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マルクトール王国編
126話 主人公、情報を集めるー2
しおりを挟む僕達が手分けして古文書を確認していると、チカゲを呼ぶ声がした。
「チカゲ!チカゲ!おぉ、ここにいたのか。あの薬はどこにあったかな?」
ヤスナが部屋に入ってきた。
やばい!ここは神官だけが入ることができる部屋って言ってたな。きっと、ヤスナは怒るぞ。
そう思って覚悟を決めたが、ヤスナから出た言葉は信じられないものだった。
「おや、お客さんかな?お前さん達はどこから来たのだね?まぁ、ゆっくりしていきなさい。」
お客さん?
ゆっくりしていきなさい?
「ヤスナ、お薬はこっちです。」
チカゲがヤスナを連れて部屋を出ようとする。
そして、「2人とも気がすむまで見ていってくださいね」と言い残して、チカゲは部屋を出て行った。
「ヤスナは、どうしたのかな?何か様子が変だったよね?」
不思議に思った僕は、エレーナに聞いてみる。
「たぶん、ヤスナはもう寿命なんだわ。」
寿命?まだ元気そうだけど。
「この世界では、多くの病気は治療法が確立されてるから、病で苦しむ人はほとんどいないの。特殊な病気の場合はスカラに行くしね。だから、この世界の死因はほとんどが老衰。肉体の寿命よ。食が細くなって眠るように亡くなるの。」
僕は祖母を思い出す。
祖母も最後はあまり食事をしなくなった。寝ている時間が多くなり、そして亡くなった。
「ただ稀に別の要因で亡くなる人もいる。」
別の要因?
「脳の寿命よ。このエレメンテではストレスから守るためにパートナー精霊がいるんだけど、それでもストレスが完全に無くなるわけではないわ。長期間ストレスに晒された人は身体が衰える前に脳の活動が低下するの。タクミに分かる言葉で言うと、認知症よ。」
「認知症?エレーナはそんな言葉も知ってるの?」
「私、じつは日本に行ったことがあるの。その時に日本の図書館で色々な書物を見たわ。」
王宮図書館の主は、マルクトール王国に仕える人達だ。日本に行っていたとしてもおかしくはないけど、エレーナはまだ未成年だ。
「みんなにはナイショね。トールだけが日本に行くのはズルいわって、おねだりしたのよ。だって、私、トールと同じホームなんだもの。」
「えっ!そうなの!」
「うん。だから、セシルのことも知ってるわよ。」
そうか!だから、ライルやリオン、シオンはエレーナの事を良く知ってるんだ!
「でも認知症っていう感じにも見えなかったよ。」
「たぶん、以前のヤスナを知っている人が見たら、変だなと思うはずよ。急に怒り出したり、話してる途中で急に会話が続かなくなることがあるから。アースより医療が進んでるから、症状を抑える薬はあるけど、脳の寿命をのばす薬は無いわ。」
認知症は、様々な原因で脳の細胞が死滅していく病気だと聞いたことがある。
急に怒り出すのは、感情の制御ができなくなっているから。
会話が続かないのは、記憶を保つことができなくなっているから。
「そうか。だから、ヤスナは仕方なく王宮に助けを求めたんだね。自分ではもう解決できないと思ったんだな。」
「エレメンテでは、自分では正しい判断ができくなってしまった場合、パートナー精霊が代わりに判断してくれるわ。いまヤスナとチカゲは、この状態なのよ。」
たしかにチカゲが僕達の相手をしてくれている。もうヤスナは正常な判断がつかなくなっているのだろうか。
「チカゲとヤスナは、この件が片づいたら、安らぎの大樹に行くつもりだと思う。脳の寿命は仕方のないことだから。」
安らぎの大樹。
人生を終える人が最期の時を過ごす場所。
ヤスナには心穏やかに最期の時を過ごしてほしい。そのためには、ヤスナが納得する答えを出す必要がある。
「タクミ。記録する古文書は、残りあと少し。これを全て記録して、解析するわよ。貴重な文献もあるから、本当は紋章システムに公開してほしいけどね。」
僕達はパートナー精霊の記録機能で、古文書を全て記録している。何を書いてあるか僕には分からないけど、エレーナには分かるのだろう。
あと残りわずかとなった時、棚の奥に豪華な装飾が施された文箱があるのに気付いた。
なんだか、気になる。
長い年月の重みを感じる箱だ。僕は慎重に開けて、中の巻物を広げる。
これは…。家系図か!
どうやら神官の家系図のようだ。
よく見ると、ある事に気付く。
あれっ?
こことここは繋がってないぞ!
ということは……。
「こっちは終わったわよ。そっちはどう?」
「あっ、うん。大丈夫だよ。」
「じゃあ、戻りましょうか。いま手に入る情報はこれだけ。ここから答えを導き出さなくては。とりあえず、私は自分の宿泊場所に戻るわ。今日分かった情報は、ミライに送るから確認してね。」
「僕にも教えてくれるの?」
「当たり前じゃない!ただし、答えは自分で考えるのよ。だから、明日会うまで連絡は禁止よ。」
にっこり笑って、そう話すエレーナ。
いろんな表情を見せてくれるようになったな。なんだか嬉しい。
その後、宿泊場所に戻った僕とミライは、今日の情報や紋章システムで調べた情報を吟味して、どうしたらいいか、よく考えたのだった。
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