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第三章 創作! 物語の世界!
第28話 ぼくがでんせつになったひ
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「『R・P・G』だって!?」
「左様! ロールプレイング・ゲームつまり……
各々に役割を与え、試練を乗り越えるのです!」
「役割ったって……」
「勇者どの、ロールプレイングは遊びだけではなく、人生ひいては物語においても重要にございます。人物が役割を持ち、機能する。人生の上では人間でさえ、舞台装置の一部なのです!」
「そうかもしれないが……」
「ロールプレイングゲームの原型は大昔から存在しています。
例えば将棋。将棋は一般的にはロールプレイングではありませんが、役割の与えられたキャラクターを操作するという意味ではRPGと呼べるのではないでしょうか!?」
すると、教会の扉が勢いよく開いた。
「ライトさん!」
「リード!? 今までどこに!?」
教会にリードが入ってくる。彼女の後ろには……
僕らの町にやってきた村人達数名が続く。
「彼らは……?」
「はい。ライトさんの元に案内して欲しいと頼まれまして……」
村人達は皆、一様に険しい顔をして僕を見てくる。
そして……
「勇者さん」
村人の一人が言った。
「俺は……戦闘は出来ないが、罠づくりなら得意だ。
ここらへんで罠を仕掛けるのに都合のいい場所を知らないか」
「あの巨大な化け物を仕留められますか!?」
ついつい大声になる。
「仕留められは出来ないだろうが、一時的に動きを止めることはできるだろう」
「勇者さん!」
すると別の男が話しかけてくる。
「俺はデウってんだ! 俺たちは大工だ! 勇者さんさえ良ければ、あの貧相な門を堅牢にしてやるぜ!!」
さらに別の村人が手を挙げる。
「私は、攻撃魔法は使えませんが回復魔法なら使えます!」
「私はキヨ。治水学に精通している。近くに川が流れているようだが、利用できないか?」
なんてことだ……皆、戦う気まんまんじゃないか……。
テンション感が僕とはだいぶズレている……。
「本気ですか!? あの化け物と戦う気ですか!?
怖くないんですか!?」
僕がいうと、神父が言った。
「我々に役割を与え……導いてくだされば、必ず勝てます」
「できませ……むぐぐ!!」
僕が弱音を吐こうとしたら、リードが手で僕の口を塞いだ。
「できます! ライトさん、いいえ、『勇者ライト』!!」
僕はリードの手を振り払って、周りの人々の顔を見る。
……全員本気である。怖い。
そして、全員が僕の命令を待っている。
「「勇者どの……!」」
「……無理です!」
と言い切りかけた時には、リードの手にいつの間にかハリセンが握られており、僕を思い切りどついた。
「痛い……」
「『勇者ライト』! 立ち上がりなさい!!」
リードに言われて僕は、改めて全員の顔を見る。
僕が「やるぞ」と言うまで、この地獄から解放されないと察した。
「…… ……や、やります……か?」
「なんですかそのはっきりしない言い方は! 言い切ってください!」
「……やり!! …… ……ごめん、やっぱ無理!」
と言い切って逃げる前には、全員がどこからかハリセンを携帯しており、僕を過剰に袋叩きにした。
「痛い!!」
「「『勇者ライト』!!」」
「あーーわかったよ! やるよ! やってやるよこんちくしょう!!」
僕が皆に根負けして言う。すると、その場にいる全員が空中にハリセンを投げた。
「うおーーーやるぞーー!!」
「「わーーー!!」」
……全員、この町にやってきた時とは別人の顔をしていた。
* * * * *
夜が来た。月が赤い。鬼赤月の夜だ。
僕らは門を閉めて町中の明かりを消し、持ち場についた。
雰囲気のつもりで作った、町の西側の物見櫓から、僕は門の外を見張っている。
すると……ズシーンズシーンと地響き。物見櫓が揺れる。
闇の向こうから現るるは……馬鹿馬鹿しさすら感じる巨大な体躯。巨大なサイクロプス。マッド・サイクロプスだ。
怪物は雄叫びをあげて、町の正門に体当たりをする。
しかし、大工が改修した正門は怪物の突進をなんとか凌ぐ。
怪物は、ひとつ目を見開き、ブオオオオ!! と激しい咆哮を上げた。
そして棍棒を振り上げて門を叩きつける。
門は激しく揺れるが、なんとか耐えた。
そして、再び怪物が棍棒を振り上げる。僕は、下にいるリードに合図を出した……。
「やあやあ! 図体ばかりの愚鈍な生物よ! デクノボウ!!」
「ブオ!?」
正門の影から、リードが飛び出し、マッド・サイクロプスを挑発する!
「巨体さばかりで人々を脅かし、その手の棍棒が無ければ喧嘩も出来ない貴様に、できるのはイカサマのみ! 虎の意を借り、虚勢しか張れぬ痛々しいお前の姿はまるで!!」
リードは、サイクロプスの前で仁王立ちになった!
「嘘をついて、人を騙す行為。詐欺と同義のバカガラス!!」
……何もそこまで言えとは命じていないはずだが……。
リードの挑発は妙に芝居がかっており、堂に入っていた。
「ブオオオオ!!」
と、怪物が怒鳴る。リードの挑発に、乗った!
リードは西門に逃げ込む。
怪物は走って追いかけ、西門の前までやってくる。つまり僕の目の前だ!
リードが町に逃げ込んだのを確認し、僕は合図を出す。
すると、西門の前が大きく燃え上がった! 罠を作動させたのだ。
「ブオオオ!!」
真っ赤な炎は、あの巨体を燃やし尽くすことは出来ない。
だがあの大きなひとつ目で眩しい炎は直視出来ないはずだ。
マッド・サイクロプスはたまらず目を閉じて後ずさる。
「今だ! 火矢を放て!!」
物見櫓の上から僕は下に合図を出す。
すると村人の一人が夜空に向けて高く高く火矢を放った。
すると、ややあって……ゴゴゴゴゴゴという地響き。物見櫓が、先ほどよりも揺れる。
堰き止めていた川が、洪水となって勢いよく流れ込む!!
冷たい水が、塊となって怪物にぶつかり、飲み込んだ!!
「よし! やったか!?」
洪水は、確かに怪物を押し流した……かに見えた。
水の中から巨大な腕が伸び、門をがっしりと掴んでいる。
「グオオオオオオ!!」
洪水から、怪物の咆哮が聞こえる! 奴は水の中で流されまいと耐えていた!
「ライトさん!!」
このまま、川の流れが弱まったら……僕たちの負けだ……。
目の前まで伸びてきた腕に、僕はたじろいでしまった……。
「ライトさん!! 思い出して! 魔法です!!」
下でリードが叫ぶ。確かに……確かに僕は一度、魔法で巨体を吹き飛ばしたことはある。あれがもう一度できるのか……、そして、あんな巨体を弾き飛ばせるのか……
考えている暇は、なかった。
僕は目を閉じ、意識の中で大きく念じた!
「うわああ!! どうにかなれええ!!!」
すると、僕の目の前に見えない力場が発生し、門を掴んでいた怪物の手を弾く。
「グアアアアア!!」
怪物は……洪水に流されていった。
僕は、腰を抜かしてその場に倒れた。
……しばらく、水の音以外何も聞こえない時間が続く……。
「や……」
「「やったーー!!」」
僕たち人間は、全員の力でサイクロプスを倒し、初の鬼赤月を乗り越えた。
* * * * *
町では宴が開かれている。
広場で大きな炎が焚かれ、リードは村人……いや、この町の人々と踊り狂っていた。
なんとなくそれを眺めていると、教会の神父が僕に、盃を差し出した。会釈して、受け取る。
「改めまして、礼を言いますぞ勇者どの。あなた達は勇者として、この町の伝説となることでしょう」
伝説。なんだか全然、実感が湧く言葉に聞こえなかった。
神父と別れた後、僕はなんとなく町の門にもたれて夜風に当たっていると、リードが近寄ってきた。
片手に焼きとうもろこしと、片手に味噌田楽を持ち、口で焼き魚を咥えている。
すっかりお祭り気分だ。
「踊らないんですか?」
一通り手に持ってる物を処理したのちに、リードが聞いてきた。
「うん……なあリード。この町は、この人たちに譲ろうと思うんだ」
僕は、さっきから考えていたことを告げた。
「いいと思います!」
リードは、二本目の味噌田楽を食べながら答えた。
「明日の朝になったら……僕は出ていこうと思う。
ここで暮らすのもいいけれど、僕にはやるべき事が……いや、もっと描くべき世界が別にあると思うんだ」
「はい」
「君は……どうする?」
リードがここに残るなら、それでもいいと思っていたし、そうすると思っていた。
彼女の人生や彼女の安寧を、僕がどうこうできるはずがない。
そりゃあ、寂しくないかと聞かれれば寂しいし、心細いかと聞かれればその通りだ。
しかし彼女から返ってきた答えはあっけないものだった。
「もちろん、一緒に行きますよ」
あまりにものあっけなさに、僕は呆然とリードを見てしまった。
「いいのか? その……だいぶこの世界が楽しそうだけれど」
「楽しいですよ? でも、私にはライトさんと一緒にいる方が大事なので」
彼女の言葉の意味するところはわからない。けれどもそれは、
……なんだか僕が抱えている使命感に近い物を、彼女なりに感じているのかもしれない。
「行かれるのですな……」
そこに、話を聞いていた神父が近づいてきた。
「あなたはこの町の創造主。そして民を救った英雄だ。
できればこの地に留まっていただきたいですが……あなたにも大きな『ロール』があるのでしょう。
旅立つがいい勇者よ。そして……貴方が作った町のことを、たまには思い出してくだされ」
神父に言われて、僕は一度だけ頷いた。
「じゃあ私、今のうちにいっぱい食べてきます!
……あ、明日の朝ですからね! 今晩勝手に出ていっちゃ、やですからね!!」
なぜか僕の頭を一度だけ小突くと、リードは広場の真ん中の炎の方に走っていった。
……元気だ。伝説とか、英雄とか、そんな言葉は僕よりもリードに向けられるべき言葉なんじゃないだろうか。
彼女の後ろ姿を眺めて、僕はそんなことを考えた。
そして夜が明けた。
* * * * *
町を出て、山を降りたらもう、僕が作った世界は『無い』
従って空はあるが……、足元は真っ白な更地だ。
「次はどんな世界を作るんですか?」
隣でリードが聞く。
「何も決めてないんだ。真っ白さ」
本当に何も考えていなかった。
「でも……もうバトルは嫌かな」
「じゃあ、モンスターのいない世界を作るんですね?」
「それが大前提かなあ。人間は常に何かと戦っているみたいだけど……モンスターとはもう、戦わなくていいかな」
しかし、僕たちの行く道は進めば進むほど真っ白だ。
ここを何かで埋めない限り、僕たちの足元はずっと真っ白だ。
だんだん、心細くなってきた。
「だったらライトさん。また、助っ人を依頼しましょうか」
「うん……あ! ただね!」
「はい?」
「僕が『一度会ったことのある人』がいい!!」
「……私たちが行ったことのあるいずれかの世界で、出会ったことがある人のことですか?」
「そう! せめて僕達がしていることを、知っていて話が早い人がいいんだ」
「そうですか……」
しかし、口では言ってみたものの、一体誰がいいだろう?
『僕と会ったことがある人』で、世界作りに協力してくれそうな人……。
そんな人がいるだろうか……?
* * * * *
考え込む僕に、リードはこんなことを言った。
「問題文は『A』『B』。『C』です」
「へ?」
ライトさん。「『A』『B』。『C』」で、出てきた問題文を解いてください。
A=「終末世界」
B →十一話「倫理奉仕(B)」
C→十三話「(C)暗号解読」
*終末世界という言葉、そういえばSFの世界で聞いたことがありますよね……?
「左様! ロールプレイング・ゲームつまり……
各々に役割を与え、試練を乗り越えるのです!」
「役割ったって……」
「勇者どの、ロールプレイングは遊びだけではなく、人生ひいては物語においても重要にございます。人物が役割を持ち、機能する。人生の上では人間でさえ、舞台装置の一部なのです!」
「そうかもしれないが……」
「ロールプレイングゲームの原型は大昔から存在しています。
例えば将棋。将棋は一般的にはロールプレイングではありませんが、役割の与えられたキャラクターを操作するという意味ではRPGと呼べるのではないでしょうか!?」
すると、教会の扉が勢いよく開いた。
「ライトさん!」
「リード!? 今までどこに!?」
教会にリードが入ってくる。彼女の後ろには……
僕らの町にやってきた村人達数名が続く。
「彼らは……?」
「はい。ライトさんの元に案内して欲しいと頼まれまして……」
村人達は皆、一様に険しい顔をして僕を見てくる。
そして……
「勇者さん」
村人の一人が言った。
「俺は……戦闘は出来ないが、罠づくりなら得意だ。
ここらへんで罠を仕掛けるのに都合のいい場所を知らないか」
「あの巨大な化け物を仕留められますか!?」
ついつい大声になる。
「仕留められは出来ないだろうが、一時的に動きを止めることはできるだろう」
「勇者さん!」
すると別の男が話しかけてくる。
「俺はデウってんだ! 俺たちは大工だ! 勇者さんさえ良ければ、あの貧相な門を堅牢にしてやるぜ!!」
さらに別の村人が手を挙げる。
「私は、攻撃魔法は使えませんが回復魔法なら使えます!」
「私はキヨ。治水学に精通している。近くに川が流れているようだが、利用できないか?」
なんてことだ……皆、戦う気まんまんじゃないか……。
テンション感が僕とはだいぶズレている……。
「本気ですか!? あの化け物と戦う気ですか!?
怖くないんですか!?」
僕がいうと、神父が言った。
「我々に役割を与え……導いてくだされば、必ず勝てます」
「できませ……むぐぐ!!」
僕が弱音を吐こうとしたら、リードが手で僕の口を塞いだ。
「できます! ライトさん、いいえ、『勇者ライト』!!」
僕はリードの手を振り払って、周りの人々の顔を見る。
……全員本気である。怖い。
そして、全員が僕の命令を待っている。
「「勇者どの……!」」
「……無理です!」
と言い切りかけた時には、リードの手にいつの間にかハリセンが握られており、僕を思い切りどついた。
「痛い……」
「『勇者ライト』! 立ち上がりなさい!!」
リードに言われて僕は、改めて全員の顔を見る。
僕が「やるぞ」と言うまで、この地獄から解放されないと察した。
「…… ……や、やります……か?」
「なんですかそのはっきりしない言い方は! 言い切ってください!」
「……やり!! …… ……ごめん、やっぱ無理!」
と言い切って逃げる前には、全員がどこからかハリセンを携帯しており、僕を過剰に袋叩きにした。
「痛い!!」
「「『勇者ライト』!!」」
「あーーわかったよ! やるよ! やってやるよこんちくしょう!!」
僕が皆に根負けして言う。すると、その場にいる全員が空中にハリセンを投げた。
「うおーーーやるぞーー!!」
「「わーーー!!」」
……全員、この町にやってきた時とは別人の顔をしていた。
* * * * *
夜が来た。月が赤い。鬼赤月の夜だ。
僕らは門を閉めて町中の明かりを消し、持ち場についた。
雰囲気のつもりで作った、町の西側の物見櫓から、僕は門の外を見張っている。
すると……ズシーンズシーンと地響き。物見櫓が揺れる。
闇の向こうから現るるは……馬鹿馬鹿しさすら感じる巨大な体躯。巨大なサイクロプス。マッド・サイクロプスだ。
怪物は雄叫びをあげて、町の正門に体当たりをする。
しかし、大工が改修した正門は怪物の突進をなんとか凌ぐ。
怪物は、ひとつ目を見開き、ブオオオオ!! と激しい咆哮を上げた。
そして棍棒を振り上げて門を叩きつける。
門は激しく揺れるが、なんとか耐えた。
そして、再び怪物が棍棒を振り上げる。僕は、下にいるリードに合図を出した……。
「やあやあ! 図体ばかりの愚鈍な生物よ! デクノボウ!!」
「ブオ!?」
正門の影から、リードが飛び出し、マッド・サイクロプスを挑発する!
「巨体さばかりで人々を脅かし、その手の棍棒が無ければ喧嘩も出来ない貴様に、できるのはイカサマのみ! 虎の意を借り、虚勢しか張れぬ痛々しいお前の姿はまるで!!」
リードは、サイクロプスの前で仁王立ちになった!
「嘘をついて、人を騙す行為。詐欺と同義のバカガラス!!」
……何もそこまで言えとは命じていないはずだが……。
リードの挑発は妙に芝居がかっており、堂に入っていた。
「ブオオオオ!!」
と、怪物が怒鳴る。リードの挑発に、乗った!
リードは西門に逃げ込む。
怪物は走って追いかけ、西門の前までやってくる。つまり僕の目の前だ!
リードが町に逃げ込んだのを確認し、僕は合図を出す。
すると、西門の前が大きく燃え上がった! 罠を作動させたのだ。
「ブオオオ!!」
真っ赤な炎は、あの巨体を燃やし尽くすことは出来ない。
だがあの大きなひとつ目で眩しい炎は直視出来ないはずだ。
マッド・サイクロプスはたまらず目を閉じて後ずさる。
「今だ! 火矢を放て!!」
物見櫓の上から僕は下に合図を出す。
すると村人の一人が夜空に向けて高く高く火矢を放った。
すると、ややあって……ゴゴゴゴゴゴという地響き。物見櫓が、先ほどよりも揺れる。
堰き止めていた川が、洪水となって勢いよく流れ込む!!
冷たい水が、塊となって怪物にぶつかり、飲み込んだ!!
「よし! やったか!?」
洪水は、確かに怪物を押し流した……かに見えた。
水の中から巨大な腕が伸び、門をがっしりと掴んでいる。
「グオオオオオオ!!」
洪水から、怪物の咆哮が聞こえる! 奴は水の中で流されまいと耐えていた!
「ライトさん!!」
このまま、川の流れが弱まったら……僕たちの負けだ……。
目の前まで伸びてきた腕に、僕はたじろいでしまった……。
「ライトさん!! 思い出して! 魔法です!!」
下でリードが叫ぶ。確かに……確かに僕は一度、魔法で巨体を吹き飛ばしたことはある。あれがもう一度できるのか……、そして、あんな巨体を弾き飛ばせるのか……
考えている暇は、なかった。
僕は目を閉じ、意識の中で大きく念じた!
「うわああ!! どうにかなれええ!!!」
すると、僕の目の前に見えない力場が発生し、門を掴んでいた怪物の手を弾く。
「グアアアアア!!」
怪物は……洪水に流されていった。
僕は、腰を抜かしてその場に倒れた。
……しばらく、水の音以外何も聞こえない時間が続く……。
「や……」
「「やったーー!!」」
僕たち人間は、全員の力でサイクロプスを倒し、初の鬼赤月を乗り越えた。
* * * * *
町では宴が開かれている。
広場で大きな炎が焚かれ、リードは村人……いや、この町の人々と踊り狂っていた。
なんとなくそれを眺めていると、教会の神父が僕に、盃を差し出した。会釈して、受け取る。
「改めまして、礼を言いますぞ勇者どの。あなた達は勇者として、この町の伝説となることでしょう」
伝説。なんだか全然、実感が湧く言葉に聞こえなかった。
神父と別れた後、僕はなんとなく町の門にもたれて夜風に当たっていると、リードが近寄ってきた。
片手に焼きとうもろこしと、片手に味噌田楽を持ち、口で焼き魚を咥えている。
すっかりお祭り気分だ。
「踊らないんですか?」
一通り手に持ってる物を処理したのちに、リードが聞いてきた。
「うん……なあリード。この町は、この人たちに譲ろうと思うんだ」
僕は、さっきから考えていたことを告げた。
「いいと思います!」
リードは、二本目の味噌田楽を食べながら答えた。
「明日の朝になったら……僕は出ていこうと思う。
ここで暮らすのもいいけれど、僕にはやるべき事が……いや、もっと描くべき世界が別にあると思うんだ」
「はい」
「君は……どうする?」
リードがここに残るなら、それでもいいと思っていたし、そうすると思っていた。
彼女の人生や彼女の安寧を、僕がどうこうできるはずがない。
そりゃあ、寂しくないかと聞かれれば寂しいし、心細いかと聞かれればその通りだ。
しかし彼女から返ってきた答えはあっけないものだった。
「もちろん、一緒に行きますよ」
あまりにものあっけなさに、僕は呆然とリードを見てしまった。
「いいのか? その……だいぶこの世界が楽しそうだけれど」
「楽しいですよ? でも、私にはライトさんと一緒にいる方が大事なので」
彼女の言葉の意味するところはわからない。けれどもそれは、
……なんだか僕が抱えている使命感に近い物を、彼女なりに感じているのかもしれない。
「行かれるのですな……」
そこに、話を聞いていた神父が近づいてきた。
「あなたはこの町の創造主。そして民を救った英雄だ。
できればこの地に留まっていただきたいですが……あなたにも大きな『ロール』があるのでしょう。
旅立つがいい勇者よ。そして……貴方が作った町のことを、たまには思い出してくだされ」
神父に言われて、僕は一度だけ頷いた。
「じゃあ私、今のうちにいっぱい食べてきます!
……あ、明日の朝ですからね! 今晩勝手に出ていっちゃ、やですからね!!」
なぜか僕の頭を一度だけ小突くと、リードは広場の真ん中の炎の方に走っていった。
……元気だ。伝説とか、英雄とか、そんな言葉は僕よりもリードに向けられるべき言葉なんじゃないだろうか。
彼女の後ろ姿を眺めて、僕はそんなことを考えた。
そして夜が明けた。
* * * * *
町を出て、山を降りたらもう、僕が作った世界は『無い』
従って空はあるが……、足元は真っ白な更地だ。
「次はどんな世界を作るんですか?」
隣でリードが聞く。
「何も決めてないんだ。真っ白さ」
本当に何も考えていなかった。
「でも……もうバトルは嫌かな」
「じゃあ、モンスターのいない世界を作るんですね?」
「それが大前提かなあ。人間は常に何かと戦っているみたいだけど……モンスターとはもう、戦わなくていいかな」
しかし、僕たちの行く道は進めば進むほど真っ白だ。
ここを何かで埋めない限り、僕たちの足元はずっと真っ白だ。
だんだん、心細くなってきた。
「だったらライトさん。また、助っ人を依頼しましょうか」
「うん……あ! ただね!」
「はい?」
「僕が『一度会ったことのある人』がいい!!」
「……私たちが行ったことのあるいずれかの世界で、出会ったことがある人のことですか?」
「そう! せめて僕達がしていることを、知っていて話が早い人がいいんだ」
「そうですか……」
しかし、口では言ってみたものの、一体誰がいいだろう?
『僕と会ったことがある人』で、世界作りに協力してくれそうな人……。
そんな人がいるだろうか……?
* * * * *
考え込む僕に、リードはこんなことを言った。
「問題文は『A』『B』。『C』です」
「へ?」
ライトさん。「『A』『B』。『C』」で、出てきた問題文を解いてください。
A=「終末世界」
B →十一話「倫理奉仕(B)」
C→十三話「(C)暗号解読」
*終末世界という言葉、そういえばSFの世界で聞いたことがありますよね……?
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