空白に舟を浮かべろ!

SB亭孟谷

文字の大きさ
29 / 33
第三章 創作! 物語の世界!

第28話 ぼくがでんせつになったひ

しおりを挟む
「『R・P・G』だって!?」

「左様! ロールプレイング・ゲームつまり……
 各々に役割を与え、試練を乗り越えるのです!」

「役割ったって……」

「勇者どの、ロールプレイングは遊びだけではなく、人生ひいては物語においても重要にございます。人物が役割を持ち、機能する。人生の上では人間でさえ、舞台装置の一部なのです!」

「そうかもしれないが……」 

「ロールプレイングゲームの原型は大昔から存在しています。
 例えば将棋。将棋は一般的にはロールプレイングではありませんが、役割の与えられたキャラクターを操作するという意味ではRPGと呼べるのではないでしょうか!?」

 すると、教会の扉が勢いよく開いた。

「ライトさん!」

「リード!? 今までどこに!?」

 教会にリードが入ってくる。彼女の後ろには……
 僕らの町にやってきた村人達数名が続く。

「彼らは……?」

「はい。ライトさんの元に案内して欲しいと頼まれまして……」

 村人達は皆、一様に険しい顔をして僕を見てくる。
 そして……

「勇者さん」

 村人の一人が言った。

「俺は……戦闘は出来ないが、罠づくりなら得意だ。
 ここらへんで罠を仕掛けるのに都合のいい場所を知らないか」

「あの巨大な化け物を仕留められますか!?」

 ついつい大声になる。

「仕留められは出来ないだろうが、一時的に動きを止めることはできるだろう」
「勇者さん!」

 すると別の男が話しかけてくる。

「俺はデウってんだ! 俺たちは大工だ! 勇者さんさえ良ければ、あの貧相な門を堅牢にしてやるぜ!!」

 さらに別の村人が手を挙げる。
 
「私は、攻撃魔法は使えませんが回復魔法なら使えます!」

「私はキヨ。治水学に精通している。近くに川が流れているようだが、利用できないか?」

 なんてことだ……皆、戦う気まんまんじゃないか……。
 テンション感が僕とはだいぶズレている……。


「本気ですか!? あの化け物と戦う気ですか!?
 怖くないんですか!?」

 僕がいうと、神父が言った。

「我々に役割を与え……導いてくだされば、必ず勝てます」

「できませ……むぐぐ!!」

 僕が弱音を吐こうとしたら、リードが手で僕の口を塞いだ。

「できます! ライトさん、いいえ、『勇者ライト』!!」

 僕はリードの手を振り払って、周りの人々の顔を見る。
 ……全員本気である。怖い。
 そして、全員が僕の命令を待っている。
 
「「勇者どの……!」」

「……無理です!」

 と言い切りかけた時には、リードの手にいつの間にかハリセンが握られており、僕を思い切りどついた。

「痛い……」

「『勇者ライト』! 立ち上がりなさい!!」

 リードに言われて僕は、改めて全員の顔を見る。
 僕が「やるぞ」と言うまで、この地獄から解放されないと察した。

「…… ……や、やります……か?」

「なんですかそのはっきりしない言い方は! 言い切ってください!」

「……やり!! …… ……ごめん、やっぱ無理!」
 
 と言い切って逃げる前には、全員がどこからかハリセンを携帯しており、僕を過剰に袋叩きにした。

「痛い!!」

「「『勇者ライト』!!」」

「あーーわかったよ! やるよ! やってやるよこんちくしょう!!」

 僕が皆に根負けして言う。すると、その場にいる全員が空中にハリセンを投げた。

「うおーーーやるぞーー!!」

「「わーーー!!」」

 ……全員、この町にやってきた時とは別人の顔をしていた。


 * * * * *

 夜が来た。月が赤い。鬼赤月の夜だ。

 僕らは門を閉めて町中の明かりを消し、持ち場についた。
 雰囲気のつもりで作った、町の西側の物見櫓から、僕は門の外を見張っている。

 すると……ズシーンズシーンと地響き。物見櫓が揺れる。
 
 闇の向こうから現るるは……馬鹿馬鹿しさすら感じる巨大な体躯。巨大なサイクロプス。マッド・サイクロプスだ。

 怪物は雄叫びをあげて、町の正門に体当たりをする。
 しかし、大工が改修した正門は怪物の突進をなんとか凌ぐ。

 怪物は、ひとつ目を見開き、ブオオオオ!! と激しい咆哮を上げた。

 そして棍棒を振り上げて門を叩きつける。
 門は激しく揺れるが、なんとか耐えた。

 そして、再び怪物が棍棒を振り上げる。僕は、下にいるリードに合図を出した……。

「やあやあ! 図体ばかりの愚鈍な生物よ! デクノボウ!!」

「ブオ!?」

 正門の影から、リードが飛び出し、マッド・サイクロプスを挑発する!

「巨体さばかりで人々を脅かし、その手の棍棒が無ければ喧嘩も出来ない貴様に、できるのはイカサマのみ! 虎の意を借り、虚勢しか張れぬ痛々しいお前の姿はまるで!!」

 リードは、サイクロプスの前で仁王立ちになった!

「嘘をついて、人を騙す行為。詐欺と同義のバカガラス!!」

 ……何もそこまで言えとは命じていないはずだが……。
 リードの挑発は妙に芝居がかっており、堂に入っていた。

「ブオオオオ!!」
 
 と、怪物が怒鳴る。リードの挑発に、乗った!

 リードは西門に逃げ込む。
 怪物は走って追いかけ、西門の前までやってくる。つまり僕の目の前だ!

 リードが町に逃げ込んだのを確認し、僕は合図を出す。

 すると、西門の前が大きく燃え上がった! 罠を作動させたのだ。

「ブオオオ!!」

 真っ赤な炎は、あの巨体を燃やし尽くすことは出来ない。

 だがあの大きなひとつ目で眩しい炎は直視出来ないはずだ。
 マッド・サイクロプスはたまらず目を閉じて後ずさる。

「今だ! 火矢を放て!!」

 物見櫓の上から僕は下に合図を出す。
 すると村人の一人が夜空に向けて高く高く火矢を放った。
 
 すると、ややあって……ゴゴゴゴゴゴという地響き。物見櫓が、先ほどよりも揺れる。
 堰き止めていた川が、洪水となって勢いよく流れ込む!!
 冷たい水が、塊となって怪物にぶつかり、飲み込んだ!!

「よし! やったか!?」

 洪水は、確かに怪物を押し流した……かに見えた。
 水の中から巨大な腕が伸び、門をがっしりと掴んでいる。

「グオオオオオオ!!」

 洪水から、怪物の咆哮が聞こえる! 奴は水の中で流されまいと耐えていた!
 
「ライトさん!!」

 このまま、川の流れが弱まったら……僕たちの負けだ……。
 目の前まで伸びてきた腕に、僕はたじろいでしまった……。

「ライトさん!! 思い出して! 魔法です!!」

 下でリードが叫ぶ。確かに……確かに僕は一度、魔法で巨体を吹き飛ばしたことはある。あれがもう一度できるのか……、そして、あんな巨体を弾き飛ばせるのか……

 考えている暇は、なかった。

 僕は目を閉じ、意識の中で大きく念じた!

「うわああ!! どうにかなれええ!!!」

 すると、僕の目の前に見えない力場が発生し、門を掴んでいた怪物の手を弾く。

「グアアアアア!!」

 怪物は……洪水に流されていった。



 僕は、腰を抜かしてその場に倒れた。
 ……しばらく、水の音以外何も聞こえない時間が続く……。

「や……」


「「やったーー!!」」

 僕たち人間は、全員の力でサイクロプスを倒し、初の鬼赤月を乗り越えた。


 * * * * *

 町では宴が開かれている。

 広場で大きな炎が焚かれ、リードは村人……いや、この町の人々と踊り狂っていた。
 なんとなくそれを眺めていると、教会の神父が僕に、盃を差し出した。会釈して、受け取る。

「改めまして、礼を言いますぞ勇者どの。あなた達は勇者として、この町の伝説となることでしょう」

 伝説。なんだか全然、実感が湧く言葉に聞こえなかった。

 神父と別れた後、僕はなんとなく町の門にもたれて夜風に当たっていると、リードが近寄ってきた。
 片手に焼きとうもろこしと、片手に味噌田楽を持ち、口で焼き魚を咥えている。
 すっかりお祭り気分だ。

「踊らないんですか?」

 一通り手に持ってる物を処理したのちに、リードが聞いてきた。

「うん……なあリード。この町は、この人たちに譲ろうと思うんだ」

 僕は、さっきから考えていたことを告げた。

「いいと思います!」

 リードは、二本目の味噌田楽を食べながら答えた。

「明日の朝になったら……僕は出ていこうと思う。
 ここで暮らすのもいいけれど、僕にはやるべき事が……いや、もっと描くべき世界が別にあると思うんだ」

「はい」

「君は……どうする?」

 リードがここに残るなら、それでもいいと思っていたし、そうすると思っていた。
 彼女の人生や彼女の安寧を、僕がどうこうできるはずがない。
 そりゃあ、寂しくないかと聞かれれば寂しいし、心細いかと聞かれればその通りだ。

 しかし彼女から返ってきた答えはあっけないものだった。

「もちろん、一緒に行きますよ」

 あまりにものあっけなさに、僕は呆然とリードを見てしまった。

「いいのか? その……だいぶこの世界が楽しそうだけれど」

「楽しいですよ? でも、私にはライトさんと一緒にいる方が大事なので」

 彼女の言葉の意味するところはわからない。けれどもそれは、
……なんだか僕が抱えている使命感に近い物を、彼女なりに感じているのかもしれない。

「行かれるのですな……」

 そこに、話を聞いていた神父が近づいてきた。

「あなたはこの町の創造主。そして民を救った英雄だ。
 できればこの地に留まっていただきたいですが……あなたにも大きな『ロール』があるのでしょう。
 旅立つがいい勇者よ。そして……貴方が作った町のことを、たまには思い出してくだされ」

 神父に言われて、僕は一度だけ頷いた。

「じゃあ私、今のうちにいっぱい食べてきます!
 ……あ、明日の朝ですからね! 今晩勝手に出ていっちゃ、やですからね!!」

 なぜか僕の頭を一度だけ小突くと、リードは広場の真ん中の炎の方に走っていった。
 ……元気だ。伝説とか、英雄とか、そんな言葉は僕よりもリードに向けられるべき言葉なんじゃないだろうか。

 彼女の後ろ姿を眺めて、僕はそんなことを考えた。

 そして夜が明けた。


 * * * * *


 町を出て、山を降りたらもう、僕が作った世界は『無い』
 従って空はあるが……、足元は真っ白な更地だ。

「次はどんな世界を作るんですか?」

 隣でリードが聞く。

「何も決めてないんだ。真っ白さ」

 本当に何も考えていなかった。
 
「でも……もうバトルは嫌かな」

「じゃあ、モンスターのいない世界を作るんですね?」
 
「それが大前提かなあ。人間は常に何かと戦っているみたいだけど……モンスターとはもう、戦わなくていいかな」

 しかし、僕たちの行く道は進めば進むほど真っ白だ。
 ここを何かで埋めない限り、僕たちの足元はずっと真っ白だ。
 だんだん、心細くなってきた。

「だったらライトさん。また、助っ人を依頼しましょうか」

「うん……あ! ただね!」

「はい?」

「僕が『一度会ったことのある人』がいい!!」

「……私たちが行ったことのあるいずれかの世界で、出会ったことがある人のことですか?」

「そう! せめて僕達がしていることを、知っていて話が早い人がいいんだ」

「そうですか……」

 しかし、口では言ってみたものの、一体誰がいいだろう?
『僕と会ったことがある人』で、世界作りに協力してくれそうな人……。
 そんな人がいるだろうか……?


 * * * * *

 考え込む僕に、リードはこんなことを言った。

「問題文は『A』『B』。『C』です」

「へ?」



 ライトさん。「『A』『B』。『C』」で、出てきた問題文を解いてください。
 A=「終末世界」
 B →十一話「倫理奉仕(B)」
 C→十三話「(C)暗号解読」

 *終末世界という言葉、そういえばSFの世界で聞いたことがありますよね……?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

25年周期の都市伝説

けろよん
ミステリー
この町には「25年周期の奇跡」という伝説があり、25年ごとに特別な出来事が訪れると言われている。しかし、その秘密は誰にも知られておらず、町の人々はそれが単なる迷信だと思い込んでいる。しかし、佐藤彩花は偶然にもこの秘密に触れ、伝説に隠された謎を解き明かすべく行動することになる。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

新田二五は何もしたくない

綿貫早記
ミステリー
「お前さ人間が突然消える事ってあると思うか?」 新田二五と書いて(にったふたご)と読む変わった名前だが、名前に負けないほど変わった性格の漫画家のもとに、中学時代の友人で探偵をしている星野明希が訪ねて来た。久しぶりに話をしていくうちに、人探しの事で依頼を受けているのだが、その依頼は何かがオカシイと言う星野。新田の身の回りの世話をしている石川日向と新田二五は、双山村に関係があることを知る。しかしその村には決して知られてはいけない秘密がある。その村に足を踏み入れてしまった三人は………     

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...