異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

文字の大きさ
138 / 247
マルクトール王国編

126話 主人公、情報を集めるー2

しおりを挟む
 

 僕達が手分けして古文書を確認していると、チカゲを呼ぶ声がした。

「チカゲ!チカゲ!おぉ、ここにいたのか。あの薬はどこにあったかな?」

 ヤスナが部屋に入ってきた。

 やばい!ここは神官だけが入ることができる部屋って言ってたな。きっと、ヤスナは怒るぞ。

 そう思って覚悟を決めたが、ヤスナから出た言葉は信じられないものだった。

「おや、お客さんかな?お前さん達はどこから来たのだね?まぁ、ゆっくりしていきなさい。」

 お客さん?
 ゆっくりしていきなさい?

「ヤスナ、お薬はこっちです。」
 チカゲがヤスナを連れて部屋を出ようとする。
 そして、「2人とも気がすむまで見ていってくださいね」と言い残して、チカゲは部屋を出て行った。

「ヤスナは、どうしたのかな?何か様子が変だったよね?」
 不思議に思った僕は、エレーナに聞いてみる。

「たぶん、ヤスナはもう寿命なんだわ。」

 寿命?まだ元気そうだけど。

「この世界では、多くの病気は治療法が確立されてるから、病で苦しむ人はほとんどいないの。特殊な病気の場合はスカラに行くしね。だから、この世界の死因はほとんどが老衰。肉体の寿命よ。食が細くなって眠るように亡くなるの。」

 僕は祖母を思い出す。
 祖母も最後はあまり食事をしなくなった。寝ている時間が多くなり、そして亡くなった。

「ただ稀に別の要因で亡くなる人もいる。」

 別の要因?

「脳の寿命よ。このエレメンテではストレスから守るためにパートナー精霊がいるんだけど、それでもストレスが完全に無くなるわけではないわ。長期間ストレスに晒された人は身体が衰える前に脳の活動が低下するの。タクミに分かる言葉で言うと、認知症よ。」

「認知症?エレーナはそんな言葉も知ってるの?」

「私、じつは日本に行ったことがあるの。その時に日本の図書館で色々な書物を見たわ。」

 王宮図書館の主は、マルクトール王国に仕える人達だ。日本に行っていたとしてもおかしくはないけど、エレーナはまだ未成年だ。

「みんなにはナイショね。トールだけが日本に行くのはズルいわって、おねだりしたのよ。だって、私、トールと同じホームなんだもの。」

「えっ!そうなの!」

「うん。だから、セシルのことも知ってるわよ。」

 そうか!だから、ライルやリオン、シオンはエレーナの事を良く知ってるんだ!

「でも認知症っていう感じにも見えなかったよ。」

「たぶん、以前のヤスナを知っている人が見たら、変だなと思うはずよ。急に怒り出したり、話してる途中で急に会話が続かなくなることがあるから。アースより医療が進んでるから、症状を抑える薬はあるけど、脳の寿命をのばす薬は無いわ。」

 認知症は、様々な原因で脳の細胞が死滅していく病気だと聞いたことがある。
 急に怒り出すのは、感情の制御ができなくなっているから。
 会話が続かないのは、記憶を保つことができなくなっているから。

「そうか。だから、ヤスナは仕方なく王宮に助けを求めたんだね。自分ではもう解決できないと思ったんだな。」

「エレメンテでは、自分では正しい判断ができくなってしまった場合、パートナー精霊が代わりに判断してくれるわ。いまヤスナとチカゲは、この状態なのよ。」

 たしかにチカゲが僕達の相手をしてくれている。もうヤスナは正常な判断がつかなくなっているのだろうか。

「チカゲとヤスナは、この件が片づいたら、安らぎの大樹に行くつもりだと思う。脳の寿命は仕方のないことだから。」

 安らぎの大樹。
 人生を終える人が最期の時を過ごす場所。

 ヤスナには心穏やかに最期の時を過ごしてほしい。そのためには、ヤスナが納得する答えを出す必要がある。

「タクミ。記録する古文書は、残りあと少し。これを全て記録して、解析するわよ。貴重な文献もあるから、本当は紋章システムに公開してほしいけどね。」

 僕達はパートナー精霊の記録機能で、古文書を全て記録している。何を書いてあるか僕には分からないけど、エレーナには分かるのだろう。

 あと残りわずかとなった時、棚の奥に豪華な装飾が施された文箱があるのに気付いた。

 なんだか、気になる。
 長い年月の重みを感じる箱だ。僕は慎重に開けて、中の巻物を広げる。

 これは…。家系図か!

 どうやら神官の家系図のようだ。
 よく見ると、ある事に気付く。

 あれっ?

 こことここは繋がってないぞ!
 ということは……。

「こっちは終わったわよ。そっちはどう?」

「あっ、うん。大丈夫だよ。」

「じゃあ、戻りましょうか。いま手に入る情報はこれだけ。ここから答えを導き出さなくては。とりあえず、私は自分の宿泊場所に戻るわ。今日分かった情報は、ミライに送るから確認してね。」

「僕にも教えてくれるの?」

「当たり前じゃない!ただし、答えは自分で考えるのよ。だから、明日会うまで連絡は禁止よ。」

 にっこり笑って、そう話すエレーナ。

 いろんな表情を見せてくれるようになったな。なんだか嬉しい。

 その後、宿泊場所に戻った僕とミライは、今日の情報や紋章システムで調べた情報を吟味して、どうしたらいいか、よく考えたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...