「はぁ、今日も砂まみれだよ。早く風呂入りたい。」

 ハドリー岬のログハウスの扉を開けると、ユーリが出迎えてくれる。
「お疲れさま。今日もご苦労さん。どこまで進んだ?何か見つけた?」

「今日も見渡す限り砂漠だったよ。ユーリが言ったとおりだ。本当に何もない。」
 地図で位置を確認していたユーリが口を開く。
「でもかなり進んだね。アタイが知ってる場所はとっくに過ぎたし、この位置からなら目的の座標まではもうすぐだ。だから明日からは全員で進もう。目的の座標に何があるか分からないし。」

 全員ね。暗黒大陸に行く予定のメンバーは、全部で7人だと聞いていたが、この拠点に集まったのは9人だった。当初の予定にはなかったメンバーが2人。

「おぅ、タクミ。おかえり。どうだった?」
 その2人のうちのひとり、ガルシアがやって来た。今日もラフな格好。僕が砂にまみれていた間、ガルシア様はぐうたらしていたに違いない。
「タクミ。大丈夫デシたか?毎日大変ですネ。」
 カシムが労ってくれる。

 暗黒大陸に行くのを聞きつけたガルシアが、どうしても行きたいと言い出したらしく、追加で参加が決まったそうだ。カシムは元々、冒険者だったので、ガルシアの護衛としてついてきたという。

「ガルシア様、明日からは全員で行きますからね。ぐうたらするのは終わりですよ。」

「タクミぃ。俺はぐうたらなんかしていないぞ!ちょっと羽を伸ばしているだけだ!」

 ほほぅ、ドヤ顔ですか。
 明日からは大変な目にあえばいいんだ。僕のように砂まみれになってしまえ!

「おっ、タクミ。戻っていたか。ホバーの調子はどうだ?」
 2階からジルが降りてきた。

 暗黒大陸で使用しているホバーは、ジルの指示でサクラとモミジが開発してくれた特別仕様だ。

 通常のホバーは精霊を動力としているから、国内なら無限に使用できる。だが、暗黒大陸には、精霊がほとんどいない。だから、時間制限はあるが、精霊がいないところでも使えるようにホバーを改良したという。

「ホバーの調子はいいよ。」
「そうか。タクミ達がデータを送ってくれるから、さらに改良もできてちょうど良かったぞ。」
「それより、ジル。体調はどう?」

 ジルは病気治療が終わったばかりだ。本当なら、もう少し療養してほしいのだが。

「タクミが覚えてくれた術のおかげで楽ができてるからな。砂漠の中で野宿する覚悟だったが、それが無いから体調もいいぞ。ありがとな。」

 うぅ、ジルは優しいなぁ。

「みんな、ご飯が出来たべ。」
 タムがみんなを呼ぶ声がする。

 僕がドラゴンの家(アズマがそう呼んでいたので僕達もそう呼称することにしたのだ)に行っている間に、異常種のケモノはタムとソラで解決したそうだ。
 その後、この拠点に来て、ご飯係をしてくれている。紋章システムから出せるから作る必要はないのだが、自分の作った野菜を食べてほしいらしい。
 この拠点に来てからは、ソラは現れない。何かあったのか?それに、どうやって異常種のケモノを退治したのか、タムは詳しく教えてくれない。聞こうとするとタムは変な顔をするので、話してくれるまで待つことにした。イヤそうな顔ではないので、ソラとの仲は上手くいっていると思うのだが…。

「今日もオラの畑から採れたての野菜を持ってきただよ。ほら、タクミ。疲れたべ?疲労回復効果があるスープだ。」

 ううぅ、タムも優しい。



 みんなでタムの食事を食べながら、今日の成果を報告する。

「今日も特に変化は無し。見渡す限り砂漠。何かあると困るから、タクミを囲んでホバーで進んでるよ。」
「危険なものは無い代わりに、水も何も無い。国外活動装置が使えるとしても、ずっと砂漠で過ごすのは大変だ。タクミが新しい転移の術を覚えてくれて良かったよ。」
 リオンとシオンが、それぞれの感想を口にする。

 アズマに教えてもらった転移の術があるから、僕一人で進んで目的地に紋様を描いてくると言ったのだが、その案には全員が反対した。

 暗黒大陸は未知の大陸。
 ユーリの調査で砂漠だということは、分かっていた。が、それ以外は何も判明していない。ドラゴンに変現して飛んで行くのは目立つし危険だと言われ、地道にホバーで進むことになったのだが、それが思ったより大変だった。

 最初は何かあやしいものに遭遇しないか警戒して進んでいたのだが、周りは砂漠だけで、本当に何もないのだ。

 水もないなんて…。
 ユーリは、よくこんな所を冒険していたなぁと感心する。

 僕達は国外活動装置のおかげで紋章システムが使えるから、喉が渇いたらすぐに水を出せる。
 ユーリは大きな荷物を担いで、冒険していたようだ。しかも荷物の大部分は水。水が無くなりそうになると戻るということを繰り返していたという。
 冒険者って、精神力も並外れてるんだな。

 そんなユーリがジルに謝っている。
「ジル、悪かったね。待機している間に、先にドラゴンの家に行けばよかった。」

「ドラゴンの家は暗黒大陸から戻ってからでいいぞ。ユーリやタクミから聞いた話だけでもかなり満足だ。それに、もし本当に大いなる呪いの秘密が分かるなら、そちらの方が優先だ。俺はアルド様を救えなかった…。あんな最期は見たくなかったからな…。」

 ジルは、アルドが怪異へと変貌する最期を選んだことを、今でも悔いているようだ。アルド本人が選んだことだとしても、救う方法が無かったのかと自問自答を繰り返している。

「そういえば、ライルは?」
 食事の時間になっても現れないことを不思議に思って聞く。
「部屋にこもって何かをまだ調べてるよ。ライルには困ったものだよね。仕方ないから、あとでタムの作ってくれた食事を持っていくよ。」
 リオンって、ライルのこと苦手だっていう割に、ちゃんとお世話をしてあげてるんだよなぁ。

「じゃ、明日からは全員で進むよ。目的の座標はもう少しだ。何があるか分からないから、気を抜かないように、いいね!」

 ユーリの言葉に全員が頷く。
 明日には目的の座標に到着する予定だ。
 一体なにがあるのだろう…。

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