やめて!お仕置きしないで!本命の身代わりなのに嫉妬するの?〜国から逃亡中の王子は変態悪魔に脅される!?〜

ゆきぶた

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二章

128、忘れてるけど好き

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俺はウルとヤってどうやら気を失っていたらしい。
その事を思い出しながらゆっくり意識を覚醒させた俺が目を開けると、そこにはウルの顔があった。
ウルは男の俺から見てもカッコいい。そのせいで、俺はぼーっと見惚れてしまったのだ。
だから本当にこの人が俺の恋人なのだろうかと疑問に思ってしまった俺は、彼の名前を確認してしまったのだ。

「……ウル、だよな?」

それなのに彼は俺をじっと見たまま、何故か顔を近づけて来た。

「え、な……んっ!?」

あまりにもその動作が自然過ぎて、俺は固まっていた。
……えっと俺は今、何をされてるんだ?
そう思った瞬間、顔が余りにも近くて驚いた俺はウルを押しのけて起き上がっていた。
それなのにウルは全く気にせず、嬉しそうにニコニコと俺を見ていたのだ。

「おはようデオ、無理させちゃったけど体は大丈夫?」
「そ、そんな事よりも今、何してた……!?」
「何って、おはようのキスだけど……もしかして、気づかなかったの?」

俺は、なんでキス?って聞きそうになるのをぐっと堪える。
だって朝からキスをするのは恋人同士なんだから当たり前だと思うし、これぐらいは慣れないと……。
そう思って俺はウルへと返事をした。

「ごめん、驚いて気づかなかった。でもキスは嬉しい……」
「それなら、もう一回しようよ!」
「え、今からは……恥ずかしい」

本当ならすぐに肯定しないといけないのに……でも何故だろう、ウルを見ていると恥ずかしくて顔が赤くなってしまうのだ。
それなのにウルは既に俺へと顔を近づけていた。
だから俺も目を瞑る。

「なぁ、お前ら。俺もここにいるんだけど?」

突然聞こえたその声に驚いた俺は、目を見開きウルの顔を手で退けてしまったのだ。

「だ、ダン!?なんでここに……」
「お前らがひと段落ついたから、部屋に戻って来たんだよ。それでさっきまでウルと話し合いをしてたところだ」
「そ、そうか……それは驚いたりしてわるかった。俺が起きた事で邪魔になったりしてないか?」
「ああ、大丈夫だ。だいたい話のキリはついたからな」
「あのね。寧ろ邪魔なのは君の方だから、すぐに部屋から出てってくれない?」

ウルは何故か俺を引き寄せながら、ダンに向けてそう言った。
突然抱きしめられた事に驚いたけど、俺はそれ以上に頭上でバチバチと火花を散らす男達に、少しビビってしまったのだ。

「ウル。お前、誰のおかげで助けられたと思ってんだ?」
「はぁ?君は自分のおかげだとでも言いたいのかい?殆ど頑張ったのはルーディアと俺だからね!」
「それじゃあ、俺が何もしてないみたいじゃねぇか!?」
「そう言ってるんだよ!」

二人とも凄く強い人達なのに、どうしてこんな稚拙な喧嘩をするんだ?
……いや、俺が覚えていないだけで多分二人はとても仲が悪いのだろう。

そういえばダンと初めて会った時も、ダンは誰かと喧嘩していた気がする。そしてその人物が思い出せないという事は、多分そこにいたのはウルの筈だ。
もしかするとこのまま思い出そうとすれば、ウルの事も一緒に思い出せるかもしれない。
そう思った俺は、あの時一緒にいた相手を思い出そうとした……その瞬間だった。

───チリンチリン。

俺の脳裏へ聞いたことのある鈴の音が響き渡った。

「くっ……!」

その強烈な音に耐えらなくなった俺は、気がつけば動かない体をウルに預けてしまったのだ。
何故だ?ガリアの魔法は俺には効かない筈なのに……もしかしてこの鈴の音は、俺の記憶自体に刷り込まれてるとでも言うのか?

その事を確認したくても、今は時間がない。
だって俺はウルに怪しまれないようにと、早くこの鈴の音を止めなくてはと思ってしまったのだ。
……それに、もしこの鈴の音が本当に記憶自体に干渉しているのなら、とりあえず今は思い出す事をやめればいい筈だ。
そう思った俺は何もかも考えるのをやめた。
それだけなのに、鈴の音はスッと脳裏から消え去ったのだ。
そして次の瞬間、誰かの俺を心配する声がハッキリと聞こえた。

「で、デオ!デオ!?」

よく見るとウルが俺の名を必死に呼んでいた。
その事が凄く嬉しくて安堵した俺は、体が動くのを確認しながらゆっくりと声を出した。

「う、ウル……わ、悪い。少しフラついただけだ」
「やっぱり俺が無理をさせたせいだよね?病み上がりなのに、本当にごめん!」
「いや、これはウルのせいじゃない。それに俺は長い事眠ってたんだから、こんな事もある筈だ」
「……本当に?」
「ああ、本当だ」

そう頷く俺は、嘘は言っていない。
だってこれはガリアの鈴のせいであって、ウルのせいじゃないのだから。

「おい、ウル。イルの兄貴の体調が戻ってないのにどんなけ無理させてんだよ?」
「いや、それは……結構?」
「そう思うんだったら暫くは優しくしてやれよ」
「わかってるよ!凄く反省してるって……とりあえずデオは、もう一度横になった方がいいよね」

そう言いながら俺を再度横に寝かせたウルは、本当に心配しているのか俺の手をぎゅっと握りしめた。
きっと今までも、俺は彼にとても大事にされていたのだろう。
それが嬉しいのと同時に、何故か俺は過去の自分を羨ましく思ってしまったのだ。
そしてその事に何より驚いたのは俺自身だった。
何で俺は、自分自身に嫉妬してるんだ───?

その事が理解できない俺は、とりあえず考えても仕方がないとその感情を一旦置いて、ウルを改めて見る事にしたのだ。
ウルは相変わらず心配そうに、手を握ったままじっと俺を見つめていた。
でもその表情からは先程の事で怪しまれている気配はなくて、その事に俺はホッとしたのだった。

しかし俺は自分の記憶の事で、1つだけ最悪な事に気がついてしまった。
俺がウルと過ごした記憶は、あの鈴の音が聞こえ続ける限りきっと戻らない。それはつまり、あの鈴を絶対に攻略しなくてはならないという事だった。
しかし今の俺は記憶を思い出そうとすると鈴に蝕まれる為、一人でどうにか出来るわけがなかった。
だけど今からウルに本当の事を言うなんて、俺には尚更無理だった。

だって俺は、ウルについてまだよく知らない。
それでもウルに記憶がないと気が付かれたら、きっと怒るという事は俺にでもわかる。
しかもこんな記憶のない俺の事なんて、ウルは嫌いになるかもしれないのだ。
今の俺には、それがとても怖かった───。

きっとそう思うのは、記憶がなくても俺がウルを好きだからだ……。
ウルを見る度に見惚れるのも、過去の自分に嫉妬するのも、今の俺がウルを好きだからなんだ。
それなのに俺はウルの性格もなにもかもわからなくて、ウルの反応が予想できないせいで何をするのも怖くて仕方がなかった。

だから今の俺には、ウルに頼らず記憶を取り戻すしか道は残されていないのだ。
そしてそんな俺が頼れそうな人物として、1人だけ心当たりがあった。それは俺の事情を唯一知っている男、ゼントの事だった。
つまり俺は、まずウルの目を抜けてゼントに会う方法を考えないといけないのだけど、その時点で無理難題かもしれない……。

そう思いながら俺は現実逃避する為に顔を上げた。
そこにはいつのまにか喧嘩をやめた二人が、俺を心配そうに見下ろしていた。
どうしよう……あまりにも心配そうな顔してるから申し訳なくなってきた。
そう思った俺は、今はなによりも体調を戻す事が先決だと、ゼントに会う方法を考えるのは後回しにする事にしたのだ。
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