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ベアルダウン王国編

194話 主人公、異世界の秘密を知るー6

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「お前達には、この世界の未来を選んでもらおうと思う。」
 タイジュはきっぱりと宣言する。

「ちょっ、なに言ってるんです?意味分からないよ?」
 僕はタイジュの唐突な言葉に混乱する。

「オレが紋章システムを開発して稼働した時に、ソラに言われたんだ。このシステムには寿命があるとな。」

「システムの寿命?紋章システムが使えなくなるってことか!?いや、システムの仕組みは俺も知っている。精霊を循環させる仕組みだし、術式の組み方にも問題は無い。ってことは…。問題があるのはシステムを動かしてる部分、か?」
 ジルが自分の知識から、そう結論を導き出す。

 ジルは以前、前のセシルさまの弟子だった。紋章システムについても詳しいのだろう。

「あぁ、そうだ。この城と姫さんの寿命なんだよ。紋章システムを開発して、ここのチカラでシステムを動かすことを決めた時に、ソラには反対されたよ。それでは、ここの仕組みがもたないとな。このまま紋章システムを使い続けた場合は、500年が限界だろうと言っていた。」

「限界って…。紋章システムが出来たのは、500年前だと聞いたよ。それじゃ、もうすぐ使えなくなるってこと?」

「そうだ。」

 !!!

 タイジュの衝撃的な言葉に全員が黙る。

 こんなに便利な道具が使えなくなる?精神を安定させているパートナー精霊とも会えなくなる?それじゃ、この世界はどうなってしまうんだ?

「道具はいつか壊れるものだ。それは紋章システムも同じ。だからオレと仲間達は、この世界に生まれる子供達が困らないように、子供の頃から教育することにした。紋章システムが使えなくても生きていけるように、自給自足を子供の頃に学ばせてるんだ。」

 この世界の子供達が自給自足で生活しているのは、そんな理由もあったのか!何があっても生きていけるように。そのための自給自足生活だったんだ…。

「ちょっと待ってよ。セシルさまは何も言わなかったよ。本当に困ってるなら、僕達にも相談するよね?本当は何か継続できる手立てがあるんでしょ?」
 シオンの指摘に、タイジュの表情が曇る。

「ある。が、その方法にはオレは反対なんだ。オレは、みんなを幸せにしたいと思って紋章システムを作った。なのに500年が限界では困る。だからオレは、今ここにいるオレを作った。ソラの分身体を真似てな。」

 ソラが使う不思議な術。
 分身体や精霊を操る玉。

「タイジュはソラの不思議な術を真似して、いろいろな物を開発したんだね?」

「あぁ、ソラのおかげで多くの便利な道具を開発できたよ。」

 タイジュは簡単そうに言うが、かなりの技術が必要だったはずだ。商人としての人脈や転生者としての経験、そしてこの城に大量に保管してあった知識、そういうものがあったから、開発できたに違いない。

「ソラはいろいろなことができるが、それを自分のためにしか使わない。ソラはドラゴンだからな。ヒトのためにそのチカラを使え、なんて言えないよ。だからオレに出来るのは、それを真似て道具を作ることだけだ。ソラに頼ってばかりじゃダメだからな。」

「だからタイジュは記憶を元にした分身体を作って、紋章システムが存続できるものを開発しようとしてるってこと?」

「そうだ。だが、まだ完成していない。紋章システムのおかげで、世界中の知識が統合された。そして、人々に創造的な仕事をしてもらうことで、画期的な物も多く開発された。だが、この紋章システムを継続できる物はまだ…。早くしないと、セシルが…。あいつはまだ小さいのに。」

「セシルさま?紋章システムの継続とセシルさまは何か関係あるの?」

「今の、あのセシルは、この城で眠るつもりなんだよ。紋章システムを継続させるために…。」

「城で眠る?」

「精霊王の姫は、魂を鍛えるために転生を繰り返している。肉体と精神を分離する時にソラは言っていた。精霊王のようなチカラを手に入れようとするなら、1000年くらいじゃ足りないと。最低でも2000年は必要だと言っていた。」

「えっ?まだ800年くらいだよね?セシルさまには、まだ精霊王のようなチカラは無い。どうするつもり?」

「魂の強さは身体に影響を与える。800年も転生したんだ。少しは強くなってるさ。まだチカラは足りないが、この仕組みを存続するチカラにはなるだろう。だから、今のセシルは紋章システムが使えなくなる前に、肉体と精神を結合すると決意した。そして、そのままこの城で眠るつもりなんだ。」

「そっ、それって、もう転生できないってこと?」

「そうだ。それに今、肉体と精神を結合するということは、今のセシルが死ぬという事だ。」

「今のセシルさまが死ぬ?」

「あいつはまだ10歳だぞ。なのに、それを受け入れている。」

 そんな…。

「だから…。だから僕達には相談してくれないんだね。もう決意しているから。」
 リオンとシオンが、悲しそうに言う。

 王宮に、セシルに仕えているのに相談してもらえないのは、悲しい。なんでひとりで決めるんだよ、と怒りもわいてくる。

「たぶん、前のセシルが決意してたんだよ。」

「ホビット族のセシルさま?289歳で亡くなったって聞きましたけど。」

「前のセシルは自分がそうするつもりだった。でも、それはオレが止めたんだ。これは、この世界の未来を決めるほど重要なことだ。それをセシルひとりで決めるのは間違っている。それに、それでは根本的な解決にはならない。いつかセシルのチカラも尽きる。その時はどうするんだ、と説得したんだ。」

「たしかにセシルさまひとりで決めることじゃない。でも…。誰かが決めないといけないことだよね?」

「そうだ。だから、それをお前達に決めてもらおうと思う。」


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