32 / 163
一章 本命じゃないくせに嫉妬はやめて!
32、困惑
しおりを挟む俺は昨日、頭が混乱したまま倒れてしまった。
そのため昨日はそのことについてよく考えることは出来なかった。
だから今朝、冷静になって考えてみると色々とおかしいと気がついたのだ。
そのため今の俺はとても不機嫌だった。
何よりもおかしいのは、ウルが俺をイルの代わりとして抱いていた訳じゃないということ……。
確かに昨日は流されて嬉しいと思ってしまったのも事実だけど、それでも何のために今までウルは俺を抱いていたのか全く理由はわからなかった。
それによく考えたら、あいつはイルが好きなはずなのに、俺に対してあんな事をしていた訳で……もしかしてウルは、タイプなら誰でも良いのだろうか?
そう思ってしまうとやはりウルは不埒な最低男なのだと、さらに嫌悪感が増してしまう。
だからその事については帰ってから絶対に聞いてやると思いつつ、俺は機嫌が悪いまま宿屋を出たのだった。
そして今の俺は、隣に立つ男を睨みつけながらギルドに向かう道を歩いていた。
そんな俺の気持ちなんて全く知らないウルは、何故かニヤリと笑いながら言うのだ。
「デオ、俺の顔をそんな可愛く睨みつけてどうしたの?」
「可愛くないし、俺に対して可愛いとか言わないでくれ……恥ずかしい」
先程まで俺に対してそれを言うことはおかしいと嫌悪感があったはずなのに、実際に言われてしまうと何故か少し嬉しくなってしまい、恥ずかしくて怒るに怒れなくなってしまう。
何より、可愛いというのが本当に俺に向けて言っているのだと理解してから、そう言われるのが前よりも恥ずかしくて仕方がないのだ。
だから俺は、顔が赤くなるのを見られないようにと顔を背けようとした。
「もう、そうやってすぐ顔が赤くなるところも可愛いのに~」
「もう、やめてくれ……」
「ダメだよ~。デオはこんなにも可愛いから、すぐに俺の腕の中に閉じ込めたくなっちゃうよね?」
そう言うとウルは、突然俺を抱きしめた。
そのことに俺は驚きの声を上げてしまう。
「なっ!?こ、こんなところでいきなり抱きつくな!」
ここは道端なので、周りには少ないけど人だっている。
気になってチラリと見回すと、何人か驚いてこちらを見ているのがわかってしまい、俺は恥ずかしくて離れるために暴れようとした。
それなのに、さらにギュッとされて動けなくなってしまう。
「暴れても無駄だよ?」
「う、うるさい!!なら、早く離れてくれ!」
「ダメだよ。今は周りに見せつけてる最中だからね……?」
「なななな……!?」
わざと人前で抱きついてきたらしいウルに、俺はさらに顔が熱くなってしまう。
よく考えると何故かウルは、今朝からよく抱きしめてくるようになった気がするのだ。
それは朝起きてから始まり、準備しているときも、さらに食堂でもされてしまい怒ったばかりだというのに……。
しかもこっちはまだ混乱している最中で、どう反応していいのかわからない。
ウルは何故こんな事をするようになったんだ……?いや、昨日のことで心境の変化でもあったのだろうか?
そうだとしても、こんなところで抱きつくのは恥ずかしいからやめてほしい……。
「そうだなぁ~、やめてほしいならさっきまで何について考えていたのか俺に教えて?」
「……別に、たいした事じゃない。ずっと最低男について考えていただけだ」
「え?俺のこと考えてくれてたの?」
「自分で最低だと認めているのはどうかと思うが、確かに俺はウルの事を考えていた。昨日はつい流されてしまったけど、俺はこれでも怒っているんだ!だから今日は帰ったらもう一度、話し合いをするからな」
ウルが嬉しいようなそうでもないような微妙な顔で苦笑すると、名残惜しいのかゆっくりと体を離したのだ。
そしてため息をついたウルは、少し言い訳をしてきた。
「話し合うと言われてもね……俺はデオのことをイルとして見てるなんて一言も言ってないからね?」
「うっ、そうだけど……ってその話は夜にするから!」
「……しょうがないね、わかったよ」
ウルがここを去る前に、この事はスッキリさせておきたかった。この話し合いで俺達が今後どう接するのかが決まるはずなのだ。
でも俺はイルのためにウルを止めようと思う気持ちは変わらない。だからあとはウルが俺を捨てさえしなければ……。
そう少し不安になった俺は首を振り、そのモヤモヤを端に追いやる。
今はそれよりも、目前に迫るもう一つの不安要素を乗り越えなくてはならない。
だから俺は、その元凶であるウルを再び睨みつけていた。
「えっと、デオ……今度は何かな?」
「何かなじゃない。俺はウルのせいで、ギルドに行くのも本当は凄く不安なんだからな!」
「ん~、俺のせい?えっと、ギルドと言えば昨日のことかな?」
そうだ。
昨日あんな事があって、もしかしたら既に噂が広まってるかもしれないと思うと、俺はギルドに行くのが怖くなってきていた。
周りから蔑まれた目で見られたらどうすれば……。
「大丈夫、大丈夫。ここのやつら少し変だから」
「いや、大丈夫な訳ないだろ!?」
俺はウルが何を言ってるのか意味がわからず、とりあえず後ろをついていく。
そしてウルは何も気にせずにギルドの中に足を踏み入れたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる